リクルートのデザインマネジメントユニットは、複数の事業領域にまたがる横断デザイン組織です。カンパニーの統合にともなって規模も拡大し、現在では70名のデザイン職種のメンバーが所属しています。
そんなリクルートデザインマネジメントユニットでは、横断デザイン組織に所属するデザイン職種のメンバーを、2つの不確実性の高さの視点から評価するしくみを取り入れています。
複数の事業を運営するゆえに、同じ職種でも業務内容がバラバラになり、評価が難しくなっていた状況を解決するために取り入れた、リクルートでの評価設計についてまとめてみます。
2015年から2017年ごろ、リクルートは複数の事業領域に対応して、複数のカンパニーに分かれた組織体制を取っていました。
当時、リクルート全体にまたがるデザイン組織は存在しておらず、数少ないデザイン職種のメンバーは、各カンパニーに分かれて所属していました。
そこから、事業をまたがる横断的なデザイン機能を持たせるために、横断デザイン組織として「デザインマネジメントユニット」を立ち上げました。
初めは7名から始まったデザインマネジメントユニットは、2023年現在では約70名が所属しています。各メンバーは事業組織に所属しながら、横断的なデザイン組織としての役割も兼務して取り組んでいます。
しかし、デザインマネジメントユニットに所属するデザイン職種のメンバーは、それぞれの事業組織で異なる役割を担っていたため、一貫した評価を行うことが難しくなっていました。
例えば、デザインマネジメントユニットには、新規事業立ち上げに取り組む人もいれば、ユーザーリサーチから業務に取り組む人、デザイン組織自体の改善に取り組む人もいたりと、各事業で求められる多様な役割を担っており、それぞれ全く違う業務に取り組んでいる状態でした。
毎半期に行われている評価会議では、事業領域ごとに評価の差分が生じつつあり、このような事象によって職種が正常に評価できなくなる懸念が高まっていました。
そのため、デザインマネジメントユニットに所属するデザイン職種のメンバーを、同じ基準から評価できる一貫した指針づくりに取り組むことにしました。
リクルートのデザインマネジメントユニットでは、多様な役割を担うことへの自由度を残しつつ、それらの活動を一貫して評価できる「業務不確実性」と「デザイン不確実性」という2つの視点を取り入れた評価基準を取り入れています。
業務不確実性と、デザイン不確実性については、以下のように整理しています。
業務不確実性が高いことは、ビジネスや技術、プロダクト戦略などに起因する不確実な業務を推進できることと定義しています。
例えば、以下のような業務は、業務不確実性の高い業務に分類されます。
デザインチームが未参画の特定事業領域のデザイン改善計画の立案・推進
異なる領域プロダクトのブランド統合とそれに伴う課題解決
プロトタイピングによる事業方向性の模索・検討
デザインツールの全事業横断での装着計画の推進
デザイン改善の事業影響ロジックの検討
など
対して、デザイン不確実性が高いことは、ユーザーや体験、デザイントレンドなどに起因する不確実なデザイン業務を推進できることと定義しています。
例えば、以下のような業務は、デザイン不確実性が高い業務に分類されます。
競合優位性の高いデザインアウトプット業務
媒体を横断したブランドレビューの推進(紙、デジタル、店舗)
大規模プロダクトのデザインリニューアル推進
新規SaaSプロダクトのリサーチ/体験設計/UIデザイン
など
リクルートデザインマネジメントユニットでは、デザイン職種の役割を不確実性から分類しています。
その結果、それぞれ全く異なる業務に取り組むデザイン職種を、同じ評価基準から評価することが可能になっています。
例えば、これまでは並べて評価することが難しかった以下のような方々も、不確実性からプロットして同じ基準から評価を行えるようになっています。
リサーチによって複雑なユースケースを整理し、体験設計に取り組む方
クオリティの高いビジュアルデザインを主体に取り組む方
事業とのデザイン改善プロジェクトの合意形成に取り組む方
デザイン組織の環境整備やナレッジマネジメントを行う方
など
また、この不確実性の視点を取り入れた評価基準をもとに、リクルートのデザインマネジメントユニットでは、デザイン職能としての多様なキャリアパスを明示しています。
リクルートのデザイン組織は、領域、フェーズ・規模、ビジネスモデルが異なる事業を担当するため、どのような状況にでも対応できるように、多様なデザイン人材が所属している必要があります。
