“これからの100年、新しい契約のかたち。” を掲げる、電子契約サービス「クラウドサイン」のデザイン組織は、プロダクトデザインチームとブランドデザインチームの2つに分かれています。

クラウドサインのデザイン組織の体制について。プロダクトデザインチームと、ブランドデザインチームに分かれて活動。

クラウドサインのブランドデザインチームでは、以下のようなことに取り組んでいる。
- ブランドアイデンティティの定義・浸透
- 制作物に落とし込むための、トンマナの浸透・更新
- 制約をあえて外す、制作プロセス

ブランドデザインチームは2020年に立ち上がり、現在も体制は拡大中です。

クラウドサインのブランドデザインチームの体制変遷について。
当初は、専任メンバーはおらず、プロダクトも含めて"デザインチーム"としてくくられていた。
そこから、2020年にブランドデザインの専任チームとして立ち上がり、2023年8月現在も拡大中。

なぜクラウドサインで、ブランドデザインチームが立ち上がったのか、その背景や、役割について、ブランドデザインチームで取り組んでいる活動の事例を出しながら、まとめてみます。

クラウドサインは、2015年の提供開始以来、企業や自治体などで幅広く導入されている、電子契約市場においてNo.1のサービスです。(※1) 

(※1) 株式会社富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場2021年版」(電子契約ツール2020年度実績)市場占有率より

そんなクラウドサインで、ブランドデザインチームが必要になったのは、大きく2つの理由があります。

  1. 案件の数や、制作に関わる人数が増えてきた
  2. 場当たり的で、再利用もしづらいクリエイティブ

2020年ごろまでは、マーケティングチームのみと関わることが多く、制作に関わる人数も少なかったため、ブランドデザインの専任メンバーを置く必要はありませんでした。

しかし、クラウドサインの事業成長に伴って、事業部全体でチームが増えてきたことから、案件の数が急拡大してきます。

クラウドサインの事業成長に伴って、案件の数が急拡大してきた
例えば、イベントのノベルティや、ホワイトペーパー、社内向けグッズなど、必要な制作物の幅も広がり、数も増えている

案件の増加に伴って、制作に関わる人数も増えていきます。例えば、外部のパートナーの方を巻き込む必要も出てきて、それまでのようにデザイナー間の阿吽の呼吸で何とか品質が保たれる、ということも難しくなってきました。

そのため、制作に関わる人が、クラウドサインらしさに共通認識を持てるようなものが必要になっていました。

案件の数が増えていった結果、各チームごとに発信したいメッセージが異なる場面が発生するようになったため、クリエイティブにも一貫性を持たせづらくなってしまっていました。

つくっていたクリエイティブに、一貫性を持たせづらくなってしまっていた

事業部全体で一貫したクリエイティブの基準を持ち、再現性を持たせられるところに、ちゃんと再現性を持たせていくことが必要だと考えていました。

そのような背景でクラウドサインのデザインチームは、2020年にプロダクトデザインチームと、ブランドデザインチームに分割されました。

ブランドデザインチームでは、まずはクラウドサインらしさに対してぶれない共通認識を持たせることが必要だと考え、クラウドサイン事業部全体を巻き込んで、ブランドアイデンティティを定義しました。

当時のプロジェクト開始時の資料
ぶれない共通認識をつくるため、ブランドアイデンティティを定義することを目指した

ブランドアイデンティティを定義するためのプロセスとして

  1. 全職種へのヒアリング

  2. ディスカッション

  3. ブランドアイデンティティプリズムにまとめる

という流れで進めていきました。

まず、事業メンバー全体へのアンケートを取り、全職種にヒアリングするところからはじめていきます。デザイナーや事業部長だけで決めると偏った目線になってしまうため、幅広い職種の目線からクラウドサインらしさについて回収しました。

ブランドアイデンティティ定義までのプロセスを振り返った資料より
幅広い職種に対してヒアリングをしていた

次に、ヒアリングの結果を踏まえて、ディスカッションを行いました。

マーケティング部・デザイナー・広報・事業部長が参加し、ブランドアイデンティティプリズムというフレームワークを使って、それぞれが思うクラウドサインらしさを可視化しながら意見交換を行いました。

ブランドアイデンティティプリズムとは、ブランド・アイデンティティの定義に必要な要素を、プリズム(六面体)の形で整理するフレームワークのことです。 参考: https://digital-marketing.guide/brand/brand-identity-prism/
ヒアリング結果を踏まえて、ディスカッションを行った時の様子

