2023年4月5日、Kyashデザインチームが主導して、組織として目指す像を「Kyash VisionDeck」として可視化し、社内外に向けて公開しました。
今回、VisionDeckの制作の中で、Kyashが目指すものを可視化する取り組みの一環として、写真を使ったブランドの可視化にも取り組みました。
制作プロセス全体として、以下の2点にこだわりました。
今後も長期的に使える、ブランドアセットとする
企画や撮影に至るまで、ディレクション面を完全に内製する
Kyashのデザインチームで取り組む、ブランドの浸透のための可視化と、長期的な資産となることを見越した素材制作の両立について、制作プロセスをまとめていきます。
Kyashにおいて、組織が目指すものを写真という表現方法で可視化することにしたのは、2つの背景があります。
「Kyash VisionDeck」での、ビジョンを視覚化する取り組み
生活に関わるブランドを表現するための写真
Kyashでは、Kyashの目指すものが曖昧になっている問題に対して、言語化や視覚化を進める取り組みとして、「Kyash VisionDeck」を制作しています。
詳細な流れについては、デザイン責任者の引地の事例をご覧ください。
VisionDeckは、まずVer.1.0としてビジョンやミッションの言語化に取り組み、その後、Ver.2.0でそれらの可視化をおこない視覚的にもわかりやすいビジュアライズに取り組むことが決まっていました。また、今後はブランディング強化を意識したVer.3.0の制作にも引き続き取り組んでいく予定です。
Kyashは、アプリのほかプラスチック製のリアルなカードも商品として扱う、ライフスタイルサービスです。実生活の中で利用されることが想起されるべきプロダクトなので、Kyashのブランドを視覚的に表す方法として、写真は適していると考えていました。
一方で、これまでのKyashの広告やコーポレートサイトなどに使われている写真素材は、一部撮影しているところはあるものの、それぞれに統一感はありませんでした。
そこで、Kyashのブランドを表せる、統一された写真素材をつくることに取り組み始めました。
今回、Kyashのブランドを表す写真素材をつくる上で、意識したのは以下の2点です。
今後もブランド資産として使えるものを制作する
企画や撮影まで、内製でディレクション
今回のプロジェクトでは、今後もブランド資産として使える写真素材をつくることを目的としていました。
理由としては、ただVisionDeckに載せるために写真素材をつくるのではなく、今後も長期的に運用されるものをつくることで、持続的にブランドを意識したアウトプットが生まれるようにしたいと考えたためです。
このような目的を踏まえて、プロジェクト全体としては、2022年9月から2022年12月までの約3ヶ月で、以下の流れで進めていきました。
今回のプロセスにおいて、企画や撮影に至るまで、Kyashのデザインチームが内製でディレクションに取り組んでいます。
内製で取り組んだ理由は、主に以下の3つでした。
予算面の制約を減らして、品質の高いアウトプットを出せるように
制作後も事業全体にアウトプットを反映していけるように
プロジェクト中心メンバーにブランド構築の知見があったため、プロセスに理解があった
事業会社だからこそ、ブランドに関わるものはつくって終わり、ではなく、今後も使えるものにする必要があります。Kyashでは、出来るだけ内製にこだわり、自社でブランド運用ができる状態を目指しています。
まず、VIの方向性を絞り込むため、Kyashのイメージを表す言語を発散しながら、いくつかのテーマに分類してみます。
中でも、テーマとして良さそうな方向から、ムードボードをつくります。
これらムードボードをもとに、最終的なVI全体のコンセプトを確定しました。
次に、VIの方向性をもとに、写真というアウトプットで何を制作するのかを決めていきます。
まず「Colors of Life」のコンセプトを分解して、「Colors (色面構成)」「LifeStyle」の2つの表現方法を取ることを決定しました。
Kyashを表す写真として必要なのは、プロダクトと人物にフォーカスするミニマルなビジュアルと、Kyashは生活の中に存在するプロダクトであることを表現するビジュアルだと考えました。それらをつくるには、2つの表現に分ける必要がありました。
「Colors (色面構成)」のカットは、多様なライフスタイルや個性を表現するため、インナーの社員だけではなく、ユーザーを象徴する人=今回撮影においてはモデルなどアウターまで、全ての人がパーパスを実現するための共創する仲間であることを、端的かつ象徴的に表現したものです。
対して、LifeStyleのカットは、ユーザーの多様な生活の1シーンを表すカットです。表層的なものではなく情緒的で、人の個性や、人と人の関係性を感じる人間味のある表現です。
