フラーは、より良い街づくりに関われるアプリ「common」を東急株式会社さまと一緒に開発しています。

2023年7月現在、commonは東急線沿線全域を対象エリアとして、順次サービスを拡大しています。

また、アプリ内では、以下の3つの機能が提供されています。

  • 街の景色や出来事、情報などを共有する「投稿機能」

  • ご近所さんと不要品を譲り合う「譲渡機能」

  • 日々の暮らしの中での悩みごと・困りごとを相談できる「相談機能」

2023年6月に新しく追加された、commonの「相談機能」のサービス画面。
その街に住む人が相互に助け合い、街への貢献が起こるような機能が提供されている。

2021年3月にサービスをローンチした後、フラーでは、アプリだけではなく、フライヤーや駅内広告、車両内広告などの販促物のデザインにも取り組んでいます。

フライヤー、駅内広告、車両内広告などさまざまな販促物をフラーが制作している

新しくサービスをリリースした後に、世界観や使いやすさをどのように伝え、どう利用者を増やしていけば良いのか。

commonにおける販促物のデザインという観点からまとめていきます。

アプリの開発が進む中で、リリース後のcommonの販促物づくりにも取り組むことになったのですが、そこで2つの課題がありました。

  • ターゲットが広く、訴求の方向を決めづらい

  • 新しい思想だからこそ、丁寧な説明が必要

これらは、新しいサービスを世に広める上ではぶつかりやすい課題なのではないかと思います。

「より良い街づくり」を目指すcommonは、街に住む人全員に利用してもらいたいサービスです。

それゆえ、対象となるターゲットは、老若男女問わず広くなります。さらに、それぞれ、街づくりに対する関心度合いや新しいものへの興味の持ち方も異なります。

そのため、誰に向けて、何を、どのようなタイミングで届ければ良いのか決めることがポイントになってきます。

commonが対象とするユーザーは、老若男女問わず広く、それぞれ街づくりに対する関心度合いや新しいものへの興味の持ち方も異なる

commonが目指す、「コミュニケーションを主軸とした街づくり」は、多くのユーザーにとって馴染みのない街づくりの在り方です。

そのため、ユーザーにその思想が確実に伝わるように、販促物を通して、そのメッセージを伝えていく必要がありました。

そこで、commonの販促では、ユーザーを「属性」ではなく「関心度」で分類して、ターゲットを考えることにしました。

大きく分けると、以下のように考えています。

  • 関心度が高い... 街づくりそのものや、新しいものへの関心が高い層

  • 関心度が高くない... 新しいものよりも、使いやすいものを求める層

そして、ユーザーの関心度に応じて、メッセージやタイミングを明確に分けて打ち出すことにしました。

commonの販促物づくりの流れ

設計時点で、ユーザーの「関心度」でターゲットを分類し、その後「関心度の高い層向け」「関心度の高くない層向け」と明確に訴求を分けて販促物に落とし込む。

結果として、このようなクリエイティブが生まれています。

関心度が高い層に向けて、意欲を高める目的で制作したフライヤー
「みんなではじめる街づくり」という、あえてコンセプチュアルな訴求を行い、30-50代の男性層の利用が増えた。

駅周辺のデジタルサイネージ
東急線車両内広告
新しいものよりも、使いやすいものを求める層に向けて、利用イメージや利便性を押し出したフライヤー

「スマホでご近所づきあい」という具体的なメッセージと、人を押し出したクリエイティブで、commonでできることをわかりやすく押し出し、利用者を増やすことを意図している
利用イメージや利便性を押し出した、車両のドアステッカー

