パートナー約700名のうち、80名以上のクリエイターがいるGMOインターネット株式会社(以下、GMOインターネット)。このクリエイターのうち8名はインハウスではまだまだ珍しい「映像チーム」に所属しています。
GMOインターネットの映像チームでは、8名全員が映像クリエイターとして映像制作に取り組んでいます。実写、アニメーション、配信、イベント中の映像など、案件の目的に合わせて全員がさまざまな映像を制作します。
まだまだ世の中ではインハウスの映像チームづくりに取り組むことは一般的ではありません。私たちも「8名が所属しているインハウスの映像チームがある」と伝えると、他社の方からはよく驚かれます。
運良く先陣を切って組織化に取り組んできた私たちの試行錯誤を公開することで、世の事業会社で映像チームづくりにチャレンジする皆さまに役立てればと思い、チーム運用の裏側をまとめてみます。
現在GMOインターネットの映像チームでは、8名の映像クリエイターが所属し、個々人が常に2~3以上の案件に携わっています。
GMOインターネットの中に映像を扱えるチームは私たちしかいないので、事業・組織問わず横断で動き回っているような状態になっています。
例えば事業周りの案件でいうと、サポート動画やPR動画、WebCM、イベント系の映像演出などが該当します。
珍しいところで言うと、「ConoHa byGMO」というサービスではVTuberでもある「美雲このは」というキャラクターもおり、その制作にも携わっています。
また、組織周りでいうと、採用インタビュー、会社全体の広報やIR絡みの映像制作などを行います。
他にも、GMOインターネットグループ全体としての技術広報と連携して、カンファレンスの映像制作・配信を行うこともあります。
大きく分けると、事業に関連する案件が7割くらい、組織に関連する案件が3割くらいの割合で動いているようなイメージです。
私たちがインハウスで映像チームを立ち上げたきっかけは、「動画案件の増加に伴い、対応できるメンバーが徐々に揃ってきたこと」です。
当時のクリエイター組織には、Webデザイナーやコーダー、グラフィックデザイナーが所属していました。その中で、グラフィックデザイナーの丸山さん(現エグゼクティブリード) は前職で映像制作の経験があったため、社内で発生する動画制作や撮影案件にも対応していました。
時代の変化とともに動画制作の需要はますます高まり、その後、新たに菅原さん(現マネージャー) がチームに加わったことで、グラフィック業務のみならず動画制作にも積極的に取り組むチームへと変化を遂げていきます。
さらに、グラフィックや動画制作を担当するメンバーの増加に伴い、体制を強化。菅原さんをリーダーとする「映像チーム」が正式に発足しました。一方、グラフィックを担当していたメンバーは、それぞれ担当する商材ごとに分かれて配置され、現在のチーム体制に至っています。
映像チームができたタイミングで、社内の映像制作需要もかなり高まってきていたので、よりクオリティ高く映像制作ができる人をお招きするために初めて中途採用も行いました。
そして2025年4月、チーム人数が「8名」と大所帯になってきたので、マネジメント体制の再編を行いました。映像チームを立ち上げてきた菅原さんがマネージャーに、リーダーとして私 (加藤) が就任しています。
GMOインターネットの映像チームのミッションは「映像を使って会社・事業を成長させる」ことです。
私たちはインハウスのクリエイター組織の一員であるため、映像をつくることに責任を持つのではなく、事業の成長に責任を持たなければいけません。商材があっての会社です。
そのためGMOインターネットの映像クリエイターは、何か特定のスキルに特化するわけではなく、必要なスキルをいくつも身に付けていくことを志向しています。実写だけ、アニメーションだけ、ということではなく、必要なら何でもチャレンジしてみるような行動を組織としても推奨しています。
外部の映像会社と、インハウスの映像チームの一番大きな違いは、この「事業成長に向けて必要なことを何でもやるスタンス」の有無かなと思っています。
ここからは、このミッションを実現するための具体的なチーム運用方法についてまとめてみます。
まず一つ目の工夫は、職種定義です。GMOインターネットの映像チームでは、全員が「映像クリエイター」という職種で活動します。映像制作会社のように、ディレクターとクリエイターを分ける体制にはしていません。
ミッションである「事業成長への責任」を果たすには、制作だけに価値を閉じる役割では不十分で、数多くの依頼に対して、全員がディレクターとクリエイターを兼任するように動く必要があると考えているため、このような体制を取っています。
また、実写担当、アニメーション担当など、映像クリエイターを専門性で分けることはしないようにしています。
事業会社では、状況に応じてさまざまな解決策が必要となります。映像制作会社では一つのスペシャリティに特化していくことが肯定される場合もありますが、事業会社においては一つの専門性だけに特化するのは逆にリスクになることもあると考えています。
なので、できるだけ全員が「やってみよう」というスタンスで、得意なジャンルでなくても事業に必要そうならばチャレンジしてみることを推奨しています。
このような体制を取っているので、各人のポートフォリオを見ると、非常に幅広いジャンルの映像制作に取り組んでいることが分かります。
