「経営管理SaaS」を運営するログラスのデザイン組織で、プロダクトのマネジメントやデザインに取り組むkouです。

ログラスのデザイン組織は、2021年から立ち上げが始まりました。

私は2022年にログラスに3人目のデザイナーとして転職し、プロダクトデザイナーとして活動しています。しかし、入社当初は、ログラスが扱う「経営管理」という複雑なドメインについてうまく理解しきれていませんでした。

さらに、デザイン組織としても、私が3人目のデザイナー社員ということで、まだオンボーディングのしくみなども用意できていませんでした。

そんな中で取り組んだ、複雑なドメイン領域の解像度を高めるための考え方や、インプットの方法についてまとめます。

ログラスは、2019年に創業した、経営管理SaaSを扱う会社です。

私がログラスに3人目のデザイナー社員として入社した2022年時点で、会社全体としても急成長しており、デザイン組織はさらに拡大することが求められていました。もちろん、入社したデザイナーに対しても、できるだけ早く活躍することが期待されていました。

しかし、プロダクトをデザインするにあたって、そもそも「経営管理」というドメインの解像度が高くないと、その期待に応えることもできません。

ドメインへの解像度が低い時に起こる問題の例... ・お客様と同じ土俵に立って話ができず、深い課題感を聞けない ・お客様の課題感や業務の構造が分からず、確信を持ってプロダクトを改善できない

ドメインの解像度を早急に高める必要がありましたが、立ち上げ期のデザイン組織だったこともありドメイン理解を進めづらい状況がありました。

立ち上げ段階のデザイン組織なので、新しく入社したメンバーがドメインへの理解を深めるためのオンボーディングのしくみはありませんでした。

例えば、ドメイン理解を深めるためのドキュメント、お客様へのヒアリングのログ、商談動画などが各所に点在していました。

ドメイン理解を深めるためのドキュメントはまとまっておらず、各所に点在している状態

そのため、ドメイン理解を深めるためには、自分でドメインに関する情報を集め、整理する必要がありました。

仮に、ドメイン理解のための資料が社内にすでに用意されていたとしても、 その資料を読むだけではなく、自分の中で腹落ちさせるための工夫は必要だと考えています。

加えて、社内にデザイナーが不足している状況だったので、オンボーディングに悠長な時間をかけることもできない状況でした。自分としても、3人目のデザイナー社員として入社しており、できるだけすぐに戦力になりたいと思っていました。

そのため、UI改善やデザインシステムの整備など、すぐ取り組めるプロジェクトをやりつつ、並行して少しずつ自分のドメイン理解を深めていくような動き方が求められていました。

3人目のデザイナー社員として入社した後の、動き方のイメージ
改善系のデザイン、ライトな新機能開発など、すぐに取り組めるプロジェクトをやりつつ、並行して少しずつ自分のドメイン理解を深めていく

既存の業務に取り組みながら、並行してドメイン理解を進めていくために、まずは、具体的な範囲や、求める理解度、進め方について定義していきました。

“ドメイン理解” という言葉は曖昧なので、理解すべき範囲を定義しています。

プロダクトをデザインする上で理解すべき範囲を、ドメイン / ユーザー / プロダクト の3つと定義しました。この定義はユーザビリティの定義を参考に定義しています。

ドメイン理解の範囲を、ドメイン / ユーザー / プロダクト の3つに分ける

それぞれの定義は以下のようなイメージです。

  • ドメイン... その業界特有の商習慣や、考え方、言葉など

  • ユーザー... お客様の属性、業務の流れ、課題感など

  • プロダクト... 自社 / 競合プロダクトと、ユーザーが抱える課題の関係性

これらの理解度を高めていくことで、プロダクトのデザインをリードしていくことができるようになると考えました。

3つの項目を深めつつ、最終的にどのような状態になっていれば良いのか?というイメージがあることで、進め方の基準ができます。

(ドメイン理解には終わりがないと思いますが) 短期的に目指す状態としては「お客様と自信を持って話せそう」「プロダクトをデザインできそう」と思えるようになること、と決めました。

「お客様と自信を持って話せる状態ってなんですか?」とか「デザインできる状態ってなんですか?」と聞かれることがよくありますが、なにかを達成したらこの状態に行き着くといった明確なゴールは存在せず、あくまで自分の中で不安が減っている主観的な状態を一旦のゴールと考えています。

具体的には、以下のような項目について、自分の言葉で整理できる状態になることを目指します。

  • お客様が使う言葉・単語、それらの関係性

  • 業務の流れや、そこに関わるステークホルダーの関係性

  • お客様が抱えている課題感

  • ログラスのサービスのオブジェクト構造

  • 競合プロダクトの提供している価値

余談ですが、お客様にヒアリングをしたり、プロダクトのデザインをするためには、お客様の持っているメンタルモデルを正確に捉えることが何より大切だと考えています。

メンタルモデル... ある個人が、対象に対して抱いているイメージのこと。 例えばログラスのお客様が、経営管理という業務をどのくらいの範囲で捉えていて、どういう言葉が使われていて、どう感じているのか、というような情報。 参考:https://goodpatch.com/blog/design-mentalmodel

