2023年6月に開催された全社総会「MIXI AWARD」では、オンラインで参加するメンバーに向けたライブ配信を実施しました。

配信においてはAR技術を活用し、タイトルコール演出や、社内チャットツールで押されたスタンプをリアルタイムで表示するなど、臨場感あふれる視聴体験となるよう工夫を凝らしています。

MIXI AWARDの様子を、オンラインでの参加者向けに配信した映像の一部。

MIXI AWARD会場後方には配信用ブースが設置され、ここで撮影や配信の調整を行っていました。

これほど規模の大きいイベントでAR配信を行うことは、私達にとって初めてであり、チャレンジングな取り組みでした。

実験的にARを取り入れてみたことで、今までにない視聴体験を届けられた実感とともに、今後MIXIにおいてAR技術を活用していく足掛かりにもなったと感じています。

MIXI AWARDは、MIXIの企業理念の浸透を目的として開催している全社総会です。 今回はコーポレートブランドのリニューアル後、初めての開催ということもあり、開催に向けてより一層力が入っていました。

そのなかで、今回AR配信を取り入れた理由は2つあります。

今回のMIXI AWARDでは、オンラインとオフラインを組み合わせた開催形式を取っていました。

受賞者と一部の社員のみ会場に集い、その他の社員はオフィスに用意されたパブリックビューイング会場や、自宅からオンラインで参加することになります。

全社的にも重要な意味合いを持つ機会であり、また、多くの社員はオンラインでの参加となるため、ただ単に会場での様子を配信するだけでなく、より一体感や臨場感を演出できるような視聴体験を作れないかと考えた結果、AR技術を取り入れた配信というアイデアが出てきました。

オフィスに用意されたパブリックビューイング会場の様子。
他にも自宅からオンラインでMIXI AWARDの様子を視聴する社員も多くいました。

また、AR技術については、以前からMIXI社内でも技術検証を進めており、本格的にチャレンジできる機会を求めていました。

MIXI社の開発本部 CTO室 映像開発グループにて、スポーツ観戦をより多くの方に楽しんでもらうために開発されたAR映像システム「Astra」の実録デモ映像。

AR技術のオンライン配信との相性の良さに加え、今回のMIXI AWARDを通して本格的に運用することができれば、今後の事業に関わる場面でも活かしやすくなるのではないかという考えもあり、取り組んでみることにしました。

ただ、これほど規模の大きいイベントでAR配信を行うことは初めての取り組みです。

そのため、手探りではありましたが、デザイン本部や開発本部のメンバーでアイデアを出し合いながら以下のように準備を進めていきました。

まずはじめに、どの場面でどんなAR表現を実装するかを決めるために、リサーチから進めました。

  • 会場を視察し、ARカメラをどこに配置すべきか検討

  • 開発本部の現状のARシステムでどういうことが可能かを把握

  • アワードの目的や、台本などの全体の流れ、イベントで使用されるAR以外のグラフィック素材の把握

  • (日頃からの) ARに向いている表現のリサーチ

これらを踏まえながら、こうすると驚きがあるな、盛り上がりが作れるなといったアイデアを広げていき、以下のような観点を踏まえて絞り込んでいきました。

  • 驚きがある表現か

  • 小さな労力で大きな効果を生めるか

  • 汎用性のある表現か

  • 技術的なチャレンジと制約のバランス

今回のアワードで実装することにしたAR表現のまとめ。
最終的に「スタンプ」「キービジュアルの各マーク」「賞タイトル」「エンドロール」の4つを実装することに。

また、今回は会場で実際にリハーサルできるのが当日のみであり、リスクのあるチャレンジでもありました。本来は、会場と3Dモデルの正確な位置合わせが必要なのですが、それが当日設営してみないと精度がわからないので、多少誤差があっても成り立つ表現を選んでいます。

ARは質量の制約から開放された造形物を空間にどのように配置し、時間経過の中でどう変化させていくかが、デザインするうえでの一つの観点にあると感じています。

完全に静物なリアル造形物の代替としてARと気づかれないように配置することも可能ですが、ARらしさにはカメラの移動、パン、ドリー、ズームといったカメラの動きと連動性も考慮しないと効果的ではないので、その観点もAR表現では考慮しています。

ARカメラ位置や、ARの出現エリアを検討していた時の資料。

次に、ARを実装していくにあたって必要となる3Dアセットの制作を行いました。

流れとしては、AR上で表示したいビジュアルを用意し、それらをblenderなどの3D制作ツールでモデリングしていきます。

例えば、今回であれば「スタンプ」「賞タイトル」「MIXIの企業理念を模したビジュアル」などのグラフィックを用意しました。

ARで表示することとなったビジュアル (2D)
MIXIの企業理念を模したビジュアルや、タイトルデザイン、スタンプなど。

次に、それらのビジュアルを基にしながらblenderでモデリングし、AR上で利用できる3Dアセットを制作しました。

blenderで制作したAR用の3Dアセット。
今まで3Dアセットの制作はblender以外のソフトで行なうことが多かったのですが、この機会に習得しようということでblenderに。

3Dアセットを用意できたら、次はUnreal Engineというゲームエンジンを用いてARの実装を進めていきます。

Unreal Engineでの制作風景

それぞれのオブジェクトへのエフェクト設定を行ったのち、空間配置の設定を行います。 一方、当日まで会場には出入りすることができなかったため、社内でプレビュー環境を用意して、細かくテストしながら調整を重ねました。

