TISのDXクリエイティブデザイン部で、森林資源の循環利用を促進するプログラム「WOOD DREAM DECK」を立ち上げ、2023年3月に公開しました。

0→1の新事業クリエイティブを経験したことがある人が少ないチームで、社会課題をテーマにした新規事業を創出する上で、「共感を生み、当事者を増やす」ことを意識しました。新規事業立ち上げのプロセスについてまとめてみます。

WOOD DREAM DECKは2023年3月に公開された、森林資源の循環利用を推進する、社会課題解決に向けたファンベースコミュニティです。

森林資源の循環利用を推進する、ファンベースコミュニティ「DREAM WOOD DECK」
https://www.tis.jp/branding/uxdesign/wooddreamdeck/

住民はコミュニティの中で、森林を使って「したいこと」の願いを提案します。一定数の共感が集まると、その願いが実際に叶えられるような事業です。

森林を使って「したいこと」を提案、コミュニティの中で様々なプレイヤーが共感し関わってくれることで実際に「したいこと」が叶えられる
実際に埼玉県横瀬町につくられた「ocomoriサウナ」

TISでは、いくつかの社会課題を解決することを社のテーマとして掲げています。WOOD DREAM DECKはそのうちの1つ「低・脱炭素化」に向けて新規事業をつくるために始まったプロジェクトです。

TISとして取り組む事業領域について
「都市への集中・地方の衰退」「低・脱炭素化」「金融包摂」「健康問題」の4つの社会課題を解決するために新規事業を立ち上げる

事業立ち上げ当初は、個人向けのカーボンクレジットのしくみをつくる、という手法だけが決まっていました。ただ、そのようなしくみをつくって、どのような理想を目指すのか?は特に議論されていませんでした。

TISは元々決済領域で多くの実績と有識者が集まっており、カーボンクレジットという手法に対してケイパビリティを生かせそうな感触はありました。しかし、事業として成立させるには手法だけでなく、それによって何が実現できるのかという世界観・理想像が必要です。そのため、コンセプトづくりから取り組み始めました。

また、社内に新事業立ち上げの経験を持った人はほとんどいませんでした。

そのため、例えば、世界観を描く上で、経験のあるクリエイター同士でお互いの意見をぶつけながらブラッシュアップしながら創っていくということは難しい状況でした。

そんな中で、2年以内に事業を公開することを目指してプロジェクトを開始します。

まず、社内を巻き込んで、コンセプトの設計に取り組み始めます。ここでは、以下のようなことを意識して進めました。

  • 集合知によるアイデアの共創

  • 自分ごととして話せる身近な着眼点から考える

  • 他人の意見も取り込みながらコンセプトを磨き込む

ゼロからのアイデア創出に慣れているクリエイターがほとんどいない中で、斬新なアイデアにたどり着くために、集合知を活かしたアイデア共創を意識しました。

まず、TIS社内から、新規事業のコンセプトづくりに関わりたい方を公募し、出来るだけ多様なバックグラウンドのメンバーを集めていきます。

TIS社内から、プロジェクトメンバーを公募した時のスライド
多様なバックグラウンドのメンバーを集め、ワークショップを開催する

多様なバックグランドのメンバーで議論を繰り返しながら、それぞれのアイデアに意見を重ねていくために「SECIモデル」「積み上げ式ブレインストーミング」という手法を取り入れて進めました。

「SECIモデル」を活用したワークショップの全体像についてまとめたスライド
メンバーそれぞれのアイデアを、チームのアイデアとしてまとめ、またアイデアを出し... と繰り返しマッシュアップしていく
ワークショップの中で行った「積み上げ式ブレインストーミング」のイメージ
誰かが出したアイデアを、別の人が広げ、それをさらに別の人が広げ、、と繰り返していくことで知見が共有されながらブラッシュアップされる

サービス立ち上げ経験があまりない複数のメンバーが集まるため、議論が一般論になりすぎないようレールを敷いておく必要があります。

そこで、初めは、誰しも自分ごととして話しやすいテーマを設定しました。社会全体ではなく、「個人としてなぜ脱炭素化の動きが起こっていないのか?」という、自分の経験や体験から気軽に話せるテーマをあえて選んでいます。

最初に設定したテーマ「日本の個人にグリーンアクション(脱炭素)が浸透する文化を創り出す」
事前に設定した課題「日本のカーボンニュートラルアクションの浸透」「日本の寄付・慈善行為への意識改善」の2つが課題であることを明示

結論を出しすぎず、個人としてなぜなのか?と自分ごととして考えやすいようなところまで情報を整理し、ここからはワークショップで議論しながらコンセプトをつくっていきます。

ここからは、ワークショップを繰り返し行い、テーマに対してメンバー全員で他人のアイデアや意見を重ねながらコンセプトを磨き込んでいきます。

テーマに対して、メンバー個々人の意見を重ねている様子

何度も議論する中で、メンバー間の投票によってアイデアを絞り込んでいき、全員の共通認識を得ながら理想的な状態を仮説として定義することができました。

さらにそこから、個人の課題が解決されるだけでなく、「このアイデアを事業として実装することで、社会課題の解決にもつながりそうか?」を追加でリサーチして検証していきます。

