フラーのデザイン組織には約30人が所属しており、同時並行で15以上もの案件が常に動いています。
扱うデザインの範囲は幅広く、プロダクトからクリエイティブまで一貫して取り組みます。かつ、クライアントとのコミュニケーションまで、デザイナーが担当しています。
例) 東急さまと共同開発している街づくりアプリ「common」の事例
そのように幅広い状況に置かれるフラーで必要とされるデザイン領域を、「4つの力」として定義しています。
デザインの幅が広く、案件によって異なるユーザーやビジネスモデルのプロダクト開発を扱うフラーだからこそ、4つの力という基準があることで、デザイナーが各々動きやすくなっています。
フラーデザイン組織で、4つの力を設定した背景には、2つの理由があります。
属人化を防ぐための言語化
人数が増えても品質がブレないように
これまでのフラーデザイン組織は、小規模精鋭の組織だったため、それぞれのデザイナーが各々で創っていく「属人化」の状態でした。
「フラーのデザイン」というものは存在しておらず、言語化もできていませんでした。
しかし、フラーはクライアントワークを生業としている企業です。「フラーに頼みたい」と思って依頼してくれたクライアントに対して、何を期待してもらっていて、何を提供するべきなのかを言語化しなければ、一貫したサービスを届けることができません。
そこで、フラーらしいデザインとは何か?を言語化することを始めました。
また、基準を言語化したのは、人数が増えても品質がブレないようにしていく目的もありました。
デザイン組織の人数が少ない時は、コミュニケーションやナレッジシェアを行うことで、品質のばらつきが起こらないようにできていました。
しかし、ここ最近でデザイン組織が拡大していく中で、コミュニケーションにも限界が生まれていきました。人数が増えても機能するような、「フラーらしいデザイン」に対する共通言語が必要となっていました。
そのような背景を踏まえ、フラーでは、「フラーらしいデザイン」を表す基準として、4つの力を定義しています。
フラーでは、これらの4つの力のどれか1つを伸ばすのではなく、すべてをまんべんなく身に付けていくことを重要視しています。
4つの力では、「何のために」デザインするのかを明確に示しています。
例えば、より細かく
ユーザーリサーチができる
美しいグラフィックがつくれる
ユーザー体験を理解した情報設計ができる
のように、具体的にスキルを洗い出して、スキル一覧表のように整理することももちろんできました。
しかし、前述したように、フラーのデザイナーは、UXリサーチャーやUI/UXデザイナー、グラフィックデザイナーなどを細分化せず、幅広く動く「デジタルプロダクトにおけるデザイナー」という役割を担っています。
だからこそ、フラーのデザイナーに求められるデザインスキルは、クライアントやユーザーのリサーチ・体験の設計・情報設計・UIデザイン・VI設計・グラフィックなどなど、とても幅広くなっています。
あえて「4つの力」をこのように抽象的な言葉にとどめているのは、非常に多くの場面が想定されるフラーでのデザイン範囲を俯瞰して捉えて、固めすぎずに、活用しやすいようにするためです。
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ここからは、「4つの力」の定義や、実践例をまとめていきます。
理解する力とは、プロジェクトの文脈を理解し、クライアントが何を大事にしていて、何をゴールにしていて、何が前提となっているのか?を整理する力です。
より具体的には、関わるプロジェクトにおける、ヒト(ユーザー)・ビジネス・技術を理解することと定義しています。
デジタルプロダクトにおいて、いくらいいユーザー体験で美しいグラフィックを描いたとしても、ビジネスが続かなければストアから落とさなければいけないですし、毎回アプリが落ちてしまえばユーザーはもちろんついてきてくれません。
ユーザーのことだけではなく、「アプリの市場への理解=ビジネスのこと」や「どのように実装されるのかの技術背景の理解=技術のこと」などもデザイン要件として捉えていくことがフラーでの「理解する力」と考えています。
理解する力の実践例として、以下のようなことに取り組んでいます。
- 現状のプロダクトの構造を図解する
