カオナビのデザイン組織には、マーケティングデザインチームという、サービスに関するコミュニケーションデザインを担うチームがあります。
マーケティングデザインチームは、マーケティング本部に所属しつつ、認知〜導入に至るフロント活動に携わる各部署(僕たちはフロントラインと呼んでいます)で発生する制作物全般を主な守備領域としています。
なぜカオナビでは内製でマーケティング デザインに取り組むのか。僕たちのチームでの試行錯誤をまとめていきます。
前述したように、マーケティングデザインチーム (正式名称はマーケティング本部デザイングループ) は、マーケティング本部の中に所属するデザイン組織です。
2021年からチームは立ち上がり、現在は正社員と業務委託のデザイナー、そしてフロントエンドエンジニアの10名弱の体制となっていて、全社的なマルチプロダクト化の動きもあってさらに採用に動いています。
いち組織として本部に属しているデザイン組織としては、ブランドデザインチーム、プロダクトデザインチームとはまた立て付けの異なるチームといえます。
日々マーケティング本部以外の部署でも多くの制作物が発生し、デザイナーが必要となるタイミングも多い中で、なぜマーケティング本部所属なのか?また、なぜマーケティング本部だけがデザイン組織を抱えているのでしょうか?
1つは、リード獲得のためのマーケティング施策の段階でこそ顧客とのコミュニケーションを丁寧に考える必要があること、またそれに伴う純粋な制作物の量も多いことなどが理由として挙げられます。
加えてもう少し本質的な理由として、ファネルの最初のタッチポイントで顧客とのコミュニケーションについて考えておくことで、それ以降の各フェーズ毎の顧客に対しても解像度が上がり、適切なコミュニケーションを生み出すことができると考えています。
様々な部署から依頼をもらい、依頼毎にターゲットとする顧客のフェーズが異なる。そんなデザイン組織の置き場所として、フロントラインの先頭に位置するマーケティング本部というのは、案外理にかなっているのかもしれないと捉えています。
お客さまがカオナビを認知し、導入に至るまで、その後自社の人事課題の解決に向けて活用していく、そのすべての接点に関わる制作を担当し、顧客フェーズを進めることをデザイン側面から支援することを役割としています。
具体的につくっているものは、例えばサービスサイトの企画〜デザインやコーディング、営業資料やホワイトペーパーのデザイン、カンファレンスのコンセプトワークや、イベントブース・配布物のグラフィックデザインと、多岐にわたります。
僕たちマーケティングデザイングループのチームミッションは「作用するデザインで成果につなぐ。」です。
なぜこのようなチームミッションを掲げるに至ったのか、少し変遷をまとめてみます。
実は昨年までは、マーケティングデザイングループでは「Design the “first”.」というビジョンと「フロント全体にデザイン領域からアプローチし、顧客フェーズを一歩引き上げる」というミッションを、それぞれ別々に掲げていました。
ミッションは、評価決めの際の土台となる個人目標の上段に位置するため、チームのユニークさも含むと同時に、より事業的な成果も意識した具体的なものとしています。
逆にビジョンは、実はミッション決めのブレストの中で偶然生まれた副産物だったのですが、メンバー内での人気も高くこのまま葬るのも惜しいという話になり、チーム一丸となるための「スローガン」的な位置付けで残してみることにしたものでした。
(さらに裏話として、僕がマネージャーに着任した最初の期でもあったので、少し鼻息荒めにデザイン組織らしいカッコいいビジョンを掲げたかったというのも、今振り返るといくらかあったかもしれませんw)
今のチームに足りない部分を補うことができる良い目標ができたと考えていたのですが、1年間運用してみて問題が見えてきました。
ビジョン
抽象度が少々高く、マーケティングデザイン以外の組織にも当てはまる
自分たちのユニークポイントを押さえきれていないのでは?