例として、2名のポートフォリオを貼ってみました。実写、アニメーション、配信など、得意不得意にこだわらず、チャレンジを繰り返していることが伝わるのではないでしょうか。
二つ目の組織的な工夫として「案件マネジメント」「ワークフロー」についてまとめます。
映像制作の流れでいうと、大きな型はありつつ、割と個々人に自由度を許容しているように思います。
まず、映像制作は、Slackや定例ミーティングなどで事業部やコーポレートなど依頼者から相談をもらうところから始まります。そこからの制作フローは以下のようなプロセスとなっています。
事業会社で映像チームをつくるにあたり、意識すべきポイントは「依頼する側に必要以上に解像度を求めない」ということだと思います。
基本的に、みんな映像について詳しくなくて当たり前で、依頼の質を高めていこうとするとかえって品質のブレが生まれやすくなります。むしろ、映像制作という手段が当たり前ではない段階でやるべきことは「気軽にたくさん依頼をしてもらう」というスタンスを取ることだと考えています。
このスタンスを成立できるのは、映像クリエイターが “事業のそばにいる映像の専門家” というポジションを取っているからです。依頼者と一緒になって目的や意図を丁寧に深掘りし、アウトプットに変換していきます。
私たちは、多くの場合「企画」「字コンテ」「絵コンテ」「完パケ」を都度合意していく、丁寧なコミュニケーションを行います。
もう少し言うと、最近では「依頼を待たずに、こちらから企画/改善を提案する」ということにも取り組んでいます。
例えば「映像制作した後にどんな指標を追いかけるべきか?」ということも、依頼者側が決めづらいことだと思っています。
なので、私たちは映像のスペシャリストとして「このような映像ならば、この指標を見るのが最適では?」という提案をリリース前に行い、その指標をリリース後にも見ていき、改善の企画提案をこちらから行っていくようなことにも取り組んでいます。
全社として「こんなことにも映像が使えるのか」「映像を使うと、より良い効果が生まれた」ということに気付いてもらうことができれば、さらに映像クリエイターの活躍先が増えていきます。積極的にこのようなアクションは今後も取れるようにしていきたいです。
最後に紹介するのは、ナレッジマネジメントの工夫です。
GMOインターネットの映像チームは「事業に必要そうなことは、何でもやれるようにする」という姿勢を取っており、映像クリエイター個々人にとっては、楽しさもありつつ、幅広い手段を扱う難しさも感じやすい構造になっています。
そこで、重視しているのが組織としての学習です。個々人が新しいチャレンジを行う際にも取り組みやすくなるように、過去のプロジェクトで制作した字コンテ、絵コンテ、制作に関わるデータはすべて保存しておいて、誰でも見返せるようにしています。
過去のプロジェクトに類似したプロジェクトや、自分が得意としていない手法を扱う時は、これらのアーカイブを参考にすることができます。
似た話で言うと、チームメンバー同士の距離感も近いのも、映像チームの特徴です。
各人は常に別々のプロジェクトに取り組んでいますが、「今どういうものをつくっている?」「この表現どう思う?」とプロジェクトを超えた会話が自然発生する雰囲気があります。
チーム全員でどんな表現が良いのかをレビューし合って、より良い表現を模索している働き方ができているのも、GMOインターネットの映像チームの強みなのかなと思っています。
このような組織運用によって、年間200以上の映像アウトプットが、GMOインターネットの映像チームから生み出されています。
今回の事例をまとめるにあたって、映像チームに所属する数名のメンバーから「インハウスの映像チームで働く意義や魅力、楽しさ」について聞いてみました。雰囲気が少しでも伝わればと思い掲載しておきます。
2017年から、約8年もの期間、インハウスの映像チーム運営に取り組んできましたが、今ではGMOインターネットという会社全体で「映像という手法を当たり前に試せる文化」ができてきているように感じます。
例えば、本来、マーケティングの戦術を考える時に、映像というアプローチを検討することは当たり前に起こっていくべきことだと思います。ただ、会社内に映像・動画の専門性がない場合は「何となく良いだろうけど、現実的でないからやめておこう」と、試すことすら行われないのが常なのではないでしょうか。
私は、特に今の時代、「映像や動画を使った実験は当たり前に行われるべきだろう」と考えています。とはいえ、外に発注するしか手段がなければ、コストも非常に大きくなるため、実験も行いづらいはずですが、内製で映像チームがあれば気軽に映像という手法を試すことができるようになるはずです。 (もちろん、内製であってもコスト意識は大切ですが) 何より、映像というアプローチを試してもいないのに、実験しないままでいる機会損失を消していくのが大切だと思っています。なので、私たちは気軽に依頼をして欲しいですし、そのためにできるだけ依頼のハードルは下げておくようにしています。
今や「映像をつくって欲しい」というリクエストに応えきれないほどに依頼が起こっており、この要望に応えられる体制をさらにつくっていくこと、そして「映像から事業成長を起こす」ことに今後も取り組んでいきたいなと思います。
本事例公開と合わせて、私が映像チームのリーダーとして考えていることをインタビューしていただいた記事が公開されました。こちらも合わせてご覧ください。