DeNAは事業成長のドライバーとしてデザインをとらえ、さまざまな事業をリードする存在としてデザイナーが活躍できる環境をつくってきました。
その流れからDeNAの中でデザインへの期待値が高まり、人材要件やキャリアパスも明確になってきたことでマネージャーが増加していきました。それにともなって各事業部内にデザイン組織を移管し、各事業内で自律的にデザイン組織を運営する形にシフトしています。
デザイナーを事業部所属にするとより深く事業との連携を深められるメリットもありつつ、横断的な「育てる」機能が弱くなることがデメリットになりやすい特徴があります。
そこでDeNA DESIGNでは横断施策として「新卒育成・若手育成」に注力してきました。今回はその中でも新卒育成領域の取り組みについてまとめます。
DeNAはデザイン組織が立ち上がった当初から新卒デザイナーの採用・育成を続けてきました。毎年新卒デザイナーが2~3名入社していて、美大/デザイン学科出身者だけでなく、総合大学などさまざまなバックグラウンドの方が活躍しています。
これまでもサマーインターンなど多くの機会をつくってきましたが、2025年からは「サービスデザインを実践的に学ぶ」ことをテーマに採用に直結させない育成機会を学生向けに提供し始めています。
例えばデザインビギナー向けワークショップとして、ポートフォリオ不要で応募可能な「Delight U」というサービスデザインやモノづくりの楽しさに触れられるプログラムを開催しています。
また、多摩美術大学や芝浦工業大学の学生に向けた産学連携プロジェクトとして「サービスデザイン実践プロジェクト」を開催するなど新卒採用という垣根を越えて施策に取り組んできました。
このような採用に直結させず「サービスデザインを実践できる人を増やしていく」ことを目的とした施策に取り組むのは2つの理由があります。
私もDeNAに新卒で入社した一人です。所属していた多摩美術大学のオープンキャンパスにて、DeNAの産学連携プロジェクトの内容が展示されていたことをきっかけに会社に興味を持ちました。美大でデザインを学んでいた身として、DeNAのサービスデザインは新鮮で「めちゃくちゃ面白い」と感動したことを覚えています。
自分たちの暮らしをよりよくするためのサービスデザインという考え方について、実践的な教育を受けられる場は不足しています。デザインを専門としている大学でもなかなか学びづらいのが現状です。
私はDeNAに入社してからも、事業会社の立場から学生に対して実践的な教育機会を届けていけるようにしたいと思い、新卒サマーインターンのメンターやコアメンバーとして1年目から活動したり出身大学に対して講義をさせてもらうことを続けていました。
その中で新卒採用を担当している人事の方からも、新卒社員視点での意見が欲しいということで新卒採用戦略や施策についてよく相談をいただくようになっていきました。私としてももっと新卒学生に向けて広くサービスデザインを学べる機会をつくっていきたいと思い始めていました。
このような想いが、時代やDeNAとしての採用戦略の文脈とうまく合致したのが2025年でした。
2025年の新卒採用戦略について人事とディスカッションしている際に、すでに早いタイミングでデザインにチャレンジしている方だけでなく、潜在的に興味を持っている学生とも取り組める施策は無いか?という話になりました。
昨今の新卒採用環境は一部のすでにデザイン経験豊富な学生を各社が求めていて、多くの学生はサマーインターンの選考に通らなかったりするのが現実です。企業としても限られたリソースの中で、自社の採用ターゲットに合致する学生に対して相互理解を深めながら一人ひとり丁寧に選考を進める形になっているので、施策の対象を広げたりするキャパシティも不足している状況ではないかと思います。
2025年からのDeNAの新卒採用戦略ではここに疑いを持ちました。
DeNAではもともと単純なモノづくりの力というよりも「デザインで事業をリードする力」を重視しています。その力を持っている人を採用するならば、美大出身者だけでなく総合大出身の方やエンジニアリングを学んでいる方とも幅広くお会いできる機会を作りたいと考えました。
世の中を見渡すと、デザインを学ぶ機会が不足しているだけで素養やモチベーションも充分にある方が多くいます。実際にDeNAには総合大出身でデザイナーとして入社し、後にマネージャーにまで成長した前例がいくつもあります。
合同説明会やサマーインターンなどの施策も重要ですが、より多くの学生とお会いさせていただき「育てる」施策も合わせて実施することで、意欲や素養のある方を常に採用し続けることができます。
これは組織としてキャリアパスが明確になっていていくつも前例があるDeNAだからこそできることで、学生に平等に機会提供することにもつながるため私たちがやるべき取り組みだと考えました。
新卒学生向け育成プログラムを提供することを決めた後は、何を育成すべきなのかを考えました。