ミッション
逆に具体的すぎて、メンバーの行動に余白が生まれづらい
ほぼ完成しきっているのでここから分解した目標も立てにくい
カオナビは今、サービスとして成熟してきたうえで、これからさらに新たな領域へと事業を開拓していくフェーズを迎えています。
そのため、これまでよりもさらに余白を出せるような、かつ具体的な良い粒度のチームミッションが必要なのでは?と思っていました。
そこで掲げたのが「作用するデザインで、成果につなぐ。」です。
目を引く、統一感がある、というだけでなく、ターゲットや達成したいゴールに対して適切にはたらきかけているデザインを良しとして「作用するデザイン」という言葉を。
デザイン組織としての成果だけでなく、相談部署と、彼らが追う成果とをつなぎ合わせることを目指す姿勢を「成果につなぐ。」という言葉を、それぞれ選んでいます。
あえてメンバー個々に解釈の余地があるくらいの粒度でチームミッションは止め、それをマーケティングデザイングループに所属するメンバーそれぞれが個別に解釈して、個人ミッションに落とし込んでいます。
ここからは、カオナビマーケティングデザイングループが掲げる「作用するデザイン」に近い動き方を具体的にまとめてみます。
機能やチャネルの位置付けを捉える
目的やコンセプトからディレクション
顧客とサービスへの理解を深める
カオナビでは、新機能が継続的に生まれます。これらの新機能を、営業資料やサービスサイトに適切なタイミングで反映していくのもマーケティングデザイングループの役割です。
新機能1つ1つに企画推進本部所属のPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)が割り当てられていて、各PMMは開発段階からリリースに至るまで各部署とのやり取りを行います。
新機能がリリースされる1〜2ヶ月ほど前に各機能担当のPMMにオリエンを開いてもらいます。オリエンでは機能の開発経緯やターゲットとするユーザー像、大枠の構成の共有をいただき、営業資料での見せ方やサービスサイトへの反映を検討しはじめます。
この時意識しているのは、機能やチャネルの位置付けを適切に捉え、目的にあったコミュニケーションをすることです。
カオナビでは、サービス全体の概要資料とは別に、商談相手の状況や抱えている課題などに合わせて営業の方が臨機応変に対応できるよう、機能ごとの営業資料を個別に作成しています。
「営業資料」の直接のユーザーは営業メンバーとなるので、営業メンバー目線で使いやすいツールとなっているか?というポイントはデザイン側面でも強く意識しています。営業が説明しやすく、エンドユーザーでもあるお客さまにもきちんと魅力が伝わること。それが営業資料における「作用するデザイン」だと考えています。
ヒアリングを含めたインプットも怠っていませんが、基本的には営業メンバーではないデザイナーだけで100まで理解することは困難で、最終的なアウトプットの精度にも影響します。餅は餅屋の考え方で、営業観点はPMMとコミュニケーションを取ることで伴走して取り込んでいきます。
例えば、タレントマネジメントに関する機能は、お客さまの課題が顕在化されていないことが多いため、機能だけ説明をすると情報が不足してしまいます。
なので、営業資料でも、どのような課題に対して、どういう解決策で、、とストーリーからつくり込んでいきます。
逆に、例えば労務管理などをはじめとした、お客さま自身でも解決したい課題が明確で、解決へのプロセスも世間一般的なものであれば、シンプルに数枚の資料におさめてつくることもあります。
営業資料は最終的にパワーポイントで作成します。個社ごとに最適な提案をしたい営業メンバーが誰でも編集可能な状態にして納品し、先ほどのPMMが所属する企画推進本部にて管理をしてもらっています。
営業資料を、営業メンバーが自由に編集しやすくするための工夫も続けています。その一つが「社内用のイラストシステム」です。
ある時、営業のマネージャーから「イラストの最新版を見やすくまとめてくれないか」と言う相談をもらいました。
カオナビの制作物全般によく利用しているブランドイラストは、汎用的な構造になっているので、制作の中で必要に応じてデザイナーが組み合わせを調整したりちょっと描き加えたりすることで、いわゆる「亜種」が日々生まれています。
亜種イラストはFigmaで管理していて、デザイナーはいつでもアセットから呼び出して最新のイラストにアクセスできる環境がすでに出来上がっていましたが、この相談によって営業メンバーは最新のイラストがどこにどれだけ格納されているかを全然把握できていないことを知りました。
そこで素材サイトの社内版のような位置付けで、日々生まれる亜種イラストを定期的に登録し、キーワードやタグからも検索が可能な社内用のシステムを構築。営業メンバーはブックマークに登録しておくことで、いつでも欲しいイラストに簡単に辿り着くことが可能となりました。
ちなみに、要件としても社内閲覧のみに対応する簡易的なものでよかったので、外部のライブラリシステムなども使わずにチームメンバーだけで実装まで完結しています。普段からサービスサイトのコーディング実装・運用などもチーム内で対応しているチーム構成だからこそ実現できた事例と言えます。
今では専用のslackチャンネルも用意し、新たなイラストの登録をデザイナーがアナウンスするのに使ったり、ちょっとしたイラスト改変の相談を受ける窓口としても機能しています。
デザイナーは商談に参加しないため、このフェーズでデザインサイドから出来るアプローチは決して多くありませんが、フローの構築によって少しでも「成果につなぐ」手伝いができると良いなと思っています。
サービスサイトにも新機能を反映します。
商談フェーズまで進んだ顧客向けの営業資料とは異なり、サービスサイトはアクセスすれば誰でも見れる媒体なので、多くの業界・業種、ターゲットに対して広く面で当てにいき、取りこぼしを防ぐことに主眼を置いたコンテンツ作りを心がけています。
ちなみに営業資料では企画推進本部のPMMと協働していましたが、サービスサイトにおいてはWebマーケティンググループのマーケターと協働することがほとんどです。
