音声ライブ配信アプリ『Voice Pococha』でリードデザイナーを務めているポムです。約1年前、私がVoice Pocochaの立ち上げ時に担当したMVP構築やキャラクターデザインについてまとめた事例を公開しました。
その後、サービスは着実に成長し、組織も拡大しました。リリースから3年経った現在、約8名のクリエイティブチームとしてVoice Pocochaのデザインに携わっています。
また、私自身も最初はプレイヤーとして先陣を切って手を動かしていたところから、現在ではマネジメントの役割を担うようになりました。
立ち上げフェーズのプロダクトの1人目デザイナーとして、いつどのように役割を変えていくべきか、または変えない方が良いのかと悩むこともありましたが、結果的に良い選択ができていると感じています。
今回は、Voice Pocochaの立ち上げから現在に至るまでの、私の役割の変遷をまとめることで、同じような状況に直面した方にとって参考になれば嬉しいです。
私が立ち上げ期から携わっているVoice Pocochaは、2022年にリリースされた音声特化のライブ配信アプリです。2025年1月にはリリース3周年を迎え、事業も順調に成長を続けています。
アプリダウンロード数は累計50万を突破
流通総額が初年度から4.5倍に成長
ライバーとリスナーのコミュニケーション量が3.5倍に増加
リスナーさん一人あたりのアイテム使用量は1.6倍に増加
https://my.voice-pococha.com/article/3rd-anniversary
立ち上げ期からグロース期へと事業状況が変化する中で、デザイン領域やデザイナーに求められる役割も変わっていきます。
私自身も、プレイヤーとしてデザイン全般を担い続けるのか、特定の分野に尖るのか、マネジメントを担うのか—。こうした選択を意識して、自分の立ち位置を考えていく必要がありました。
実は当初、マネージャーというキャリアはほとんど考えていませんでした。私は元々、出版社や制作会社を経てDeNAに入社し、アートディレクションやUI/UXデザインを軸に、自ら手を動かしてプロジェクトを推進することを得意としていました。
https://design.dena.com/uploads/pdf/culture-deck.pdf
しかし、立ち上げ期からVoice Pocochaに携わり、サービスをより良くするために必要だと考えることを考え、実践する中で、私自身がマネジメントの役割を担っていくことが最適だと思うようになりました。
ここからは、立ち上げ期・リリース後・グロース期の3つのフェーズにおいて、リードデザイナーとして取り組んできたことをまとめたいと思います。
Voice Pocochaの立ち上げからリリースまで、私はVIのアートディレクション、UIUXのリードデザイン、キャラクターのアートディレクションなどをほぼ一人で担当していました。
立ち上げ期に重要なことは、「なぜそのサービスが選ばれるのか(コアバリュー)」という理由を明確にし、その理由を基にUIや各種クリエイティブに反映させることです。
Voice Pocochaでは、「ライバーやリスナーの顔や姿が見えないサービスであるため、自身を投影する存在が必要」であり、そのためにはオリジナルキャラクターをつくることが重要だと判断しました。
そこで、初期のUIUXデザインなどと並行して、Voice Pocochaに登場するオリジナルキャラクター(ボイポコフレンズ)の開発を推進しました。
結果として、リリース後にユーザーからの好反響を得ることができ、ダウンロード数やデイリーアクティブユーザー数も順調に伸び、順調な滑り出しを作ることができました。
キャラクター開発のより詳細なプロセスはこちらをご覧ください。
リリース後、サービスがユーザーに受け入れられることが検証できたら、その後のグロースに向けて、デザイン面から再現性高く価値を出すための仕組み化に取り組み始めました。
Voice Pocochaは、ライバーとリスナーのより良いコミュニケーションの場を提供しています。そのため、ユーザーにとってより良い場であり続けるためのデザインの指針を定義し、すべてのタッチポイントに反映させることが重要だと考えています。
Voice Pocochaでは、デザインの指針を「王道」「安心」「熱量」という3つのキーワードで定義しており、UIやクリエイティブ、UXライティングなど、さまざまな要素に反映させています。
例えば、Voice Pocochaでは「王道」「安心」「熱量」の原則に基づき、UIテキストにおいて「青のトーン」と「赤のトーン」の2つを使い分けるようにしています。2つのトーンの概要は以下です。
🟦青のトーン (通常トーン / 無感情)
悲しい配信、楽しい配信、悔しい、嬉しい、つらい、など色々な感情が集まるプラットフォームだからこそ、ほとんどの場合には人間味を消したコミュニケーションを取る。馴れ馴れしさや押し付けがましさが出ることを避ける。
使用場面は、赤のトーン以外のすべての画面。
🟥赤のトーン (情緒的なトーン)
どんな人でも絶対にポジティブな場面のみ、エンターテインメント性をもった表現をする。堅苦しいアプリになってしまうことを避ける。
使用場面例は「ユーザーにとって無償で利益があるとき」「ユーザーの努力によって実績が積み上がったとき」「一人で完結する行動を訴求するとき」など。
こちらはUXライティングにおける指針の例となりますが、この他にもキャラクターやアイテムなど、さまざまな領域で、上記のような指針を具体化しています。
