Visionalグループ コミュニケーションデザイン部のマネージャーをしている梅林です。「ビズリーチ」の求職者様(toC)向け広告、「ビズリーチ・キャンパス」のクリエイティブを制作するチームのマネジメントを担当しています。

私自身、自分で制作することも度々ありますが、チーム全体のパフォーマンス向上のために育成や制作フローの改善を行うことも多いです。

今回はその一環で、マーケターとデザイナーが協働しづらくなっていた制作フローを改善し、よりユーザー目線を持ったクリエイティブが作れるようになった仕組みづくりを紹介します。

今回の仕組みのまとめ。マーケターとデザイナー両者がユーザー目線を持って制作できるようになりました

最後に詳しく紹介しますが、デザイナーとしてより企画の意図を反映したクリエイティブを制作しやすくなったのと、新しい訴求が生まれやすくなったなど、ポジティブな変化が多くあったので、ぜひ同様の状況にいる方の参考になれば幸いです。

改善前は、ほとんどの施策でマーケターが企画を考え、デザイナーが企画を元にクリエイティブをつくるフローになっていました。

マーケターがコピーを検討するため、デザイナーはコピーの背景を理解しきれないまま制作に入るフローになっていました

マーケターはクリエイティブブリーフを埋めながら企画とコピーなどの具体的な訴求を考え、マーケティングチームのマネージャーが企画を承認します。企画承認のタイミングでデザイナーにも共有されるのですが、そのタイミングでは深く理解ができていない状態なので、承認後に企画意図やコピーの詳細などの説明を受けます。

コピーがFIXした状態で企画詳細の説明を受ける

その企画を元に、デザイナーはクリエイティブを作成。チーム内でデザインレビューをしてブラッシュアップをし、「承認会」と呼ばれる会議に制作したクリエイティブを提出します。

承認会は一貫性のないクリエイティブによるブランド毀損を防ぐために設けられた場で、週に3回行われています。共通の審査基準から、コミュニケーションデザイン部の部長、マネージャーらが、制作したクリエイティブを審査します。

承認会では「ブランド維持」「ユーザーゴール達成」「ビジュアルデザイン」の3つの観点で制作物が審査されます

コミュニケーションデザイン部が制作するクリエイティブは、この承認会で承認されないと公開できず、指摘を受けた場合は修正してから公開する仕組みです。

承認会についてはこちらの記事で紹介しています。

これまでのフローの課題は、デザイナーが「誰に何を伝えたいのか」を把握しづらい構造になっており、結果として制作したクリエイティブがユーザーに価値が伝わりにくいものになっていて、手戻りが発生していたことです。

協働しづらいフローになっており、クリエイティブの手戻りが多く発生していました

こうした課題が生じた要因は大きく2つありました。

1つは、企画段階でマーケターとデザイナーの役割が分かれており、デザイナーが企画意図を十分に理解できないまま制作を始める制作フローになっていたこと。もう1つは、これまで活用していたクリエイティブブリーフがペルソナや提供価値などを深掘りできない構成になっていたことです。

以前まで使われていたクリエイティブブリーフ

この制作フローの構造だと、マーケターも深く検討しきれていない企画を、デザイナーも十分に理解できないままクリエイティブを制作することになります。その結果、承認会で企画の目的に対してユーザーの心を動かすクリエイティブになっているかを審査する「ユーザーゴール達成」の項目で指摘を受けることが多く、手戻りが頻繁に発生していました。

また、デザイナーはマーケターが企画やコピーを検討後に制作を始めるので、納品日まで時間がなく、表現を磨く時間を十分に取れないという課題もありました。

こうした課題を解決するために、2つのアクションを取りました。

1.デザイナーが早い段階から企画に関われるよう制作フローを変更

2.クリエイティブブリーフの項目改善や、ペルソナシートを新規追加し、企画検討時のツールを変更

いきなり制作フローを大きく変えるのではなく、まずはマーケターがユーザー視点で企画やコピーを検討するメリットを体感してもらうことから始めました。具体的なアクションとしては、自発的にコピーに対してユーザー目線で違和感のある点をフィードバックしました。

コピーへのフィードバックシート。一番右にあるように、ユーザー目線を踏まえたフィードバックをするように意識しました

こうした活動を地道に続けた結果、マーケターにも「サービス提供側の視点ではなくユーザー目線を入れることが大事」という考え方が徐々に広がり、デザイナーが企画やコピーの検討から関わる制作フローへの変更もスムーズに受け入れられました。

