キュービック・エクスペリエンスデザインセンター・UIチームの重田です。普段は、WEBメディアのUIデザインをはじめ、バナーなどの広告クリエイティブなどのコミュニケーションデザインを担当しています。
直近では、カードローン比較メディア「Loan Portal」に誘導するバナー広告を作っていますが、「成果のあがるバナーのどの要素が成功へと導いているのか、要因が分からず再現性がない」という課題を抱えていました。
今回は、自ら広告運用に入り込むことでバナー制作のPDCAを回せるようになり、デザイナーとマーケターそれぞれのバナークリエイティブに対しての考えを言語化した取り組みをご紹介します。
マーケティングにおけるクリエイティブ制作業務を担当する方に、少しでも参考になればと思います。
取り組みが始まるまで、バナーをはじめとするクリエイティブは、担当者からのオーダーを受け、私たちデザイナーが作り、それを事業部のマーケターに渡して運用してもらうという仕事の進め方をしていました。
そんな体制の中で、成果をあげられるクリエイティブを生み出せてはいたのですが、「なぜ成功しているのか」という要因を言語化できていませんでした。誤解を恐れずに言えば「感覚で作っていた」といった感じです。
1枚ずつ作り込んでじっくり検証するというよりは、どんどん作って入れ替え、数を試すのがバナークリエイティブの攻略法。
効果検証の時間をしっかりと取って、その成功要因と法則を言語化することができていなかったため、過去に成功実績のあるバナーの要素を少しだけ変えて、運用に回すということをしていました。
事業部もデザイナーも、このままだと成果が頭打ちになることが目に見えており悶々としていました。そこで、他チームのバナー運用も参考にしながら、過去に成果をあげているバナーの要素を分解し、言語化してみることにしました。
まず最初に行ったのは、成功実績のあるバナーに共通する要素の抽出でした。自社と競合のバナーを、レイアウトや色味、文言の配置や狙いなどを想像して分解していきます。
何が成功要因となっていそうか、自分の主観では実際のユーザー心理とかけ離れてしまうと思ったため、インタビューなどを読み込み、仮のペルソナを制作。「そのペルソナならどんな言葉が気になりそうか」など、ユーザー起点で何が響く要素なのか見当をつけていきます。
また、新しい訴求や構図を開拓するために、デザイナー観点でパッと目につきやすい色味や構図の他サービスのバナーも参考しながらレイアウトを考えていきました。
分析結果のもと、ゼロからバナーを作ってみました。3つとも、ユーザーにどんな点が響きそうか丁寧に仮説を立てていたので、成功確度は高いだろうと自信があったのですが、作るのに想定よりも時間がかかってしまいました。
制作に時間がかかってしまうと、運用方針や出稿状況も変わることがあるので、計画通りに出稿できないこともありました。
「いいクリエイティブとは」の言語化はできて、それに沿って新しいバナーを開発できたのですが、もっとスピードを出せるやり方に変えていく必要がありました。
新しく試した方法は、「デザイナーがマーケターと一緒に広告を運用する」というものでした。
週に2回、1~2時間ほど時間を取って出稿作業や数値のチェック、広告の入れ替えなどの、本来運用担当者が行う業務を、デザイナーである私自身も担当者に教わりながら担当することにしました。
「作っては効果を見る」「効果を踏まえ新しい広告を出稿して試す」というのが日常的にできるようになったため、成果が良いクリエイティブの共通点を見つけることができ、成功要因の仮説がたくさん生まれました。さらに自分が運用業務をすることですぐにテストができるため、仮説検証の場にも困りません。
これまでは、バナー内の券面の見せ方やテキストなどが工夫の中心にあったのですが、「ユーザーが実際にお金を使うシーンを想起できるものがいいのではないか」という仮説も新たに生まれました。
自分達で運用まで担ったことで、業務スピードがぐっと上がりました。他の仕事と並行しながら徐々にではありますが、週に1枚以上といったペースである程度成功確度の高いバナーを作れるように。
また、「デザイナーが作ったものをマーケターに渡して運用してもらう」という分業意識がなくなり、同じ成果に向かう仲間として互いにリスペクトしつつ、より専門的な話ができるようになりました。
数値を見ながらクリエイティブに関する言語化が進み、新しい訴求が生まれました。
以前は作ったバナーの成果を正確に把握できていなかったので、感覚でしかクリエイティブを改善できていなかったのですが、運用を自ら行うことで「この要素を入れるとこういう結果になる」というように、クリエイティブと数値の因果関係を理解することができたのです。
今思えば、事業部側のメンバーはこれまで、デザイナーに何を求めていいのかわからない状態だったのかなと思います。
「このバナーは数字が出ていないからこのようにデザインを改善してほしい」というオーダーも、事業部側のメンバーでも自信を持てないため、デザイナーに届かないことも多くありました。
また、デザイナーとしても、自分たちの作ったものについて言語化できていないと、、事業部メンバーに作ったバナーの背景や意図を説明できないという問題もありました。
私たちデザイナーが運用に回ることで、物理的にコミュニケーション量も増え、双方がどういうことを考えて運用・制作業務を行っているかが理解できるようになりました。
実際に事業部側のメンバーから「上流からデザイナーが入ることで、こんなにも成果があがるんだね」という驚きの声をいただくことができました。
今まで、バナーを作っておわりになってしまうことが多くありました。。制作したものがその後どのような効果を生んだか、どのような行動を促したかまで確実に検証できていませんでした。
今回の取り組みを通じて、改めてクリエイティブは「つくっておわり」ではなく、「つくり続けて進化させていくもの」だと肌で感じました。
これからも定量的な観点を持ちながら、UX観点で仮説を立て、UI観点でモチーフの意味を説明できるデザイナーとして、ユーザー起点のクリエイティブを作っていきたいです。