これら販促物の制作は、フラーのデザイナーとディレクターが行い、レビューなどは東急様に行っていただきました。

フラーのデザイナーは、プロダクト内のUIや、販促物のデザインで担当は分かれておらず、プロダクトと販促物全体のデザインを一貫して行っています。

以下、プロセスを具体的にまとめます。

まず最初に、販促の方向性を絞っていくために、ターゲットを、街づくりや新しいものに対する関心度合いで分類しました。

ターゲットを、ユーザーの「関心度」で分類

commonのターゲットは広く、単純に性別や年齢などのユーザーの「属性」で切り分けることは困難でした。

ただ、「街づくり」という体験に対して、関心が高い人とそうでない人や、「新しいもの」に興味や関心を持つ人とそうでない人というのは、明確に分かれることに気づきました。

例えば、以下のようなイメージです。

  • 「関心度」の高い層…すでに町内会などの地域活動に参加しているような方、新しいものへの興味や関心が高い方

  • 「関心度」の高くない層…地域での取り組みには積極的に関わってはいない方、新しいものというより使いやすいものを求める方

さらに、関心度に合わせて、commonの魅力を伝えるためのキャッチコピーを複数案用意して、どの層に向けてどの順序で販促をしていくのかを決定します。

関心度合いごとに、キャッチコピーを用意し、販促の順序を決める

例えば
・関心度が高い層向け... 「街づくり」や新しいものへの意欲や興味を高めるための、抽象度が高くよりコンセプチュアルな訴求
・関心度が高くない層向け... アプリ自体の利用イメージや利便性を押し出す、具体的でわかりやすい訴求

このように整理した上で、まずは関心度が高い層に向けて販促物をつくっていくこととしました。

まずは、関心度合いが高いターゲットに向けて、街づくりへの意欲や新しいものへの興味を高める販促物の制作に取り組みます。

関心度が高い層に向けたクリエイティブの特徴としては以下の2点があります。

  • コンセプトや世界観を全面に押し出す

  • 機能や利便性については多くは説明しすぎないようにする

まずは、販促物全体のクリエイティブの方向性を決定します。

ここでは、commonのアプリ開発時点で決めていたデザインコンセプトを、販促物にも反映していきました。

プロダクトをつくるときに決めていたデザインコンセプト

「街を包むようなやわらかい青空」というモチーフでプロダクト内のカラーを選定していたことから、クリエイティブでも「青空」をモチーフにすることとした。

実際にそれぞれの街の青空を撮影して、メインクリエイティブとして活用しています。

対象エリアの街の青空をメインクリエイティブとして活用することに

街ごとにクリエイティブをつくり分けていて、フラーのメンバーがその街の青空を撮影しに行っている。
写真は、フラーのメンバーが実際にその街に訪れて撮影

地域や駅ごとにクリエイティブは変えていて、その街特有のシンボルマーク(ex. 川、建物) が写真に映るようにし、見た人に「あ、自分の街だ」と感じてもらえるようにしている。

キャッチコピーとターゲットの方向を決めた上で、メインとなる媒体であるフライヤーから制作を開始します。

クリエイティブは、メインとなる媒体からつくりはじめて、展開していく

今回は、街づくりというサービスの特徴を踏まえ、住居に直接届けるフライヤーをメインの媒体として定めた。

「街づくり」というサービスの特徴から、それぞれの家に直接ポスティングできる、まるで手紙のような存在でもあるフライヤーを、メインの媒体として位置付けました。

それ以外の駅内広告や、車両内広告などの媒体は、家に帰ってフライヤーを見つけるまでに、認知を少しずつ高めるための媒体として整理しています。

関心度の高い層に向けた販促では、「街づくり」への意欲や新しいものへの興味を高めることを重視していたため、プロダクトの機能に関する情報は最低限にとどめ、世界観を最大限押し出すことに徹しました。