プログラムの設計方針としては、サービスデザインの実践機会を通して「ユーザー主語で課題を捉える」「世界観を描き伝える」「使ってもらえるサービスへと改善する」といった力を伸ばすことを重視しています。
今の学生はデザインのフレームワークや知識にはアクセスしやすくなった一方で「ユーザー主語になる・深い課題を見抜く」といったこだわりのような部分はまだまだ弱い方が多いと思います。
AIの登場によってなんとなく良いアウトプットをつくることやフレームワークでの整理などは誰でもできるようになっていくはず。そうなるとモノづくりの力だけでなく、こだわりや世界観という実践の中でしか磨きづらい力を伸ばす機会を企業側が提供していくことに価値があるのではないかと考えています。
ここからはDeNAの新卒学生向け育成機会の設計について、2025年に開催した「Delight U」と「芝浦工業大学とのサービスデザイン演習」を例に説明します。
ちなみにこれらの機会はすべてDeNAの若手メンバーが中心となって企画しています。学生に近い存在の若手デザイナーが企画・運営をすることで、学生からも一歩先の目標のようなものができるだろうと考えています。
新卒育成施策においては、基本的には意欲があれば参加の受け皿を広く持つことを基本方針としています。
デザインビギナー向けのワークショップ「Delight U」では、ポートフォリオの提出を不要とする代わりに、応募時に「デザインに賭ける想い」を文章で提出してもらいました。
モノづくりへの強い意欲さえあれば適切なインプットや実践の環境があれば成長するはずだと考えて、最初の想いの部分を確認しています。
プログラムは「実践的な課題」「現場の基準を学べるインプット」で構成しています。
例えば芝浦工業大学とのプログラムでは全7回の演習を以下のような形で段階を分けて設計しました。
まずはじめにプログラム全体で取り組む課題を設定します。芝浦工業大学とのプログラムでは「親世代の日常生活のネガティブを解決 or ポジティブを促進するサービス」というお題を置きました。
普段のサマーインターンではより学生の馴染みがある「大学生向けアプリ」などをお題にすることが多かったのですが、今回はユーザー主語で考える力を磨いてもらいたかったのであえて馴染みのない対象に対して想像を膨らませる必要があるテーマを設定しています。
テーマには「AIを活用したサービス」ということも記載していますが、AIはあくまで手段なので検討した結果「AIじゃなくてもよいのでは?」という判断をするのも歓迎しています。
各演習の最初には、実際にDeNAの中で事業をリードするデザイナーからのインプットを設けています。
企画方法、プロトタイピングの手法、ユーザーインタビューや検証の回し方、サービスブランディングなど、ただつくるだけでなく実際に企業の中でサービスをリリースしていくためのプロセスを一通り学べるような構成にしました。
インプットでは、理論と実例をセットで伝えることを意識しています。理論を一つ知るだけでも演習を終えてから持ち帰ってもらい成長材料にしてもらえるので絶対に紹介するようにしていて、それに合わせて実例を知ることで「企業ではこの基準で動いているんだ」ということをリアルに感じてもらえるようにしました。
インプットをもとにプロトタイプをつくり、ユーザーやメンターからのフィードバックをもとに改善を繰り返します。
ここでは手を動かすことよりも、何度も完成形にフィードバックをもらって壊すプロセスを重視しました。v0やGeminiなどのツールですぐにアイデアをプロトタイピングをする手順を伝え、とにかく早く自分が理想と思うアウトプットをユーザーにぶつけてみて想定通りにいかない体験を繰り返してもらえるようにしています。
例えば1回目と2回目の演習の間では「絶対1人はユーザーインタビューをしてきて」と伝えたり、3回目でv0プロトタイプの方法を学んだあとは「実際のプロダクトをユーザーに当ててきて反応を回収してくる」ことをおすすめしたりと、「仮説が違うかも?」と早く気づけるようにしてもらいました。
以前のサマーインターンでは設計やビジュアルのつくり込みに主な時間を使い検証はあまり行えないことが多かったです。一方今回はAIをうまく使うことで、折り返しとなる中間発表ではすでに動くものがありました。
仮説段階ではメンターではなかなかキャッチアップしきれなかった体験イメージも、動くものを提示してもらえることでより学生が描いているもののイメージを精度高くキャッチアップできるようになり、FBコミュニケーションもお互いにしやすかったです。そしてその後の磨き込みにより多くの時間を使えるようになります。
全7回のプログラムは最初のアウトプットが出てくる4回目くらいまでは事前にアウトラインは決めておきつつ、その後は参加者の検証状況を見ながら柔軟に調整しています。
本当は「サービスをMVPでリリースした後のプロダクトロードマップの設計」などもインプットできる方が良いと思っていたのですが、詰め込み過ぎて最終的な発表機会に間に合わないとなるよりは、期間内でしっかりアウトプットまで進めることを重視して今回は省略しました。
