DMM.comでは、2023年9月から、デザインAI推進プロジェクトが立ち上がり、デザイナー業務でのAI活用の技術検証や社内浸透を進めています。

DMM.comにおけるデザインAI推進プロジェクトの活動全体像

デザインAI推進プロジェクトには10数名が所属しており、UXデザイン・UIデザイン・Web/グラフィックデザインの領域ごとに活用可能なAI技術の検証を行い、社内に向けて分かりやすく浸透を進めています。

このようなプロジェクトが立ち上がった背景や、取り組みの詳細についてまとめます。

AI技術は日々進化しており、将来的に確実にクリエイティブな職種に影響を及ぼすことは分かっていました。今後AIの技術が発展することで、現在のデザイナーの業務フローすら変えてしまう可能性があります。

業務フローの変化は決してネガティブなことではなく、ひとつひとつの作業を見直す良い機会だと前向きに感じていました。そして、DMMのクリエイター組織には「変化を楽しむ」ことを重んじる文化もあります。

DMM.comのCTO渡邊が打ち出した「EVER-CHANGING」の概念図

AI技術の進化による業務フローの変化を前向きに受け入れて活用していくために、最新のAI市場調査や技術検証、社内への浸透を積極的に促すアクションが組織的に必要だと感じました。

プロジェクト立ち上げ前の2023年8月時点では、AI技術は日々進化しているとはいえ、すぐに業務に取り入れられるほどは成熟していませんでした。

ただ、いざ導入できるとなった時に、DMM内にAIに関する素地が全くないと導入をスムーズに進めることができません。

そのため、未知の技術でも怖がらずに触れるように、先手を打って検証を進めることが必要でした。

そのような背景をもとに、生成AIの業務での導入・活用を目指して「デザインAI推進プロジェクト」が2023年9月に立ち上がりました。

2023年9月に立ち上がった、デザインAI推進プロジェクトの全体像
各グループや部署から、代表者が1〜2名集まり、計10名程のメンバーで進めた

はじめは、まだ「AIで何ができるの?」というメンバーが多かったため、プロジェクトの初動としては

  • どういった生成AIがあるのか、市場調査して触ってみる

  • 触りやすいものから社内浸透を始める

という動きを進めました。

まずは、プロジェクトメンバーが各々で気になるAIツールを触って「AIは何ができるのか?」「本当に業務に活用できるのか?」という部分を確かめつつ、慣れていくことを始めました。

すでに会社として導入されているベンダー様やグループ会社のツールをはじめ、さまざまなツールを試してみました。

例えば、テキストからロゴや素材画像を生成したり、プロダクトのリサーチや情報収集として思考をサポートしてもらったり、効果予測のヒートマップを試してみたりと、現在のAI技術でできることを確認し、プロジェクトメンバー間でナレッジを共有し合ってきました。

まずは触ってみる段階での実験の様子

実際に触ることでプロジェクトメンバー内である程度、現在のAI技術の動向や活用方法をイメージできました。そして、次のステップとして社内のデザイナー全体に向けて、「まずは生成AIを試してみよう!」というAI利用に対するハードルを下げた使い方ガイドのようなものを作成して公開しました。

生成AI活用ガイド
基本概念や、ツールを試してみるためのチュートリアル、活用例を入れ込んだ

生成AIについて、ポジティブな印象を持っている社内デザイナーだけではないため、基本概念やツールの推奨理由もまとめています。

実践の前に、生成AIとは何か、なぜこのツールを選ぶのか?という理由について明記する

怖がらず、興味を持ってもらうには、実際に触ってみるのが一番だと考えて、チュートリアルのような構成をとっています。

チュートリアルの例「テキストから画像生成」
チュートリアルの例「画像の要素自体を変える」

本ガイドでは特にレタッチやイラスト作成など、追究すると高い専門スキルが求められる作業を「簡単に」「時間をかけずに」「誰もがある程度のクオリティで再現」できる部分に焦点を当てています。

今までできなかったこともAIの良さを引き出すことで、自分自身の能力に付加価値をプラスできることに気付いてもらいたいという意図もありました。

プロジェクトチーム内でしばらくの期間、生成AIを触ってみたことで少しずつ馴染んできたため、より業務内でどのようにAIを活用すれば良いか具体的な技術検証を始めました。

UXデザイン、UIデザイン、Web/グラフィックデザインに分けて、それぞれ実態調査・技術検証・導入検証とアクションを進めていきました。

具体的には、以下のように各分野での業務フローを洗い出した上で、それぞれに使えそうな生成AIツールをピックアップしていきました。そして、業務×ツールの組み合わせを検証していき、現段階で業務にどの程度利用できるのかといった有用性を結果としてまとめています。