こうして振り返るとデザイナーだけで行うタスクというのはほとんどなく、大抵別グループや別部署のメンバーと共に業務にあたっていて、部署を横断したコミュニケーションを日頃からかなり多く取っていると感じます。
別の例として、依頼をもらって個別にデザインをしていくような形ではなく、マーケティング本部全体や、さらに多くの部署と合同で進めていくプロジェクトに入り込むこともあります。
例えば先日は、マーケティング本部として初主催となる大規模カンファレンス「FACE to FES」のトータルのクリエイティブディレクションに、プロジェクトの最上流から関わりました。
ここでは、ブリーフを用いて、そもそもの目的、ターゲット、現状と理想を整理していくことからはじまり、イベントタイトルやコンセプトの決定、会場内のクリエイティブ全般のディレクションにも広く携わりました。
特にインハウスデザイナーとして可能性を感じたのは、プロジェクトメンバーとの議論を定期的にビジュアライズしてまとめる点です。
この時協働したセールスプロモーショングループのメンバーは、イベントの企画・運営、そこからのリード創出においてのプロフェッショナルですが、ここまで大規模なカンファレンスのディレクションは僕たちも含めてほぼ全員が未経験でした。そのため、プロジェクトを進行していく中での議論は空中戦になりがちでした。
プロジェクトメンバーの視座を揃えて定期的に共通認識を確認しあうことや、今決まっている内容で進行した場合のイベント当日に参加者が感じる印象、装飾に落とし込んだ時の雰囲気はこんな感じだよ、という手触り感のあるビジュアル化・サンプルの用意をデザイナーがコンスタントに手伝うことで、早い段階から合意形成の助走がつけられた手応えがありました。
結果、クリエイティブディレクションに関しては大きくひっくり返ることもなく、イベントタイトルに始まり、当日の装飾にいたるまでの多くをチームで監修する結果となりました。
自社で行う初めてのカンファレンスだったにも関わらず、集客数も2000名を超え、今後につながるVol.1としてチームの守備範囲を広げることもできました。
最後に、このように多くの部署や、幅広いフェーズのお客さまと関わるマーケティングデザイングループで、どのように顧客やサービスの理解を深めているのかをまとめてみます。
マーケティングデザイングループでは、顧客フローに対応するチャネルの整理を行っています。
一例として、以下はサービスサイトを中心としたグループで制作を担う(手伝っているものも含めて)Webサイトのそれぞれの立ち位置や役割、導線の整理を行った図です。
また、サービスサイトへ流入したユーザーが、どのコンテンツに触れてコンバージョンするのかを整理して把握しておくことで、各ページの担う役割から掲載情報がどうあるべきかを逆算しています。
このようにあらかじめ俯瞰した認識をメンバー間で持っておくことで、新機能の掲載や新たな施策による改修などの動きがあった時にも、最適な改修プランを練り上げたり、各チャネルでの相乗効果を狙ったプラスアルファの提案がしやすくなります。
さらに、お客さまが何を求めているのかを理解するために、定期的なユーザーインタビューをはじめ、顧客の解像度を常に高く持っておくことにも注力しています。
1つユニークな例として、新しくマーケティングデザイングループに所属することとなったメンバーは、通過儀礼的に、展示会にデモ要員として参加して自らでデモ商談をするようにしています。
正直、デモ要員としての働きは全く「成果につなぐ。」ことが出来ていない気がして申し訳なさがすごいですが... それでも目の前にいるお客さまから課題を直接聞けて、それに対してカオナビの魅力を自らの口で伝えるというのは計り知れないほど貴重な機会で、究極のマーケティング活動だと思います!
参加する度にすぐにアウトプットに活かせそうな発見が現場には溢れています。
また、答えられないといけないので自ずとサービス理解も最高速度を叩き出すため、オンボーディングコンテンツとしてもとても優秀です。
(といってもトークが得意なわけではないので、参加することになったチームメンバーは僕も含めて大抵数日前からソワソワしだします)
ブースのグラフィックデザインもチームで担当しているため、仕上がりの視察を同時に行えるのも良いポイントです。ブースの仕上がり自体は来場者として会場に足を運べば確認することはできますが、ちゃんと「リード獲得をしなければならないデモ要員」としてその場に立つことで、通り過ぎる人に対して壁面グラフィックは見やすいか?意図した効果を発揮できていそうか?さらにリード獲得につなぐためにデザインサイドからできることは他にないか?といったことを完全な当事者として考えることができます。
このような直接的な顧客理解の場や、社内でもフロントライン各部署のメンバーとのコミュニケーションを密に行い、解像度高くお客さまのことを理解できるようにしています。
幅広いプロジェクトを通して、これまでもマーケティングデザイングループは、顧客や相談部署・プロダクトのことを深く理解しながら、事業成果につなげてきました。
今後はさらに、案件を超えて、相談部署と一緒に成果を追いかけていきます。
ちなみに、チームミッションを個別の目標に落とし込むにあたり、それぞれの現在のスキルセットをグラフで可視化してみたところ、やはり得意としている領域は個々でかなり違いがあることがわかりました。
一方で、そのメンバー全員のグラフを重ね合わせると、非常にバランスがよく、それぞれの苦手な領域をメンバー同士で補完し合えていることもわかりました。
カオナビは、「個人」の才能を開花させるためのプロダクトです。マーケティングデザイングループでも、まず自分たちが個人の才能を活かせるチームをつくってきました。
カオナビというプロダクトが認知され、導入され、その後継続的に活用し続けてもらうために、フロントラインのコミュニケーションを磨き込むことは必須です。
メンバー個々の力を活かした作用するデザインによって、カオナビを必要としている人にその魅力を伝え、一人でも多くの人に使ってもらいたいと考えています。