みずほ銀行は、みずほダイレクトアプリを開発・運用しています。以前から提供していたアプリでしたが、2019年から大規模なリニューアルの推進を始めました。(2021年にはグッドデザイン賞も受賞しています。)

インターネット上で銀行機能を簡単に使いこなしていただくために、みずほ銀行ではダイレクトアプリ開発チーム(以下、開発チーム)を社内に置いて日々改善に取り組んでいます。

今回は、リニューアルから現在まで、開発チームで行ってきたプロダクト改善の全体像をお見せします。

みずほダイレクトアプリは、数百万人規模のお客さまにご利用いただいています。

そのため、アプリ内のレビューやフィードバックに限らず、全国の銀行店舗や、コンタクトセンターへのお問い合わせ、アンケートなどから、アプリに対する要望やフィードバックが日々寄せられてきます。

みずほダイレクトアプリには、数百万人規模での利用があり、お客さまからの要望やフィードバックが多数あがってくる

https://www.mizuhobank.co.jp/retail/mizuhoapp/bankingapp/index.html

しかし、様々な経路で集まるお客さまの声は、別々の部署で対応していたため、開発チームからは、ダイレクトアプリにどのようなご意見やご要望が集まっているのかが把握しづらくなり、お客さまの声をプロダクトの改善に活用することも行いづらい状態でした。

お客さまの声は様々な経路で集まり、別々の部署で対応していたため、開発チームにみずほダイレクトアプリ改善のためのご意見やご要望が共有されづらい

結果として、2019年までのApp Storeのレビューは「1.5」と非常に低く、この状況を脱するためにリニューアルプロジェクトが立ち上がりました。

開発チームで、みずほダイレクトアプリの大幅なリニューアルと、定常的な改善に取り組み始めました。

みずほダイレクトアプリの改善に向けた動き方

1. 理想像から逆算して、新しい機能を検証
2. お客さまの声を活かした、継続的な改善

当初は、みずほダイレクトアプリのリリースから時間も経っており、他行と比べても、機能面・デザイン面も陳腐化したものとなってしまっていました。一方、この10年間でデジタル化が進み、お客さまの銀行アプリに対する期待値も急激に上昇していました。

そのため初期は、銀行のアプリとして必要とされる基本的な取引に関する機能を用意するため、「理想像を描いて新しい機能をつくる」活動の比重を大きくしていました。

そこから改善を繰り返す中で徐々に機能が揃っていき、現在では「お客さまの声を活かし、日々機能を改善する」活動の比重が高まってきています。

2019年から2022年にかけて実施したアプリリニューアルでは、そもそもアプリがお客さまからどう求められていて、どのような方向に進んでいくべきなのか?というところを知るために、「理想像を描いて、逆算しながら検証し、新しい機能をつくる」ことに重きを置いていました。

なお、立ち上げ当初の開発チーム内のメンバーは、プロダクト開発のためのリサーチのスキルや知見を持っていなかったため、外部パートナーを活用しながら進めました。

具体的には、以下の2ステップで検証を行いました。

  • みずほ銀行が描く理想像に対するユーザーヒアリング

  • 使い心地を確かめるユーザーテスト

まず、お客さまがみずほダイレクトアプリに求める目的を事前に仮説としてまとめ、それを持ってユーザーヒアリングを行います。

140以上の機能アイデアを出したうえで、5つの方向性として抽象化。それらを現在から将来までに、どのような順序で取り組んでいくのか整理しました。

ユーザーヒアリング前に準備していた、お客さまがみずほダイレクトアプリに求める機能の方向性を整理した図のイメージ (簡略化したもの)

