ログラスのデザイン組織は、2021年10月に私が1人目のデザイナー社員として入社したのち、1年間で7名体制に。さらに、次の1年間で新たに6名のデザイナーが入社し、パートナーを含めると16名の規模に成長しています。

さらに、1年以内に20名規模のデザイン組織へと拡大していこうと計画しています。

ログラスが、ここまでデザイン組織に対して投資する意思決定ができるのは、事業や組織に対して、初期から小さく貢献を積み重ね、信頼を積み上げていったことが影響しています。

今回は、ログラスのようなBtoBスタートアップにおいて、事業のフェーズに合わせてどのようにデザイナーが立ち回ったのか紹介します。

前述したように、ログラスでは2021年10月に1人目のデザイナー社員として私が入社しました。そこから順調に組織成長を重ね、今では16名のデザイン組織に成長しています。

役割としても、Loglassのプロダクト開発におけるユーザー体験・UI設計・新規事業のリード、そして展示会・TVCMなどをはじめとしたマーケティング&ブランド施策など幅広くなっています。

また多くのお客様からLoglassの購入理由として、プロダクトの使いやすさやシンプルさなどがあげられています。

2023年春のNPS調査では、海外競合サービスが-29〜-3ptのマイナス評価をつける中で、6.4ptとプラス評価を頂きました。そのアンケートのなかでも半数以上のお客様がプロダクトがシンプルである点が購買の意思決定要素となったと回答頂き、デザインが事業成長へ大きく貢献できています。

ログラスの、お客さまからの導入理由。体験やユーザビリティなど、デザインが導入における優位性になっている

大前提として、事業が伸びていることが何よりも重要です。

その中でログラスがここまでデザインに投資していけるようになったのは

  • 初期から事業成果や事業貢献にデザイナー自身がこだわってきたこと

  • 成長していく事業フェーズに合わせて、自律的に役割や体制を変え続け、常に事業成果が出るところに向き合ってきたこと

が大きく影響しています。

「デザインを理解すること」は、デザイナーにとっても難しいことです。ましてやデザイナー以外のCEOやエンジニアにとってはさらに大変で難しく、多くの場合デザインで何ができるのかわからない状態から始まります。

だからこそ「正しいところにデザインを投資すれば事業成果につながる」という経験をもってもらうことが重要で、そのためにデザイナー自身が事業成果にこだわってきました。結果としてデザインに投資し続けられる状況を作ってこれたのかなと感じています。

ここからは、より具体的に、立ち上げから、グロース段階へと事業が成長する中で、どのようにデザイナーが立ち回ったのか?をまとめてみます。

ログラスにおける、事業フェーズごとのデザイナーの役割のイメージ

スタートアップにおいて、0→1の事業立ち上げフェーズは、市場の状況や選択のミスで会社そのものが無くなってしまう...…そんな生死を分けるフェーズです。きれいごとを言っている暇はありません。

ログラスでも、このような事業立ち上げフェーズがありました。具体的には以下のような状況です。

  • 事業

    • プロダクトは既にリリースされているものの、コアな体験に必要な最低限の機能のみ

    • 顧客にプロトタイプを当てに行く試行錯誤の連続によって、さらに課題を解決し、PMFをつくっていく必要がある

  • 組織

    • CEOがセールスとPO&PdMを兼任している状態

    • 専任のPdMはおらず、デザイナー/エンジニア/CSのみで運営されている

    • 職種を越境することは当たり前

    • 初期はCEOがPdMの役割を担っていたが、次第にデザイナーやエンジニアが担うことも増えていく

  • こういった事業の生死を分ける立ち上げフェーズでは、セールス・ユーザーヒアリング・開発の境界が良くも悪くも曖昧になっており、「セールス中に新機能の壁打ちやヒアリングを行い、新機能による受注をきっかけに開発が発生する」といった通常の開発ではNGとされるようなアプローチでも採用されることがあります。

  • ※現状のログラスではこの開発手法を積極的に採用しておらず、あくまでも事業の立ち上げフェーズに適応させたプロセスです

    一方で、デザイナーにとっては、デザイン1つで受注に大きく貢献することが出来るフェーズでもあります。

    ログラスでも、検討中の新機能のプロトタイプ動画を顧客に見てもらったところ、その動画一つで新規受注を獲得するに至ったケースがあります。このように、プロトタイプの質が直接的に受注に影響を与えます。

    立ち上げ段階の状況について

    スタートアップの立ち上げ期には、資金的にも人的にもさまざまな制約があります。そうした中でも事業を前に進めていくためには、プロトタイプを戦略的に活用することが極めて重要です。なぜならば、プロトタイプのクオリティが、新規受注の獲得や新機能の開発に大きな影響を与えるからです。

