キュービック・エクスペリエンスデザインセンター・UIデザイナーの小野です。今回は、2021年からデザインセンター内のUIデザインチームで定期的に行われている「デザイン品評会」の取り組みについてまとめていきたいと思います。

デザイン品評会は、CDO篠原やマネージャーの原、そして私が評価者となり、若手〜中堅デザイナーのアウトプットを項目に沿って評価している場で、チーム全体のデザイン品質の向上を目的としています。

デザイナーの評価や育成に悩んでいる方にとって、少しでも参考になれば幸いです。最後にも書いていますが、私たちの取り組みは完成されたものではないので、知見をシェアし合える方がいたらぜひディスカッションさせていただきたいです!

品評会の取り組みを始めるまでは、若手デザイナーのデザインに対するレビューは先輩デザイナーが行っていて、デザインができたら随時見てもらうという形でした。

このこと自体は問題ではないのですが、レビュー内容が先輩デザイナーの主観に依存してしまっていました。その人の事業理解や施策理解の度合いが低かった場合、いいレビューはできていなかったように思います。

属人的なレビューが行われていて、チームとしての基準を作る必要があった

またレビュー観点もチームとして統一されておらず、これもレビューが属人的になっていた一つの要因でした。こうしたレビューが行われていたことにより、なかなか若手デザイナーのスキルが上がらないという課題に直面していたのです。

そこでデザインの基準を定義したうえで複数人でデザインを評価する「デザイン品評会」をやってみることに。

チームとしてのデザインの基準を設け、それに則って若手デザイナーを評価する品評会を行うことに

チームとして「どういうデザインがいいか」という目線を合わせるいい機会にもなりますし、発表する側にとっても自分のデザインの意図を言語化するトレーニングになると思い、マネージャーの原とともに設計を進めていきました。

品評会のプロジェクトは2021年6月にスタートしました。

まず最初に、デザイン思考のプロセスに則ってどんなアウトプットがあるかを私たちなりに分解してみました。

デザイン思考のプロセスに則り、デザインのアウトプットを発散

この時は、デザインの質と幅を定義して、うまく掛け合わせて目標を置くことを見据えていました。

次に行ったのが、他の事業会社がアウトプットをどのように定義しているか、それに伴いデザイナーの評価をどう行っているかのリサーチ。

品評会を設計するうえで、自社だけで使えるデザインの基準は作りたくないという思いがありました。キュービックに限らず、汎用的に使える定義を作るために、他の会社の事例を参考にしようと考えていたのです。

原と手分けして、他の事業会社のデザイナーにヒアリングを行い、1週間で計7社のデザイナーに話を聞くことができました。

7社のデザイナーに、デザイナーの評価についてヒアリングを実施

結論として、デザインの基準の言語化をしていたり、体系立った評価の仕組みを持っていたりするデザインチームは、今回の調査では見つかりませんでした。ただヒアリング自体は無駄ではなく、現場のデザイナーが持っているネガティブな感想を回収できたのは大きな収穫です。

例えば

・チームとしてのデザインの基準がないからレビューがあいまい

・正当に評価されていないのではないか、と時々思う

など、これはおそらく私自身も含めうちのチームのデザイナーも抱えてそうだなと思う声ばかりでした。

ヒアリング結果をグルーピングし、評価に含ませる要素を抽出

ヒアリングで得た声を整理し、どういう項目がデザイナーに求められているかをマッピング、また評価へのネガティブな声は、今後の品評会の運用を考えるうえでのヒントとしてまとめておきました。

次に、デザイナーを正しく評価するうえで大事そうな項目の関係性を図でまとめます。

ヒアリングで見出した「評価をするうえで大事そうな要素」の関係図をまとめる

ヒアリングで抽出した各要素が、どのような関係性なのかを可視化していきました。

そして、それらは業務プロセスにおいてそれぞれ評価する観点として整理できるのではないか、と考えました。

この図の黒の付箋の要素をヒントに、原とともに「デザインをするうえで大事な観点」を洗い出して、評価軸を作ってみました。

これをもとに、原も交えてディスカッションを進めたところ、デザインを進めるうえでの手法からアウトプットの評価項目を考えるというアイデアが生まれ、再度整えていくことになりました。