ヒアリングは8名のユーザーに実施。「みずほダイレクトアプリに何を期待していますか?」とオープンに聞きながら、仮説との差分を検証していきました。

次に、ユーザーヒアリングから得られた学びをプロトタイプに落とし込んで、その使い心地をたしかめるためにユーザーテストを行いました。

ヒアリングを経て、お客さまの目的を捉えたプロトタイプを用意

プロトタイプをお客さまに触ってもらい、その様子を観察して、ユーザビリティを調査

ユーザーテストの結果は、画面ごとに、それぞれのユーザーの評価をまとめていきました。お客さまが求める目的がスムーズに達成できているか、お客さまがどこで戸惑い、何に迷うのか、どういう文言だと分かりにくいのか等を整理し、評価が高いものを実装していきます。

調査結果に対する各ユーザーの評価を画面ごとにまとめ、どの方向性が正しいのか整理し、評価が高いものは実装していく

結果的に、アプリリニューアルでは、抜本的なUIUX変更に合わせて、収支レポート機能、その後も投資信託への導線改善のような機能が新たに実装されています。

実際にリリースされた新機能の一例「投資信託への導線改善」「収支レポート」

これらはお客さまの声をもとに進められたことで、ステークホルダーも多い中でも手戻りなくリリースすることができました。

2022年のリニューアル後もアプリのアップデートを続けていった結果、アクティブユーザーが増加し、App Storeでのレビューも向上してきたため、さらに継続的な改善に取り組むための開発プロセスの見直しを始めました。

具体的には、以下のようなことに取り組んでいます。

  • お客さまの声からインサイトを抽出

  • インサイトを活用して改善案を立てる

  • 開発難易度に合わせて開発プロセスを変更

継続的なプロダクト改善のために、各所に寄せられるお客さまの声を一ヵ所に統合することで、お客さまのニーズをインサイトとして抽出し、プロダクト改善につなげることに取り組んでいます。

お客さまの声を一ヵ所に統合、インサイトとして抽出して、プロダクト改善につなげる

具体的な仕組みとしては、お客さまの声を一括して管理できるデータベースを作成・活用しています。

お客さまの声を一括して管理できるデータベースのイメージ
収集、分析、活用まで一貫して行えるVoC (Voice of Customer) ツール

日々多くの声が集まるみずほダイレクトアプリでは、情報が点在していると開発の優先度がつけづらくなってしまうため、このような仕組みでお客さまの声を集め、統合し、活用できるようにすることが重要です。

集まっているご意見やご要望は、あくまで一部のお客さまの声であり、それ以外にも多くのお客さまがおられることを前提としています。声をいただいていないお客さまのことも想像しながらインサイトは抽出しています。

集めたインサイトを分析し、改善案を設計し、開発を進めていきます。

みずほダイレクトアプリでは「ウォーターフォール型開発」「デザインスプリント」の2種類の開発プロセスを使い分けることで、確実に、かつ素早い改善を実現しています。

インサイトを活用して、開発プロセスも柔軟に使い分ける

みずほダイレクトアプリは決済機能を提供するサービスなので、一定以上の規模の銀行取引への影響等を考慮し、リスクを見極めた上で進められるウォーターフォール型開発を中心としています。

一方で、改善箇所が小規模で留まりそうなUIやUXに関する改善案は、デザインスプリントでスピーディーに検証してから開発に乗せるようにしています。

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以前はウォーターフォール型だけでしたが、現在はこのように開発プロセスを使い分けており、インサイトに対応して柔軟に改善が行えるようになっています。

何度もアップデートを重ねる中で、みずほダイレクトアプリのアクティブユーザーは約2倍に増加しています。また、アプリのレビューは、リニューアル前後で1.5 → 4.5まで改善しました。

ただ、開発チームでは、アプリに対して更なる改善を繰り返す必要があると考えています。

それは、みずほ銀行が提供するサービスは、社会のインフラとして、すべてのお客さまから当たり前に使われ続けられるものをめざしているためです。

今後も、顕在化した課題の解決だけでなく、お客さまが毎日利用される際に感じる些細な体験の改善をするため、細部までこだわった体験設計を行い、日々改善に努めていきます。

これからも、お客さまの声を活用したサービスづくりに取り組んでいきます。