    営業の場面では、既存製品に加えて開発検討している新機能をアピールする必要があります。高品質のプロトタイプがあれば、擬似的な体験を顧客に提供することが可能になります。そうすれば、数ヶ月もの開発期間を待つことなく、短期間で顧客ニーズを把握し、適切なフィードバックを得て、受注につなげられます。

    さらに、プロトタイプの種類を「最小機能のMVP」から「理想の製品の姿」に至るまで幅広く用意しておけば、チーム内での目線合わせにも有効です。現実的に開発しやすいラインから理想形まで分かることで、プロダクトの成長イメージをつかめたり、理想形からMVPにバックキャスティングすることもできます。

    また、プロトタイプをユースケースに沿って動画で共有すれば、チーム内でも齟齬なく理解を深められ、議論しなくても方向性が見えてくるため、時間効率化につながります。

    事業立ち上げフェーズで一番怖いのは、時間をかけて作ったものが使われないことです。プロトタイプであらかじめ使われない可能性を潰し、間違った選択の開発期間(3ヶ月6ヶ月1年単位)の無駄を省くことが極めて重要です。

    制約の多い立ち上げ期だからこそ、クオリティの高いプロトタイプを戦略的に作り上げ「受注への貢献」と「無駄な開発コストの削減」で事業に貢献していきました。

    成長フェーズに入ると、組織の規模も次第に大きくなります。

    ログラスも、全社で20人程度の社員数となりました。この段階でもデザイナーは1人でしたが、プロダクトマネージャーなどの専任の職種も入社してきて職種の役割分担が少しずつ明確になります。(ただ、依然として職種を越えた動きも残っています)

    プロダクトは新機能がどんどん増えていき便利になる一方で、プロダクト全体で見ると複雑で、理解するのが難しくなってきます。さらにプロダクトの設計も複雑になることで開発負債が蓄積され、開発効率が悪くなってくるのを実感していました。

    つまり、これまでの足し算の開発スタイルの中に引き算を入れていく必要性があります。ここでデザイナーとして担った役割は「複雑化するプロダクト体験の再構築をリードする」ことでした。

    事業が成長してきたフェーズで、PMFのために増やしてきた機能を、一度再整理してシンプルな体験へとまとめ直す役割を担った

    お客様から日々上がってくる要望のほとんどは、既存機能の改修がメインです。これを一つ一つ叶えていっても、日々の業務が革新的に変化するところまで価値を届けることはできません。

    なので、プロダクトの体験を再構築するにあたって、顧客の要望からは出てこない、これまで解決できると思っていなかったインサイトを見つけだし、理想のユーザー体験をイメージする必要がありました。

    このようなフェーズで、デザイナー主導のプロトタイプから生まれたのが、Loglass内に蓄積されたデータアセットを自由なフォーマットで集計・分析することができる「レポート機能」です。

    それまでLoglass上で自由に経営情報を分析することは行いづらく、〇〇分析といったタスクベースUIによる分析方法が主流でした。それを、シンプルに、かつこれまでの経営管理の分析フォーマット以上に使いやすく、自在に分析できる機能です。

    Loglass内に統合されたデータアセットに対し集計・分析が行える「レポート機能」
    新しい分析体験をLoglassとして提供できるようになり、プロダクトとしてのバリューアップにも繋がった

    結果として、プロダクトをシンプルに保つことができただけでなく、業界的にも新しい経営情報の分析体験を提供できるようになり、一気にプロダクトの価値を高めることができました。

    この取り組みは短期間でできるものではなく、時間のかかるので腹をくくる必要があります。しかし、それによってプロダクト体験レベルが1段2段と飛躍し、プロダクトの売り方や使われ方までも変えることができました。

    その後もログラスは成長を続けます。プロダクトがどんどん売れている状況で、顧客が求めることや、何をつくれば体験がよくなるか分かってきたことで、機能開発の不確実さは徐々に下がっていきます。この頃、新規プロダクトの開発にも着手しました。

    組織全体の人数は、この頃には60名を超えました。デザイナーは5名、業務委託を含めると10名となり、PdMも3〜5名と拡大しています。開発組織は複数チームに分かれて大型の機能開発が複数ライン走り、各チームに専任のPdM、デザイナー、エンジニア(複数名)がいる状態となります。

