キュービック・エクスペリエンスデザインセンター(以下XDC)・ブランドデザインチーム(以下BDチーム)の平山です。コーポレートブランディング業務を担う「コーポレートデザイナー」として仕事をしています。「有形のもの」よりも「無形のもの」と向き合うことの多いデザイナーで、デザイン組織に身を置きながら、PRや人事のような側面も持ち合わせています。

キュービックの「コーポレートデザイナー」が担う役割は、「自社らしさ」を社員のみんなと共創していくこと。任されるデザインの対象は会社にまつわるもの全部で、キュービックを構成するあらゆるものに一貫性を持たせられるよう、働きかけを続ける毎日です。

今回は、そんなコーポレートデザイナーの私が推進した仕事の中から「コーポレート・アイデンティティ(以下CI)の刷新」について取り上げます。どんなタイミングでどんな人たちと、どのように関わり合いながら歩んでいったのか。その一部をご紹介していきたいと思います。

そもそもキュービックのCI刷新は、どのような背景からスタートしたのか。取り組みのはじまりは、2019年。それまでのCIは2015年に策定したもので、自分たちが大事にしてきたものやありたい姿を少しずつ手探りの状態で言語化していき、なんとかつくりあげたものでした。

試行錯誤の末、創業10周年のタイミングで経営理念・ミッション・9つのクレドが確定。やっとの思いで言語化できたのもつかの間、組織の成長がCIを追い越してしまうという事態が生じ、9つのクレドの中身を一部入れ替えることになります。さらには新たなビジョンも作成。ビジョンにあわせてクレドを刷新、数も4つに減らしましたが、クレドの数を減らすと“らしさ”が失われかけたので、補うようにカルチャーコードというものも作成しました。

このように増改築を繰り返してきたキュービックのCIは、気づけば随分と複雑化していました。そこで改めて上流から見直し、CIを結い直そうと立ち上がったプロジェクトが『ReBORN PJ(リボーンプロジェクト)』。CEOの世一と私が中心となり、全社員を巻き込みつつ動き出していたところへ、CDO(Chief Design Officer)の篠原がジョインする形でCIの刷新が本格的に動き出したのです。

増改築が繰り返されたCIは、複雑な状態に

さてここからは、どこで・誰を巻き込みながらCI刷新を進めていったのかについて、お話ししていきます。

刷新の手順はさまざまあるかと思いますが、私たちの場合はまず、会社の歴史を整理するところからはじめました。

まずは会社の歴史を整理する

創業初期からの在籍メンバーを集め、座談会を開催。キュービックで働いてきた中で印象的だった出来事やその当時抱いた気持ちなどを、古株社員から丁寧に拾い上げていきました。

CUEBiC年表をつくるための、古株社員座談会当日プログラム①
CUEBiC年表をつくるための、古株社員座談会当日プログラム②
思い出話にも花が咲く、古株社員座談会当日の様子

ここで得た声をもとに、会社年表を作成。

完成したCUEBiC年表

キュービックの原体験や歩みの全体像を可視化し、CI刷新に向けた土台をつくりました。この年表はその後巻き込むさまざまな人々と、キュービックに対する共通認識をとるためのツールとして、重宝しました。

キュービックの旧CI誕生までの歴史
テキストマイニングで会社の歴史を紐解く

この座談会で得たもののサマリとしては、以下の通りです。

古株社員座談会のまとめ

続いて行なったのは、多様な社員への個別インタビュー。ベテラン・中堅・新人の属性、そして職種がばらけるように数十名をランダムに抽出し、個人の本音を深く引き出していきます。

主な質問項目として、以下を用意しました。

社員への個別インタビューで展開した質問①
社員への個別インタビューで展開した質問②

各問いについて予め個人で思考してもらい、ヒアリングシートへの事前記入を依頼。当日は、記載内容をもとに詳細を掘り下げていきます。

個別インタビュー前に記入依頼したヒアリングシート

ベテラン〜中堅社員の、特に社内表彰制度で受賞歴のあるメンバー(いわゆるキュービックにおける活躍層)に対しては、入社動機や仕事上の譲れないこだわり・信念、印象的なエピソードなどを重点的にヒアリング。

