MIXIでは、2022年初旬からバーチャルプロダクションという新しい映像表現を導入し、施策に取り入れていく試みを進めており、クリエイティブディレクターとしてクリエイティブ全般と技術の両方を担当しています。

バーチャルプロダクション : 実写の被写体と3DCGの背景を同時に撮影し、リアルタイムで合成する映像制作・配信技術。

バーチャルプロダクションを用いた配信映像の例。登壇者と3DCGで作られた背景をリアルタイムで合成しながら、YouTube配信を行いました。映画『プロメア』 ©TRIGGER・中島かずき/XFLAG

MIXIではもともとYouTubeライブ配信やPVなど、動画制作をする機会は多くありましたが、バーチャルプロダクションのような映像表現は試したことがありませんでした。

そのなかで、なぜ新しい映像表現を試してみることになったのか、どのように施策に取り入れていけるようになったのか、取り組みをまとめたいと思います。

MIXIでは、もともとモンスターストライク(以下モンスト)のプロモーションを充実させるうえで、動画によるクリエイティブをつくる場面が多くありました。

動画クリエイティブ室で担当しているモンストのライブ配信映像の例
https://www.youtube.com/@monsterstrike/streams

今では「千葉ジェッツふなばし」などのクラブ運営、『家族アルバム  みてね』、MIXI発IPコンテンツである『プロメア』、『XFLAG PARK』のようなイベントなど、事業の拡大に伴って幅が広がってきており、そこにあわせて制作する動画の幅も増えています。

動画クリエイティブ室で担当している他の動画の例

具体的には、実写でのブランドムービー、イベントに伴うライブ配信、YouTube Short動画など様々な動画クリエイティブを扱うようになっていました。特にライブ配信は、様々な部署から求められることが多くなりました。

それに対して、動画クリエイティブ組織としては、より幅広い動画の表現を扱えるようになっておく必要がありました。

動画や配信は社外パートナー様の協力も得て進めることも少なくないのですが、新しい試みとなると試行錯誤しながら作っては直すという作業が多く、スケジュールやコストの面で難しい側面もあります。

また、リアルタイム3D制作ツールやバーチャルプロダクションのような技術を社内で扱えれば、細かな要件に対しても即座に対応できますし、ギリギリまで作り直してクオリティを高められます

加えて、個人的には作りながら思いつくアイデアを大切にしていて、それらをすぐに試すこともできます。

こうしたメリットは、動画クリエイティブを扱うことが多いMIXIならではの強みにしていけるだろうと考えていました。 ただ、このような技術は、一朝一夕で使いこなして事業に活かせない場合も多く、早い段階で取り入れ、試しながらノウハウを蓄積しておく必要があります。

このような背景のもとで取り組んだチャレンジとして、Unreal Engine (リアルタイム 3D 制作ツール) を用いたバーチャルプロダクションがあります。

Unreal Engineを活用し、実写とCGをリアルタイム合成して撮影・配信する技術。

Unreal Engineは、ゲームなどエンターテインメントの世界では一般的なツールですが、ここ数年で実写合成をする機能が充実してきています。

また、MIXIには配信用の社内スタジオが設置されていたこともあり、Unreal Engineと組み合わせれば、バーチャルプロダクションのような新しい映像表現を取り入れていけるのではないかと考えました。

MIXI社内の配信用のスタジオ
グリーンバックがすでにあったので、最小限のコストでバーチャルプロダクションを試せました。

ただ、今までやったことがない取り組みではあったので、まずは使ってみながら技術検証を進めるという考えで、実験しやすい社内の機会から少しずつ取り入れていきました。

まずは3週間ほどかけて準備をして、社内のデザイン職が一同に集まるデザイナーズミーティングを、1時間ほどのライブ配信形式で実施してみました。

デザイナーズミーティングでの様子。
登壇者にはグリーンバックの手前に座ってもらい、背景をUnreal Engineで合成しています。

この段階では、そもそも実写とCGを合成した配信が可能なのかどうか、配信は途切れないかが検証できれば最低限OKとしてハードルを下げて取り組みました。

結果的には、いくつか課題も見つかったものの、第一弾の取り組みとしては良かったのではないかと思います。

次の機会として、MIXIの全社朝会(新ロゴやバリュー発表などを行う特別な朝会)で、バーチャルプロダクションを用いたライブ配信を実施しました。

全社朝会での様子。
登壇者の全身を映しながらカメラ移動をできるようにしたりと、新しい表現を取り入れました。

デザイナーズミーティングでは、カメラ位置を固定して足元は映さないなど、技術的なハードルが高まりそうなことは極力避けていました。 ただ、バーチャルプロダクションの良さとして、現実世界では作れないような「広さ」を演出できることがあるのではと考え、登壇者の全身を映しながらカメラ移動をしたり、引き・寄りの構図を撮影できるようにするなど新たな表現を取り入れました。

