DMMデザイナーの南郷谷、村田、山本です。
普段は事業部のデザイナーとして動きながら、DMMの全社横断組織の一員としてデザイン組織全体の組織づくりにも取り組んでいます。
今回はDMMのクリエイティブ制作をする時に、商標や著作権などの権利周りのトラブルを回避できるようにする仕組みについて紹介したいと思います。
デザイン業務の中で、権利周りの問題を気にしなければならないタイミングは実はとても多いと思います。
「このフォントってロゴ作成に使えるんだっけ?」「このイラスト画像は使って良いもの?」と迷うタイミングを減らして、組織全体で法的なトラブルが起こる可能性を限りなく下げるための工夫として、参考になれば幸いです。
「なんでもやってるDMM」のコピーの通り、DMMは20を超えるグループ会社と、58の事業を運営しており、さらに新規事業もどんどん生まれ続けています。
しかし、所属する事業の業態や携わるデザイン工程も様々、DMMにジョインいただいたタイミングや契約形態の多様性もあり、全メンバーがデザイン業務の中で権利的な問題を意識できているとは言いづらい状況でした。
例えば、他社の商標登録済みのデザインに似すぎていないか、フォントやフリー素材の規約まで考えてLPやバナーをつくっているか、などデザイナー自身のちょっとした意識や工夫でも、十分にリスク回避できる事はたくさんあります。
仮に法的なトラブルが起こってしまうと、その問題を解決するためには工数やお金が大きくかかってしまいますし、何よりデザイナー自身の努力や多くのステークホルダーの皆さんと共に長い年月をかけて育てたブランド価値や信用を失ってしまう耐えがたい損失を招いてしまいます。
DMMには法的リスクについてチェックしている法務部がありますし、リーガルリスクについて気軽に相談や質問ができる仕組みも整備されています。しかし、その環境に甘えるだけでなくリスクについて知らなければ、その仕組みを有効に活用する事もままなりません。
そこで、つくり手であるデザイナーが、権利周りの知見を身に付け、トラブルが起こりそうなポイントに気づけたり、自信が持てない場合は法務部の知恵を借りることの大切さを知ってもらう為の取り組みを実施しています。
そこでつくられたのが、デザイン作業における権利周りの知見を貯めたデータベースです。
まずはDMMのデザイナー全員が、つくり手として権利周りに関する知見を持てるようにするために、デザインチームのConfluenceに著作権や商標など権利周りの知見やトラブル事例をまとめています。
例えば、フォントの利用に関しての権利をまとめたページをつくっています。
フォントの利用に関してまとめたページには、Webフォントの使用可能な範囲など、実際のデザイン業務の中で迷いそうなポイントをまとめています。また、各ライセンスの利用規約を必ず確認するよう促しています。
また、別のページでは、自分で写真やイラストなどの素材をつくる際に、どのような点に気をつけてクリエイティブ制作をすれば良いのかをまとめています。
よくあるイラストなどの外部発注の際の、使用範囲や著作権に関する注意点についても、知見をまとめています。
ここまで紹介したのは一部だけですが、クリエイティブ制作に関わるデザイナーが迷わないように、幅広い場面での権利周りの知見がまとめられています。
データベースは、あくまでメンバーが権利周りの話に触れるきっかけという位置付けにしています。データベースを読んだ上で、関連する利用規約はちゃんと読み込む。わからないことは法務部に聞いてもらう。という行動を推奨しています。
このようなデータベースがあっても、うまく活用されるためにはデザイナーそれぞれが自分で権利周りのリスクに気付き、データベースを確認してくれるようになる必要があります。
そのため、DMMのデザイナーに向けて、データベースを浸透させる取り組みも行いました。
ここで意識していたのは、内容が硬いものだからこそ、硬くなりすぎず、カジュアルに興味を持ってもらい間口を広くすることです。
例えば、データベースの中でよく見られている項目やみんなが知らなそうな項目をできるだけ簡潔で平易に、短時間で要点を把握できる文章にまとめ、Slackで”リーガルリスクに関する全7回のTips”として送ってみました。
デザイナーがたくさん所属しているSlackのチャンネルに全7回のTipsとして送りました。Tipsに興味を持ってもらい、リンクに飛んでデータベースの存在を認知してもらう、という行動を促しています。
情報量が多く流れるSlackの中で目に留めてもらいやすいよう、Tipsと一緒にバナーも送るようにしていました。
カジュアルに浸透を促した結果、デザイナーだけでなく、エンジニアやディレクターなどのメンバーもTipsに関心を持ってくれました。また、Tipsを投稿した後にデータベースのURLが別のチャンネルでシェアされる行動にも繋がりました。
もう一つの浸透の工夫として、デザイン業務における権利周りのトラブルに関する事例をデータベースに追加していっています。
自社・他社問わず「ロゴを作ったら著作権侵害と抗議された」「無料素材だと思って使ったら損害賠償を請求された」など、さまざまな権利周りのトラブル事例を集めています。
「これは危険だよ、避けましょう」と言われただけではなかなか自分ごとになりません。実際にトラブルが起こっている事例を知ることで、より自分ごとになるのではと考えていました。
このような事例もSlackにTipsで送ることで、権利周りの知見について関心を持つきっかけをつくれたのではないかと思っています。
DMMには現在100名弱のデザイナーが所属しています。浸透の取り組みを行ってから、大半のデザイナーがデータベースに訪れるようになりました。
実際にトラブルを回避するための動きも見られるようになってきました。今回の浸透の施策に対してメンバー向けにアンケートをとってみたところ
- あるサービスの特設ページをリリースする直前に、webフォントが規約的に使えないことをデザイナーが気付き、問題提起をして差し替えを自ら行えた
- ちょっとでも心配なことがあったら、実際に運営元の企業に使って良いかどうか聞きにいくようになっている
- ナレッジを見ながら会話ができている
- 案件対応時にチェック項目的に見ている
というような回答をもらうことができました。
数値を見ている限り、すでに入っている人には知識は浸透してきているので、今後の課題としては、新卒向けにも研修などを通して、権利周りのトラブルを回避できるよう意識づけられるようにしたいと検討しています。
私たちがプロジェクトに取り組む中で意識しているのは、DMMのデザイナーがちょっとでも「おかしいぞ」と思ったらそこで立ち止まれるようになって欲しいということです。
権利周りの問題は起こってからでは遅いので、つくり手側がリスクに早めに気づけるようになり、トラブルを回避できるように動いて欲しいと思っています。
「これって本当にいいんだっけ?」と気付けるようになるには、知識が必要です。
「ここがトラブルになるかもしれないから、一度規約を確認して法務部に相談しましょう」という言葉がデザイナー自身から生まれ、組織全体に良い影響として波及するように、引き続き取り組んでいきたいと思います。
Confluenceに記載されている内容は、デザインチームで調査し作成したものです。
法務部の監修を受けていませんので、法律面で適切でない内容が含まれている可能性があります。
DMM社内での取り組みを紹介する参考資料として掲載していますので、内容の正確性については責任を負いかねますのでご了承ください。