GMOメディアのサービスデザイン部は、21名が所属するデザイン組織です。(2023年11月末現在)

21名が所属するGMOメディアのデザイン組織 (2023年11月時点)

他の組織と比較して、ユニークな特徴としては以下の3つがあります。

  • スキルはジェネラルに、事業によって必要なスキルを幅広く持つことを推奨

  • 組織を支える育成・組織づくりのしくみ「ぐるみ」

  • 新卒からGMOメディアで働くメンバーが半数以上、2014年から毎年約2名の新卒が入社していた

なぜこのような形の組織にいきついたのか、5年以上の組織づくりの変遷をまとめます。

GMOメディアでのデザイン組織立ち上げまでの変遷について

- デザイナーが散り散りになっていた時期
- 横のつながりをつくる立ち上げ黎明期
- サービスデザイン部立ち上げ期
- サービスデザイン部の文化づくり期

と推移していった

デザイン組織の立ち上げが始まる以前の2015年4月、GMOメディアには17名のデザイナーが所属していました。

デザイナーは完全に事業部に所属し、横のつながりやスキル評価・育成など、デザイナーのための環境は用意されておらず、バラバラに活動をしていました。

2015年4月までは、組織的なつながりはなく、17名のデザイナーが事業部に散り散りになっていた
退職率も高く、デザインの知見は組織に蓄積されていなかった

ちなみにこの頃は、中途15名・新卒4名と、今とは違って中途入社メンバー中心の組織でした。横のつながりもないため、デザインの知見は組織に蓄積されていませんでした。

まず、17名のデザイナーが横のつながりを持つところからはじめていきます。

この段階では、会社的に正式な組織になっているわけでもなく、すぐに組織化できるほど社内からデザイナーの価値が認められているわけでもありませんでした。

そこで、組織立ち上げ前の黎明期として、デザイナーの横のつながりの場と、後のデザイン組織化に繋がる課題の発散の場をつくりました。また、新卒の採用も継続して実施していきました。

「横のつながりをつくる立ち上げ黎明期」に注力していたテーマ

1. 横のつながりをつくる
2. 新卒採用を続ける

まずは、全くつながりがなかった17名のデザイナーが、事業部を越えて横のつながりを持てる環境をつくっていこうとします。

例えば、会社的に正式な役職(ex. CDO)は置けないので、便宜的にチーフデザイナーやシニアデザイナーというラベルをつけて報酬手当をつけたり、スキルマップをつくってみたり(全然定着しませんでしたが...)してみました。

横のつながりをつくるために行っていた施策一覧。長期的に活用されている施策はほとんどないが、コミュニケーションを通してデザイナーの横の繋がりが少しずつ生まれていった

具体的な仕組みとして残ったものはほとんどないのですが、仕組みづくりを通じたコミュニケーションの中でデザイナーが組織に感じている課題・不満・不安を発散する場を何度も用意することができました。

これまで、事業部は欠員補充に限定され、デザイン力や組織力の強化を意図する中途採用は進んでいませんでしたが、新卒採用に関しては、会社全体で行われており、このアプローチは2014年から実施されてきました。その際、3人のチーフデザイナーがボトムアップの視点を意識して新卒の採用に取り組んでいました。

ただし、まだデザイナー全体への信頼の蓄積が不十分であり、チーフデザイナーは事業部がデザインに投資するという判断での採用活動には参加していません。このため、新卒採用の枠を確保し、毎年2名以上の新卒を採用する方針を強化していきました。

毎年2名の新卒採用を続けた
新卒採用から入社した方が、現在では部長・シニアデザイナー・マネージャーとして活躍しており、サービスデザイン部全体の文化づくりに繋がっている

この時新卒のデザイナー採用に力を入れたのは事業状況悪化による消極的な理由もありましたが、チーフデザイナーが積極的に新卒採用に関わっていったことは今後のサービスデザイン部の文化づくりに大きく寄与することになりました。