    そんな状況で課題は、次のステップに進んでいきます。

    • 役割の明確化の課題

      • 専任のPdMが入社し、デザイナーはどのような役割に専門性を持つべきか絞り込んでいく必要があった

    • 生産性の課題

      • 機能としての不確実性が下がる一方で、パフォーマンス面の課題などが顕在化、開発をより効率にすることが重要に

      • 開発に関わる人数も増えていき、プロダクトのラインナップを増やす動きも始まる中で、共通認識をつくるためにデザインの基盤を整える必要

    デザイナーの役割は次第に企画から最適な体験に落とし込み議論を進める「課題解決のスペシャリスト」として存在意義を示していきました。

    組織拡大にともなって、プロダクトマネージャーやマーケ、デザイナーなど専門性が高い役職の人が入社。デザイナーも専門性を生かせる役割に特化して「課題解決のスペシャリスト」として振る舞う

    事業立ち上げフェーズでは、誰が企画し、設計し、実装し、売るのか、という役割分担は正直そこまで重要ではなく、むしろ全員が事業を伸ばすために役割を意識せず動けることが大事だと思います。

    一方で、何をつくるかが明確になってくる拡大フェーズでは、開発全体の生産性を高めることが重要になります。

    ログラスでは、プロダクトマネージャーやマーケなど、企画部分を担える経験豊富な方も増えていく中で、デザイナーがより専門性を発揮できる役割に特化し「課題解決のスペシャリスト」として振る舞うことになっていきました。

    企画側の職種と、デザイナーの関係性について
    「なぜ/何をつくるか」に責任を持つ企画側と、「何を/どうつくるか」に責任を持つデザイナー、と整理

    お客様と直接やり取りをした上で、ビジネス側の目的をもとに機能/施策案を持ってくるのはプロダクトマネージャーや、マーケターなどの企画職。それに対して、デザイナーは、目的に対して最大の効果を出すために、解決策のプロとして責任を持つよう役割分担しています。

    BtoB SaaSによくある構造ですが、Loglassでも契約している法人ごとに、多くの要望が寄せられます。

    これを放置しておくと、企画側からどんどんやるべきことが積み上がり、プロダクトとしては機能が盛りだくさんの使いづらいものになってしまいます。

    元々シンプルで使いやすいとお客様から受け入れられていたLoglassにとって、機能が増えることでプロダクト全体の体験が複雑になっていくことは、長期的には解約率の増加や、ブランドの毀損に繋がるため、避ける必要があります。

    Loglassでは会社規模の大きいお客様が多く、1社1社の要望に引っ張られてしまいがち
    しかし、要望をどれも叶える複雑なプロダクトにしてしまうと、Loglassの競合優位性が失われてしまう

    デザイナーとしては、多くの要望を整理して、プロダクトのシンプルな体験を守っていくことが求められています。

    そこで行っているのが、マルチプロダクト化や組織のスケールにも効率的に対応できる、デザインシステムの開発です。

    単にデザインシステムをつくるだけでなく、お客様からの要望を眺めながら、効率化と事業課題解決の両方を意識した費用対効果の高い改善を優先するようにしています。

    ログラスでは初期から毎日お客様の要望・声をデータベースに蓄積しており、すぐにインデックスすることができます。これも日々お客様と丁寧にコミュニケーションしてくれるカスタマーサクセス、セールスのメンバーが丁寧に記載し続けてくれるおかげで成せることだったりします。

    負債要望を貯めたDBを眺めつつ、作成予定のコンポーネントの中で、特に費用対効果が高いものを優先して改善している (参考: https://www.wantedly.com/companies/loglass/post_articles/462940 )

    このような土台の上で、よりシンプルに要望を解決できる機能/UI案をプロトタイプとして作成し、プロダクトを改善していくような動きを行っています。

    結果として、新規事業の立ち上げ検証が早くできるようになりました。また、組織のスケールにも対応しつつ、高速で機能リリースを支えられる基盤をつくれています。

    スタートアップの特性上、全社で共通目標に取り組んだり、フォーカスすべき課題が急激に変化することがあります。当社も例外ではなく、ビジネス指標の急速な改善が求められる局面に直面しました。

    このような状況下では、デザイナーを含む全社的な取り組みが不可欠です。とくにデザイナーが短期的にビジネスインパクトを創出できるマーケティングのデザインの部分では以下の課題が顕在化していました。

