Design & Researchでは、企業や自治体の防災を支援するサービスを展開するmilab株式会社 (以下 milab) のデザインパートナーとして、数年間プロダクト開発を続けています。
防災というドメインで、自治体や大企業を対象としているゆえのプロダクト開発の難しさを、プロトタイプを中心にスピーディーに検証を進める関わり方から乗り越えてきた支援の裏側を、いくつかの事例からまとめます。
milabは、防災に関する新しい価値を創造し、地域の安心をつくることを目指す会社です。
自治体や企業が防災備蓄品の在庫管理を行うための「備蓄管理システム BxLink®(ビーリンク)」などのサービスを運営しています。
BxLinkに私たちが関わり出してから、約4年間が経ちました。
現在では、例えば杉並区などの大規模な自治体にも導入されるなど、多くの自治体や企業で導入されているサービスとなっています。
milabでのプロダクト開発では、防災ドメイン特有の「お客さまごとに業務の進め方が大きく異なる難しさ」に向き合う必要があります。
防災管理に取り組むお客さまの層はさまざまです。事業会社と自治体では業務フローや求める価値も異なります。
それに加えて、防災備蓄品は毎日購入したりするものではありません。防災管理業務の中には、1年に1回しか行わないようなものも多くあります。なので、なかなかプロダクトへのフィードバックも集まりづらい性質があります。
そのような背景で、企画や仕様をスムーズに固めづらいのが実態です。
このようなプロダクト性質を持つ「BxLink」がバージョンアップデートをするタイミングで、開発パートナーであるソニックガーデンとともに、デザインパートナーとしてDesign & Researchがプロジェクトに参画しました。
前述のように企画や仕様を固めづらい状況で、Design & Researchでは「議論を速めるために、プロトタイプで構想を可視化する」ことに役割を持ちました。
新規事業で、お客さまの声を集めきれていない時は、企画や仕様は曖昧にならざるを得ないこともあります。Design & Researchは、どれだけ要望や構想が曖昧だとしても、1週間後にはすぐに解像度の高いものを持ってきてそこから検証を進められるようにすることに責任を持っています。
いくつかの事例をもとに、私たちのプロトタイピングドリブンな開発の進め方を解説します。
「BxLink」のプロダクト開発においては、とにかく早く見えるモノを出して、企画を固めるプロセスを重視しています。
一つの例として「BxLink」のサービス全体のカラー変更の事例で説明します。
このプロジェクトは、立ち上げから数年が経ったタイミングでプロダクトに機能が増えていき、それに伴ってお客さまの操作ミスも多くなってきたことから始まりました。
自治体ではwebサービスに慣れていない方も多いです。さらに防災業務の特性上、1年に1回しか使わない機能もあるため、アイコンを変えるような解決策ではなく、機能ごとにわかりやすく色を切り分けていくことを検証しました。
「機能ごとにどんな色が最適なのか」を企画段階で固めることは難しいはずなので、プロジェクトの相談を簡単に共有してもらったあとに、デザイナー側ですぐにプロトタイプを持ってくるようにします。
Design&Researchのスピード感の目安としては、プロジェクトの頭出しを受けてから1週間以内にある程度すべての画面を網羅したプロトタイプを持ってくるようにしています。
ここでは、詳細なデザインの良し悪しを確認しているというよりも、ユースケースを確認することを重視しています。
お客さまはどのように機能を使い分けているのか
どのタイミングでサービスを開くのか
同時に使いたい機能はあるのか、機能の使い方に迷うタイミングはどういう時か
というような業務の流れをプロトタイプをもとに確かめつつ、であればこのプロトタイプで十分なのかを合わせて確かめていくようなイメージです。
ユースケースがある程度確かめられたとしても、体験やデザインの良し悪しはFigmaのプロトタイプだけでは見極められないことも多いはずです。
なので、私たちはプロトタイプ段階でフロントエンドの簡易な実装まで行い、触れる環境を用意するようにしています。
直近では、Claude Codeを使って実環境に近いプロトタイプを用意しています。
デザインを早く固めることを目的としているので、実際のプロダクションコードで実装するのではなく、プロトタイピング用に本番のHTMLだけ読み込ませたClaude Code」の環境をつくっています。
今回の事例でも、そのClaude Code」環境につくったデザインデータを読み込ませて、触って確かめられるプレビューを用意しました。
プロダクトオーナーと画面を眺めながら、動作も含めてこのカラー展開で良さそうという合意を取っていきます。