ColorsもLifeStyleも、人物カットにおいては、パーパスの「お金にまつわる心配や不安をなくし、一人ひとりが自分らしい未来を追い求められる世界へ。」から考えて、ウェルビーイングな表情やポージングを捉える写真を目指すようにしています。
「Colors (色面構成)」「Lifestyle」の2つの表現に分けて、Kyashが扱うもの(人、モバイル、カード)ごとに、撮影カットのムードボードを作成しています。
今後もブランドアセットとして活用するために、サービスの核であるプロダクトのカットは必須と考えました。Kyashのサービスは、モバイルアプリと、リアルなカードの2つを提供しているため、その2つを分けて、プロダクトの撮影カットとしました。
その上で、Kyashは「ライフスタイルサービス」であるため、人物と人物+プロダクトのカットが必要であると判断し、このような分け方をしています。
これらを踏まえて、最終的な撮影カットを決定しました。
今回、VisionDeckに反映するための撮影素材、という文脈もあったため、Kyashのミッションを表したコンセプトビジュアルの撮影カットもこのタイミングで考えて、撮影範囲に組み込んでいます。
Kyashのミッションである「価値移動の新しいインフラとなる。」を、シンプルにビジュアライズしたものとして、「カードを渡してお花を買う」というカットを組み込みました。
人物やプロダクトのカットとは毛色の異なるこのコンセプトビジュアルは、Kyashの考える価値移動を一枚絵で伝えられないだろうかと考えているときに私の頭に浮かんだものでした。
お金は「ありがとう」や「応援してるよ」といった人々の応援、感動、熱狂、感謝といった「想い」であって、 そのような想い=「価値」が滑らかに循環するインフラを創るというミッションをKyashは掲げています。
このお花を手渡しているビジュアルは、まさにこの想い=価値が移動していくのを象徴的に表したものです。カードを使ってお花を買うというのは、誰かに贈ろうとする想いや、自らの生活を彩り豊かにしたいという想いなどが込められているのではないでしょうか。
ここから、より具体的な撮影の準備や、当日の撮影に向けたディレクションの工程に進みます。
例として、いくつか取り組んでいたことを紹介します。
キャラクターから考えてモデルを選定
撮影スケジュールのコマ割りと資料用意
当日の撮影の進行
撮影に向けたモデルは、自分たちで選定しています。
まず、実際のモデルをキャスティングする前に、モデルのキャラクターや、それぞれの関係図をまとめています。
コンセプトでもある多様さを表すため、出来るだけ多様なキャラクターになるように一人ひとりのキャラクターを設定。また、Kyashはライフスタイルサービスであるので人と人の関係性が見えるような画がブランドとしては適していると考え、「友達」「パートナー」など、キャラクター同士の関係についても考えて設定しています。
これらの関係図や、一人ひとりのキャラクターに合わせて、モデル事務所に依頼してキャスティングをおこないます。デザインチームのメンバーもオーディションに同席し、「ウェルビーイングな笑顔」を表現できる方かテスト撮影も行いながら、最終的にキャラクターや関係性に照らし合わせて、モデルを決定しました。
モデルのキャスティングと並行して、外部のカメラマン候補を複数出し、ムードボードを作成した上で、イメージが合いそうな2名に、デザインチームから直接依頼をしています。
撮影は準備が9割と言っても過言ではありません。撮影はカットの種類によってスタジオやカメラマンを分けて3回に渡っておこないました。
スタジオでの人物撮影(Colors:人物のみ/人物+プロダクト)
スタジオでの物撮り(Colors:プロダクト+手)
ハウススタジオでの物/人物撮影(LifeStyle:人物のみ/人物+プロダクト/物撮り)
モデルのキャスティングの時点でキャスティングディレクターとカメラマンには既に座組に入っていただきましたが、ここからさらに撮影にご協力いただく外部のスタッフの方々に依頼をしていきます。
その後のチームのアクションは以下の通りです。
カットの洗い出し
小道具の手配
関係者のスケジュール調整
上記と並行して3つのスタジオを仮押さえ〜本予約
ロケハン
3回分の香盤表作成
各日ロケ弁とロケバスの手配
撮影の絵作りに関する資料の用意
支払い周り等
また、上記以外に私はプロジェクトマネジメントを並行しておこなっています。
これらはデザインチーム責任者の引地と私の2名+サポーター1名mayasasuでおこなっています。やや無理はありつつもギリギリ回せた感覚なので、もしこれからインハウスデザイナーとして撮影に挑む方はメインメンバーを3名+サポーター1名以上で進行することをお勧めします。
当日は、モデルとカメラマンと一緒に、無数の撮影カットを撮る必要があります。そのため、円滑に進行するために香盤表を精緻につくっていきました。
事前に撮影スタジオにデザインチームのメンバーとカメラマンでロケハンに行き、陽の光の入り方を計算しながら、カットごとのスケジュールを調整し、スタッフがモデルの代理をして仮撮影。その写真を香盤表に入れ込むことで、円滑に進行するように工夫しました。
