DeNA ソリューション本部デザイン統括部でアートディレクター/デザイナーを務めている田中です。

デザイン統括部では、約3年前から世界観づくりに特化したチームとして「アートディレクショングループ」を立ち上げました。現在はリーダーの僕を含めて7名体制で活動しており、これまでさまざまな案件に携わってきました。

アートディレクショングループでの実績例

事業会社において、アートディレクションに特化したチームが存在していることは、まだ珍しいことかもしれません。

今回は、デザイン統括部においてアートディレクションというケイパビリティをどのように捉え、どのように活躍の幅を広げてきたのかをまとめたいと思います。

アートディレクショングループは、全社の横断部門として、事業部の広告・ブランディング領域のサポートを行っています。

主にプロジェクトのコンセプト作りから、VIデザインに関連するコミュニケーションを考え、案件に応じた最適なアートディレクションやアウトプットを提案することを役割としています。

例えば、ビジネスサイドが企画を構想し、僕たちアートディレクター・デザイナーが世界観をつくり、各媒体(ロゴ、グラフィック、Web、コピー、印刷物、動画、空間など)に落とし込んで案件に応じた最適な手法を選定・提案しています。

また、プロダクトデザイナーがUI/UXデザインを手がけ、社内エンジニアが実装を担ったり、外部パートナーの力をお借りして、制作物を拡張していくこともあります。

現在は7名体制のチームで活動しており、アートディレクションやビジュアルデザインを強みにしていくという意思に共感したメンバーが集まっています。

基本的には、個々がプロフェッショナルとして各案件を推進しており、事業横断で幅広い案件を手がける場合もあれば、特定の事業部を専任で担当する場合もあります。

アートディレクショングループのメンバー構成 (2025年11月時点)

アートディレクショングループ立ち上げのきっかけは、僕が「ビジュアルデザインに特化したチームをつくりたい」と声を上げたことに始まります。

事業やサービスのデザイン品質は、プロダクトを通した体験と視覚的なクオリティ、この両輪によって成り立つものだと考えています。特に、見る人の感情を動かせているかどうかといった感覚的な部分まで含めてデザインすることが重要だと思っていました。

しかし、当時のデザイン組織には、UI/UXデザインに強みや志向を持つメンバーは多く在籍していたものの、ビジュアルデザインに振り切って取り組む人は少数でした。

入社当初はUI/UXデザインを担当していましたが、どこかしっくりこない部分がありました。これまで培ってきた“世界観づくり”に全力を注ぎ、その領域で成果を出したい――そう強く思うようになったのが現在のキャリアにつながっています。

つまり、DeNAのサービス品質を視覚的な側面から高め、事業成長を後押しするために、アートディレクションを武器にしていきたいと考えたのです。

このような背景を、上長に相談したところ「ぜひチーム立ち上げをやってみよう」と背中を押してもらえました。

そこからすぐにスカウト活動を始め、自身の想いに共感してくれるスキルフルなメンバーが加わり、チームとしての体制が整っていきました。その結果、各事業や他部署から依頼が増え、取り組める案件の幅も広がっていきました。

ここからは、具体的なアートディレクションの動き方について、実際のプロジェクトを例に紹介します。

まず1つ目は、「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」についてです。

京急川崎駅の隣接地に「川崎ブレイブサンダース」の新たなホームアリーナを核とした複合エンターテインメント施設を建設するという大規模プロジェクトであり、プロジェクトスタート時からチームで携わらせていただいています。

最初の取り組みは、2023年3月に行われた記者会見での発表に向けたVIデザインです。

アジア最高峰のエンターテインメントが集まるワクワク感を、ビジュアルを通して伝えられるようにすることを目指し、川崎らしさ・エンタメらしさを研ぎ澄ませた世界観をつくり上げました。

結果として、プロジェクトを共に推進したいと考える企業から多数のお問い合わせをいただいたり、プロジェクトの内容や施設完成への期待の声が多数寄せられるなど、期待感やワクワク感を高める1つのきっかけにできたのではないかと思います。

