アドウェイズでは2003年からネット広告業界のビジネスモデルまで変えていくために、いくつかの自社プロダクトを運営してきました。これらを扱うために2023年に会社分割して生まれたのがADWAYS DEEEという組織です。
これまで広告代理店という性質が強かったアドウェイズでは、プロダクト開発の現場でも、顧客の方を向いているセールス組織側の主張が強い状態でした。
そのような状況から、よりエンドユーザーに寄り添って意思決定をしていけるように、そしてアドウェイズ全体がユーザー中心の組織文化になるように、ADWAYS DEEEではプロダクト開発を試行錯誤してきました。
アドウェイズがサービスを提供するアフィリエイト広告業界は、20年以上前からビジネスモデルが変わっておらず、少しずつ綻びが生まれてきています。
例えば、多くの広告代理店では、顧客企業のことを一番に考え、そのサービスのエンドユーザーの広告体験についてはほとんど考えられていません。
その結果、消費者にとって要らない広告が表示される、信用しづらいアフィリエイト広告記事が広まる、広告を出す側としても本当に広告を出して良いのか疑問が生まれる、といった、ビジネスモデルにおける負の連鎖が顕在化してきています。
そのような業界の構造的な課題を解決するために、ADWAYS DEEEでは自社プロダクトの開発に取り組んでいます。
ただ、組織としてそのように理想を掲げているものの、これまで広告代理店という性質が強かったアドウェイズでは、実態として、プロダクト開発の現場でも顧客中心のビジネス側の主張が強く反映されている状態となっていました。
そのため、5年ほど前までは、セールス組織側から依頼がきてそれに従って開発を進める、悪い意味でのウォーターフォール的な体制がとられており、顧客の声しかプロダクトに反映されず、エンドユーザーの体験についてはほとんど考えられていない状況でした。
このままではアフィリエイト広告業界の構造を変えていくことができないので、生活者の理解をさらに深めたサービス開発が行えるように、体制の見直しやプロダクト開発フローの見直しを行っていきました。
セールス組織側の力が強く、セールス組織とプロダクト開発組織が完全に分断されていたところから、ユーザー視点を取り入れて、ビジネスと連携しながらプロダクト開発を行えるようにしていくことを目指していきます。
とはいえ、すぐに組織文化や体制が変わるわけではないので、プロダクト開発組織内部での体制変更や、エンドユーザー向けのリサーチの実施など、いくつかの打ち手を行い、少しずつ組織にユーザー視点を浸透させていきました。
まずはじめに行ったのは、開発組織の中にデザイナーを組み込むことです。
前述したように、これまでは、開発組織の中にデザイナーがおらず、毎回要件を依頼してUIをつくってもらうような関わり方をしていました。
ただ、よりユーザー視点を取り入れたプロダクト開発を行うにあたり、ユーザー情報のリサーチを通して体験や情報設計に責任を持ち、専門性を高める存在として、デザイナーが開発組織内にいるべきだと考えます。
社内から異動を募り、はじめて開発組織内に2名のデザイナーが所属することとなります。
デザイナーが開発組織に所属した後に、開発組織としては初めてとなる、広告を見るエンドユーザー調査を行いました。
前述したように、これまではビジネス側から依頼された内容をそのままプロダクト開発に反映しているような状況だったので、顧客であるクライアントの情報はあるものの、出稿した広告を実際に見る一般消費者(エンドユーザー)のことは何も分かっていませんでした。
エンドユーザーの理解度を高めることで、顧客に対してもさらに良い提案やプロダクト体験を提供できるはずだと考えて、外部のリサーチ会社に依頼し、調査を実施しました。
具体的には、インタビューを実施した後に、調査を踏まえてペルソナとカスタマージャーニーを作成しました。また、ペルソナごとにどのくらいの市場ボリュームがあるのかも併せてアウトプットするようにしています。
このアウトプットは、ビジネス側にとても反響があり、顧客に対して解像度の高い提案が行えるようになったと感想をもらっています。
ビジネス中心な組織文化によりユーザー視点を取り入れて、プロダクト側とビジネス側の距離を縮めることに貢献することができました。
