Visionalグループの株式会社アシュアードが運営する、セキュリティ評価プラットフォーム「Assured(アシュアード)」。私は1人目デザイナーとして株式会社ビズリーチから転籍し、2022年からサービス全体のデザインに関わっています。

セキュリティ評価プラットフォーム「Assured」

既存のセキュリティドメインの業務を一新することを目指すAssuredでのプロダクト開発においては、特に、価値探索のプロセスが重要となります。

今回は、私が1人目のデザイナーとしてこれまでに行ってきた、Assuredでの新機能開発の流れをまとめてみます。

「Assured」は、企業間のセキュリティ調査をより円滑に進められる、セキュリティ評価プラットフォームです。

Assuredが提供するセキュリティ評価レポート

2022年にVisionalグループの一員として創業。「取引に確信を与える、セキュリティの星つきガイドへ。」をビジョンに、安心できるビジネスパートナーの発見や、DXをはじめとするIT投資の加速を支援しています。

Assuredのビジョン

DX推進企業や、金融機関を中心として幅広い業種のお客様にご利用いただき、創業から2年ですでに500社近くに活用されているプロダクトです。

すでに500社近くのお客様にご利用いただいている

Assuredは、クラウド活用およびDX推進を支える唯一のセキュリティの信用格付けプラットフォームを提供しています。

具体的には、国内外のSaaS等クラウドサービスのセキュリティ評価情報をデータベースに集約し、安全性を可視化。クラウドサービスを利用する企業・提供する事業者双方の負を解消するために、既存のセキュリティ(評価)関連の業務を一新する、全く新しい業務フローを提供しています。

従来、セキュリティ管理業務は、利用企業にとっても、事業者にとっても、その安全性に確信をもちにくい曖昧で、複雑で、難解なものでした。それぞれの企業がその妥当性に確信をもてぬまま、個別最適化された自前のセキュリティ管理体制を運用しており、負担が大きいものでした。Assuredは、これが日本全体のIT投資を阻害している要因だと考えています。

このような個社別の複雑な独自規格を、いわば「統一規格」にしていくのがAssuredの狙いです。Assuredの中に、無数のクラウドサービスのセキュリティ評価情報がすでに登録されており、Assuredを使えば速くスムーズに負担なくセキュリティチェックが終わり、リスクの有無も常に管理されており安心して攻めのIT投資を進めていける。既存の業務構造から発生していたセキュリティ不安を解消し、企業が安心・安全にクラウドサービスを活用できる未来をつくろうとしています。

セキュリティ評価の代行コンサルなどはすでに存在していますが、セキュリティ情報の総合プラットフォームとなる構想を持って事業とプロダクトを運営するのは国内ではAssuredのみです。競合も不在のなか、新しいカテゴリーづくりにチャレンジしている事業です。

Assured が変えていくセキュリティ業務の構造

新たなカテゴリーをつくっていくAssuredのプロダクト開発において、特に意識していることは2つあります。

  • 新たに業務を定義する + なめらかにしていく

  • 製販一体となって、ビジネスモデルの拡張から検証する

Assuredでのプロダクト開発における役割

これまでになかったセキュリティ業務のフローを提供していくため、プロダクトで新たに機能をつくるときには、お客様の業務フローのあるべき姿をゼロベースで定義するところから始まります。これは、既存の業務をそのままクラウドに置き換えるプロダクトとは少し違うところかもしれません。

これに加えて、機能をリリースした後の磨き込みにもパワーが必要です。あるべき理想で開発した機能は、ある程度の検証を挟んでいても、リリース後にすんなり使いこなしてもらえないこともしばしば。そのままでは従来の業務から切り替えが難しかったり、活用イメージがわきづらいために運用に乗り切れなかったりして、機能の利用を見送られてしまうケースもありました。

つくって終わりではなく、リリース後も、なめらかに使ってもらえるようにプロダクトやご案内のフローを磨いていくことが必要なのです。

そして、とにかく理想の体験を追い求めて開発すれば良いわけでもありません。ビジネスとして成長させながら、事業として目指す世界観にたどり着くために、ビジネスモデルを順に拡張していくような考え方で機能開発の優先度をつけなければいけません。

プロダクト開発プロセスのなかに、顕在化した課題の解決と併存して、プロダクトアウト的な発想でビジネスモデルを拡張できるか?という問いがあるのもAssuredの特徴かもしれません。

Assuredでは「製販一体」という言葉がよく使われます。競合もおらず、ただつくるだけでは活用されきれない状況で、いかにビジネスとプロダクトが連携して、つくることと販売して活用してもらうことを近づけていけるかが重要だと考えています。

