MIXI デザイン本部 ブランドデザイン室 デザイングループ マネージャーの國分です。
MIXIでは、四半期ごとに公開される決算説明資料などのIR資料を、コーポレートファイナンス本部とデザイン本部のメンバーが密に連携しながらデザインする体制をとっています。
企業と投資家との重要なタッチポイントとなるIR資料ですが、インハウスのデザイナーが密に連携してデザインに携わる機会は、意外と少ないのではないでしょうか。
今回は、2年ほど前からIR資料のデザインに携わってきた経験をもとに、特に意識している点や実際に取り組んでいることをまとめたいと思います。
まだまだ試行錯誤の途中ではありますが、少しでも参考になる部分があれば嬉しいです。
コーポレートファイナンス本部とデザイン本部のメンバーが連携しながらIR資料をデザインするようになったのは、2022年5月に開示した期末決算の頃からです。
それ以前は、コーポレートファイナンス本部が単独でIR資料を作成していました。伝えるべき情報の整理からストーリー設計、資料作成に至るまでをすべて担っており、負荷も大きい状況であったといいます。
さらに、2022年1月にはMIXIのコーポレートブランドがリニューアルされたこともあり、MIXIのIRにおけるコミュニケーションについても、これまで以上に強化していく必要があるという判断に至りました。その一環として、コーポレートファイナンス本部とデザイン本部の連携が始まりました。
前提として、企業にとって投資家は重要なステークホルダーです。その投資家とのタッチポイントとなるIR資料において、わかりやすさや見やすさといった体験を高めていくことは欠かせません。
そしてそれは、「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」というパーパスを掲げるMIXIにとっても、大切にすべきことであるという考えがありました。
一方で、私はそれまでIR資料のデザインに携わった経験はありませんでした。
前職では、音楽ジャケットやイベント、コンシューマーゲームといったエンターテインメント領域のデザインに取り組んできました。MIXIに入社してからは、デジタルエンターテインメントやライフスタイル、スポーツなどの事業案件に加え、近年ではブランドデザインにも関わっています。
そのため、IR資料のデザインに携わりはじめた当初は、初めて触れる概念や専門用語ばかりで、戸惑うことも多くありました。
そうした状況から、「MIXIのIR資料において適切なデザインとは何か?」を常に模索し、試行錯誤を重ねてきました。
約2年間にわたりIR資料のデザインに携わる中で、特に意識してきたポイントを整理し、いくつかご紹介したいと思います。
第一に重要なのは、情報を正確に伝えることです。
資料に記載された数字や表現は、投資家にとっての重要な判断材料であり、一語一句が意思決定に直結します。だからこそ、誤解のないかたちで事実を伝えることが何よりも求められます。
一見すると当たり前のことのように思えるかもしれませんが、他の領域のデザインに長く携わってきた私にとっては、ギャップを感じた点でもありました。
特にエンターテインメントの領域では、適切な情報の伝達に加え、見る人の心が動くような情緒的価値を打ち出すことを意識してきました。言い換えれば、「1の情報を5の熱量で伝える」といったようなアプローチです。
一方、IRにおいては、投資家というステークホルダーに対して、MIXIの業績や見通しに関する情報を「1の情報を1として、正確に伝えること」が基本原則となります。
IRにおける主要なステークホルダーは投資家の方々であり、長期にわたってMIXIの業績をキャッチアップしてくださっている方も多くいらっしゃいます。
そのため、IR資料は単発の資料ではなく、そうした投資家と長期的にコミュニケーションを築くための重要な接点でもあります。
MIXIとして過去にお伝えしてきた内容(=文脈)を踏まえたうえで、「今回は何を伝えるべきか」を設計する必要があります。
例えば、過去の決算発表で示した事業展望に対して、その後の説明がなかったり、異なる情報が発信されたりすると、「なぜこうなっているのか?」という疑問や不信感につながってしまいます。
こうした文脈を踏まえたストーリー設計は、コーポレートファイナンス本部のメンバーが中心となって進めています。IRに関する会議においても、文脈やストーリーに関する議論が綿密に行われています。
そのうえで、デザイナーとしてもその背景を正しく理解し、ときにはより良い伝え方を提案していくことが重要です。
業績に関する事実を正確に伝えることを心がける一方で、今後の展望については、希望や期待を持てるような表現を取り入れることもあります。
ただし、そこに誇張や虚偽があってはならず、あくまで現実的な期待感を持てる塩梅を探りながら提案するようにしています。
例えば、2024年3月期第2四半期決算説明会資料(P29)に掲載した「モンスト10周年」に関するスライドについてです。
当初は、10年の歩みを振り返り、感謝を伝えることに重きを置いたストーリー案がありました。
しかし、過去を振り返るだけでなく、「これからモンストがどうなっていくのか」という未来への展望を示すことが、投資家にとってより価値のあるメッセージになるのではないかと考え、構成の提案を行いました。
このように、過去の事実に基づいた正確な情報の伝達と、未来に対する適切な期待感の表現、その両者のバランスを意識することも心がけています。
IR資料においては、業績が良いときもあれば、そうでないときもあります。だからこそ、状況によってデザインのトーンや伝え方にばらつきが出ないようにする必要があります。
例えば、業績が良いときにだけ派手な演出をしてしまうと、業績が振るわないときとのギャップが大きくなり、資料全体の誠実さを損なうことにもなりかねません。
また、前述の通り、継続的に資料を見てくださっている投資家の方も多いため、レイアウトや見せ方を都度大きく変えるのではなく、一定の統一性を保ってデザインすることも大切です。
このように、閲覧者にとって「ノイズ」となり得る要素をできる限り排除し、情報がまっすぐ届くように設計することは、IR資料におけるデザインの重要な役割だと考えています。
まだまだ試行錯誤の途中であり、今後もアップデートを重ねていく必要がありますが、IR資料のデザインに携わる中で、ここまで述べてきた点を意識して取り組んできました。
今回は詳細には触れませんでしたが、デザイン本部では決算説明会における社内スタジオでの収録・配信も担当しています。また、統合報告書の制作においては、コーポレートファイナンス本部と外部制作パートナーの間に立ち、ファイナンスとデザインという異なる専門領域を行き来しながら、それぞれの意図や文脈を丁寧に翻訳・調整しています。いわば、「全く違う職能間をつなぐ橋渡し役」としての立ち回りを担っています。
IR資料のデザインにおいて、特に連携の機会が多いコーポレートファイナンス本部 本部長の井上からは、以下のようなコメントをもらっています。
今後も投資家の方々とのコミュニケーションをより良いものにするために、各部門との連携をさらに強化していきたいと考えています。
MIXIという会社の文脈や、「何を伝えたいのか」「投資家の方々が何を知りたいのか」を丁寧に理解し、それを誠実なコミュニケーションで伝えていくこと。これこそが、IR資料のデザインにおいてとても大切な役割だと実感しています。
私は現在、「ブランドデザイン室 デザイングループ」のマネージャーとして、クリエイティブを通じてMIXIらしさを社内外に届けていく活動を担っています。IRという領域においても、MIXIらしい姿勢でコミュニケーションを設計していくことで、ブランドそのものの信頼や価値を築いていけると考えています。
こうしたチャレンジに関われていることは、ひとりのデザイナーとしても非常に貴重な経験であり、大きなやりがいにつながっています。今後も、MIXIらしい表現や姿勢を大切にしながら、こうした取り組みを継続・発展させていきたいと思います。
ブランドデザインやエンタメ領域での取り組みについては、以下の記事・動画でもご紹介しています。考えや姿勢をより深く知っていただけると思いますので、ぜひあわせてご覧ください。