さらに、このVIデザインを皮切りに、「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」から派生するイベントをはじめ、さまざまな取り組みに関わることになりました。

例えば、バスケットボール、ダンスを中心に、スケートボードやBMXなどのアーバンスポーツに挑戦できる施設「カワサキ文化公園」の開園に伴い、VIデザイン(ロゴ・グラフィック・Webサイト)を一新。

アーバンスポーツや多彩な表現を楽しむ個性豊かな若者たちが、自由に集い、新たな可能性が自然と育まれていく様子を表現しました。

他にも、盆踊りイベントの「川BON!祭」や、「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」建設予定地である自動車教習所跡地を活用した公園「Kawasaki Spark」など、さまざまなプロジェクトに携わってきました。

初期から川崎らしさを存分に表現した世界観をデザインすることで、プロジェクト全体への期待感やワクワク感の醸成に寄与できていると考えています。その積み重ねにより、各担当者の方々からも信頼をいただき、継続的にさまざまな依頼へとつながっています。

2025年1月12日に開催された、IRIAM初の大型リアルイベント 「ミライトパーティ2024 〜グランドフィナーレ〜」では、イベントブースなどの制作をアートディレクショングループで担当しました。

コロナ禍を経て初めて開催された大型リアルイベントであり、IRIAMの6周年を記念する節目に位置づけられていました。その中で、IRIAM事業部から相談を受け、プロジェクトに関わることになりました。

イベントコンセプトやキービジュアルなどは既に完成している状態から参画して、僕たちはイベントブース全体の設計から制作ディレクションまでを一貫して担当しました。

具体的には、ブースに配置する企画から入り、IRIAMの公式マスコットキャラクター「しらす」をモチーフにしたバルーン装飾、各種グラフィックパネルやスクリーンに映し出す動画など、必要な制作物の洗い出しを実施。限られた予算の中で品質を最大化できるよう、外部パートナーの選定・発注・ディレクションを担当しました。

IRIAM事業部の方に信頼して色々を任せていただけたことも大きな要因ですが、自ら手を動かして制作するだけでなく、企画・外部パートナーの巻き込み・制作ディレクションを、柔軟に対応できる点もグループとしての強みだなと思っています。

DeNA DESIGN サマーインターンシップのキービジュアル制作は、2023年からアートディレクショングループの若手デザイナーが担当しています。

サマーインターン自体は2022年以前から実施されていましたが、人事から「インターンシップをもう一段引き上げ、“DeNAにこのインターンあり” “デザイナーを目指すならこのインターンに参加すべき”と想起される象徴的なイベントに育てたい」という相談を受けたことがきっかけでした。

DeNAのデザイナーインターンは、内容・ボリュームともに非常に充実している分、参加のハードルが高いと感じる方もいます。そこで、参加を迷う人にも「思い切って飛び込んでほしい」「デザインに深く向き合い、成長してほしい」という思いを込め、コンセプトに「DIVE」を掲げ、コピーとビジュアルを並行して検討していきました。

ビジュアル面では、ブランディングの観点から他のイベントに埋もれないインパクトを重視し、さまざまな手法や表現を模索しました。最終的には、直感的でシンプルでありながら、感情を揺さぶる力強さを持つ「ペイント」を採用しています。

3年間のキービジュアルの変化
アクリル絵の具で波のテクスチャーを作成している様子(2025年のもの)

キービジュアルを活用したノベルティも毎年制作しており、参加者がSNSで写真とともに感想を投稿してくれています。「DeNAのインターンといえばこれ」という姿に近づいている、その貢献ができていると感じられました。

キービジュアルを活用したノベルティ(2025年、2024年のもの)

DeNAの統合報告書のデザインも、アートディレクショングループで担当しています。2022年にDeNA初となる統合報告書の企画が進む中で、デザインに関する相談を受けたのがきっかけです。