この段階でフロントエンドの実装をある程度進めている状態になっているので、実装のGOが出たら、すぐに本番環境にプルリクを送ることもできるようになっており、エンジニアも案件をスムーズに進められます。
また、触れるプロトタイプを用意することで、社内の他メンバーにも展開しやすくなるメリットも生まれます。このプロジェクトでも、プロダクトオーナーの狩野さんがmtg後に社内共有を進めてくれ、うまく合意形成を取ることができました。
新規事業のように、企画や仕様設計の難易度がさらに高まる場面では、いきなりプロトタイピングから始められないこともあります。そのような場合では、体験をモデルで可視化するところから始めるとうまく検証が進みます。
「BxLink」を使う企業や自治体から、余った食料などの備蓄品をフードバンクなどの施設に寄付できる「寄付マッチ」という新規事業の立ち上げを例に説明します。
新規プロダクトの場合は体験の想定がさらに難しいので、プロトタイプをつくる前につくりたい体験のヒアリングを丁寧に行うようにしています。
とはいえ、前述の通り、防災ドメインでは企画段階で業務理解を深めていくことが難しい場合も多くあります。ヒアリングをすれば必ず体験が見えてくるというわけでもありません。
そのような時でも、必ず「登場人物」と「体験のストーリー」を粗くても良いので確認するようにしています。
この段階ではまだ課題が見えていないことも多いのですが、プロダクトの体験を考える上では
登場人物が誰か
それらの人物がどう関わり合うのか
ということさえ分かれば、あとはそれらがスムーズに流れるようにしていくだけなので、そこを固めることが大切です。
その後に、体験をプロセスに分けて、具体的に登場人物ごとの行動やつながりをまとめていきます。
体験モデルをつくる時は「2回目の利用が起こるかどうか」を重視します。導入・実利用までの想定ではプロダクトから離脱してしまうので、継続してもらえるかどうかが一番大事だと考えています。
「最初の行動のきっかけはどちらからか」「情報はどういう単位で表示するか」「詰まりやすいところや分岐があるところは」などの問いから、どんどん具体化していきます。
体験のモデルがある程度まとまったら、同時並行でプロトタイプに落としていきます。
行動が起こらなそうなポイントが見つかったら、そこに絞った体験モデルをつくり、また整理する...という流れを何度も繰り返します。
プロトタイピングを重ねていき、フードバンクへ提案可能な状態を目指します。
ある程度見えるものができたら、プロダクトオーナーにフードバンクの方に導入検討してもらうための打ち合わせをかけてもらいます。打ち合わせができると声が回収できるので、その声からまたプロトタイプを改善していきFIXさせていきました。
約4年間、milabのプロダクト開発に関わってきましたが、今回紹介したような検証フローをmilab・ソニックガーデン・Design & Researchの3社で試行錯誤してきたことで、徐々に開発フローが洗練されてきました。
今では、曖昧な構想でも、1週間後には実装環境に近い動くプロトタイプがつくれるようになっています。また、動くプロトタイプの環境を用意したことで、プロダクトオーナーの狩野さんからもClaude Code」でプロトタイプを共有してもらえるようになりました。
結果としてチーム全体で、より速く開発が進められるようになっています。
プロトタイプを素早く用意することにこだわってきたことで、ヒアリングの頻度をそこまで増やせない事業環境でも、お客さまと話すタイミングで毎回ベストな形で検証ができるようになってきています。
その結果として事業検証が進み、BxLinkを導入いただける企業や自治体も増えています。
milabの事業オーナーである狩野さんや、一緒に開発を進めるソニックガーデンからも、Design & Researchの関わりに対してポジティブなコメントをいただいています。これからも、社会的な意義が非常に大きい事業を、プロダクトから支えることを続けていきたいです。
milabのように不確実性が高い事業を扱うときに、プロダクトデザイナーとしては状況に合わせて必要な打ち手を取り出せることが価値になります。
実はプロダクト体験設計のフレームワークはそこまで幅はないと思っています。例えば、体験の複雑性が高いならモデルで整理。顧客の声があまりない状態ならプロトタイピングを行い検証を早める、など。
事業に必要なのは、これらの手法を使いどころを間違えずに、事業状況に合わせて選べる存在ではないかと思っています。
新規事業において「仕様を詰めないと依頼できない / 開発を始められない」というスピード感は致命的です。私たちは、どれだけ曖昧な状況であったとしても検証からリードできることに責任を持ちたいです。
スピード感を持って事業検証を進めたい場面で頼り続けてもらえるように、これからも力を磨きます。意義のある事業を形にしていきたい方にとって、この事例が何かのヒントになれば嬉しく思います。