ここからは、より具体的に、新機能検証のプロセスをまとめます。

前提として、Assuredでは創業時からセキュリティ評価のサービスを提供しています。

この評価機能の一定のPMFが見えてきた段階で、これまでのビジネスを拡張しつつ、どのように理想に辿り着くのか?という思考をもとに「台帳機能」「検知機能」という2つの新機能をつくりました。

これまでのビジネスモデルを拡張する2つの機能を新たに開発

少し詳しくご紹介すると、Assuredのビジネスモデルはセキュリティ評価情報の提供を軸に、対価をいただくモデルです。ビジネス拡張の方法としては、① 利用SaaSのセキュリティ調査依頼数を最大化する ② 全く新しいキャッシュポイントを作る の2つがあります。

「① 利用SaaSのセキュリティ調査依頼数を最大化する」 の場合は、以下のような思考の流れを辿ります。

  • そもそも、セキュリティリスクを把握するうえで、自社で利用しているサービスを網羅的に把握することが必要不可欠。リスク把握が必要なサービスについて、セキュリティ評価をもれなく実施いただくことが、「セキュリティ評価依頼数」の増加につながり、お客様、ビジネスの双方にメリットがある。

  • セキュリティ担当者の方が、自社で利用しているサービスを網羅的に把握していることが必要だが、そもそも把握できているお客様は多くなく、いわゆる「シャドーIT」と呼ばれるこの分野に課題感がある企業は多い。

    • なので、サービス検知機能が必要 と考えた

  • 利用サービス自体のリスクを把握していても、使われ方(ex. 重要情報の有無, 停止時の業務影響)を把握し、かつ、定期的にアップデートしている必要がある。

    • 推奨される管理項目のご提案や、その入力、評価要否の判定、継続的なアップデートができるように、サービスを管理する基盤としての台帳機能と、その周辺機能の開発が必要 と考えた

さらに、既存ビジネスを最大化するこれらの新機能単体でも価値を感じていただき、場合によってそれ単体でご利用いただけるようなプランを開発することで「② 全く新しいキャッシュポイントを作る」ことも目指します。

これらの開発のプロセスをフェーズで分けると、「市場の機会を発見」「新たな業務をプロダクトで定義」「より細かくなめらかに改善」という3つのステップがあったように思います。これらの具体的な流れをまとめてみます。

Assuredでの新機能開発プロセス

はじめに、大前提として今回ご紹介するプロセスや方法が唯一の正しい方法だったとは感じていないことをおことわりしておきたいと思います。

プロダクトアウト、マーケットインのバランス感覚でもありますが、振り返ってみると、もう少し「1. 市場の機会を発見する」の段階からマーケットやユーザーの情報を反映した意思決定ができたようにも感じており、特に「3. より細かくなめらかに改善」のプロセスにおいては、そのバランスをとりました。

今回は、事実としてこのような進め方をしてきたということを書き残せればと思います。

まず、Assuredとしての理想のプロダクト像を描いていきます。

全社でワークショップを行い、ビジネス、プロダクト、セキュリティの3チームに分かれて案を出してもらい、それを私が全体のアウトプットとしてまとめました。

Assuredとしての理想を描く

これらの理想に対して、どこから取り組むべきなのか?を判断するために、現実のセキュリティ関連の業務プロセスを整理して、理想の機能を並べてみます。

現実の業務プロセスを整理、理想の機能を並べる

さらに、Assuredとしての事業成長ロジックをまとめ、既存の評価業務につながる市場機会を可視化していきました。

成長ロジックをもとに、市場機会を可視化

これらのステップを通して、現在利用する外部サービスを取りまとめる「台帳機能」と、調査が必要なツールを特定する「検知機能」の2つが次につくる新機能として最適なのではないかという結論にたどり着きました。

今回に限らず、ユーザーが欲しい機能をつくるというだけでなく、どうすれば売れるか?という観点も持って、市場機会を発見するような発想でアイデアを出すのがAssuredのプロダクト開発の特徴です。

台帳機能と、検知機能に市場機会がありそうかもしれないと仮説ができてきたので、それらの業務に絞り、プロダクトの機能へと落としていきます。

まず、セキュリティ業務に知見がある社内のドメインエキスパートと一緒に、それぞれの業務プロセスでユーザーが求めていることを仮説として洗い出しました。

ドメインエキスパートと一緒に、ユーザーがしたいことを仮説で整理

それをもとにプロトタイプを用意します。

手描きのLo-Fiプロトタイプで必要な画面をまとめたのち、Hi-Fiなモックアップに落とし込み、営業の場面でヒアリングをしながら、コンセプトや実装順序を検証しました。