今回も、メンタルモデル、つまり、相手が使っている言葉や、その裏にある構造まで、どれだけ正確に、かつ具体的に描けるようになっていて、自分自身がお客様の目線で考えられるようになっているのか?ということを重視して、上記のような項目を集めています。

UI改善やデザインシステムの整備など、プロジェクトに取り組む度に、以下の3つのプロセスを必ず踏むようにして、少しずつ分かっている範囲を増やしていくように進めていきました。

  1. 全体像を粗く理解 (本 / 社内資料)

  2. お客様の声から検証 (商談動画 / お客様へのヒアリング)

  3. ドメイン / ユーザー / プロダクト の3つの観点から図解して整理

業務と並行しながら少しずつ進める、ドメイン理解のプロセス

ドメイン理解は「こうなったら終わり」という性質のものではなく、分かっている範囲を少しずつ増やすために継続することが大切です。そのため、今もプロジェクトの度に、同じようなプロセスを踏んでいます。

ここからは、1つ1つのプロセスで行っていることについて、詳しくまとめていきます。

まず、その領域で使われている言葉を粗く理解していくために、本や社内ドキュメントを読み漁ります。

▼インプット手法

  • 本 (関連する領域のもの、4-5冊ほど)を、ざっと読み込む

  • 社内ドキュメントを、ざっと読み込む

ドメインの全体像を理解する時の、インプットの方法
関連する領域の本や、社内ドキュメントをざっと読み込んで、業界のルールや使われている言葉をざっくり把握する

「ドメインの全体像を理解する」時のポイントは、その業界がどのようなルールで動いていて、どういう言葉が使われているのか、を粗く自分の中で整理することです。

例えば、本などは、全文を丁寧に読み込むのではなくて、複数の本の目次を見比べて、共通して書かれているポイントを読んだり、気になった箇所を読み進めて理解を深めています。

本の読み方のイメージ
全てを読み込むのではなく、目次など全体観が分かる情報や本文中の単語だけ、線を引きながらさっと読み込む

*「現場が動き出す会計 ―人はなぜ測定されると行動を変えるのか _ 著 伊丹 敬之, 青木 康晴」より引用

次に、本や社内ドキュメントで理解した言葉や、業界の構造が、本当に現場でも使われているような具体的なものなのかを検証するために、お客様の声を収集しにいきます。

▼インプット手法

  • 社内にストックされている商談動画

  • お客様へのヒアリング

お客様の声から検証する時の、インプット方法 (左: 社内にストックされた商談動画、右: お客様へのヒアリングの様子)

本や社内ドキュメントで把握した全体観を、実際にお客様にぶつけることで、現場の解像度でドメインを理解する

ログラスには、社内に商談動画が蓄積されているので、それらをいくつか見ながら、現場でお客様が使っている言葉や、考え方を把握していきます。

ログラスの過去の商談動画のデータベース
商談動画を見ながら、実際に現場で使われている言葉や、考え方について検証していく

また、お客様へのヒアリングを入れ込み、プロジェクトにまつわる情報を深堀りながら、お客様のメンタルモデルについても把握していきます。

お客様へのヒアリングのログ
プロジェクトに関する情報を聞きながら、ドメイン全体像についても確かめていくような項目をヒアリング

ここでのポイントとしては、本などに書かれている内容は、必ずしも現場では行われていないこともあるため、お客様と直接話すことで実際の現場の動きを正しく把握することです。

最終的なアウトプットとして、自分でもプロダクトをデザインできると思えるくらいまでドメインについて理解できているか検証するために、ドメイン / ユーザー / プロダクトの3つの観点から構造を図解してみます。

図解することで、関係性が整理され、自分の中でどこまで分かっていて、どこまで分かっていないのかを確認することができます。

例えば、以下のような手法で整理していきます。

お客様がどのような言葉を扱っていて、それらはどのような関係性なのか、などドメイン全体像に関する情報をまとめていきます。

使われている言葉の関係性をざっくりとまとめる

ドメインモデル図として整理していく

業務の流れや、課題が起こる構造、ターゲットの種類など、お客様に関する情報についても整理します。

業務の流れを図解

お客様の種別や、課題の構造を図解して整理

ログラスのプロダクトとして解決しているものや、そのためのオブジェクト構造、競合プロダクトが解決しているもの、などプロダクトに関する理解を深める情報もまとめていきます。

ログラスのプロダクトが解決しているものや、オブジェクトの関係性を図解する

どのような競合プロダクトがあり、どのように価値を提供しているのかをまとめる

ドメイン理解には終わりはありませんが、ドメインやユーザーのことをなんとなく知っている程度では、プロダクトはデザインできません。

その領域のユーザーが使う言葉や、その背景にある業務の構造、競合プロダクトの提供している価値など、複数の観点を自分の言葉で整理できるようになることで、自信を持ってプロダクトのデザインに取り組めるようになります。

私も、今回まとめたようなプロセスで、ドメインの全体像とお客様の声を行き来しながら、自分でも図解して整理していくことを繰り返していったことで、ようやくログラスのプロダクトをデザインするための一歩目が踏み出せました。

今後も、ログラスのデザイン組織は拡大していきます。ログラスに入社するデザイナーの方が、経営管理という複雑なドメイン領域を深く理解して、楽しめるようになるためのしくみを、引き続き用意していきます。

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