2022年10月から11月にかけて、「HR EXPO」と呼ばれる人事業務支援の商談専門展に「HRMOS(ハーモス)」シリーズを出展しました。
私たちは展示会体験における様々なデザインを担当し、ブースのクリエイティブディレクションや空間デザインをはじめ、展示に関わるグラフィック、衣装のデザインなどに携わりました。
ブース空間をつくるためには、コンセプトの策定や競合との差別化、ブースの造作や各種グラフィックなど、様々な接点を考慮したクリエイティブを検討する必要があります。 また、展示会には1日に何千もの人が訪れ、各社のブースを眺めたり、立ち寄ってみたり、はたまた通り過ぎたりと、様々な反応を間近で見られる面白い場所だと思います。
つまり裏を返せば、様々な要素を考慮して仮説を立てながら、比較的自由に空間をつくり、訪れる人達の反応を間近で見ながら学習を得て、次の機会へ繋げていくチャンスでもあります。
そこで、「HRMOS」シリーズ全体の魅力を、いままで以上に訴求できる見せ方はないかを「検証する」ことを念頭におき、これまでの展示会でのブースクリエイティブに固執せずに、新たな見せ方の検討からはじめました。
今回は、ブースクリエイティブをデザインする上での背景から制作までのプロセスを紹介します。展示会やポップアップなどの空間デザインを担当することになった方々にとって少しでも参考になれば幸いです。
展示会のデザインと一口に言っても、完成するまでに取り組むべきことは多岐に渡ります。今回は、大きく分けて以下のようなフローでデザインを進めていきました。
体験テーマのプランニング
タグラインの検討
ビジュアルアイデンティティ(以下VI)の検討
各種ビジュアルデザイン
- ブース空間
- コミュニケーションツール
- コンパニオンの方の衣装
- ノベルティ
- 営業用冊子
まずはじめに、出展するサービスであるHRMOSの提供価値を整理するところから始めました。そして次に、提供価値を正しく届けるために課題になるであろうことを検討していきました。
- HRMOSは複数プロダクトで構成される人財活用プラットフォームであること
- プロダクト毎に、それぞれ特性の異なる価値があること
- 採用担当・人事担当・経営層など、各ターゲットに対して提供できる価値があること
- 「HRMOS」シリーズ全体で一貫性のある見せ方を考える必要がある
- プロダクト毎の特性や機能を見える化する必要がある
- 異なるターゲットに対して各々が求めている情報を届けられるようにする必要がある
展示会には1日に何千もの人が訪れますが、ブースの前を通る時間はほんの数秒ほどです。 そのなかでも、HRMOSが「自分のためのものだ」と感じられ、ぴったりなプロダクトに出会える体験をつくりたい。そのために、「HRMOS」シリーズの提供価値をターゲットに正しく伝えられる体験デザインを設計しようと考えました。
「HRMOS」シリーズは複数のプロダクトから構成されますが、基本的にはバックオフィスの方々に向けた業務を効率化する機能を提供しています。
切り口を考える上で、バックオフィスの方々が普段から抱いている心境や悩み(インサイト)に基づいた訴求ポイントを考えていきました。
また、それに対して我々がどのような姿勢でおもてなしするべきかをムードボードを作成することで議論していきました。
考えられうるインサイトに対して、HRMOSのあるべき姿を検討し、それをビジュアルにするとどのような表現になるのか、というように順を追って考えることでテーマの輪郭を考えやすくなったように思います。
次に、テーマを伝わりやすく言語化・視覚化するために、タグラインとVIを検討していきました。
最終的なタグラインは、『人事の悩みをサクッ! と解決。バックオフィスツールは「ハーモス」』というコピーにしました。HRMOSが、人事やバックオフィス業務の強い味方であるというスタンスを伝えたかったのと、とにかく簡単というニュアンスを伝えることを目的としています。
背景として、昨今DX推進の流れは進んでいるものの、具体的な市場調査から、社内で導入するには現場社員の意志だけではなく、上司や経営層を説得する必要があるということがわかっていました。
そこで今回は、現場と経営その両方にアプローチするために、ひとつは現場の業務がすっきりしそうだと思ってもらうこと。もうひとつは上司への説得や導入が簡単そうだと思ってもらえること。それらの観点にアプローチしたいと考え、作成しました。
ビジュアル面でも、このタグラインに沿ってさまざまなアウトプットを検討していきました。
例えば、「HRMOS」シリーズで一貫性のあるイメージにするために、全体を清色のブルーで統一することにしました。さらにプロダクトごとにカラーをわけることで、ユーザーが抱えている悩みごとにご案内する場所を分けます。
また、書類のオブジェが荒々しく舞っているような造形や、人事の方々が苦労されているキーワードを散りばめたグラフィックなどによって、人事の苦労を視覚化し、我々が人事の方々のことを理解しているという姿勢を表現したいと考えました。