- 課題と解決の方向をシンプルにまとめる
設計する力とは、プロダクトの方向性からユーザー体験、デザインデータに適切に落とし込んでいく力のことです。
設計する力は、具体的には以下の3つに分解して定義しています。
上流:プロダクトの方向性や、コンセプトの設計
中流:ユーザーのストーリーを描く
下流:チームデザイン・実装の観点も踏まえたデザインデータの設計
例えば、「うちれぴ」というサッポロホールディングスさまのアプリの案件では、以下のような流れで設計を進めていきました。
理解する中で、特に「毎日の献立を考えることが大変」だということが課題と整理
「がんばらないごはん作り」というコンセプトを設計
うちれぴにとっての「あたたかい」を細部まですり合わせ、目に見える形に落とし込む
ネーミング・ロゴ作成や、実装を考えた細かいデザインデータまで制作
表現する力とは、設計を踏まえつつ、ユーザーにサービスの世界観を適切に伝えるためのクリエイティブ面での品質を指しています。
例えば、以下のような部分にまでこだわっています。
グラフィック
イラスト
モーション
資料のデザイン
例えば、幅広い表現をおこなっている事例として、東急さまと共同で開発している街づくりアプリ「common」の販促設計があります。
キービジュアルの撮影、フライヤー、電車内広告、駅内広告など、幅広いクリエイティブを、プロダクトのコンセプトと合わせながら制作しています。
他にも、様々な社内外のプロジェクトにおいて、表現にこだわり、クリエイティブ一つひとつの細部までしっかりと世界観を作り込んだ制作をおこなっています。
伝える力とは、つくったアウトプットを、クライアントに対して適切に届け、合意をつくる力を指します。
例えば、フラーでは、ある1つのデザインを説明する過程を、「解釈」「言語化」「アウトプット」に分解して捉えています。
このように分解して伝えていき、一つひとつ合意をつくることで、例えばアウトプットがズレているのか、言語化した部分がズレているのか、など違和感が生まれているところを特定して、素早く改善することができます。
また、実際に伝える際には、具体的には、以下の3つの観点を重視しています。このような具体的な伝わりやすさについても必要な力として定義しています。
「4つの力」は、デザインの基準が必要な、さまざまな場面で活用されています。
目標設定と、振り返り
採用基準や、研修
デザインレビュー
4つの力は、目標設定や振り返りにも活用されています。
例えば、目標設定においては、4つの力を分解した項目を用意し、これらのどこを伸ばすのか?という目線でコミュニケーションを行っています。
4つの力の項目を、採用基準に活用したり、新卒向けの研修にも活用しています。
デザインレビューの際に、レビューする側・受ける側どちらにも「4つの力」という共通の基準があることが役立っています。
例えば、画面1つをレビューするにしても、そこで意識すべきなのがUI(見た目)の「表現」のところについてなのか、情報構造等の「設計」のところについてなのかを切り分けて考えるように伝えることができます。
また、クライアントへ提案するデザインについてのレビューでは「このUIをただ見せるのではなく、どういう考え方で設計し、なぜここに至ったのか?を伝えるといいね」など、伝え方についてもレビューを行うことができています。
レビューする人が異なる場合にも、感覚ではなく基準をもとにレビューを行うことにも繋がっています。
フラーで、デザインの考え方をどのように定義し、浸透しているのかについてまとめてみました。
4つの力があることで、メンバーとしても「こういう動き方をすれば良い」という基準が伝わり、動きやすくなっています。
デザイン組織に求められるデザインのスキルは、事業の形態や、所属するメンバー、規模などによって大きく異なっていきます。
そのため、デザイン組織の基準をつくるときは、自分たちに必要なスキルとは何なのか??をとことん考え抜き、オリジナルなものをつくる必要があるのではないかと思います。
今回の「4つの力」も、あくまでクライアントワークをしていて、プロダクトからグラフィックまで幅広く担うフラーのデザイン組織だからこその基準です。
「フラーらしい」デザインを、これからも追い求めながら、組織を拡大していきます。