一方で問題点もありました。初めての調査ということで、プロセスを丁寧に進めすぎてしまったことで想定していたよりも期間がかかり、その間にプロダクトとしての注力が次に進んでしまったため、今回のリサーチ情報を具体的にプロダクト開発に活用することはできませんでした。
現在は、よりリサーチの目的を絞り、短期間でプロダクトの意思決定に使えるリサーチができるように、よりアジャイルに回せるリサーチ方法を模索しているところです。
各プロダクトで、なぜどのような優先度で開発をしていくのか?を揃えて、プロダクト側でよりつくる価値をハンドリングできるようにするために、開発における共通言語を用意し始めています。
例えば、プロダクトのフェーズを意識した行動ができるように「CPF~PMF」の基準を置き、そこに基づいてやることやプロダクトロードマップを考えるようにしています。
他にも、プロダクト開発組織内だけでなく、セールス組織とも連携を強めるために、ステークホルダーごとにどのようなコミュニケーションを取るべきなのかをフロー図としてまとめています。
このような試行錯誤を経て、少しずつですが、開発組織とセールス組織との距離が縮まり、組織全体でユーザー情報を活かした事業推進が行えるようになってきています。
例えば最近では、営業の現場からデザイナーを求める声が生まれ始めています。
エンドユーザーの情報が整理されたことで、セールスからの提案が顧客にも刺さり始めている
顧客の先にいるエンドユーザーの理解度が高いため、デザイナーを巻き込む方がより良いフィードバックが得られる
といった感覚を、セールス組織のメンバーも感じてくれるようになりつつあります。
今のADWAYS DEEEは、セールス側とプロダクト側の距離が非常に近い状態になってきました。開発組織側のビジネス面の理解度もどんどん高まってきていて、ビジネス/PdM/エンジニア/デザイナーの職種を問わず、話す内容や言葉が揃ってきているのを感じます。
プロダクト開発組織とセールス組織の力関係も、均等になりつつあります。
セールス側から要望がきても、すぐ開発を始めるのではなく、対話やエンドユーザー向けのリサーチを挟み、ユーザーが求める広告体験をつくるための検証が起こるようになってきています。
そのような動きの中で、最近はまた組織体制を変更し、プロダクトマネージャーが開発組織に加わっています。また、PdM・エンジニア・デザイナーのそれぞれのシニアクラスのメンバーを集めて、「ProdOps」という開発組織全体の課題を解決するためのチームが組閣されるなど、進化を続けています。
(Prod Opsの活動については、こちらの記事に詳しくまとめています)
さらには、アドウェイズグループ全体の経営方針も変化しています。
2021年に、「アドウェイズが運営しているのは生活者としての事業」という、エンドユーザーを意識した経営をしていく方針が全社に対して明確に打ち出され始めました。
また、プロダクトの一つであるJANetのサービスビジョンとしても、『つくろう。「よかった」がめぐる世界を。』という理想が掲げられ、これが2023年に誕生したADWAYS DEEEのミッションとしても採用されています。
ビジネス中心の組織文化だった10年前と比べると、ユーザー視点が反映された組織へと大きく変化しており、経営からも後押ししてもらえている好循環ができています。
ADWAYS DEEEの開発組織にはデザイナーがいることで、ビジネス中心だった開発思考から、ユーザー価値も含めたバランス型思考に変わってきています。
他にもProdOpsをはじめとしたプロダクトマネジメントの体系化や戦略的改善も合わせて、いよいよ本格的により良いプロダクトづくりを行うための土壌が整ってきました。
biz/dev/userの三軸が本当の意味で手を繋ぐことで、広告のビジネスモデルや世界観を変えていけると信じています。
ここからのフェーズでは、さらに実践的な、事業を推進するための動き方が求められます。リサーチや体験設計、情報設計、エンジニアリング、ビジネス側との連携など、変数を扱いながら、『つくろう。「よかった」がめぐる世界を。』のビジョンに向けて挑戦を繰り返していきます。