マーケティング部・デザイナー・広報・事業部長が参加し、ブランドアイデンティティプリズムをそれぞれ作成して、それをもとに意見交換を行なった。

ディスカッションを経て、クラウドサインとしてのブランドアイデンティティプリズムをまとめます。

ブランドアイデンティティプリズムに落とし込んだ

さらに、ブランドアイデンティティプリズムを全社に強く浸透させていくために、ブランドブックという資料をつくり、より具体的なことを記載しました。

全34ページにわたる、クラウドサインブランドブック

ブランドブックは、ブランドアイデンティティプリズムをより分かりやすく浸透させ、クラウドサインに関わる全てのアウトプットの世界観を統一するための指針、と位置付けています。

例えるなら、クラウドサインに関わる人にとっての憲法のようなものです。

ブランドブックの位置付けについて
ブランドアイデンティティプリズムを浸透し、アウトプットの世界観を統一するためのものと位置付けている

ブランドブックの対象は、クラウドサイン事業部に関わる全てのメンバーです。

例えば、ブランドアイデンティティプリズムの解説や、クラウドサインらしいコミュニケーションについてまとめたトーンオブボイス、ムードボードなど、具体的な活用イメージがつくようにまとめています。

ブランドブックの内容
そのままでは伝わりづらいブランドアイデンティティプリズムを、具体的に解説している

ブランドブックの内容
クラウドサインらしいコミュニケーションの基準をまとめた、トーンオブボイス (画像は一例)

ブランドブックの内容
新しくつくったムードボードと合わせて、どのような意図で決められているのかも明示した

ブランドブックは全メンバーが対象だったので、具体的な制作物のデザインのための情報は意図的に入れていませんでした。

ブランドデザインチームとして、デザイナーを対象に、より具体的なデザイン原則をまとめた “トンマナブック” もつくっています。

デザイナーを対象とした、クラウドサインにおけるデザイン原則をまとめたトンマナブック
カラー、装飾、テキスト、イラスト、アイコン、写真、についての現状の定義を載せている

内部のデザイナーだけでなく、外部の制作に関わるパートナーに対しても「これを見て制作してください」と言えるように、できるだけ具体的に項目をまとめています。

ブランドブックが憲法なら、トンマナブックは憲法をもとにつくられた法律のようなものです。そのため、必要ならばどんどん改訂していこう!という姿勢で、チームで更新し続けています。

カラー、装飾、テキストなどの観点から、細かく場面を切り分けて、迷いが生まれやすいポイントに対して目安としての基準を定めています。

トンマナブックの「カラー・色使い」に関する内容の一部
想定される制作物ごとに、配色の比率について目安を決めて、まとめている

トンマナブックの「装飾」に関する内容の一部
ブランドアイデンティティを踏まえて、角丸の使用は基本的には行わないよう定義。Webで使用するボタンについては例外的に、px数を指定して許容している。

トンマナブックの「イラスト」に関する内容の一部
イラストのトーンや、それを実現するための直線・曲線の使い分けについても定義している。

これらは一例で、他にも写真やアイコンなど、定義できそうなところはできるだけ具体的に定義してみています。

これらの定義を踏まえて、例えば広告などの比較的パターンが決まっている制作物は再現性を持ってつくれるようになってきています。

トンマナブックを踏まえて制作されている制作物のイメージ

あくまでトンマナブックは、ブランドを反映するならこういう定義なのでは?という現状解です。なので、違和感があったら、どんどん更新していきます。

クラウドサインでは、メンバーの大多数がトンマナブックに対する違和感を頻度高く投げてくれていて、毎日の朝会の共有タイムで改善を行っているため、かなり頻度高くトンマナブックの更新が行われています。

トンマナブックへの更新の声の一例。メンバーから積極的に、更新提案が行われている。

例えば、先日も、Webページ内でのドロップシャドウの使い方について、トンマナブックを更新しました。

更新の声を受けて、トンマナブックの内容を更新した例
Webページ内のドロップシャドウの使い方について、基準をつくった

トンマナブックのような原則は「変えられないもの」ではなく「メンバーそれぞれが違和感を持ったら定義し直せるもの」と伝わっていることも、ブランドが浸透するためのポイントなのかなと思っています。

トンマナをしっかりと定義している一方で、ここに囚われるのではなく、クラウドサインらしさや案件の目的を踏まえて、意図的に制約を外して “はしゃぐ” ことを意識して制作することもあります。