これによって、私だけではなく他のメンバー、または今後新しく入ってくるメンバーでも、Voice Pocochaらしいコミュニケーションをデザインできるようになっています。
並行して、徐々にチームの拡大や体制整備に取り組み始めました。
まずは、チームとして担うべき役割から逆算し、体制を構想しました。この考えのベースには、私がVoice Pocochaに携わる前にPocochaのデザインを担当していた経験があります。
例えば、Voice Pocochaでは、プロダクトデザインだけでなく、イベント運用やコミュニティ形成、キャラクター・アイテムのデザインなど、様々な領域をカバーする必要があります。
チーム体制として、各領域に専任のデザイナーを配置する方針も考えられますが、Voice Pocochaでは兼任を推奨しています。これは、サービス全体で一貫した体験を生むことを重視しつつ、複数の領域に関わることでスキルの幅を広げ、モチベーション高くデザインに取り組める環境をつくるためです。
チーム体制の構想が具体化してきた段階で、必要な人物像を明確にし、仲間を集めていきました。
例えば、DeNAデザイン統括部内でアサイン調整の相談を行うこともあれば、アイテムのアニメーションのように専門スキルが求められる領域では、ゲーム事業部のメンバーに声をかけることもありました。
DeNAという環境やメンバーの支えも大きかったですが、このようにして徐々にVoice Pocochaのクリエイティブチームを拡大し、体制を整えていきました。
専門性の高い仲間が集まってからは、私の役割もマネジメントへと寄せていきました。
Voice Pocochaで、クリエイティブチームが最大限価値を発揮できる役割はどのようなものか、チーム内でメンバー同士が共創し、より良いアウトプットを出せるようにするにはどうすべきかなどを考え、実行していくことになります。
その一つの例が、クリエイティブチームにおけるバリューの定義です。
「各担当領域のアウトプットに全責任を持ち、Voice Pocochaの熱量を創出する。」というスローガンを掲げ、そのための具体的な行動指針を設定し、チームの共通認識としました。
また、異なる専門性を持つメンバーが共創しやすい環境を整えるため、仕組みづくりも進めました。
例えば、半期に一度、お互いのスキルセットや今後伸ばしていきたい方向性を共有する場を設けています。担当領域や強み、経験年数の違いに囚われず、フラットに理解し合うことが重要だと考えています。
他にも、以下のような仕組みを運用しています。
■毎週のクリエイティブ定例
各セクションの担当メンバーが、定量データ(KPI・OKRなどの進捗状況)と定性データを総合的に共有・確認する場を設けています。これにより、チーム全員がサービスの現状を正しく把握し、共通認識を持てるようにしています。
■ 毎日の夕会(30分〜1時間程度)
各メンバーが私や他セクションのクリエイティブメンバーと、デザインの相談や情報共有、雑談を行う時間を設けています。これにより、サービスに関わるアウトプットのクオリティを適切にマネジメントしつつ、チーム全体の視座向上を図っています。
このような仕組みによって、メンバー間の共創や柔軟なアサイン調整もしやすくなっています。
例えば、以前はUIアニメーションの制作を(得意ではないながらも)私が担当し、エンジニアと連携することが多くありました。しかし、スキルの可視化を進める中で、アイテムデザインを担当しているメンバーが「UIアニメーションもやっていきますね」と声をかけてくれました。
以来、その方にリードをお願いし、より専門性を活かした制作ができるようになりました。
ランクアップ・レベルアップ・運動会おわりのアニメーション
リリースから3年が経ち、Voice Pocochaのクリエイティブチームは1名から8名体制へと拡大しました。
現在は、マーケティング、プロダクト、イベント/プライズ、アイテム/キャラクター、コミュニティなど、Voice Pocochaの運営に欠かせない領域を、各メンバーが兼任しながら支える体制となっています。
また、チーム内で積極的に協力し合うことで、サービスの成長を支える良質なクリエイティブを次々と生み出せるようになりました。
Voice Pocochaにおけるクリエイティブ例
その結果、冒頭で触れたように、サービス自体も順調に成長を続けています。これは、私一人がプレイヤーとして手を動かしていたら実現できなかったことであり、クリエイティブチームをはじめ、Voice Pocochaチーム全体の力があってこそ生まれた成果だと感じています。
Voice Pocochaは、エンタメ × コミュニケーションを軸にしたサービスです。
そのため、プロダクトの完成度だけでなく、イベントやコミュニティなど、さまざまな要素が掛け合わさることで、より大きな価値が生まれます。
だからこそ、各メンバーがオーナーシップを持ち、自身の担当領域を超え、サービス全体で一貫した体験を生み出せる仕組みをつくることが重要だと考えていました。
私自身、もともと組織マネジメントを志向していたわけではありませんでした。しかし、Voice Pocochaのようなサービスでは、全体を俯瞰し、情報を集約しながらチームに還元していく役割が重要だと感じるようになりました。
そこで、自分は全体を見渡しながら動くことにフォーカスし、サービスをより良くするための環境を整えていくことが最適だと考え、実践して行きました。
「より価値のあるサービスをつくること」、そして「その価値を共に高めていけるチームをつくること」。この両方を実現することが、今の自分が果たすべき役割だと思っています。