新人社員からは、入社前後の印象の違い、ネガティブ・ポジティブ問わずどんな発見や気づきがあったかなども聞き出すようにしました。

管理職社員への個別インタビューの様子

さらに、こうした個別インタビューは、一般社員に加え50名近くの管理職社員にも実施していきました。彼らは縦横問わず組織の中でコミュニケーションのハブとなる存在です。現在のCIに関して感じていること、現場で生じているコミュニケーション上の課題なども確認するようにしました。

得た情報をもとに、テキストマイニングを通じて「社員が自社の強みをどのように捉えているのか」を把握します。

テキストマイニングで「社員が捉える自社の強み」を整理

「社員が捉える自社の強み」に関するサマリーとしては、以下の通りとなりました。

社員への個別インタビューのまとめ

「古株社員の座談会」と「社員への個別インタビュー」とで、キュービックの過去へアクセスした結果見えてきたのは「旧CIは創業者や会社としての経験から描いた理想像になっており、ヒトを大切にするカルチャーは今の社員の強みとして浸透している」ということでした。

経営理念の「ヒト・ファースト」は、私たちが思っていた以上に組織の中に根付いているという発見がありました。

私たちが次に取り掛かったのは、キュービックの「今」と向き合うことです。旧CIは、社員にとってどんな存在で、どんな課題を抱えているのか。これを探るため、全社員対象のワークショップを行ないました。

「CI全体(構造)の課題」と「CIを構成する各要素の課題」とを、それぞれ理解する必要があると考え、2パターンのワークショップを用意。

まずは、「CI全体(構造)の課題」を把握するためのワークショップ。テーマは、「キュービックの経営理念・ミッション・ビジョン・クレド・カルチャーコード・CUEMの繋がりを示す図(絵)を描いてみよう」というものです。

「CI全体(構造)の課題」を把握するためのワークショップテーマ

CIという抽象的なものをいきなり言語で答えるというのはなかなか難しいもの。「図(絵)にしてみよう」というスタイルを取り入れて、みんなのアウトプットのハードルを下げることを狙いました。

アウトプットのハードルを下げるために行った注意事項のアナウンス

CIは社員みんなの共感と体現なくして成立しません。ですから、「CIと向き合う」「キュービックのあり方を考える」という取り組み自体を「楽しいこと」「ワクワクすること」としてポジティブに捉えてもらうことは何よりも大切で、プロジェクトとしても強く意識をしていたところです。

全社でワークショップを行う際は、必ず事前に自分たちでテスト実施
CIの各要素の繋がりを示す図(絵)、ボードメンバーの作品

実際にこのワークを実施してみると大盛況。

CIの各要素の繋がりを示す図(絵)、社員の作品

楽しいだけではなく、「人は同じものをみているようで、実は違うものみている」「違うもののようで、本質は同じものである」という気づきを、プロジェクトメンバーはもちろん社員のみんなが得られるいい機会となりました。

ワークショップの最後にみんなに見せたひとつの絵
「同じものをみているようで違うものみている」これはCIにも当てはまる、だから対話が大事

続いて、「CIを構成する各要素の課題」を把握するための全社ワークショップ。

「CIを構成する各要素の課題」を把握するために用意した設問

上記の設問を用意し、組織図上のチームで分かれ、個人ワークとグループディスカッションを交互に行いました。

「仕事や事業において経営理念『ヒト・ファースト』を意識することはありますか?それはどんな時ですか?」に対する回答①
「仕事や事業において経営理念『ヒト・ファースト』を意識することはありますか?それはどんな時ですか?」に対する回答②

出たキーワードを分類し、旧CIの抱える悩み・課題を以下のように整理。

テキストマイニングで「経営理念についての悩み」を整理
「経営理念の課題」のまとめ①
「経営理念の課題」のまとめ②
テキストマイニングで「ミッションについての悩み」を整理