例えるなら、トンマナブックという法律に対して、新しい解釈を探っていくようなイメージです。いくつか、意図的に制約を外して制作した事例をまとめてみます。

2021年、クラウドサインとしてのこれからの方向を示すための新聞広告を出しました。

その時のキービジュアルは「これからの100年、新しい契約のかたち。」というタグラインに合わせて、青色中心のビジュアルではなく、北極星を目指す挑戦者としての姿勢を示したものに振り切っています。

新しいタグラインのキービジュアル

当初、タグラインだけ固まっていた状態から、制作がはじまりました。

そもそも案件の特性として、クラウドサインとしてのこれからの世界観を示すことが目的だったため、これまでのトンマナを踏まえたものだけでなく、思い切って変えてみたものまで並べて、アイデアを発散しています。

案件特性を踏まえて、トンマナを踏まえたものから、思い切って変えてみたものまで、幅広くアイデアを出す

事業を管掌している橘に見せてみたところ「一番心に残る」「人生が変わるようなインパクトを感じさせる」という理由で、最終的なクリエイティブのもとになる案が良いのでは?ということを言われました。

案件としても、クラウドサインのこれからを示すことが一番の目的だったので、既存のトンマナとは外したクリエイティブで進めることにしました。

2022年に、クラウドサインでやり取りされている契約書の件数が1000万件を超えたタイミングで、事業として社会への姿勢を改めて示す目的で、SDGsに取り組む「CloudSign for Planet」というプロジェクトを公開しました。

その時にも、これまでのトンマナとは大きく異なるクリエイティブを用意しています。

CloudSign for the Planetのキービジュアル

今回の案件では

  • 契約書の累計送信件数が1000万件を超えたタイミングで、世の中を変える挑戦者としてのスタンスを改めて示したい

  • 新しく出ていくものとして、無謀をやりたい

  • SDGsという活動が、格好いいものになるようにしたい

という、世の中に対して、クラウドサインの姿勢や世界観を押し出すことが、橘から求められていました。

このような案件の特性を踏まえて、以下のようなことを考えて、既存のトンマナとはあえて外したクリエイティブに落とし込んでいます。

  • クラウドサインとしての挑戦的な世界観を伝える

  • 新しいプロジェクトとして、既存のサービスとは異なる認知をつくる

  • SDGs、社会への貢献というテーマを重視して、柔らかい印象に

  • 地球や、自然などのモチーフを取り入れる

制作開始時点でのアイデア発散の様子
この時点ですでに、案件特性を踏まえ、既存のトンマナとはあえて外したものを出している

ブランドや、トンマナを誰でも扱えるように定義した一方で、本来グラフィックというものは自由なものだと思っています。

なので、ブランドデザイナーとしては、クラウドサインの見せ方として、トンマナブックを超えて、常に最適なものを選びたいという気持ちがあります。

「ここまではしゃいでいいのか」というものを作ることができれば、チームとしても表現の幅が広がっていきます。それはクラウドサインというブランドが広がるために必要なことです。

もしつくっている過程で止められるなら、「それはやりすぎなのでは」と言われたなら引っ込めれば良いので、ブランドを扱う人としてはやりすぎてもいいから楽しんで作りたいなと思っています。

クラウドサインのブランドデザインチームの役割は「原石を最高に輝くかたちに加工する」ことと定義しています。

事業を管轄している橘の想いをはじめ、社内には磨けば光る原石がゴロゴロ転がっています。

その原石を、ただそのまま翻訳して出すだけではなく、最高に輝くかたちになるよう議論しながら磨き上げ、まるで宝石のように加工して世の中に届けていくのが、クラウドサインにおけるブランドデザインの役割です。

ブランドデザインチームで定義した役割「原石を最高に輝くかたちに加工する」

クラウドサインではどんな立場の人もブランドをつくるアウトプットに関わっている、ということを明確に伝えています。

ブランドチームの役割は、それらの世界観を統一するための指針を示すことです。

ブランドブックの中で、メンバーがどのようにブランドに関わっているかを示した図
クラウドサインに関わる全てのメンバーが、ブランドをつくるためのアウトプットに関わることを伝えている

あとは、誰かがブランド番長みたいに名乗ってるわけではなく、デザイナー全員が当たり前のようにブランドを定義・更新しようとしているのも良いところだと思います。

そういう雰囲気をつくれているのも、チームとしてブランドデザインの役割を持つ意義かもしれません。

クラウドサインのメンバーから、これまでのブランドデザインチームの活動についてもらった感想

プロダクトデザインチームとの関わり方など、もっと具体的な取り組みが知りたい方は、ぜひ気軽にお話しましょう。

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