検証結果をまとめた表
UX/UI/Web・グラフィックの分野ごとに業務フローを洗い出し、それらに対応できるAIツールを並べ、業務×ツールの組み合わせで有用なAIツールを検証した

プロジェクトメンバーは所属グループや部署が異なるため、職能もそれぞれ異なります。そのため、異なる職能を持ち寄って技術検証ができたことで、メンバー間でお互いにナレッジを共有し合い、違った視点からの知見をたくさん貯めることができました。

業務活用のためには、知財など、法的なリスクのケアが必要になることも想定されます。

そのため、AI推進プロジェクトチームから、社内では法務部やデザイン分科会組織、社外ではお世話になっているベンダー様やグループ会社と連携をして、知財に関するリスクの相談やAIツールの利用制限などを整理していきました。

また、セミナーや展示会に積極的に参加することで、新たな知見や最新の動向をキャッチアップし、社内に情報を持ち帰るなどしてきました。文化庁等の政府の動向にもアンテナを張るようにしています。

AI推進プロジェクトチームと、社内外との連携のイメージ

プロジェクトチーム内だけで完結するのではなく、各所との連携を図りながら業務へのAI導入・活用を浸透させています。

結果として、社内でのAIに対する理解や共感が増し、業務の中での活用が行われ始めています。

例えば、AI推進プロジェクトのメンバーが所属している「DMM英会話」事業部の中では、Daily Newsコンテンツのサムネイル画像や、キッズ向け教材のキャラクターイラストをAIで生成するようになっています。

DMM英会話でのAI活用事例 | Daily Newsコンテンツのサムネイル画像や、キッズ向け教材のキャラクターイラストを生成

また、生成AIの利用部署拡大を目指して、AI推進プロジェクトで検証してきたナレッジを整理して全社に公開しています。

例えば、AIを使うハードルを下げ、気軽にサクッと生成できるように「テクスチャ生成のプロンプト集」を社内向けに公開しました。このような事例があると、どんなことにAIを利用できるのかイメージしやすくなると考えます。

今は小さなことでもAIの利用シーンを共有して導入事例を増やしていき、将来的に大きな生産性の向上に繋げていけるよう素地を広げています。

全社に向けて公開した「テクスチャ生成のプロンプト集」

さらに、法的なリスクの回避・軽減を目的として、「AIに関する知財知識の取りまとめ」を全社に公開しました。

文化庁の「AIと著作権」の資料は生成AIを利用する上でとても参考になり、その他にもセミナー等で得た知見をもとにして、法的なリスクが伴うケースや推奨するAIの使い方などを社内向けに取りまとめています。

全社に向けて公開した「AIに関する知財知識の取りまとめ」

AI推進プロジェクトでは「怖がらずにAIを利用する」ことの推進をしていますが、それは「無闇にAIを利用する」ことではありません。

そのため、社内デザイナーが思いがけないリスクに直面してしまう前に、AIに潜むリスクに気付けるような資料を公開することで、AIに関するリテラシーを持ち、不用意に怖がらない利用を促進しています。

この資料も、前述したように法務部と連携して、監修いただきながら作成しています。

約3ヶ月の取り組みを経て、小さく限定的な範囲ではありますがAIを業務で活用できるレベルまで検証できつつあります。さらなる利用部署の拡大や業務での利用範囲の拡大を目指していくために、デザインAI推進プロジェクトの活動は引き続き継続する予定です。

今のうちから小さなことでも業務への導入・活用を開始することで、来年度やその先の将来でより大きな生産性の向上に繋がると考えます。そして、素地を形成しておくことで、今後の新しいAI技術の導入もスムーズに浸透させられると思います。

そのためにも、まずはデザインAI推進プロジェクトチームのメンバーがAIを業務に導入・活用できるモデルケースを作り、そのナレッジを各グループ・部署の垣根を超えて共有・継承していくことで、社内全体でAIの利活用が当たり前になる世界に変化させていけるように推進していきます。

今回は生成AIの業務活用についてのDMM.comでの技術検証についてまとめましたが、DMM.comのクリエイター組織では、AIをはじめ、新しい技術を積極的に組織に取り入れ、プロセスを見直していくことに取り組んでいます。

前述した「EVER-CHANGING」の文化を支える、変化を楽しめる組織づくりを今後も進めていきます。

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