日本の森や、木材の現状について幅広くリサーチ
個人目線から出したアイデアが、業界・社会という広い目線で見ても問題解決につながるのかを検証する

結果として、個人がしたいことを叶えるために、木材を使い、使った分の木材は新たに植え替えるファンコミュニティ「WOOD DREAM DECK」というコンセプトにたどり着きました。

WOOD DREAM DECKのコンセプトをまとめた資料

コンセプトが決定したのち、初期リリースを進めていきます。

ここでは、社外の関係者の共感を生みながら、当事者の輪を広げていくことに取り組んでいます。具体的には、以下のようなことを意識しました。

  1. まず自分たちがプレーヤーとして動く

  2. 業界関係者に向けた発信による共感の獲得

初期リリースでは、自分たちがその領域のプレーヤー(関係者)として動くことを意識しました。

WOOD DREAM DECKは単なる提案ではなく事業共創を目的としたプログラムなので、自分たちは提案だけで、他社や自治体にサービスだけ提供するような形もあり得ましたが、それでは利用者にとって何が阻害要因で、課題になるのかの本質を把握することができません。

そこで、まずはTISが主導する形で、埼玉県の横瀬町と連携して実証実験を開始します。横瀬町は「よこらぼ」という官民連携プロジェクトがあり、産官連携が盛んな自治体だったので、ここから始めることとしました。

横瀬町と連携して、実証実験を開始
まず自分たちがプレーヤーとして動くことで利用者が当たる壁を事前に把握する

また、自治体と連携している実績をつくり、アウトプットを出すことは、森林産業のようなレガシーな業界でも信頼を掴みやすくなります。そのため、アウトプットを意識しながら横瀬町との連携を進めていきました。

また、消費者だけでなく、森林産業の業界関係者に向けての発信にも力を入れています。

WOOD DREAM DECKのような新しい概念を一気に広めるためには、これまでの森林産業に関わる人にも共感してもらい、うまく巻き込んでいくことが必要だと考えているためです。

例えば、取り組みの認知が横瀬町に閉じないよう、専用ランディングページを開設。

ランディングページを開設し「したいこと」のリストを公開

また、代官山蔦屋店でポップアップ展示を実施、一般生活者から「したいこと」を収集しました。

代官山蔦屋店でのポップアップの様子
2週間で69の「したいこと」を収集することができた

これらの取り組みをIT系メディアだけでなく、森林産業の関係者が見るであろう紙媒体でも露出しています。広くWOOD DREAM DECKの意義を周知させていきました。

WOOD DREAM DECKとしてのメディア露出について
2023年12月までに、110媒体に取り上げられることに成功

結果として、開始から8ヶ月で以下のような成果が生まれています。

WOOD DREAM DECKのこれまでの成果について

・オンラインコミュニティ参加人数: 150人
・コミュニティ内で立ち上がったプロジェクト数: 14プロジェクト
・地域の木を使って「したいこと」アウトプット数: 15種類24個
・活用した地域木材の量: 2440kg
・WOOD DREAM DECKを通して横瀬町に来訪した人数: 85人以上

コミュニティの活動を通して、たくさんの関係者を巻き込むことができています。最初の実証実験地域である横瀬町では、すでにいくつもの「したいこと」がアウトプットされています。

ocomoriサウナ
横瀬町のコミュニティスペース「エリア898」につくられたミーティングブース

森林関係者の方からの共感も多く得られています。横瀬町に訪れていただいたり、他の地域などで登壇の機会をいただいたりと、WOOD DREAM DECKに関わる当事者が増えている実感があります。

2023年10月5日、ocomoriサウナはウッドデザイン賞を受賞
「大人の科学 マガジン」に掲載

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自分は、新規事業を立ち上げるにあたって、マネタイズから考え始めるのではなく、ビジョンに共感してもらえる人を増やしていき、共創により価値の高いアウトプットを出すことが、結果として事業としても成立することに繋がっていくと信じています。

今回特に意識していたのは、センスメイキングの考え方です。

センスメイキングの考え方についての図解
客体の中に主体を置き感知・解釈・行動を繰り返すことで、カオスな環境の全体像を掴み、不確実性を越えていく

新事業の立ち上げ方も、森林に関する知識も知らない素人が集まったことで、「環境のためにできること」ではなく「自分のためにしたいこと」を叶えるファンベースコミュニティという発想に至ることができたと思います。(逆に、森林関係者だけが集まっていたら、もっと凝り固まったアウトプットになっていたはず。)

新規事業の立ち上げとは、非常に不確実性の高い環境です。その中で、行動を続け、認識して迷いながら進むことで、不確実性を乗り越えるヒントを得ることができます。

さらに、1人ではなく、複数の人が当事者になることで、その確率をより高めることができます。

TISにおける社会課題の解決に向けた新事業の立ち上げでは、このようなプロセスを何度も実験することができます。今回のプロセスを別のプロダクトの立ち上げにも活用していき、TISらしい新事業開発の進め方を見つけていきたいと思います。

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