アドウェイズでは、広告運用事業の広告効果を最大化するために、Amplify Marketing Program (以下「AMP」) シリーズというプロダクトを開発しています。
元々、いくつものプロダクトを個別に提供していたのですが、新プロダクトである「Media Analyzer」の公開のタイミングで、すべてのプロダクトのブランドを統合して、「AMP」シリーズという一つのブランドとして提供を開始しました。
アドウェイズが、どのようにプロダクト開発を進め、プロダクト群を一つのブランドに統合したか、立ち上げプロセスを残してみようと思います。
前提として、「AMP」シリーズは、アドウェイズの広告代理事業の中で活用しているプロダクトのまとまりを指しています。
アドウェイズの事業の中には、クライアントの広告運用を代行する業務がありますが、これは「人」による支援と、人の価値を高める「ツール」の運用の、2つに分けて考えることができます。
私たちが扱うプロダクトとは、社内の広告運用担当者が、さらに広告運用の効果を高めていけるようにするための「社内ツール」です。
このプロダクトの価値が高まるほど、広告効果を生むための人のパフォーマンスを属人化せずに向上させることができるため、競争優位性にもつながります。
ですので、「人」を中心とするアドウェイズの広告事業モデルにとって、プロダクト開発は非常に重要なものとなるのです。
アドウェイズでは設立以来、このような「社内ツール」を数十個以上開発してきました。それによって競合優位性が生まれ、お客さまに選んでいただく理由にもなっています。
ただ、2020年ごろから、直接的に顧客体験を改善するようなプロダクトが立ち上がっていないことが、社内で課題視され始めました。
プロダクトが立ち上がっていなかったのは、お客様が求める広告効果ではなく「個々の業務の課題に向き合った、個別最適な開発」が行われていたことが、一つの理由です。
もちろん、中には広告効果を高めることに直結するようなプロダクトもあったのですが、その多くは「業務の効率化」を行うことが目的となったプロダクトでした。そのため、「効率化」ではない新たなプロダクトビジョンを掲げる必要が生まれていました。
もう一つの理由は「インターネット広告の複雑化により、業務理解が難しくなっていた」ことです。開発チームのメンバーは、自身で直接広告運用を行なった経験がなく、複雑になる広告運用の世界で、新たな課題を発見することも難しくなっていました。
そこで、プロダクト開発に関わるメンバーとして、現場のトッププレーヤー以上に広告運用業務への解像度を高め、深い課題を捉えられるようになる必要がありました。
これらの課題を乗り越えて、付加価値を追加し続けなければ、アドウェイズの広告運用事業は「人」中心の属人的な勝負となってしまい、持続的な事業成長を維持することができなくなります。
自分たちは、今は危機的な状況に置かれていると考え、抜本的なプロダクト開発体制の見直しを行うこととなりました。
まず取り組んだのは、プロダクトビジョンの設定です。
ここで、今のプロダクト群は「効率化」を提供するツールであるが、今新たにつくるべきは「広告効果」を生むためのツールだと定義しました。
アドウェイズの広告代理業で必要なプロダクトは、社内の広告運用スタッフのためのものであり、彼らが追いかけているのは「クライアントの広告効果」です。
広告運用スタッフの業務負荷が楽になることももちろん大事ですが、クライアントに再現性高く広告効果を提供できるようになることが、アドウェイズとして最も重要な課題であると定義しました。
アドウェイズが掲げている「人と機械の共生」という価値観に基づき、今回のプロダクトでは、ただプロダクトをつくるだけでなく、広告運用のナレッジを蓄積する仕組みづくり、「人」へのアプローチまでを行うことが、ロードマップの中に初めから計画されています。
ここからは、2年半近い「AMP」シリーズ立ち上げプロジェクトの内容を、3つのステップでまとめます。
まずは、プロダクトビジョンを体現する新プロダクトの立ち上げです。
ここで、前述した「複雑になっている広告運用業務を、開発メンバーが解像度高く理解する」という課題をを乗り越える必要がありました。
そこで私たちは、自分たちでアプリをリリースし、実際に広告運用を試していくことで業務理解を深めるという、泥臭いアプローチでこの課題を解決することとします。
そこで得られた知見をもとに、新プロダクトである「Media Analyzer」のプロトタイプをつくっていきます。
「Media Analyzer」は、広告運用の担当者が、より良い広告運用手法の分析ができるようになるツールです。
自分たちが実際の広告運用の中で学んだ「ここが分かると嬉しい」「こうしたらうまくいった」というナレッジもどんどん蓄積し、機能として反映していきました。
プロダクトの仮説ができたあとは、社内の広告運用担当者の中で、成果を出している人を中心に、ヒアリングをしながら機能のブラッシュアップをしていきます。
彼らから「これは実務で使えそうだ」と言ってもらえるようになったら、実務でも導入し、さらに機能改善を行う……という流れで開発を進めていきました。
ある程度、Media Analyzerの形が見えてきたところで、一部のメンバーしか使えないという状態ではなく、アドウェイズの広告運用に関わる全てのメンバーが当たり前のように使っているという状態を目指し、浸透施策を打っていきました。
アドウェイズの場合、対象が社内メンバーになりますが、これはSaaSプロダクトの導入後の浸透などにも転用可能な方法だと思うので、有効だった施策を2つまとめてみます。
業務に組み込む新しいツールは、丁寧に浸透を進める必要があります。