ぐるぐる検証を回していくなかで「どうすれば良いか」と悩み試行錯誤することが大事なので、後半では学生ごとに対応をチューニングしつつメンターとの対話やこれまでのプロセスを再度実施するような流れを踏んでもらいました。
プログラムを通してDeNAのデザイナーが学生をサポートします。結局課題やソリューションについていくら議論をしてもユーザーにぶつけてみて反応を回収するまでは仮説でしかないのであくまでメンターも正解は知らない前提で臨みます。
例えば学生から「こういうアイデアがあって」と相談された時に、メンターとして「それは40代の方ではなく20代の学生の感覚なのではないかな」と違和感を持ったとしてもまるっきり違うよねと言うのではなく、「他のインサイトもあるのでは」「考えてるパターンを全部言語化してみて、もし仮説が違っても対応できるようにしてみたら」と、発想を広げるようなサポートをするイメージです。
検証をショートカットできるプロセスのインプットもメンターから惜しみなく共有します。前述した各演習のインプット機会でも「AIでのプロトタイピング手法」「サービスリリース時のブランディング」などDeNAのデザイナーが最前線で行っている基準や具体知見を伝えるようにしています。
全7回にわたる芝浦工業大学とのプログラムを通して、実際にユーザーからの反応も良いアウトプットがいくつも生まれました。
当初の仮説から大きく変わったものも多く、検証をぐるぐると回す中でユーザーの目線に近づけていく実践的なモノづくりのプロセスがうまく進められたのではないかと思います。
参加してくれた学生や、今回依頼いただいた教授からも成長につながった満足の声をもらっています。企業の中での実践的な知見を吸収しながら使われるモノづくりをしていくプログラムは刺激的で、今後のキャリアイメージも更新されているようでした。
プログラムの設計では「これからAIというツールがスタンダードになったとしても、デザイナーとして何ができるのかを掴んでもらう」ということを意識していました。
AIが普及してモノづくりがしやすくなっていった先にも、モノをつくりきりユーザーの暮らしを良くするためのプロセスをすべて担える可能性をデザイナーは秘めています。そのために、デザインの力の使いどころやお作法を知って自分の実績になるものをつくってもらいたいという思いでプログラムを運営していたので、うまく結果につながって良かったなと思っています。
冒頭で述べたように、この取り組みがすぐに採用に直結するかどうかは分かりません。それでも一本釣りの採用施策だけでなく育成施策を続けることは必ず資産になりますし、例えば新卒で入ってもらえなくても何度もDeNAの考え方に触れてもらうことで数年後に第二新卒や中途として応募してもらうこともいずれ起こるだろうと考えています。
なので続けていくことが大切です。
これが2025年からDeNA DESIGNが取り組み始めている「新卒育成」という新しいチャレンジについての現在地です。
私自身、美術大学にゲームクリエイターを志望して入学しました。ただ、入学後に自分自身より絵がすごく上手な同級生がたくさんいた中でどうしても自分に自信が持てなくなったのです。それと同時に、移民であるバックグラウンドから「同じ境遇にいる人をエンパワメントしたりより豊かな社会になるような貢献をしていきたい」「目の前の困っている人を手助けするためにデザインする方がモチベーションになる」ということにも気づきました。
そこでDeNAのデザイナーが産学連携プロジェクトで大学にいらしてくださり、それをきっかけとして「ユーザー視点や顧客視点」という使い手を中心とするサービスデザインという考え方に出会えたことで人生が大きく変わりました。
私と同じようにサービスデザインに出会う機会をよりもっと多くの人に届けていきたいと思いますし、学べる機会は誰にでも得られるようにすべきものだと思います。
サービスデザインというのは人の暮らしをより良くするためのモノづくりの力です。これは特別なスキルではなくちゃんと学ぶ機会さえあれば本来はみんなができることだと考えています。そして、広義な意味でのデザインに理解のある作り手が増えていければ世の中はもっと豊かに、クリエイティブに満ちていくと私は信じています。
「デザインが好きで自分で形にしたい」という意欲がある人に対してデザインの実践的な力を学べる機会をオープンに届けていくことは、これまでユーザー視点とともにサービスデザインによって事業を育ててきたDeNAだからこそできることです。
実践的な場の中でデザインワークを行っている事業会社とそのデザイン組織が「育てる」プロセスを担うことは、より多様な学習機会を創出し実社会に即したデザインの解像度を高めていくことに他なりません。
事業を通じて人を、そして社会を豊かにしていく。そんなデザインの本質を、私たちは「育成」というアプローチから体現し、社会全体にデザインの力が波及していく未来にこれからも貢献していきます。