そのため、あえて全員を同じ職種(デザインディレクター)として定義し、その職種の中で多様なキャリアを積むことができる自由度を保持しています。
また、自身が関心のある領域へのキャリアを選択できるため、各々の意志が尊重されやすい組織設計となっています。
実際の評価の流れは、日々の1on1と、毎半期の人材開発会議を通して行われます。
ここでは、評価を活用して、次のキャリア形成につながる機会をマッチングすることを意識しています。
日常的な1on1を通して、業務やキャリアについて対話しながら、個々人のCan(できること)とWill(どうなりたい)を確認しています。
2軸の不確実性の視点を踏まえて、個々人がどのような方向に伸びていきたいのかを把握していきます。
1on1を通して把握した情報をもとに、一人ひとりの評価や中長期的な育成プランについて議論する「人材開発会議」という場を毎半期で設けています。
個々人の意志を汲みながら、デザインマネジメントユニット全体としても、どこにどの人材を配置していけばいいのかを決定していく必要があります。
短期的な人材配置の視点だけではなく、個々人が意志を持って業務に取り組めるように、「この人が今後どう成長していきたいのか」を踏まえた中長期的な育成プランとして落とし込んでいます。
日常的な1on1で把握した情報や、人材開発会議で議論した中長期的な育成プランを踏まえて、再度個々人と1on1を行い、評価内容や、次のキャリアステップに向けた半期で期待したいMust(取り組むべき)業務をすり合わせます。
このようなステップを通して、デザインマネジメントユニット全体で、個々人の意志と組織状況を鑑みた機会提供を行い、多様な不確実性に対応していくメンバーのキャリア形成を行っています。
このような評価制度を取り入れた結果、不確実性の高い業務に取り組む、多様なデザイン人材が生まれています。
いくつか、不確実性の高い業務に取り組む方の例を紹介します。
具体例1. プロダクトの未来像を具現化し、事業変革を牽引
デザイン不確実性が高い取り組みをしている方の例として、プロダクトの未来像を示して事業全体を牽引している方がいます。
事業戦略をもとにプロダクトのコンセプトや未来のプロダクト像をアウトプット。さらに、実現可能性を踏まえて、現在から未来までのプロダクトの進化の筋道をプロトタイピングしています。
具体例2. 現場の一次情報を捉え、ユーザーインサイトとプロダクトを繋ぐ
業務不確実性が高い取り組みをしている方の例として、現場の一次情報をもとに、ユーザーインサイトとプロダクトを繋ぐ役割を担っている方がいます。
現地でのリサーチ調査を設計・推進し、得られたユーザーインサイトをもとに、プロダクトの開発・デザイン要件の改善を行っています。
具体例3. デザインの価値を翻訳し、事業とデザインのバランスを取る
業務とデザインの両方の不確実性を解決しながら動いている方の例として、デザインの価値を事業目線で翻訳しながら、事業とデザインのバランスを取っている役割の方がいます。
例えば、デザインへの投資に関する、決裁者との合意形成や、ブランド毀損の観点や開発の観点を踏まえた、デザイン品質基準づくり、開発の実現性を踏まえたデザインシステムを設計するなどの業務に取り組んでいます。
このような多様な役割のメンバーを抱えながら、デザインマネジメントユニット全体としても、まだ小規模だった組織立ち上げ当初に比べ、メンバー数約70名と一定の規模に拡大しており、リクルート全体にデザイン面から貢献できる体制が整ってきています。
リクルートには、圧倒的な当事者意識を持つことが推奨される文化があります。
デザイン組織の評価やキャリアパスを考える上でも、リクルートの自律的な文化をうまく取り入れながら、かつデザイン職種独自の評価設計を示す必要がありました。
もし会社として限られた事業しか運営しないのであれば、より専門性の高い職種に分化させていく方が良いかも知れません。ただ、リクルートのように多種多様な事業を運営する会社において、デザイン組織に所属するメンバーは、どんな場面にでも対応できる多様なあり方を求められます。
業務とデザインの2つの不確実性から作成した評価の基準をもとに、デザインマネジメントユニットでは、デザイン職能の多様な成長を促し、不確実性の高いリクルートのデザイン領域に対応できる組織へと進化しています。
個々のメンバーの意思を重んじながらも、不確実性を越えて自由に多様なキャリアを選べるデザイン組織として、今後もデザインマネジメントユニットの体制づくりに取り組んでいきます。