AI不動産投資のRENOSYで、不動産売却サービスのプロダクトデザインを担当している桑原と酒井です。
私たちは、2024年に提供開始した投資用不動産オーナー向け機能「かんたんネット売却」のリリース直後から、改善に携わってきました。
単に要望に応えるのではなく、定量・定性データをもとにインサイト起点で改善を重ねた結果、主要導線の数値向上や売上増加にも大きく寄与する成果を得ることができました。
新規リリース直後の機能やプロダクトは、最初から最適な体験ができあがっていることはほとんどありません。むしろ、運用しながらユーザーの行動や声をもとに改善することが前提になります。
今回は、「かんたんネット売却」の改善プロセスを例に、リリース後の初期グロースを支えるためにデザイナーとして取り組んできたことをまとめたいと思います。
RENOSYの売却サービスは、AIや不動産売却専門のコンサルタント、デジタルを活用することで、どんな物件でも、手間ゼロで、より手残り多く売却できることを特徴としています。
その中で、2024年に提供を開始した機能が「かんたんネット売却」です。その名の通り、投資用不動産の売り出しから売買契約までをネット上で完結できる機能です。
従来の不動産売却では、対面での価格交渉や煩雑な事務手続きが必要でしたが、「かんたんネット売却」はそうした負担を減らし、手間なく、自分のペースで、より高く売り始めたいというニーズに応えるために開発されました。
私たちは、この機能のリリース後からプロジェクトに参画し、運用フェーズにおける機能改善に携わることになります。
特に注力していた指標の一つが、「かんたんネット売却経由」での売り出しの申し込み数です。
不動産投資プラットフォームとしての特性上、まずは物件を売り出していただかなければ、その後の成約にはつながりません。加えて、「オンラインで、手間なく」を特徴とする機能である以上、その価値を実感したうえで、いかに売り出しを始めていただけるかは、非常に重要な指標の一つでした。
その中で、私たちは特に以下2つの改善に注力してきました。いずれも、この機能を使い始めるうえでの主要導線です。
価値を伝える「サービスページ」
売り出し手続きを行う「申し込みフォーム」
改善を進めるにあたっては、インサイトに基づいた設計によって、数値向上と顧客体験が両立することを重視していました。
特に不動産売却という領域は、意思決定のハードルが高く、ユーザーの属性や状況も多様です。そのため、(不動産売却を実際に経験したことがない)自分の感覚だけで体験の良し悪しを判断してしまうと、ユーザーの行動や心理とのズレが生じやすいです。
一方で、不動産領域はまだデジタル化が十分に進んでおらず、プロダクトによって価値を生み出せる余地が大きい領域でもあります。だからこそ、ユーザーの実態を正しく捉えたうえで改善を進めることが重要だと考えています。
そのため、まずは定量・定性の両面から一次情報を収集し、デザイナー自身も課題特定・施策提案を積極的に行いながら、数値向上に貢献していくことを心がけていました。
ここからは、この考え方のもとで進めた具体的な取り組みとして、「サービスページの改善」と「申し込みフォームの改善」の2つを紹介します。
まずは、売却サービスのマイページ内で表示されるサービスページの改善についてです。
売却サービスのユーザーにとっては、「かんたんネット売却」への入口となるページです。
リリース当初は顧客の利用実績がまだないため、どうしても情報構成が簡素になりやすく、訴求も十分に磨き込みきれていないケースが多くあります。そのため、定性・定量の根拠をもとに、訴求やトーンを見直しながら改善していくことが重要だと考えています。
「かんたんネット売却」では毎月、利用者・非利用者双方へのアンケート調査を実施しており、適宜インタビューも行っています。
まずはそれらの一次情報を収集・整理しながらPdMと議論を重ね、提供価値や訴求軸の見直しを進めていきました。
具体的には、メインコピーをはじめとした訴求軸を大きく見直しました。
もともとは「かんたんに売り出せる」ことを訴求していましたが、調査を通じて、それ以上に「損をせず、納得のいく価格で売りたい」が強いインサイトとして存在していることが分かりました。
そこで、「もっと自由に」「手残り多い売却を」といった、ユーザーが最終的に得られる価値にフォーカスした訴求へとシフトし、サービスの魅力を再定義しました。
また、Clarityのヒートマップやレコーディングを活用し、約100人分の閲覧行動を観察。PdMとともに、見られている要素や読み飛ばされている要素、CTAに至るまでの動線を確認していきました。
そこで得られた発見を、先述の訴求軸やアンケートなどの定性情報と照らし合わせながら、さらにデザインの見直しを進めていきました。
例えば、サービスの他社優位性をより明確に伝える工夫を行いました。
ユーザーは「媒介契約を結んだあと、本当にきちんと動いてくれるのか」といった、不透明な売却活動に対して不信感を抱いていることが分かっていたためです。