次に、様々な方が行き交う展示会場で、瞬時にHRMOSを認識し、「HRMOS採用」「HRMOSタレントマネジメント」「HRMOS勤怠」の3つのなかから自分にピッタリな製品と出会えるように、ブース空間を設計します。
ブース空間の顔となるメインパネルでは、タグラインを共通のコピーとして据え置きつつ、各プロダクトの名称や、できることを素材にしてグラフィックをつくりました。
今回のタグラインは、全体を括る役割を果たすために抽象的な言葉にしていました。
そのため、来場者の方々にとってサクッと解決できると言い切れるだけの根拠を補完していくために、顧客の悩みを吹き出しのように置き、それを囲い込むように機能群の単語で埋め尽くそうと考えました。
また、このように文字をたくさん掲載する場合、対象物と見る人との距離感、実物のスケール感によって見た時の印象が異なるだろうと思いました。そこで、予め実寸の大きさで確認するため、社内の壁にプロジェクターで投影しながら検証作業を行っていきました。
ブースへ足を踏み入れてくれた後は、来場者の目的ごとに、ヒアリングやご説明を差し上げる内容が異なってきます。そこでプロダクト毎に商談場所を分けて、それぞれに3色のカラーを割り振りました。
また、説明する側にとっても役割にあった居場所がゾーニングされますので、結果的にブース内に立つ人々の居場所が分散されることに繋がりました。
また、デザインツールで色を選定できたとしても、造作物や印刷物がパソコンと同じ色を再現してくれるとは限りません。印刷物であればDICやPantoneでの色指定が一般的ですが、このようなパネル造作になると、経師紙という、いわゆる壁紙を貼ることで色面をつくります。
そこで今回は、Pantoneでの色指定と、それに近似する経師紙の指定、さらに近似するCMYKの指定を行うことで意図通りの色を再現できるよう進めました。
少しずつHRMOSの認知度は高まっているものの、まだまだ知っていただけていないのが現状です。
そこで、比較的認知度の高いビズリーチのロゴを大きく掲載することで、「ビズリーチのHRMOS」と識別していただけるようにできないかと考えました。
ただ、あくまでHRMOSを紹介するためのブースであり、ビズリーチのロゴをそのまま掲載することで、ビズリーチのブースだと勘違いさせてしまっては本末転倒です。
そのバランスを取るため、配色をホワイト一色にしてブースの世界観と統一感を持たせつつ、大きく立体的な造作にすることによって陰影を出し、遠くから見ても視認性高く認知してもらえるようにしました。
また、HRMOSに興味を持った人が、ブース内に安心感を持って立ち入れるような工夫も併せて取り入れています。
展示会場におけるブースの位置によって、来場者の歩く方向や、目にうつる視界が変わってきます。そのため、入場ゲートからの導線や、他社のブースからの導線を踏まえたデザインにしています。
まず一番考えやすいのは、入場ゲートからの導線に向けて開放的にみえるレイアウトにすることです。 そちらを表側と捉えて、目に入る文字情報や、ブースへの入り易さなどをコントロールしていきました。また、表側の見せ方と併せて、裏側つまり「捨て導線」のことも考慮してデザインをしました。 さらに、展示会場には当然他社の製品ブースも多くあります。来場者の方々は目的ごとに目当ての製品ブースへと足を運びます。そこで、他社のブースに立ち寄った人が、出てきた後の目に入る位置に、そのブースの製品に関連したHRMOSのキャンペーンバナーを設置しました。
展示会場には、目的や立場も異なる多くの属性の方が訪れます。そのなかでお声がけや説明をするとなると、スタッフ側の知識や経験に高いものが求められ、オペレーションも煩雑になる可能性がありました。
そこで、コンパニオンの方にアンケートボードを持っていただき、どのような目的を持っているのかをある程度把握した上で各商談スペースへ誘導してもらい、製品情報に詳しいスタッフにバトンタッチするという方法を取り入れました。
そのためのアンケートボードのデザインはもちろん、プロダクト毎に区別がつきやすいネームプレートをスタッフに装着してもらったり、コンパニオンの方とスタッフとで衣装に差をつけるなどして、オペレーションをサポートできるようデザインしました。
結果的には、展示会場への来場者が前年の半数ほどであったにもかかわらず、前年出展時よりも商談数を多く獲得でき、今まで以上にHRMOSの魅力を伝えることができたと感じています。もちろん、オペレーション設計や現場でのコミュニケーションを担うメンバーとの総力戦の結果です。
私たち自身も会場に足を運んでみて、訪れた人の反応や空気感を間近で見て、学べることは沢山ありました。 例えば、いざ出来上がったブースを見てみると意図通りに情報が目に入らないことや、動画などで人の注意を惹けたとしても、実際にブース内に誘導できないと商談にはつながらないことなどです。
今回展示会という特定の場面で、サービス全体の訴求・ビジュアルを実験的に従来のものから大きく変えてみたことで、「HRMOS」シリーズ全体の訴求を磨いていく足がかりになったと思います。
今後も試行錯誤を重ねながら、「HRMOS」シリーズの価値がお客様に届き、愛されるサービスとして受け入れられるようなクリエイティブをつくっていきたいです。