その結果、旧CIは「事業、戦略とのつながり」という側面で課題を抱えており、次のCIではその点を特に解消する必要があるとわかりました。

ワークショップ全体を通じて見えてきた旧CIが抱える課題
ワークショップ全体を通じて見えてきた旧CIと会社の現状に対する社員の意識
ワークショップ全体を通じて見えてきた新CIへの期待

次に取り掛かったのは、会社の「未来」と向き合うことです。

これまでのプロセスで得られたキュービックの過去や現在に関する情報を経営陣とも共有した上、この先どのような未来をつくりたいか、どんな会社をつくりたいかという点で発散と収束を繰り返しました。

経営陣と行った会社の「未来」についてのディスカッションにはグループ会社CEOも参加

ここにはグループ会社のCEOも交え、ともに歩むパートナーとしての意志も確認しながら議論を深めていきました。

ここまでのヒアリング結果から、CIが満たすべき要素を洗い出し、各要素に優先順位をつけ、それを満たす言葉を発散していきました。

言葉を発散する際、常に議論されたり意識したりしていたのは、さまざまな対象との「適切な距離感」です。時間的距離、社会との距離、顧客との距離、事業との距離、自分達との距離、創業時との距離などなど。距離が離れ過ぎても近過ぎても、熱を帯びず、所有感の薄いものになってしまいます。「距離」というのは、「抽象度」とも言い換えられるかもしれません。抽象度が高過ぎても低過ぎてもいけない。ちょうどいい距離にある言葉、ちょうどいい抽象度の言葉はどれなのかというのを、根気強く探していきました。

最適な距離・抽象度の言葉はどれかと、根気強く探す場面

プロジェクトメンバーである程度の数まで言葉の候補を絞り込んだら、その候補について再度ランダム選出した社員へのインタビューを実施。意見を回収します。

候補となる言葉を絞り込んだ後は、再度社員へインタビューを実施
インタビューを通じて上がってきた、候補となる言葉についての声

さらに全社員に向けてアンケートを実施し、複数案の中からキュービックのミッションとして最も適切だと思うものへ投票をしてもらいました。

最終的に絞り込んだミッションワード候補に対する投票結果

アンケートの回答の中で「選択肢以外に強い提案や意見がある」と答えてくれたメンバーには別途意見をもらう機会を設け、引き続き対話を重ねていきました。

このようなプロセスを辿り、ようやく完成したCI。

完成した新しいCI

(新しいCIを凝縮したコンセプトムービー)

完成すると同時に、社内外からポジティブな反応をたくさんもらうことができ、粘り強く進めてきてよかったと感じています。

CI刷新を記念してコーポレートグッズもリニューアル、社内もお祭りムードに

新しいCIを策定した後は、社内外のコミュニケーション設計、採用マテリアルの作成などを推進。キュービックで働く一人ひとりが、CIをより体現できるような施策も走らせていきました。これらの取り組みは、今日も続いています。

正直なところ、CI刷新のプロセスでこれだけ大勢の社員を度々巻き込むには、苦労も少なくありません。実際に私自身、心が折れそうな瞬間はありましたし、一見すると非常に非効率な進め方のようにも思えます。トップダウンで行なったほうが言葉もロゴも、圧倒的に早くできあがることでしょう。

それでも「みんなと共創すること」にこだわったのは、「CIの担い手は社員一人ひとりである」という考えがあったから。言葉やロゴが完成することは、CI刷新のいち過程でしかありません。その先で社員のみんなが言葉やロゴに込めた思いと意志に深く共感し、自分ごととしてそれを受け止め、体現できて、はじめてCIは意味をなすものになると、私自身は考えています。だからこそ、一人ひとりが「このCIは自分のものだ」という意識を育める刷新プロセスにしたのです。

はやく行きたければ一人で進め、遠くへ行きたければみんなで進め。そんな有名な言葉がありますが、キュービックも私も、目指す先はまだまだずっと遠いところにあります。遠くへいくから、みんなで進む。

これからも、社員のみんなと一緒に、キュービックらしさを共創していきたいです。

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