現在は、企画段階からマーケターとデザイナーがクリエイティブブリーフを用いて、協働しやすいフローになりつつあります。

企画段階からマーケターとデザイナーが協働できるフローに

デザイナーが企画段階から協働しやすくなり、早い段階で企画の意図を理解できるようになったので、モックを作ってマーケターと設計を相談するなど、より効果的なクリエイティブになるようにアイディアを練る時間を取れるようになりました。

また、事前に今後の施策計画を立て、デザイナーがスケジュール管理をすることで、十分な制作スケジュールを確保できるようになり、クリエイティブのブラッシュアップに時間を割けるようになりました。

担当を事前に決めて協働しやすく、十分な制作スケジュールを確保できるように、スケジュール表を作成

企画を練るにあたり、ペルソナや、提供価値などを深く思考しづらい構成になっていたクリエイティブブリーフなどのツールを改善しました。起きている事象を分析して、必要とあれば新たなシートも作成しました。

クリエイティブブリーフを作る段階で、よりユーザー目線の訴求が考えられるようにペルソナについて深掘りするペルソナシートを新しく設けました。

実際に使っているペルソナシート。これと合わせてクリエイティブブリーフを練ります

それまでのクリエイティブブリーフにもペルソナの項目はありましたが、ユーザー像とペルソナが混ざっていたり、ペルソナの詳細が設定されていなかったため、「誰に」伝えたいのかを深掘りしきれないまま訴求が考えられていました。

このシートを使用し始めてからは企画段階でペルソナについての議論が起こるようになり、より深いインサイトを踏まえて訴求を考えられるようになりました。

それまでのクリエイティブブリーフにはなかった「提供価値」「ユーザーが求める価値」の項目を追加しました。

コピーを考える際、「自分達が何を価値として提供できるか」「ユーザーが求める価値は何か」を踏まえて、プロポジションを検討する項目を追加

以前はユーザーの抱える課題からプロポジションやコピーを考えていたため、サービスの提供価値とユーザーの求める価値の整合性に欠ける訴求になってしまうことがありました。

サービスの提供価値と、ユーザーが求める価値の項目を追加し、それらを言語化する機会を設けることで、それぞれの要素間で一貫性のある企画が生まれるようになりました。

コピーを考える際の思考プロセスを反映し、誰もがコピーを考えやすくなるシートを用意しました。

コピーの思考プロセスをシートに反映

クリエイティブブリーフで検討した「ユーザーが求める価値」「提供価値」「プロポジション」からコピーを考えられる設計にしています。このシートを活用することで、それぞれの整合性を確認しながらコピーを検討でき、「なぜそのコピーになったのか」という背景を踏まえてクリエイティブを作りやすくなりました。

制作フローの改善、クリエイティブブリーフなどの改良によって、マーケターとデザイナーが協働できる仕組みとなった結果、マーケターはよりユーザーインサイトを踏まえた一貫性のある企画を立てられるようになりました。

デザイナーも企画の背景を正しく理解したうえでクリエイティブが作れるようになり、承認会での「ユーザーゴール達成」観点での指摘は減り、ユーザーゴール観点での手戻りはほぼなくなっています。その結果、生産性が向上し、より多くの施策にチャレンジできるようになりました。

手戻りがかなり減り、多くの施策にチャレンジできる余裕が生まれました

納品して実際に広告運用をした後は、月次でマーケと合同で「クリエイティブ振り返り会」を実施しています。ここでは、施策や一つ一つのバナーやLPごとに、「何が良かったのか、何が課題か、改善するために次は何を試すのか」など、マーケ、デザイナーそれぞれの観点で考察をまとめて、議論しています。

振り返りを起点にクリエイティブのPDCAサイクルを回す中で、定義したペルソナやクリエイティブブリーフをもとに訴求案のブレストを行ったところ、新しいコピーが生まれるなど、訴求の幅が広がりつつあります。

また、デザイナーからも、訴求案などを提案しやすくなりました。

クリエイティブブリーフ、コピーを考えるシートを活用して新たに生まれた訴求

新しい制作フローになり、クリエイティブブリーフが今の形になってまだ間もないですが、着実に手応えを感じています。これからもブリーフを含めた最適な協働の形を模索しつつ、より多くの求職者の方が「ビズリーチ」を利用したいと思えるようなクリエイティブを、みんなで作っていきたいです。

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