GMOメディアのサービスデザイン部に所属するデザイナーは、各事業部に入り込み、プロダクトの体験設計、UI、販促物のデザインなど、事業に必要なことを幅広く役割として担っています。
私は、2019年に立ち上げを開始した新規事業『コエテコカレッジ byGMO』という、誰でも簡単にオンライン講座を作成・販売できるサービスに、デザイナーとして関わっています。
新規事業として、ユーザーの解像度を高めつつ、競合サービスとは異なる体験をつくっていくために、リサーチに力を入れてきました。今回は、その試行錯誤をまとめていきたいと思います。
今回テーマとするのは、2019年に立ち上げを開始した新規事業『コエテコカレッジ byGMO』です。
立ち上げの最初期には、プロダクトマネージャーが1人でα版としてニーズの検証を進めていました。
いよいよプロダクトとして開発を始めてみようというβ版の検証タイミングで、デザイナーとして私と、エンジニアのメンバーが1名加わりました。
そこから、1年ほどのβ版検証期間を経て、2021年にリリース。今ではさらに事業領域を拡張しています。
新規事業として開発を進めていく段階では、いくつかの問題が生まれていました。
『コエテコカレッジ byGMO』は、社会人向け×オンライン での学び直しサービスです。さまざまな領域で講師がオンライン講座を販売・開催することができ、集客から決済までをサポートしています。
検証を重ねる中でこのようなサービスの形に辿り着いていますが、2019年の立ち上げ当初は
そもそも講師はどのようなことを求めているのか
既存のオンライン講座配信サービスに何を不満として感じているのか
などがまだ分かっておらず、サービスとして提供すべき体験の方向を決めづらい状況でした。
『コエテコカレッジ byGMO』は新規事業であり、過去にGMOメディアとしても同じようなターゲットにサービスを提供したこともなかったため、丁寧にターゲットの理解を進めることが必要でした。
さらに、『コエテコカレッジ byGMO』がサービスを提供する「オンライン学習」という領域は、国内外にすでに多くのサービスが存在している領域でした。
そのため、『コエテコカレッジ byGMO』が選ばれるための、他サービスとは異なる独自の価値をつくりあげる必要がありました。
また、一回商品を購入すれば体験が終わるECのような領域とは違い、オンライン学習の領域では必要な体験が多く、サービスも複雑になりやすい性質があります。
なので、一つひとつの体験をシンプルにし、ユーザーにとっての使い勝手なども丁寧に確認していく必要がありました。
分からないことが無数にある中で、特に意識したのは、闇雲に走り出すのではなく、事業課題に応じてリサーチを活用することです。
私は、事業フェーズに応じて、適切なリサーチの手法や、出すべきアウトプットがあると考えています。
ここからは、『コエテコカレッジ byGMO』における3つの事業状況に対して、どのようにリサーチを活用し、どうアウトプットして事業を前に進めてきたのかをまとめます。
まずはじめに行ったのは、サービスとして強める体験を決めるためのリサーチです。
前述したように、サービス立ち上げ時点では、ターゲットとなるユーザーの解像度が低く、競合となる他サービスも多い中で、『コエテコカレッジ byGMO』としてどの体験を強めればいいのか判断がついていない状態でした。
ここでは、現役の講師に業務の流れをヒアリングし、体験の流れを整理するリサーチを行いました。
そもそも講師はどのような業務フローで動いていて、どこに課題を感じているのかを把握するために、8名の現役講師の方に対してヒアリングを行なっています。
例えば、以下のように、セミナーに関わる体験全体の流れがわかるような項目を確認しています。
どうやって講師になったのか
オンラインセミナーの実施状況 (ex. 頻度 / 金額 / 時間 / 集客人数)
セミナーの実施内容
セミナー開催時の問題点
集客方法
決済方法
ヒアリングの結果、「講師の業務の流れ」「既存サービスで満たせている体験 / 満たせていない体験」が分かってきたため、整理のためにフロー図としてまとめていきます。
最終的に、ユーザーの声をもとに、『コエテコカレッジ byGMO』で優先的につくるべき体験と、初期は注力すべきではない体験を切り分けることができました。
また、ターゲットの業務に対する課題や、理想としている状態が解像度高くわかってきたことで、『コエテコカレッジ byGMO』としてのビジョンやミッションも決めることができました。
