東京海上日動システムズで、東京海上日動が提供する、オンライン保険相談予約システム「Agent+」のUI改善プロジェクトを行いました。
今回のプロジェクトのポイントは「定量調査と定性調査のかけ合わせ」です。
定量調査に強みを持つデジタルマーケティングユニットで、データから改善箇所を洗い出し、仮説を立て、定性調査に強みを持つデザインチームがその仮説を検証、解決策を提案することで一気に改善を進めていくことができました。
結果として、ご相談をいただくお客様の数は大きく向上し、直接的な売上向上も予測できています。
このような、定量と定性をかけ合わせた改善プロジェクトの進め方について、「Agent+」を例にまとめてみます。
「Agent+」とは、東京海上日動が提供する、オンライン保険相談予約システムです。
試験的な提供は2023年1月に始められており、その1ヶ月後に、リリース後の数値を見ながら改良をしていく目的で、UI改善プロジェクトがスタート。
プロダクトオーナーである東京海上日動から相談をもらい、私たち東京海上日動システムズ (以下、システムズ) の関わりがはじまります。
今回は、「リリース直後の新規サービスを、どう改善するのか?」という視点でプロジェクトを進めています。
2019年から活動を開始したシステムズのデザインチームでは、定性的な調査からプロダクトデザインに繋げていく力を伸ばしてきました。
ただ、今回のように複数の画面があり、すでにお客さまに提供開始されているプロダクトの改善では、いきなり定性調査から始めることは有効ではないこともあります。
リソースも限られている中、課題のあたりがついていない状態で定性的なリサーチに取り組むと調査が必要な箇所が無数に広がってしまい、コストが大きくかかってしまいます。
そこで今回は、システムズ内のデジタルマーケティングユニット (以下、デジマユニット) と連携してプロジェクトを進めることとしました。
デジマユニットでは、すでに提供されているサービスのリリース後のデータを見ながら、問題が発生している箇所を特定する定量調査に強みを持っています。
デジマユニットが分析したデータをもとに課題のあたりをつけ、そこからデザインチームが定性調査で課題の掘り下げを行うことで、スピード感を持って改善を行えるのではないかと考えていました。
このような思考から、定量と定性のかけ合わせによって「Agent+」のUI改善プロジェクトを進めていくこととしました。
定量調査と定性調査の役割分担としては、以下のように整理できます。
定量調査: データをもとに、サービス全体で問題がある箇所を特定する
定性調査: 問題がある箇所に対して、実際のユーザーの行動や発言をもとに課題を深堀りする
実際には、定量調査によって「LP遷移後の体験」に課題があることが分かったため、その後の「検索〜予約の体験」に絞って定性調査・プロトタイピングを行うような流れとなっています。
ここからは、実際に「Agent+」のUI改善に際して行ったプロセスを具体的にまとめてみます。
まずは、既存のオンライン保険相談予約サービスを使うお客様のデータをもとに、定量調査を行います。
Googleアナリティクスを活用して、利用状況を可視化しながら、デジマユニット側で課題の仮説を設定します。
ここで分析していた観点は「流入経路」「アクセス者属性」「コンバージョン(面談申込完了)まで進んだ人の属性や割合」「フロー遷移率」などでした。
データを確認しながら、遷移率や滞在時間などを踏まえて課題がありそうな箇所にあたりをつけていきます。
結果的に、遷移率の分析を経て、「検索結果から詳細に進む画面」と「予約フォームの入力画面」に課題がありそうであることが分かりました。
一定の仮説が立ってきたところで、定性調査をかけ合わせていきます。
定量調査の結果を踏まえ、デザインチームの西村さんに問題点を共有してもらいます。その上でデザインチーム内のディスカッションで、ヒューリスティックに課題の仮説を立てていきました。
「おそらくこの辺りに課題があるだろう」という仮説が立ってきたタイミングで、インタビューの設計を行います。(このプロセスは、システムズのデザインチームでは毎回実施しており、体系的な調査プロセスがチーム内で組まれています。)
インタビューの結果、いくつかの課題箇所を発見することができました。例えば「異なる複数のCVが混在しており優先度がつけられていない」こと。
また「LPからトップページへ遷移したときに、お客様からすると情報を解釈しづらくなってしまっている」ということ。
さらに、フォームの項目についても「相談内容よりも心理的ハードルの高い個人情報の入力項目を優先してしまっており、離脱が起こりやすくなっている」など、他にもいくつもの改善点が見つかりました。
定量的なサービスの問題箇所と、その裏側にあるお客様の行動や思考が明らかになったところで、プロダクトオーナーや開発メンバーにも共有しながら、課題と解決策の優先度づけを行っていきます。
いくつも生まれていた課題仮説に対して、簡単なプロトタイピングを行い、何が今問題なのか、どう解決すれば良さそうかを明確にしていきます。
課題の優先度を設定、解決策についても同様に優先度を開発メンバー含めて決定しました。
ここからさらに、開発の準備を進めつつ、プロトタイプによるユーザーテストを行います。
プロトタイプの改善箇所を明確にし、デザインチームが主導してPBI (*) を組み立てます。
PBIをもとに、精緻なデザインデータの設計、開発チームの開発状況を都度共有してもらいながら、必要であればより開発しやすいUIへと変更、などリリースまで開発と並走しながらプロジェクトを進めます。(これも、システムズのデザインチームでは、体系的に行うプロセスとして標準化されている進め方です。)
UI改善を終え、2023年7月に、東京海上日動からオンライン保険相談予約システム「Agent+」が正式に公開されました。
ここでも定量調査が機能します。デジマユニットで、リリースから一定期間の数値測定を行ったところ、CV (コンバージョン率) が改善されており、その結果として売上も向上する予測が立ちました。
プロダクトオーナーにもこの結果を共有したところ、成果に繋がる取り組みであったことをより実感していただき、彼が担当している別の案件についても同様の改善プロセスを回して欲しいと伝えてもらっています。
今回のプロジェクトを通して、東京海上日動システムズ内でも、定量調査と定性調査をかけ合わせる新しいプロジェクト進行の型が生まれたように感じます。
これまで、デジマユニットが誕生するまでも、デザインチーム内で定量調査を行っていました。ただ、独自のフォーマットで分析を進めており、スピード感もなかなか出づらく、「定量調査を行う価値」は示しづらかったなと感じています。
ただ、定量調査を行わなければ、なぜ定性調査をするのかも示しづらいなとも思います。「ここに問題がある」と数値で伝えることで、「ではその理由を調べよう」とスムーズに定性調査の必要性も感じてもらえます。
デジマユニットが誕生し、「次につながる定量分析」をプロセスとして確立してくれたことで、すでに仮説がある状態で定性調査を行うことができるようになりました。インタビュー時点である程度知りたいことや課題仮説が明確で、答え合わせをするように定性調査を行うことができる。これによって定性調査の速度も、確信も高められます。
今回のプロセスを推進してくれた、デジマユニットの宇都さんからは逆に「デザインチームと連携することで、定量調査だけでは行いづらい、裏側の根拠づけや、解決策提示まで行えるようになった」と、連携の価値を伝えてもらっています。
今後は、東京海上日動システムズとして、このような改善プロジェクトであれば定量・定性のかけ合わせでプロジェクトを進行していくことを提案できるようにしていきたいなと思っています。お客様に速く確実に価値を届けるための試行錯誤を今後も続けていきたいと思います。