例えば、フライヤーの表にはアプリのQRコードなどは一切載せず対象エリアの青空の広がりを全面に活かせるようなレイアウトを採用しました。

載せる情報は、思い切って「街づくり」や新しいものへの意欲や興味を高める情報に絞る

例えば、メインとなる表側にはアプリのインストール導線などは一切載せていない

メインの媒体であるフライヤーを制作した上で、中吊り広告、駅ばりのポスター、商業施設のデジタルサイネージ、など、他媒体にクリエイティブを展開していきます。

車両内広告、駅構内の広告、街中広告など、他媒体にクリエイティブを展開する

最終的にフライヤーに辿り着いてダウンロードしてもらうまでに、少しずつ認知を高めるような位置づけとしている

駅広告や、街中広告は、フライヤーで制作したキャッチコピーや青空のクリエイティブを反映しつつ、景色の一つとして見えるようなものとしてつくります。

例えば、駅ばりポスターは、アプリの導線などは一切載せず、青空とキャッチコピーのみで構成しています。

最大限に景色に馴染むように、アプリの導線などは一切載せず、青空とキャッチコピーだけで構成した、駅ばりポスター

また、景色に馴染むように、フライヤーよりも余白をしっかりつくり、青空が強調されるようにすることで、まるで窓から見える青空のようなクリエイティブにしています。

余白をしっかりとって青空をメインにレイアウトした駅周辺のデジタルサイネージ
青空をメインにし、情報は絞ってレイアウトした、車両内広告

次に、「街づくり」や新しいものへの関心度合いがあまり高くない層に向けた販促物づくりに取り組みました。

関心があまり高くない方に向けて、利便性や、利用イメージが伝わるような訴求を設計する

ここでは、コンセプトや世界観を押し出すよりも、サービスの利便性や、利用イメージを訴求することで、利用してみたい層を増やすことを意図しています。

例えば、利用イメージを伝えるために、人や利用シーンを中心に押し出し、機能説明も充実させたクリエイティブを制作しています。

「スマホでご近所づきあい」というわかりやすい表現を使用し、利用のハードルを下げるフライヤー

例えば、上記の広告では、主婦層を主なターゲットとしています。

「スマホでご近所づきあい」という、明快でわかりやすい言い回しをすることでハードルを下げ、commonを利用してみたい、という感情を生もうとしています。

同じ考え方で、commonの機能がアップデートする度に、その機能の利便性や利用イメージを押し出した訴求を、クリエイティブに落とし込んでいます。

近所の住人と不要品を譲り合える「譲渡機能」を訴求するフライヤー

結果として、ターゲットを切り分けた訴求や、媒体ごとに役割を持たせたことで、販促物がきっかけで多くのユーザーの方にcommonを利用していただけるようになっています。

commonを利用するユーザーの方からの、販促物に対する声の例

販促物によりユーザーが順調に増えた結果、投稿数やコメント数、利用者間のメッセージ数などを合算したアプリ上での2023年6月の月間コミュニケーション総数は3万件を超えており、地域・エリアを限定したアプリ・サービスとしては異例の数だと捉えています。

また、譲渡機能における累計出品数は2023年6月時点で1万件を超えています。マッチング率は50%にも及び、初期からサービスを展開する二子玉川エリアにおいては80%を超えるなどご近所同士のやりとりが活発化しています。

今回のように、ターゲットの範囲が広いとき、ユーザーの属性ではなく「関心度」によって訴求を切り分け、時期ごとに意図を持って販促するのは有効そうだと言えるのではないでしょうか。

フラーでは、アプリの開発にとどまらず、今回のようにブランドの設計や、クリエイティブも受け持って、新しいサービスが市場に受け入れられていくまでを支援しています。

その分、1人のデザイナーがプロダクトから販促物のクリエイティブまで、幅広い範囲のデザインを受け持つことになるため、一貫して「プロダクトのらしさ」を反映したものをつくることができるところが強みだと思います。

「common」のように、ただ使いやすさだけを訴求すれば良いわけでなく、関心や意欲まで高めていく必要があるサービスでは、よりプロダクトの世界観を販促物に落とし込んでいくことが重要です。

フラーのデザイナーは、デジタルプロダクトからそれを届けるためのクリエイティブまで、一貫して体験やブランドをつくっていくことができるよう、日々努力しています。

今後もフラーでの幅広いデザインについて、事例を残していきます。

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