プロトタイプを用意し、優先度を立てる

このようなプロセスを通して、台帳機能、検知機能がリリースされました。

台帳機能、検知機能をリリース

リリースしたものの、お客さまにとって全く新しい体験だと、すぐに運用に乗せられない、導入イメージがわかずに売れないという事態が発生します。

Assuredは、まだまだスタートアップであり、機能をつくれば自ずと使っていただけるというようなことはありません。新しい業務フローを提案する立場として、既存の業務からスムーズに移管してもらうために機能をなめらかにする改善が必要です。

既存の業務によりフィットさせ、売れる理由をつくるために、チームを横断した改善プロジェクトが発足されました。

リリース後に、改善プロジェクトが発足

プロジェクトの序盤で

  • お客さまの解像度を高めることが必要という現状認識

  • お客様の分類

  • それぞれどう売れそうか

というプロジェクトの概要やゴールイメージを、ビジネスチームが中心となって整理してくれました。

プロジェクト開始時点で、ビジネスのメンバーが整理してくれた現状認識

具体的には「サービス台帳機能を使うインセンティブが示しきれていないことが原因なのではないか?」と仮説を立てました。

この仮説とあわせて、必要になりそうな機能案をいくつか想定し、ヒアリングに動いていきます。

ここで一つポイントとして、ヒアリングを待たないと改善できない状況を避けることを意識しています。

開発タスクとしてやるであろうことを事前に洗い出しておき、コストをそれほどかけずやれそうなことは、ヒアリング前から先に開発を進めてしまいました。こうすることで、より早く必要な体験をリリースすることができたと感じます。このプロセスは、エンジニアメンバーが積極的に取り組んでくれました。

リサーチの間、開発チーム側だけでできそうな機能改善を事前に予想し、走らせる

並行して、仮説をもとに、ビジネスメンバーがインタビュイーのリクルーティングを行い、半構造化インタビューの設計とインタビュワーをデザイナーの私が担当し、ヒアリングを進めました。

ビジネス側のメンバーが顧客分類を踏まえてリクルーティングを行い、デザイナーの私がヒアリング

ヒアリングの結果、台帳管理や、検知に関する、実際の業務フローがより細かく分かってきたので、詳細に業務を分解してまとめます。

ヒアリングの結果まとめた、より詳細な業務理解のフロー

さらに、想定していた機能のなかで、優先度高くつくるべき機能をチーム全員で整理していきました。

結果として、台帳の内容をCSV / Excelの形式でインポートできる機能をリリースしました。また、他にもこのプロジェクトから生まれた新機能のリリースを控えています。

追加でリリースしたインポート機能

台帳機能と検知機能のリリース後、これらの機能が導入理由になり、Assuredを利用開始いただけるケースが増えています。

既存の多くのお客さまにも、台帳機能をご利用いただいており、プロダクトがよりアクティブに活用されている実感があります。

さらに、業務フロー整理を丁寧にすることで、社内メンバーも業務解像度が上がり、提案の幅を増やすことにも繋がりました。

Assured事業としての売上増加にもつながっています。

Assured事業のセールスの声
複数のアウトカムを提案できるように

と言いつつ、まだまだ改善は終わりません。これまでの評価機能と新機能との接続をさらに強め、理想の世界観の実現、そして、ビジネスモデル全体をつなげていくような開発に注力が移っています。

今後のプロダクトとしての注力箇所

Assuredでのプロダクト開発は、まだ世の中にない業務を生み出し、実装していくことと言い換えられます。

プロダクトの理想を描き、同時に現実の業務を丁寧に理解し、ビジネスにもつながる一点を見出して、開発に落とし込む。

このような、カテゴリーを創造できる面白さは、私が関わってきた他のサービスではなかなか体験できなかったことでした。

Assuredでのプロダクトデザインの面白さ

これまでのプロダクト開発の知見ももちろん活かしたうえで、「製販一体」でビジネスの拡張から考える部分はかなりチャレンジングな領域だと思います。ですが、仲間のおかげで楽しく前向きに取り組めています。

さらなるグロースに向けて、デザイナーの人数もまだまだ必要です。プロダクトだけでなく、ブランド構築や、マーケティング活動全般に関わるコミュニケーションデザイナーのお迎えも計画するなど、組織づくりにも同時に取り組んでいます。

事業として成長しているなかで、一緒にデザインのチカラを使ってさらにプロダクトやビジネスをより良くしていく仲間を探しているので、興味があればぜひお話しましょう。

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