共通して抑えておくポイントを質の評価項目として設定

例えば、ペルソナ設計やジャーニーマップを作成する際に共通して抑えておくべきポイントを項目として設定し「質」の評価項目はこちらで計り、まだ実務を通して実施出来てない手法やアウトプットを実施出来たら「幅」として評価するという運用をイメージしていました。

新しいチャレンジを実施したら役割の幅として評価
意図とともに評価項目をチームに共有

実際にデザイナーに見せたところ、「何が評価されるのかわかりづらい」「行動が思い浮かばない」などの意見が。

たしかに多くの要素を盛り込みすぎて、運用のイメージが湧きづらいものになっていたように思います。

デザインの質と幅を網羅的に評価しようと考えすぎていました。ですので、デザイナーとして必要な不可欠な「デザインの質」に絞って評価出来る項目を作ることに。

デザインを評価するに辺り、そもそもデザインがどのような要素で成り立っているのかなど原則などを理解する必要があり調査を実施しました。様々な事例があったのですが、一番しっくり来たのがAdobeの7 つのデザインの原則だったので、こちらを利用する形で評価項目を設定しました。

Adobeの7つのデザイン原則を評価項目として設定

設計した評価項目をチームに共有し、第1回の品評会を開催しました。

Adobeの7つのデザイン原則を評価項目として設定

定められた項目をもとに、CDO篠原・原・私の3名が評価者となり、若手デザイナーのアウトプットに点数をつけていきます。

品評会が行われている様子

第1回の感想は、「評価らしいことはできたけど、もっと項目をシャープにできそう」というものでした。

品評会直後に評価される側であった発表者のデザイナーを招き、KPTを使った振り返りワークを実施しました。評価される側の意見も取り入れることで、本来の目的であった「チーム全体のデザイン品質の向上」を達成できるような評価基準に近づくのではないかと考えたのです。

評価される側のメンバーも巻き込んだKPTワーク

そこで得た声として、プロセスまで評価しようとするから煩雑なものになってしまう、というものがありました。デザインの幅を捨て、質に振り切ったように、プロセスは抜きにしてアウトプットのみを見るほうが評価としてわかりやすいのではないか、という内容でした。

また、デザイン原則の項目によりどのような観点でチェックしているのかを説明文として補足し、第2回の品評会を開催。

評価項目をより伝わりやすいように言語化をして再定義

第2回の後も同じく参加者全員でKPTワークを行い、改善を続けながら今まで計8回開催してきました。回数を重ねるごとに発表資料や評価項目がアップデートされていて、最新の評価項目はこのようになっています。

計8回の品評会を開催しアップデートされた、最新の評価方法

これまでは、Googleドキュメントやスプレットシートで運用しておりファイルも散らかっている状態でしたが、最近は、ドキュメント類は全てMiroへ移行してそこで一元管理出来るように運用方法も改善しました。

評価についても、Miro上にアウトプットがあるので付箋と矢印を付け、「具体的にどの点が良いと感じたのか」「どの点が改善できるか」を発表してくれたメンバーにより伝わるよう改善をしています。

品評会を定期的に行うことで、デザインの品質を高める意識がチーム内で高まったように思います。

私や原といった評価する側の人間も、感覚的じゃないレビューを行う訓練になっていますし、アウトプットを持ち込む若手デザイナーも意図を持ってデザインする習慣がつきました。

プレゼンは、デザインの意図を言語化するいい機会になっています

質が明確に定義されているため、つくる人も何を意識してデザインをすれば「いいアウトプット」になるのかがわかりますし、目に見える形でデザインの質が高まっているように思います。

かなり模索しながらなんとか形にしてきた評価項目ですが、まだまだ完成にはほど遠く、道半ばだと思っています。

これからどんどんブラッシュアップされていく前提で、評価する/される側両方にとってよい方法を見つけていきたいです。

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