MIXI デザイン本部 動画クリエイティブ室 室長の越智です。

MIXIでは、2023年から全社でAI活用を積極的に推進しています。デザイン本部でも、クリエイティブの品質向上やメンバーのスキル強化、制作効率の改善に活用。事業をさらに前進させられるよう、実務レベルでの挑戦を続けています。

その過程で取り組んできたのが、デザイン業務の中でAIを活用しやすくするための「ガイドライン」のアップデートです。

当初は社内検証を目的とした内容でしたが、そこから実務レベルでAIを活かすための内容へとアップデートしてきました。今回はその狙いやプロセス、実際に生まれた変化についてまとめたいと思います。

2024年1月、MIXIでは「画像生成AIガイドライン Ver1.0」を策定しました。

このガイドラインは、著作権侵害などのリスクを十分に考慮しつつ、画像生成AIをデザイン業務のどんな場面で活用できるかを、社内で検証しやすい環境をつくることを目的としたものです。

策定後、デザイン本部内では、AIを用いたイラストや動画素材の生成・企画案の可視化など、さまざまな活用方法を検証。そこから得た学びを組織全体でシェアし合うことで、検証サイクルを回してきました。

ガイドライン Ver1.0 の策定から約1年。デザイン本部内でのAI活用の検証が着実に進み、活用事例やノウハウが社内記事やイベントを通じて積極的に共有・蓄積されていきました。

その一方で、実務レベルでAIを活かすための余地を感じ始めました。メンバーの声を集めながら整理する中で、次の2点をクリアする必要があると考えました。 ① 現場でよく使うツールの中でAIを使えるようにする Ver1.0では、画像生成に使えるのはAdobe FireflyとDALL·E 3に限定していました。しかし、実際に現場でよく使われるのはPhotoshopなどのAdobe製品であり、その中のAI機能を使えるようにした方が、活用が進みやすく、生産性・クオリティの向上も期待できると感じていました。

② 社外向けの制作物にAIを使えるようにする Ver1.0 は「社内検証」が目的だったため、生成物の公開範囲は社内に限定していました。しかし、AIを事業推進の武器として活かすには、社外向けの制作物にもAIを使えるようにすることが必要でした。

これらの背景を踏まえ、実務レベルでAIを活かせるようにするという次のステップに進むために、ガイドラインをアップデートする必要があると考えました。

とはいえ、僕自身、全社レベルのガイドライン設計に携わるのは初めてでした。どう進めるのが適切かも分からない状態でしたが、社内のさまざまなメンバーに助けてもらいつつ、手探りで進めていきました。

画像生成AIといっても、さまざまなツールがあります。その中でも、まずはAdobe製品を対象に新たなガイドラインの設計を進めることにしました。

  • 現場での利用頻度が特に高いAdobe製品のAI機能を、社外向けの制作物でも使えるようにすることが、現場目線で優先度が高いと考えたこと

  • 対象ツールを絞ることで、ガイドラインの設計や運用をスムーズに進められると考えたこと

などが主な理由です。

まずはAdobe製品向けのガイドラインを試験運用し、その後、対象ツールや領域(動画・サウンドなど)を拡張した正式版ガイドラインとして全社展開する流れを想定していました。

ガイドライン設計においては、社外向け利用を可能にする際のリスクを想定する必要があります。

そこで、知財法務のメンバーに適宜アドバイスをもらいつつ、攻めと守りのバランスが取れた着地点を探っていきました。その中で、特にポイントとなった考え方は以下です。

① 生成AIを利用する際の入力・出力ルールを明確に定める 入力ルールは、AIに与える情報に関するものであり、自社権利物ではない素材の入力をしないこと、自社で定めたセキュリティラベルに応じて入力内容を制限することなどの基準を設定しました。 出力ルールは、AIによる生成物を社外公開する際の基準に関するものです。例えば、キャラクターデザインなど会社として著作権を保持したい要素は、AIのみで制作したものを公開しないなど、ブランドや知的財産の保護を目的とした内容を設けました。

②トレーサビリティ(追跡可能性)を担保する 「入力プロンプト」や「AIを使用した箇所」が第三者にも分かるように記録を残すことで、生成プロセスの透明性を確保し、万が一のリスクを最小限に抑えることを目的としています。