そこで、「攻めの売却(法人提案)」や「マイページでの進捗共有」といった、他社にはない具体的な取り組みを可視化することで、「ここなら有利に売却できそうだ」という確信を持ってもらえるような内容を追加しました。
また、ユーザーの納得感を高めるために、成功事例を提示する工夫も行いました。
サービスの説明やスペック(優位性)だけでは、「自分の物件も同じように売れるのか」という具体的なイメージを持ちづらいという課題があったためです。
そこで、口コミや利用者の成功事例を追加し、自分に近い属性の体験に触れてもらうことで、「これなら自分もいける」「自分にとっても最適なサービスだ」という直感的な納得感を醸成し、コンバージョンへの心理的ハードルを下げるような設計にしました。
このような改善を繰り返したことで、サービスページ経由のCTAクリック率は約1.3倍、CVRも約1.35倍に向上。売上としても大きな向上につながる結果となりました。
次に、申し込みフォームの改善についてです。前述のサービスページに続く導線であり、不動産の売り出しに必要な情報入力や手続きを行うためのフォームです。
改善にあたっては、データ計測やインタビューを通じた仮説検証をもとに、ボトルネックの特定と解消のサイクルを何度も繰り返していきました。
まず行ったのは、フォーム全体のUIの見直しと、数値計測の基盤整備です。
初期段階のフォームは画面遷移の数が多く、ユーザーにとって負荷を感じやすい構成になっていました。また、この時点では数値計測の基盤も十分に整っておらず、根拠を持った課題特定や施策立案がしづらい状況でした。
そこでまずは、全体の流れをよりコンパクトに感じられる構成へと再設計し、ユーザーテストを複数回行いながら改善を進めていきました。
あわせて、各ステップでの遷移率や離脱率を確認できるよう、Looker Studioを用いて数値計測の基盤を整えました。
その結果、「タスクが多く感じることによる離脱」が減少し、申し込み数の増加につながりました。
計測基盤が整ったことで、ボトルネックがより明確に見えるようになりました。
具体的には、価格設定ページへの流入はある一方で、実際に価格を設定して次に進むユーザーが大きく減っていることが分かりました。そこから、「いくらで売り出せばよいかわからない」という迷いによって離脱が起きていると考えました。
そこで、「価格設定の判断材料となる参考情報が必要」だと考え、RENOSYで提供しているAI査定機能による査定金額をフォーム内にも表示する改善を行いました。
その結果、価格設定における判断材料の不足という課題を解消できたことで、価格設定ページでの離脱を減らし、次のステップへの遷移率を大きく改善することができました。
次に見えてきたボトルネックが、本人確認フェーズでした。
本人確認はスキップ可能でしたが、その後の媒介契約に関する情報入力時には現住所を入力していただく必要があり、その画面に運転免許証のイラストを添えていました。
しかし、本人確認をスキップしたにもかかわらず、その後に免許証のイラストが表示されることで、「スキップできていないのではないか」「バグなのではないか」と不信感を持たれるケースがありました。
そこで、細かな変更ではありますが、イラストの見直しに加え、「契約書作成にはオーナー様の現住所が必要である」という背景を丁寧に伝えるようにしました。
さらに、最後の「契約書を作成する」ボタンが押されないというボトルネックも判明しました。前のフェーズまでは入力を進めているにもかかわらず、最後の段階で離脱してしまう状態でした。
そこで、本人確認書類の提出フェーズと契約書作成依頼フェーズを統合し、ユーザーにとっての分断感を減らしました。
「ここまで来たのに、さらに別の手続きがある」と感じさせないよう、最後の導線をシンプルに再設計した結果、前ステップからの完了率は約25%向上し、大きな改善につながりました。
このように、計測基盤の整備から始まり、ボトルネックの特定、施策立案、改善を繰り返していったことで、フォーム全体の歩留まりを段階的に改善することができました。
このようなプロダクト改善を継続的に行ってきたことで、各種数値目標を達成すると同時に、売上増加にも大きく貢献することができました。
デザイナーとして、単に依頼を受けてデザインをつくるだけでなく、根拠となるデータを自ら取りに行き、課題設定や施策立案まで含めてチームに働きかける動き方へと変えていけたことも、大きな要因だったと考えています。
「かんたんネット売却」で一定の成果を上げられたことを踏まえ、現在は売却プロダクト全体のカスタマージャーニーを整理しながら、顧客ロイヤリティをどう高めていくかという、より広い体験設計にも取り組んでいます。
不動産業界は、顧客体験におけるオンラインの比率が1%程度とも言われるほどアナログな業界です。また、価格帯の高さゆえに購入や売却を気軽に行えるものではなく、顧客体験も非常に長く複雑です。
そうした業界の中で、デジタルを活かした唯一無二の顧客体験を提供していくには、徹底した顧客分析を行い、インサイトを軸に改善を続けていくことが重要だと考えています。
これからも顧客体験とビジネス貢献を両立しながら、より良いサービスづくりを続けていきたいと思います。