ワンキャリアは新卒採用と中途採用の大きく2つの事業を運営しており、私たちは新卒事業におけるプロダクト戦略・開発を担う組織に所属しています。
2024年3月末、私たちは就活サイト「ONE CAREER」の会員登録機能のリニューアルを、新卒事業のプロダクト組織として推進しました。
事業的にも重要な機能での課題に対して、ユーザー体験と事業数値の向上を両立できるように進めた結果、KPIが約7倍向上するほどの成果を上げるとともに、このプロジェクトを皮切りに「良いユーザー体験が数字をつくる」という認識が社内でさらに広まり、プロダクト組織に対する社内からの信頼も大きく高まりました。
リニューアルのプロセスを振り返りながら、どのようにユーザー体験と事業数値の向上を両立できるように取り組んだかまとめたいと思います。
ワンキャリアでは「人の数だけ、キャリアをつくる。」をミッションに掲げ、個人・企業が仕事選びに関するあらゆるデータを利用できるプラットフォームを運営しています。
今回リニューアル対象としたのは、大学生向けの新卒採用メディア「ONE CAREER」における、会員登録機能です。
リニューアルのきっかけは、2024年1月当時、会員登録のUXがもとで、ユーザーからのお問い合わせが多く寄せられていたことです。
具体的には、ユーザーに対する就活支援サービスへの同時登録に関する会員登録時のアナウンスが不十分だった結果、「登録した覚えがないのにサービス提供企業から連絡が来る」といった不信感が生まれてしまっていました。 また、ONE CAREERで求人に応募できることやスカウトを受けられることも充分に訴求できておらず、機能の認知度が低い状態でした。
この不十分なUXはユーザー体験を毀損すると同時に、事業全体の伸長を阻害する要因としても解決が必要な課題でした。サービスに対する適切な認知が形成されていないことが、事業の成長率を伸ばしづらくし、マーケティング等の他の施策にかかるコストを増大させるリスクがあったのです。
このような課題を解決する手段として今回のリニューアルを検討し始めたのですが、ビジネスモデル上、会員登録フォームの特定項目の入力率が1%下がるだけでも事業に大きな影響を及ぼすため、ユーザー体験の向上と数値の改善を確実に両立させる必要がありました。 また、4月以降から就活生の動きがピークを迎えるため、3月中にリニューアルをリリースできていなければ大きな機会損失が生まれてしまいます。プロジェクトの起案が2024年1月中旬であったため、タイムリミットは約2ヶ月。スピード感を持った進行も重要でした。
こうした背景をもとに、まずは約1週間で課題と目標の明確化、体験と仕様のBefore・Afterの設計、プロトタイプの作成を行っていきました。
プロダクトチーム内での細かなすり合わせの後、経営会議でプロジェクトの方針への合意形成を行い、少数精鋭のチームを組成して進めていきました。
議論にあたっては、ユーザー・事業・経営の3つの視点のバランスを取り、「三方よし」を実現できる方針であるかどうかを常に意識しながら明確な目標に落とし込むようにしていました。
今回のプロジェクトを進行する上で重視していたのが、プロトタイプによるデモです。
実はこれまで、経営会議にプロトタイプを持ち込んで提案することはあまりありませんでした。しかし、ユーザー体験がどう良くなるかが重要な論点であり、その論点に対して経営と現場で同じ景色を見て意思決定できることが必要だと考え、プロトタイプによるデモを実施しました。
結果として、「これからつくるものの価値」を正しく社内で共有でき、この方針でプロジェクトを進めることをスピーディーに合意することができました。
また、プロジェクト進行においては、インタビューをはじめとするユーザーリサーチを徹底しつつ、最大限スピーディーに進めることを意識していました。その理由は、以下の通りです。
画面数や構成、トンマナも大きく変わる中で、プロフィール入力率やスカウト利用率といったKPIが本当に向上するかを検証する必要があった
売上に直結する指標に1%でもマイナスの影響が出ないか、慎重に見極める必要があった
3月中のリリースという期限が明確で手戻りが許されないため、不確実性を可能な限り早い段階で取り除く必要があった