つくるべき体験の方向性が見えてきた上で、次に取り組んだのは「プロダクトとしての品質を高める」ためのリサーチでした。
この時は、サービスローンチに向けて開発に入っていく前段階でした。
ただ、プロダクトがリリースできるクオリティになっているのか、本当に体験に対して漏れなく情報を設計できているのか、というところが明確になっていないことが問題になっていました。
そこで、体験に対する機能の抜け漏れや品質を確かめるために、受講者へのユーザーテストを行うこととしました。
具体的には、社内のメンバーに受講者になりきってもらい、Figmaで用意したプロトタイプを触ってもらう形でテストしました。
さらに、全社員をテストユーザーとして、プロダクトの使い勝手に対して、徹底的にダメ出しをしてもらう時間を取らせてもらいました。
「コエテコカレッジの重箱の隅をつつくシート」というスプレッドシートを用意し、全社員に同時にプロトタイプを触ってもらいながら、使い勝手として気になったことを細かいところまで記入してもらいます。
その後、ユーザーテストの結果で出てきた課題点を、以下のような3段階にわけて、A, Bと付けたものから優先的に解決していきました。
A... 想定していた動きをしていない
B... 使ってもらう上で必要な部分 / 無いと快適には使えない
C~D... あったらいい (ここはリリース段階では注力しない)
このようなリサーチを経て、2021年にプロダクトはリリースに至りました。これらの改善の前後で、ユーザーに対して「機能をスムーズに使えたか?」というレビューをもらっていましたが、数値は大きく改善しています。
修正前:82% → 修正後:92%
現在も、講座受講後のレビューにてシステム評価を継続し、満足度の計測とプロダクト改善を繰り返しています。
リリース後、事業が軌道に乗ってきたタイミングで、「大規模スクール向けの機能拡張」のためのリサーチに取り組みました。
これまで『コエテコカレッジ byGMO』では、個人の講師と、個人の受講者にサービスを提供していましたが、さらにビジネスモデル的に拡張していく方向性を模索しはじめていました。その一環として、大規模スクール向けの機能提供を検証することとなりました。
すでに講師・スクールの方から、問い合わせ経由でいくつも要望をいただいていたものの、今のプロダクトの体験を棄損せずに、かつ、受講者からも求められるような新機能であるかを考える必要がありました。
そこで、新しく追加しようと思っている法人向け機能の優先度をつけるために、以下のようなリサーチを行いました。
受講者の属性や傾向を掴むためのアンケート
受講者へのユーザーインタビュー
講師へのプロトタイプテスト
リサーチの結果として、『コエテコカレッジ byGMO』を使用する受講者のペルソナを策定しました。
実際のユーザーの属性情報をペルソナとしてまとめたことで、どのような機能をどの順序でつくる必要があるのか確信を深めることができました。
さらに、「このようなユーザーがいる」と講師の方に対しても解像度高く説明できるようになることで、企業獲得を行いやすくなるような狙いを持っています。
ペルソナを踏まえつつ、法人からいただいていた要望の中でも、新機能として追加する機能を選定しリリース順序を決めていきました。
大規模スクール獲得の目的に沿って、プラン一覧のような形でアウトプットしています。
結果として、大規模スクールとの提携が進み、ビジネスモデルを拡張することができました。
ここまでまとめたように、『コエテコカレッジ byGMO』では、事業課題に合わせてリサーチをうまく活用したことで、一つひとつ事業のフェーズを進めていくことができています。
さらに、プロダクト立ち上げ初期からリサーチに力をかけてきたことで、いくつもメリットを感じられています。
プロダクトをリリースする前から密にリサーチを行なっていたことで、今では講師からも相談をもらえるようになっている
デザイナー以外もユーザー情報をもとに機能案を考えられるように
今回のようなリサーチの取り組みが、新規事業立ち上げにどのように役立ったのか、『コエテコカレッジ byGMO』の事業オーナーにも感想をもらいました。
単にユーザーの声を聞く、というだけでなく、事業状況や課題に合わせて、リサーチの手法やアウトプットを選ぶことが「事業に資するリサーチ」につながります。
『コエテコカレッジ byGMO』のようにリサーチをうまく事業に活用できた事例を、GMOメディア全体に広げていけるように、今後もサービスデザイン部から推進していきます。