みずほ銀行のデザイン組織では、立ち上げと同時に「育成」にも取り組んでいます。

これは、単純にデザイン組織のリソースを増やそうという目的だけでなく、数年後の「みずほ全体に、デザインが浸透している状態」を見据えて、組織全体にデザインを扱える人を増やしていく目線で取り組んでいるのが、特徴と言えるかもしれません。

みずほ銀行デザイン組織では、立ち上げと同時に「育成」に投資

具体的に行っている「デザインチーム内の育成施策」「全社に向けた兼業制度」の2つを例にまとめてみます。

みずほのデザイン組織では、立ち上げと同時に「育成」にも注力。デザインチーム内に向けた制度と、デザイン職種以外のみずほの全行員に向けた制度の、2つのしくみを用意しています。

デザインチーム内に向けた制度と、デザイン職種以外のみずほの全行員に向けた制度の2つを用意

上記のように、初期のデザイン組織でありながら「育成」に投資していく必要があるのは、2つの理由があります。

みずほ銀行のデザイン組織である、UXUIチームの理想は「みずほ銀行にデザインという文化が浸透している状態をつくること」です。UXUIチームは、2021年の立ち上げ以降、影響範囲も順調に、確実に拡張しています。

UXUIチームの変遷

ただ、みずほには非常に広い事業領域があります。UXUIチームだけがデザインを扱う構造で、みずほ全体にデザインが浸透していくことは現実的ではありません。

UXUIチームだけではカバーしきれないほど広い事業領域

みずほでは、定期的に人事異動があり、PMや企画担当メンバーは数年おきに入れ替わっていきます。

デザインの浸透という観点では、UXUIチームというデザイン部署だけを拡大していく未来よりも、チーム外も含めてデザインを活用できる人材が増えていき、全部署に行き渡っていくような未来の方が人事制度ともマッチしているのでは考えています。

UXUIチームと、デザインに理解のある社員が、みずほ全体の部署に行き渡っていくのが「みずほ銀行にデザインが浸透している状態」

みずほのUXUIチーム立ち上げの際、「この1年ではなく、少なくとも3年〜5年先の状態に向けて動く」ことを決めました。

少なくとも数年先までの目線を持たなければ、巨大なみずほという組織の中で、デザインに特化した部隊を持つ意義が生まれづらいためです。

「みずほ全体にデザインという文化が浸透している状態」をつくるためには、採用を頑張る、事業を頑張る、という話だけでなく、数年後の「みずほ全体にデザインを扱える人材が広がっている」状態にするための投資も立ち上げ時から行うことが必要だと考え、初めから育成施策に取り組みはじめました。

立ち上げ時から、採用や事業など短期的な「成長」と同時に、数年後に向けた長期的な「投資」をはじめた

具体的には「UXUIチーム内のデザイナーがより専門性を拡張していけるような育成支援」と、「全社で希望する人が一時的にUXUIチームにも所属できる兼務の仕組み」の2つを動かしています。

UXUIチームの「育成」のしくみ

それぞれ、具体的に行っていることをまとめます。

UXUIチーム内のデザイナーに向けた育成施策は、この数年でアップデートを繰り返してきました。現在は「スキルマップをもとに成長課題を可視化」し、そこに合わせて「OJT, OffJTを組み合わせた育成機会」を用意しています。

UXUIチーム内に向けた育成施策

まずは、スキルマップと目標管理シートを作成し、現状できていることと、できていないことをスキルマップをもとに分析できるようにしました。

スキルマップをもとに、個々人の成長課題を可視化している

ディレクターにその結果を共有することで、自身が伸ばしたいスキルとあった案件に積極的にアサインができるようにしています。  

個々人の成長課題を明確にした上で、各人の成長課題にできるだけ合うような案件にアサインするようにチームを運営しています。

例えば、以下のように、成長課題に対して、数ヶ月間どのような項目に取り組み、どう成長したいのかを整理します。さらに、それらの目標を達成できるように、みずほでの実案件で「OJT」を行えるようアサインをします。

成長課題に合うように、少しストレッチな実案件にアサイン

ただ、例えば「情報設計」など、上流のスキル向上を目指す時に、チームの取り組んでいる案件にタイミングよく情報設計を行う案件がない場合もあります。

また、みずほの案件はステークホルダーも非常に多く、メンバーのスキルや経験によっては難易度が高すぎることもあります。

そこで、アドバイザーのgood inc.さんに協力してもらい、社外の実案件を活用した「OffJT」の機会も用意しています。good inc.さんが実際に取り組んでいる実案件を、UXUIチームのメンバーを巻き込んでもらう形式で進めています。

good inc.さんが取り組む案件を活用して、研修機会を用意してもらう「OffJT」

これらの「OJT」「OffJT」は、メンバーにとっては少しストレッチな成長機会となります。

ただ、ここについてもアドバイザーのgood Inc.さんにサポートしてもらい、チャレンジングな業務でもレビューをもらいながら進めることができるようにしており、充実した成長環境をUXUIチームの中で用意することができています。

アドバイザーのgood Inc. の関口さんからのコメント

全社に向けて、UXUIチームで兼務できる仕組みも用意しています。

全社員に向けた兼務の制度

これは、みずほ銀行に元々ある社内兼業制度というものを活用して設計しました。この制度の本来の趣旨は、所属以外の部門で即戦力として活躍することなのですが、社内にデザインの即戦力は多くないため、UXUIチームでは育成の機会として活用しています。

目的は、即戦力のリソースを獲得することではなく、「デザインを理解したビジネスパーソン」が社内に増えていくこととしています。(すぐに即戦力となってもらわずとも、社内の各所にデザインを扱える人が増えていけば、結果的にデザインが浸透しやすくなることを意図しています。)

兼務の位置付け

兼務者には、研修のようなイメージで成長ロードマップを用意します。

兼務者向けの成長ロードマップ

また、兼務者は、基本的に期間が過ぎたら元の部署に戻るようになっています。

兼務者は、元の部署で培ったデザインノウハウを発揮いただくことになります。加えて、希望者はジョブチャレンジなどでデザイナーとしてのキャリアに挑戦することも可能になっています。

こういった社内兼業でのデザインに理解のある人材の育成に加え、通常業務を通した他部署との連携や、社内のスキル認定制度なども含め、さまざまなアプローチで、少しずつ社内に「デザインを理解したビジネスパーソン」が増えていくとイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。

兼務や育成によって、「デザインを理解したビジネスパーソン」が社内に増えていく

全体の育成施策の結果として、デザイナー、兼業を経験した社員の双方の良い効果が生まれ始めています。

例えば、UXUIチーム内のデザイナーも、OJTやOffJTを繰り返していくことで、少しずつスキル向上ができています。

UXUIチーム内のデザイナーの声

また、兼務を経験した方からも感想をいただいており、非常に意味のある機会になっているということを伝えていただいています。

兼務を経験した方からの声

みずほでのデザイン組織づくりは、数百人のデザイナーを束ねる大規模なデザイン部をつくるのではなく、デザインに知見を持った人がすべての部署にいる状態を目指しています。

我々UXUIチームはそのような未来をつくるための、みずほ銀行内でのデザイン機能の「触媒」としての役割を担っています。

UXUIチームは、デザイン文化を醸成するための「触媒」になる

大規模な組織のなかでデザインを活用できる状態にするまでに、困難なことは多いですが、今回のような取り組みによって少しずつ社内に協力者が増え、自分たちの影響範囲も広げていけるようになっています。

ここまでつくった土壌を活かして、より成果につなげていけるように取り組みを続けていきます。

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