横のつながりをつくりながら、経営会議へ上程をし、2018年4月にデザイン組織の立ち上げを承認されました。(実はこの前にもトライしていますが上程前に挫折しています…)

ただ、立ち上げたものの、どう社内から信頼を獲得すればいいか、何をすればいいかもわからず、暗中模索しているような状態でした。

そこで、サービスデザイン部立ち上げ初期は、とにかくデザイナーにとってすでに顕在化した課題を解決することだけに集中していきました。

サービスデザイン部立ち上げ当初のテーマは「デザイナーにとって顕在化した課題を解決すること」

例えば
- クオリティを統一する指標がない
- 他部署のデザイナーとのナレッジ共有のしくみがない
- 評価のしくみもない
- どのようなスキルを伸ばせばいいかも分からず専門性を伸ばしづらい

顕在化しているデザイン課題を解決するために、デザイン組織の課題を解決する「ぐるみ(サービスデザイン部グループミッションの略称)」を開始します。

デザイナーのリソースの最大20%(現在は10%程度)を使って、半年ごとにデザイン環境として必要なテーマを掲げ、サービスデザイン部として組織づくりに取り組んでいます。

例えば、以下のようなテーマを扱っています。

  • UIツールの比較調査とFigma導入

  • 社内のデザイン思考ガイドラインの作成

  • デザインコードレビュールール・ガイドラインの作成

  • デザイン思考浸透のためのワークショップ

  • ユーザーインタビューの実施、および必要なプロセスを手順化、テンプレート作成

  • ユーザーテストのプロセスを手順化

  • node-sass→dart-sassへの切り替えとそのノウハウのドキュメント化

  • UIアンチパターン集の作成

  • 勉強会や読書会の仕組みづくり

  • ぐるみの今までのアウトプットをまとめたナレッジポータル作成

  • ノーコードツールやAIツールの調査と実践的ノウハウ共有

  • などなど…(現在では100以上のアウトプットがあります!)

デザイン組織としての課題を解決する「ぐるみ」
半年ごとにテーマを変えながら、例えば評価、育成など、組織として活動しやすくなるような環境をメンバー主導でつくっていく

ぐるみによって、以下のような嬉しい効果が現れています。

  • 各デザイナーたちが互いを知ることで、実施している取り組み外でのコミュニケーションが自主的に行われるようになった

  • 新しい技術などへのアンテナが高くなり、実務で新しいことへのチャレンジをするデザイナーが増えていった

  • 上記のような行動が積み重なり、周囲からの期待と信頼を得ることができた

  • ぐるみの取り組み内容が採用においてGMOメディアを選んでもらえる理由になった

  • 各デザイナーのモチベーションが上がり、組織エンゲージメントも強まった

  • 外部ツールを利用した調査でのモチベーション指数が社内でTOPの組織になった

2021年4月、2014年に新卒でGMOメディアに入社した岡本がサービスデザイン部の部長に就任します。

これまでの活動でデザイナーはサービスデザイン部へのエンゲージメントが高まり、ぐるみの活動もあってスキルも高いメンバーが揃っている状態になってきました。

ここでのテーマは、2つあります。

  • より投資をしてもらうために、事業的な結果を出せるデザイナーを輩出する

  • ジュニア層の中途デザイナー採用へ力を入れる

「サービスデザイン部の文化づくり期」の注力テーマ
・投資を引き出すための、事業成果を出せるデザイナーの輩出
・ジュニア層の中途採用・育成

まず行ったのは、育ってきたメンバーそれぞれが事業に対して成果を出していくための支援でした。以下のような施策から事業成果を促していきます。

  • 事業課題の探索と定義、解決策の提案

  • 各デザインチームによるデザインシステムの作成

  • 各デザインチーム横断での「デザイナーMIX定例」

  • 業務効率化の観点による新ツールのトライアル、実務導入

  • 読書会や勉強会の定期実施

  • フロントエンドスキル向上の取り組み

サービスにおける解決すべき課題の探索と定義・その解決策の展開と提供
ビジネスモデルからエコシステムやロジックツリー、KPIツリーなどを作成し、チームのコミュニケーションを促進した