Media Analyzerは分析ツールです。これを使わなくても業務はできてしまう。ですので、ツール導入の抵抗感をいかに取り除いていくか?ということを考える必要がありました。
私たちの解は、トッププレーヤーから先に浸透させていくことを基本姿勢とすることでした。
彼らが当たり前のようにプロダクトを利用していて、成果を出している状態を目指します。「成果を出している人はみんなMedia Analyzerを使っている」という状態になることで、社内には自然と浸透していきます。
具体的には、トッププレーヤーを巻き込むために、前述したようにヒアリングからスタートし、彼らの実業務に組み込んでテストしてもらいました。
彼らは広告運用のプロですが、広告運用をする人たちのことを一番考えているのは自分たちなはずです。トッププレーヤーの成果を後押ししていく、いわば「専門家」のような立場として見てもらえるように、コミュニケーションを重ねました。
フィードバックを解消していく中で、あるタイミングから「感覚でやっていたことが、データがあることで言語化されました」「Media Analyzerを使うと成果の再現性がある」という声が生まれてくるようになりました。
また、自分たちで広告運用を実践した経験が、開発の重要なポイントになったとも思います。実際に「クライアントの広告運用をやっていないのに、なぜこんなに詳しいんですか?」というような声も聞こえてくるなど、開発サイドがトッププレーヤーたちの信頼を掴めんでいく実感を持つことができました。
このようなトッププレーヤーからの信頼の声をサインに、全社浸透へと進んでいきます。
全社浸透のタイミングで、Media Analyzerの活用度合いを表すフェーズ表を作成しました。
Media Analyzerの活用度合いをフェーズで分解し、広告運用担当者をそれぞれ該当するフェーズに分類することで、個人ごとの活用度合いを管理・育成できるようにしています。
これは、それぞれのメンバーの目標設定にも組み込まれており、「次のクォーターではこのフェーズを目指そう」という会話が行われるようになっています。
ここまでくると、自分たちの手を離れて、自然と浸透が始まっていきます。
全社の目標設定にも組み込まれてきて、Media Analyzerが運用され始めることが確実になってきたタイミングで、公開に向けた動きを開始しました。
ここで論点となったのは「すでに11個あるプロダクトに、Media Analyzerを追加するとき、お客さまへの説明が難しくなる」ということです。
実際、当時の営業資料では、プロダクトを個別に説明するページがあるのみ。これに新しくできたMedia Analyzerを追加しても、お客様が認識できないことは間違いないだろうと考えていました。
ここで、複数のプロダクトを、一つのブランドとして統合することを考え始めます。
例えば、大手のハードウェア系の企業でも、いくつもあるプロダクトを固めて、一つのブランドとして見せています。広告業界でも同じような発想でのブランド策定の事例がいくつもありました。
アドウェイズでも同じように、Media Analyzerを含む12個のプロダクトを一つのブランドとして統合するための設計を進めることを決めました。
お客様と接する機会の多いコンペチームのメンバーとも議論を重ね、資料に落とし込みながら見せ方の調整を進めます。
その後、広告業界に定義されている業務プロセスに則りながら、今回つくった「分析」の価値を強めた業務プロセスを定義し、そこに各プロダクトを当てはめ、一枚の図を作成しました。
そうして生まれた「AMP」シリーズを、2022年にリリースしました。
Media Analyzerの中身やノウハウは公開できないため、リリース時に「強みをどのように伝えるのか」の表現をするには、少し工夫が必要でした。
そこで、コンセプトとしていた「広告効果を最大化させる」ということが伝わるようメッセージを調整したり、「すごく大変な分析を行える」ということを、分析プロセスに名前をつけることでわかりやすく伝えてみることにしました。
AMPシリーズの公開後は、「アドウェイズはエンジニアも広告運用に知見がある」というイメージを持たれることが増えてきました。単に「効率化する」のではなく「効果を出す」ことにフォーカスしたことで、「広告運用を深く理解している会社」という印象がしっかりと伝わったのではないかと思います。
社内的にも、Media Analyzerの普及が進み、すでに「Media Analyzerがないと、広告運用はできない」と言ってくれるメンバーも増え、当たり前のように利用されるツールになっています。
また、これまでは、広告運用担当者の教育についても課題があったのですが、Media Analyzerに蓄積されたナレッジを活用することで、育成面の課題解決にも繋がっています。
改めて共有させていただくと、アドウェイズの広告代理事業のプロダクト開発のスタンスは、広告運用者である「人」に、付加価値を生みに行くための「ツール」をつくることです。
アドウェイズグループ全体でも「人と機械の共生による、パフォーマンスの最大化」が目指すべき共通の価値観として掲げられています。
アドウェイズの広告事業は、プロダクトだけで伸びていくようなSaaS的な事業モデルではなく、「人」が中心の事業モデルです。
ただ、そのような事業モデルだとしても、再現性や、付加価値を生んでいくためにプロダクトは必要不可欠です。
Media Analyzerの公開以後も、一新したプロダクトビジョンと、「AMP」というブランド定義が功を奏して、新たなプロダクトの立ち上げが進んでいます。
人と機械の共生をテーマに、今後も、広告運用の価値をさらに高めていく、人だけではできないような広告効果最大化に向けたプロダクトづくりを進めていくため、深い業務理解やチャレンジングな価値創出に取り組んでいきます。