社内でのプレビューの様子。当日まで会場に入れなかったため、社内で試しながら調整を重ねました。

また、当日の配信時にAR演出を操作するためのインターフェースを用意しました。

AR演出の操作用インターフェース。

このような流れで準備を進め、MIXI AWARD当日を迎えました。 当日はスタッフ陣が先に会場に集合し、アワード会場の後方での配信用ブースの設置、カメラや照明のセッティング、リハーサルを通したARの見え方の最終調整を行っていきました。

MIXI AWARD開催直前の準備、リハーサルの様子。

ここからは、実際に配信で用いられたAR演出について、いくつかご紹介します。

新人賞、チーム賞、個人賞など、賞タイトルが表示される演出です。 タイトルコール時に画面いっぱいに映し出された後、ステージ上部に固定され、カメラが移動しても自然に映るように工夫がなされています。

MIXI AWARDでの賞タイトル発表時の様子。 賞タイトルが出現した後、カメラを動かしても自然な位置に表示されるようになっています。

社内チャットツール上で押したスタンプが、リアルタイムで画面内に表示される演出です。 一定時間内に多くのスタンプが押された場合、ビックスタンプが出てくるなど、オンラインで参加される方がインタラクティブに楽しめるようにしています。

社内チャットツールで押されたスタンプが配信画面上に表示されている様子。

MIXI AWARDエンディングにおける演出です。 受賞者やMIXIに関わるメンバーを称え、その後のMIXIでの活動を鼓舞するような演出として、会場全体に降り注ぐ光やスタンプ、MIXIの企業理念を模したオブジェクトを映し出しました。

MIXI AWARD エンディングの様子。 会場に降り注ぐ光や、カルチャーを表現したオブジェクトなどが映し出されています。

以上がMIXI AWARD 2023においてチャレンジしたAR配信の全体像となります。 実際にAR配信をやってみたことで、良かった点や、今後に向けた課題点もクリアになってきました。

以下の点で、AR配信に取り組んでみて良かったと感じています。

👍: オンライン視聴環境での臨場感 タイトルコールや、スタンプのリアルタイム表示など、今までの配信では演出することができなかった臨場感を生むことができたのではないかと感じています。 実際にMIXI AWARDに参加された社員の方から「一体感があった」「ARの工夫が面白かった」「演出が凝っていて本当にすごい」といった声をいただき、ありがたい限りです。

MIXI AWARD参加者の声をアンケートから抜粋

👍 : AR配信における一連の流れを体験できた トライしてみることで、その手法や活用場面のイメージを深める機会となり、他のメンバーにとってもAR技術への期待感を持ってもらえたと感じています。 また、短い制作期間であったものの、開発本部やデザイン本部メンバーがそれぞれにアイデアを提案し合いながら実現できたことも良かったです。

一方、以下の点は今後改善できるとさらに活用の幅を広げられると感じています。

🔥 : インタラクティブさと遅延のバランス 例えば今回は、社内チャットツールに投稿されたスタンプをリアルタイムで取得し、画面上に表示させるようにしていましたが、どうしても少し遅延が生まれてしまいます。 臨場感を生むためにインタラクティブさは大事にしたいものの、遅延の問題をどうするかは今後の課題の1つです。

🔥: 動くものが入っても自然に見える仕組み ARは基本的には映像にオブジェクトを重ねて表示するものですが、例えば、カメラの前に動く人が入った時に、本来は人が手前であるはずなのに、オブジェクトが手前に表示されてしまうといったことがあります。 今後はAI技術も活用しながら、前後関係をうまく表現できるようにしたいです。

🔥: ARの活用場面や、手法の浸透 私達も今回が初めてであったように、まだまだARに触れたことがある人は少ない状況です。 制作手法も特殊ですし、撮影や照明など、様々な要素が組み合わさるものですので、より広い場面で取り入れられるようにするには、活用場面や手法についてさらに広めていく必要があると感じています。

今回、MIXI AWARDの配信において実験的にARを取り入れてみたことで、課題はいくつかあったものの、今までにない視聴体験を届けられた実感を持てました。

社内イベントの配信のために、ARまで取り入れるべきなのか、と感じた方もいらっしゃるかも知れません。 MIXIには「ユーザーサプライズファースト」という意思決定基準がありますが、今回のように「驚きある体験をつくるにはどうすればいいか」「そのために、専門性を活かしてできることはあるか」と考え、試して、身に付けていけば、提供できる喜びもより大きくなっていくと考えています。

MIXIの意思決定基準であるMIXI WAY:ユーザーサプライズファーストについて
https://mixi.co.jp/about/

また、社内でこの規模のイベントを実施し、その機会を活かして「チャレンジしてみようよ!」と言って実践まで持っていける風土は、弊社の強みなのだと感じます。

さらには、会社規模的に人が多くて部署が分かれていると、サイロ化や、お互い遠慮しがちになってしまうといった、横軸連携が課題となることがあります。今回は、部署を横断して色んな人を巻き込みながらモノづくりをしていく為の、機会としても捉えていました。

今回はMIXI AWARDという社内向けイベントでの実践でしたが、今後は学びを活かしながら、事業に関わる場面でもより驚きを届けられるよう、AR技術をはじめとしたチャレンジを重ねていきたいと考えています。

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