こうしたポイントを踏まえ、Adobe製品のAI機能を対象としたガイドライン案を作成。その後、社内の稟議プロセスでの提案を経て承認され、試験運用を開始しました。

試験運用を通じて一定の手応えを得たことから、2025年7月に正式に「画像・動画生成AIガイドライン Ver2.0」としてアップデートしました。

Ver2.0では、画像に加えて動画生成AIの内容も組み込み、利用可能なサービスも追加しています。

その後もガイドラインの対象範囲を広げて、直近ではサウンド(音声)領域の生成AI活用に関する内容も追加しました。

今後も、ガイドラインの対象範囲を拡張しながら、より積極的に生成AIを現場で活用していける状態を整えていきたいと思っています。

ガイドラインをアップデートしたことで、これまで以上にAI活用が進んでいます。その実例をいくつか紹介します。

まずは、モンスターストライク(以下、モンスト)公式Xにおける企画・クリエイティブ制作の事例です。

デザイン本部のメンバーが、公式Xで投稿する内容の企画やクリエイティブ制作を担当する中で、Adobe FireflyやFlowをはじめとする生成AIを活用。その結果、制作工数の大幅削減だけでなく、日本トレンド6位を獲得する投稿も生まれるなど、大きな反響を得ることができました。

詳細は、8月28日に実施した「MIXI MEETUP!ーTECH & DESIGN DAYー」にて紹介しているので、あわせてご覧ください。

Credit 動画クリエイティブ室 コンテンツディレクショングループ 折原綾平 / 菅野昌宏

2025年5月に開業1周年を迎えた「LaLa arena TOKYO-BAY」。それを記念したPR映像をデザイン本部で制作しました。

動画冒頭のアリーナの外観が昼から夜へと移り変わるタイムラプス表現を、2枚の静止画素材をもとにAdobe Fireflyを活用して生成しました。

制作時には利用できる素材が限られていましたが、「1年間の感謝の想いを、時の流れとともに表現したい」という考えから、このタイムラプス表現を取り入れました。

本来であれば、天候を考慮したスケジュール調整や機材準備、撮影・編集など、多くのコストが発生する場面ですが、AIを活用することで現地での撮影をせずに、半日ほどで理想的なカットイメージの作成とクオリティを実現することができました。

Credit 動画クリエイティブ室 CGデザイングループ 八木貴也

最後に紹介するのは、「家族アルバム みてね」の海外向け広告制作に関する事例です。

みてね事業部とはこれまでも継続的に広告制作を行ってきましたが、ガイドラインVer1.0の策定を機に、デザイン本部としてもAI活用による効率化に取り組み始めました。

特に注力したのは、広告に使用するイラストの生成AI活用です。どの絵柄や構図であれば高い精度で生成できるのか、プロンプトやモデルの設定を変えながら、さまざまなパターンを検証しました。

ガイドラインVer2.0 の策定以降は、AIで制作したイラストを実際の広告に用い、成果指標を確認しながら改善を繰り返すサイクルを回しています。

まだ検証段階ではあるものの、短時間で一定のクオリティを実現できるようになり、これまで以上に素早く広告のPDCAを回すことが可能になってきています。

Credit 動画クリエイティブ室 デザイングループ 角戸絵理 / 西巻汐音

これらはあくまで一例ですが、AIをクリエイティブに積極活用し、これまでにない成果を生み出す後押しができているのであれば、とても嬉しく思います。

また、ガイドライン更新にあたって適宜アドバイスをもらっていた知財法務の村津からは、今回の取り組みについて以下のようにコメントをもらいました。

今回はガイドラインという組織のルール整備に関する取り組みをまとめましたが、根本的には、組織としてより良いものづくりを追い求めるために、日々新しいチャレンジを重ね、変えるべきところはどんどん変えていく、というサイクルが重要だと思っています。

事業会社にデザイン職・組織が存在する価値は「ものづくり側から事業を牽引すること」にあります。

だからこそ現場では、もっと良いものをつくれないかと、AI活用などこれまでにないアイデアを遠慮なく試してほしいですし、もしそれを阻む状況があるなら、マネジメントとしてすぐに改善していきます。

そういったサイクルが回っていくほど、組織としてもより強く、進化していけると考えています。

今回の取り組みも、その試行錯誤のうちの一つです。これからも、より良いものづくりのために学び続ける組織の一員として、楽しみながらチャレンジを続けていきたいと思います。

このデザイン組織をもっと知る