アジャイル開発の基本として、早く出して数字を見ながら改善することが多いと思いますが、今回のリニューアルで1〜3をすべて満たすためには「最高に良いものを、最速で」リリースすることが求められました。
そこで、まずは前述のプロトタイプをベースに基盤となる開発を進めつつ、ユーザーインタビューを通じてデザインの改善を行いました。
インタビューは社内外で30名以上に対してスピーディーに実施しました。ワンキャリアには多くの学生インターンが所属しており、社内でユーザー層である学生に迅速にリサーチできるのです。 インタビューの目的は「リニューアル前後で、ユーザーの認知がどう変わったか」を明らかにすることでした。これまで就活の体験談やクチコミが見られるものとして認知されてきましたが、求人に応募できたりスカウトが受けられる媒体であるという新たな認知に変わるかどうか、つまり認知変容を起こせる設計となっているかが主な検証項目でした。
インタビュー前には、丁寧なオンボーディングフローにするため画面数や入力内容を増やしたことで、離脱率が高まったり、登録率が下がったりするのではないかという懸念がありました。しかし、実際にインタビューを行う中で、良い意味で期待が裏切られ、懸念していた離脱率や登録率の問題は起こりづらいことが分かりました。
このようなインタビュー結果を共有し合い、その結果をもとにメンバーでペアデザインを行いながら修正を加えるサイクルを細かく回すことで、当初の目的を果たせる設計へブラッシュアップしていきました。
リリース時には、段階的に新UIを提供するユーザーの割合を増やしていくカナリアリリースと呼ばれる手法を採用しました。具体的には、20%、50%、100%と、段階的に遷移率を引き上げていきました。
その意図は、リリース後の主要KPIの変動が不確実だったことと、その変動が事業に与える影響が非常に大きかったためです。 また、新UIへの遷移率を20%でリリースした直後から、データを継続的にモニタリングし、KPIの動向を経営陣を含めたメンバーにも共有。基準を満たした場合のみ、遷移率を引き上げる形で進めました。
結果としては、想定以上に良い推移が見られたため、当日中に遷移率を100%まで引き上げるとともに、一部エラーがあった箇所への対処や、数値向上を見込める箇所の改善を進めていきました。
このような過程を経て、2024年3月末に会員登録機能のリニューアルを公開しました。
その結果、会員登録の体験が改善され、スカウトサービスの利用率・プロフィール入力率など、目標としていたKPIを大幅に上回る効果を得られました。 また、ユーザーからのお問い合わせの数も激減しており、まさにユーザー体験と事業数値の向上につながったプロジェクトとなりました。
加えて、このプロジェクトを皮切りに「良いユーザー体験は数字をつくる」という認識が社内でさらに広まり、以下のように、プロダクト体験の良さを重視した取り組みや意思決定が増加しています。
機能開発に伴うリサーチの重要性が浸透し、各部門でのユーザーインタビュー頻度が増加
経営会議で、継続的にプロトタイプ(デモ)を基にした提案・意思決定がなされるようになった
このように、ひとつの施策で事業に対するインパクトを生み出すことや、それらを通して、プロダクト体験への投資の拡大が事業成果に繋がるというロジックを示してきたことによって、プロダクト組織に対する信頼や期待も高まっています。
ワンキャリアでは、「エンドユーザーファースト」をコアバリュー(創業以来大切にしてきた行動指針)の1つとして掲げています。
私たちが対価をいただくのは企業顧客からですが、最も大事にすべきなのはエンドユーザーであり、ワンキャリアを通して価値ある体験をエンドユーザーに届けられているかどうかを、常に考え抜く必要があります。
ただし、当然ながら顧客とエンドユーザーの二者に持続的に価値を提供するためには、会社としての利益も重要です。つまり、体験を軸としながらも、中長期的に利益を高める資産をつくるというアセット意識を強く持つことが大切です。
こうした体験と数字の両輪を、組織全体で同じ目線で常に意識できるようにしていくためには、今回のリニューアルのように、良いユーザー体験が数字をつくるという実績を積み重ね、そのアプローチを全社に惜しみなく広げていくことが重要だと考えています。
そして、これはワンキャリアのプロダクトに携わる私たちだからこそ、担うべき大切な役割だと思っています。