デザインチームが各サービスのデザインシステムを作成し、クオリティの統一や効率化を図っている

2つの事業部のデザイナーで一緒にMTGを実施し、別チームのデザイナーからレビューをもらう「デザイナーMIX定例」
別の視点からレビューをもらうことで新たな気づきの創出を狙った

投資が少しずつ得られるようになっていたので、事業的な成果を出すために中途採用に力をかけようとしたのですが、市場環境的にすぐに採用につながることはありませんでした。

そこで、サービスデザイン部としては、これまでに続けてきた新卒採用や育成のノウハウを活かして、ジュニア層の採用や育成に絞って注力することとします。

具体的には、以下のような取り組みを行いました。

  • デザイナー採用の基準見直し

  • 採用エージェントやメディアの再選定

  • 会社ブログでサービスデザイン部の活動を発信する

  • 新卒向けに行っていたデザイン研修を入社者スキルに応じてアレンジ・実施

  • オンボーディングに必要なプロセスをリスト化

  • 配属外の各事業のドメイン理解のために一日業務体験

  • 必要に応じて担当事業外の先輩デザイナーをメンターにつけサポート

ジュニア層の採用・育成のために、研修を開催

ジュニア層の採用・育成に注力したことで、大きく2つのメリットがありました。

  • 採用活動の見直しのメリット

    • 母集団の再形成をすることで、マッチング率の向上に繋がった

    • 基準を再定義することで、サービスデザイン部で大事にしている価値観を再認識できた

    • 書類選考や面接時のカルチャーフィット判断を以前より容易にした

  • 研修のメリット

    • 未経験で入ってきたデザイナーでも早期に事業貢献可能な状態へ

    • サービスデザイン部への理解が高まった状態でのぐるみへの参加

    • デザイナー同士の関係値を序盤に高めることで、不安や心配ごとの解消へ

部署になるまでの黎明期、また、サービスデザイン部でのこれまでの5年間の活動を経て、社内からの信頼も高まっています。

これまでは社内にあるサービス開発部を参考に活動していましたが、今では、我々サービスデザイン部の取り組みが社内で良いものとして認知され、会社全体にサービスデザイン部のような組織づくりを広めることを任されていたり、以下のようなポジティブな反応を得られるようになりました。

社内からのサービスデザイン部への声

ここまで組織づくりにフォーカスしてきたことで、サービスデザイン部への投資を引き出せるようになっています。

事業部での成果も出てきており、ようやく当初から掲げていた「Design Driven Innovation (デザイン主導での変化)」を会社全体に広げていくことができる土台が整っています。

サービスデザイン部で掲げるミッション「Design Driven Innovation」

先日、これからのサービスデザイン部の目指す先を、2025年までのロードマップとしてまとめて部内に共有しました。

サービスデザイン部としてのロードマップ「マナスル」

・社内外への情報発信
・文化づくり
・成長支援
・体制づくり
の4つの柱から、2025年までのサービスデザイン部のロードマップを設計している

ヒマラヤ山脈に属する山からとった名前と左上のビジュアルには「目指す先は高いけど楽しく登っていこう!」という遊び心が込められている

サービスデザイン部はこの先も継続して「組織文化」と「組織構造」という2軸の深化を進めていきます。

また、顕在化していた課題を解決していくことで、たくさんのノウハウが蓄積されました。現在はそのノウハウを使って影響範囲を広げて挑戦していく、探索のフェーズに入っていると考えています。

ここからが本当の冒険と捉えて、楽しみながら成長し、デザイン主導で様々な変化を起こしていきます。

このデザイン組織をもっと知る