統合報告書は、株主をはじめとした多様なステークホルダーに向けて、創業から現在、今後の価値創造や成長戦略を伝える重要なコミュニケーションツールです。

制作にあたって当時重要視されていたのは、多岐にわたる事業を展開する中で、あらためて「DeNAとはどういう会社なのか」を印象的に伝えることでした。

そのため、DeNAらしいユニークな世界観をビジュアルで表現し、見た目のインパクトと情報のわかりやすさを両立するデザインを目指しました。

公開後には、デザインに対しても多くのポジティブな評価をいただくことができました。

これまで制作した統合報告書

統合報告書の制作を通じて、コーポレートブランドにおけるクリエイティブの基準を示すことができたと思います。また、社内でも「DeNAらしさは、こういう雰囲気だよね」といった声が生まれ、DeNAらしさへの共通認識を醸成するきっかけにもなったと感じています。

2022年以降も引き続きアートディレクショングループでデザインを担当し、年度ごとに内容や見せ方をアップデートしながら、DeNAらしい表現を磨き続けています。

DeNA 統合報告書 2025 : https://asset.dena.com/files/jp/ir/pdf/report/00_2025_v2.pdf

上記の他にも、アートディレクショングループではさまざまな案件に携わってきました。

ひとつひとつの案件で企画の目的に合わせてできる限りのクオリティを追求してきたことで、徐々に信頼を獲得し、アートディレクショングループに寄せられる相談も確実に増えてきています。

一方、AI技術の向上で“デザイナーがデザインしない”シーンを垣間見るようになってきました。 こうした状況において、視覚品質の価値は、言語化しづらい側面もあります。しかし、さまざまなサービスやモノが溢れる時代において、興味を持ってもらい、さらに深く長い愛着を抱いてもらうためには欠かせない要素です。

「ワクワクする」「かっこいい」「楽しい」といった言葉にしづらい感情的な部分も含めてデザインしたアウトプットを積み重ねることで、複利のように効いてくる力になると考えています。これこそが、AIにはできないデザインの領域だと考えています。

また、クオリティの基準値を高め続けていくことで、メンバー自身の「もっと高い水準を目指したい」というモチベーションにもつながり、良いものづくりのための好循環も生まれています。

当初は1名から始まったチームが、約3年で7名体制まで拡大したことも大きな変化と言えます。

尖ったクオリティを突き詰めてきたことで、ありがたいことに「あのビジュアルを、事業会社の中でつくっているチーム」とポジティブに評価されることも多く、タイプは違えど目指す方向性が一致し、それぞれに強みを持った良いメンバーが集まってくれました。

新卒や第二新卒で入社した若手メンバーが着実に成長し、活躍していることも特徴です。

アートディレクショングループのメンバーに、チームの良さやこれから目指したいことを聞いてみました

「世界観づくりに特化したチームを立ち上げたい」と声を上げたところから始まり、プロジェクトやメンバーにも恵まれ、活躍の幅が広がっていることは本当にありがたいことだと思っています。

とはいえ、あらゆる組織で転用できる事例ではないのかもしれません。DeNAだから実現できた部分もあると思います。

例えば、事業の数やフェーズが多様で、アートディレクションが必要な場面も多いこと。デザイン組織が一定成熟し、尖ったケイパビリティへの注力もしやすい状況であったこと。そして、このチームにコミットしたいというメンバーが集まってくれたことなど、複数の要素が絡み合って生まれた状況だと思います。

熱量を持ち、心に訴えかけるものを、楽しみながらアウトプットすること。尖ったアウトプットはときに多方面から意見を受けますが、それでも「良い」と信じたものはブレず形にし、ユーザーにとって意味のあるものにする。その結果を通して証明していくことが大切だと考えています。

今後はさらに活動の場を広げ、社内外問わず一緒にものづくりを行なっていただけるパートナーやクリエイターを探し、拡充していきたいと考えています。

このような考え方、取り組み方に共感する方がいらっしゃれば、ぜひ気軽にお話できると嬉しいです!

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