次の機会として、2023新卒内定式のデザイン本部長パートにて、ライブ・グラフィックレコーディングを実施しました。

新卒内定式での様子。
手元のタブレットに描いた絵図が、Zoom上の背景にリアルタイムで反映されるようになっています。

バーチャルプロダクションの技術を使えば、手元で描いたものを背景にリアルタイムで反映するなど、プレゼンテーションの新しい表現をつくれるのではないかと考えて試してみました。

新体験として盛り上がりはつくれたものの、背景が同時に変わっていると、話している内容が入ってきづらいなどの声もあり、参加者のリアルな反応からも学ぶことがありました。

社内での技術検証を繰り返したことで、社外向けのプロモーション施策でもバーチャルプロダクションを取り入れられるようになってきました。

2022年5月に開催したプロメア3周年記念イベントで実施したYouTubeライブ配信では、Unreal Engineを用いたバーチャルプロダクションを取り入れています。

具体的には、プロメアの世界観を反映したバーチャルスタジオを背景として用意し、番組進行に合わせた任意のスライド表示、場面転換時に背景が燃え上がるような演出などを実装しました。

プロメア3周年記念イベントでの、実写とCGを組み合わせた表現例

いくつか技術的にチャレンジングな部分もありましたが、2時間に及ぶ配信を実施することができ、「実際にプロメアの世界観に入っているようだった」といった嬉しい声をいただくなど、手応えを感じられる結果となりました。

ここまでUnreal Engineを用いたバーチャルプロダクションを取り入れていった流れをまとめましたが、今後より活用していくためには、まだまだ課題が残っています。

さらに事業貢献につなげていけるような動きとして、以下のようなことにも取り組んでいます。

Unreal Engineのような専門技術は、できることは数多くあるものの、実際に何が表現できるのかを伝えていかないと、他のメンバーからしてもいつ活用できるのか判断しづらい場合があります

そのため、積極的に技術デモを全社に向けて公開することによって、「こんな表現ができるなら取り入れてみたい」と直感的に思ってもらえるようにしています。

社内公開した技術デモ動画の一例。 左側がCGでつくられたRomiというAIロボットのモデル。右側がモンストに登場するオラゴンのぬいぐるみ(実写)。両者にライトを当てても、自然な反射となる映像表現を検証しています。

個人としてもR&D的に様々な表現を試してみることで、その表現を見た時の反応を自分の肌感として持つことができますし、実際に事業と絡めて映像を作る時にも「過去試してみた表現」をパーツとして組み合わせながら素早く作り上げることができます。

また、社内でもバーチャルプロダクションに興味を持ってくれる人も少しずつ増えており、デザイン職の新しいキャリアとして考えてもらえるようになるとよいなと思っています。

今後の新たなキャリアパスの一例。技術的に共通する部分が多い、CG、バーチャルプロダクション、ARなどの領域にそれぞれ伸びていけるような可能性をつくりたいと考えています。

MIXIでは、ゲームや映像分野でCGクリエイターが日々ノウハウを蓄積していっているところです。

バーチャルプロダクションをつくるための技術は、そうしたゲームで培った3DCGのスキルや、ARなどの領域とも共通する部分が多くあります。

今後は、CGクリエイターがバーチャルプロダクションという新しい領域にチャレンジできたり、リアルタイムエンジンを使った映像制作を増やしたりしながら、技術やノウハウをさまざまな領域で横軸展開していければと考えています。

業界的にもバーチャルプロダクションやARを活用する機会は年々増えていくことが予想されるので、そういった潮流にもマッチするように、組織も強化していきたいと思います。

今回は、MIXIでバーチャルプロダクションを導入し、施策に取り入れていくまでの流れをまとめました。

もちろん、バーチャルプロダクションもあくまで手段の一つなので、手軽さを優先したり、他の表現手段が適切な場面も当然でてきます。

MIXIにおけるデザイン職として担うべきは「クリエイティブでの事業貢献」であり、事業に紐づく課題に対して、最適な解決策を提案したり、楽しくてワクワクするようなコンテンツをクリエイティブを通して作り上げることが求められます。

そのためには「今後必要になってくるであろう技術」を先んじて見極めながら技術検証を重ね、いざ必要になった時にアウトプットできるようにしておく準備も重要だと感じています。

その1つの事例が、今回のバーチャルプロダクションの技術検証であり、今後も映像表現だけでなく様々な場面で専門性を高めつつ、事業に貢献できるような状態を目指したいと思います。

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