    1. マーケティング部門の過負荷

        • 課題の探索・分析から修正方針まで、マーケティング側の業務が膨大になり、施策数が十分に積めない
    2. デザイナーリソースの非効率的な活用

        • 確保したデザイナーのリソースが十分に活用されていない
    3. 長い依頼待ち時間

        • マーケティング部門からの依頼を待つ時間が長期化し、迅速な対応が困難
    4. デザイナーの受動的姿勢

        • プロジェクトの初期段階から関与できないことで、デザイナーが受け身になりがち

    これらの課題を解決するため、私たちは大胆な体制変更を実施しました。マーケティング部門だけでなく、デザイナーも主体的にマーケティングの一員として機能し、企画から推進まで自律的に関与できるような協働モデルを構築しました。

    具体的には、マーケティング部門は戦略的な課題定義と優先順位付けに注力し、デザイナーはそれらの情報をもとに積極的に施策を企画・提案・実行する体制へと移行しました。特に情報設計や改善方針の立案をデザイナー側に寄せていった感じです。

    ビジネス的な数値を一気に高める必要があるイレギュラーな場面では「マーケ企画まで入りこみ施策を回し続ける」ことを役割とすることも

    この変革により、以下の顕著な成果が得られました。

    1. 施策数の大幅増加

        • 開発体制が効率化したことにより施策数が改善前の約2倍の量をリリースできるように
    2. 実行サイクルの劇的な短縮

        • 施策の依頼からリリースまでの期間が、改善前は8.8日だったところから、改善後は3.1日へと半減
    3. 効果的なリソース活用

        • デザイナーのスキルと創造性を最大限に活用することで、マーケティング部門の負担を軽減しつつ、組織全体の生産性が向上
    4. 質の向上

        • デザイナー主導でのLPリニューアルにより有効商談率が大幅に向上し、マーケティング部で目標設定していた月間の有効商談数目標の達成に大きく貢献
    5. コスト効率の改善

        • 有効的な新規商談の獲得コストを約半額まで削減することでROIの改善に成功
    LoglassのLPをデザイナー主導でリニューアル、有効商談率が大きく高まり、月の有効商談数の目標達成に繋がっている

    この新たなアプローチにより、デザイナーはプロジェクトの初期段階から関与し、より戦略的な視点で業務に取り組めるようになりました。同時に、マーケティング部門は本来の戦略立案に集中できるようになり、組織全体としての機動性と効率性が大幅に向上しました。

    スタートアップの成長には、このような機動的な組織運営と、全員がビジネス目標に向けて主体的に貢献できる体制の構築が不可欠だと感じています。

    今のビジネス環境において、デザイナーの役割は単なる美的要素の創造を超え、組織の戦略的成長の中核を担うまでに進化しています。プロダクトオーナー、企画者、経営者は大局的なビジョンを持っていても、その実現に向けた最適な解決策を常に解像度高く把握しているわけではありません。ここにこそ、デザイナーが真価を発揮する機会があると感じています。

    デザイナーに求められるのは、トップダウンの指示を待つのではなく、組織の目標を深く理解した上で、少し先の理想を描き、それに向けて主体的に行動を起こすことだと感じています。その中で大きく以下の3つが重要だと感じています。

    1. 理想の可視化:データの仕様や既存体験の枠組みにとらわれない、ユーザーが本当に求めてる体験の提案

    2. 意思決定の推進:具体的なプロトタイプ・モックデザインによる意思決定プロセスの短縮と素早く開発が行えること

    3. 他部署と積極的に関わる:課題や成果に繋がるところを探しデザイナー意外の職種とのコラボレーションを重視する

    デザインの価値は、小さな成功の積み重ねによって証明されると感じています。特にデザインについて理解が深くない非デザイナーの方にとってはデザインが事業に貢献する体験を感じてもらうのが大切だと感じています。ログラスでは、以下のアプローチにより、デザインへの信頼を初期の頃から少しづつ構築してきました。

    1. 早期段階からの関与:プロジェクトや組織の立ち上げ段階から積極的に参画すること

    2. 期待以上の成果:最初に要求された以上の価値を追加で提案すること

    3. 柔軟な対応:デザイン・デザイナーという役割に止まるのではなく、目標や成果に対して寄与し続けること

    この取り組みにより、組織からの期待が高まり、それに応えることでさらなる期待を生む好循環が生まれていきます。


    近年、デザインという領域の重要性が上がってきていますが、一方で会社や組織内においてはデザイナーの人数はどちらかといえば少数で(特殊な職種と思われていて)、デザインが事業にどう貢献できるのか?という認知はまだまだギャップや伸び代があると思っています。

    まずはデザイナー以外の方々にも分かりやすく、「正しいところにデザインを投資すれば事業成果につながる」という感覚を持ってもらうことが重要です。それがうまく噛み合ってくると、デザインにより大きく投資できる環境を作っていけると感じております。

    このデザイン組織をもっと知る