また、ファッションスタイリストの方に、ポージング、表情、カラー、スタイリングなどの資料を用意していただきました。
準備を踏まえて、当日の撮影に臨みます。
人物カットはパーパスやブランドステートメントからブレイクダウンして「ウェルビーイング」「自由」を感じられる表情をモデルさんに出してもらえるようにディレクションをし、そのほか風を入れるなどして表現しました。
プロダクトカットも「自由」をキーワードに物を浮かせてたりなどしていますが、基本的には媒体でも使いやすいカットを意識してつくっています。
3つの撮影を終えて、各カメラマンから1500以上の撮影カットが送られてきた後は、画として美しいか・ブランドとして適しているかの観点から、写真の取捨選択をおこないます。
その後、レタッチャーに依頼して、写真のレタッチをおこないます。レタッチとは言っても、過剰に綺麗に修正するのではなく、あくまで自然に見える範囲で細かい修正をします。写真の取捨選択が終わった後、レタッチャーに依頼するための資料を作成し、ミーティングで詳細をすり合わせて意図を汲んでいただける機会を設けました。
結果として、このような写真素材がアウトプットされました。
そこから、VisionDeckにもアウトプットを適用しています。
このようなプロセスを経て、社内からも、Kyashの目指すものに対してさらに解像度が高まったという声が生まれています。
無事、外部に向けたVisionDeckの公開も終えたので、ここからは今回つくった写真素材を、ブランド資産としてVisionDeck以外にも活用していきます。
バイブルである「Kyash VisionDeck」の制作と並行した写真というブランド資産づくりは、綺麗で良いことを言っているだけの「お飾り」ではありません。これらはKyashというブランドを可視化するための幹になります。今後はその幹から、枝葉をきちんと生やしていくことが大切だと考えています。
経営戦略、プロダクトの体験設計、PR、あらゆる媒体でのコミュニケーション、全ての具体に一貫性を持って社内と社外の両面に伝わっていくようにすることを目指していきます。
ユーザーに対して、ただ便利なことだけではなく、「Kyashの目指す世界はこういうものです」と視覚的に伝えていく為のブランド資産づくりは、直接的にお金を生むものではありません。ですが、企業の情緒的価値を支える大切な要素だと考えています。
この大切な要素を、ブランドへの解像度が高いメンバーで0からつくり上げられることが内製化の大きなメリットであり、その理由です。そして、そのクオリティーをきちんと保つこと、今後も更新していくことがデザインチーム(主にコミュニケーションデザイン)の役割でもあります。
VisionDeckや写真というブランド資産をつくって終わりではなく、つくった後、デザイナーだけではなく様々な人の手によって社内外へアウトプットされる環境や仕組みをつくることが、今後のデザインチームの課題です。
デザインチームだけではなくKyashを支える全ての人が、これらの写真やイラストなど様々なデザイン資産を活用して、社内外へ一貫性のある体験を届けることができれば、ブランドへの信頼と認知も向上していくでしょう。
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最後にこの撮影に関わったメンバーを紹介します。
Creative Direction/Art Director (Brand) Hikichi Kouta (Kyash Inc.) Art Director (VisionDeck)/Designer/Project Manager Nomura Kanako (Kyash Inc.) Designer Satoh Masayasu (Kyash Inc.) Photographer (Colors:character cut) Manaka Hiroshi Photographer (Colors:product cut/LifeStyle) Ono Keisuke Stylist Itoi Shino Prop Stylist Oishi Miyuki (TOIA Inc.) Hair&make-up Fumiko Hiraga (SENSE OF HUMOUR Management) Casting Director Shimana Daisuke (TOMORROW TOKYO inc.) Model Kureha (Bravo Models Co., Ltd.) Model BEE (TOKYO REBELS, Inc.) Model Tachibana Monika (Bon Image Corp.) Model Ryoyu (Bravo Models Co., Ltd.) Model YANNICK (THE MANAGEMENT)