『SUUMO』を代表とするリクルートの住まい領域は、HRと販促、そしてそれらを支援するSaaSというリクルートの3つの事業領域のうち、販促領域に属する不動産情報などを主に扱う事業領域です。
そして住まい領域をデザイン管轄する住まいデザインマネジメントグループでは、賃貸領域や戸建・流通領域など、住まい領域が扱う8つの事業領域と機能テーマについて扱っており、社員5名 / パートナー20名がデザインチームとして活動しています。
住まい領域とそのプロダクトは、リクルートの中でも非常に歴史の長いプロダクトです。このようなプロダクトの場合、職種の役割が区分され、デザイナーが関与できる範囲が限定されていることがしばしばあります。
一方で、現在のリクルートの住まい領域では、デザイナーも事業の当事者として、プランナーと一緒に企画を検討するタイミングからプロジェクトに参加しています。
過去には分業により、デザインチームも社内委託的な仕事が多かったのですが、数年前から始めたデザインの介在範囲を拡張する取り組みを通して、現在ではプロジェクトの戦略立案のフェーズからデザイナーが介在する機会が増えています。
今回は、私たち住まいデザインマネジメントグループが、どのように事業からの信頼を獲得し、事業の上流に関わることができるようになったかをご紹介したいと思います。
私が2019年に戸建領域のデザイナーとして入社するまでは、住まいデザインチームには社員のデザイナーはいませんでした。
各領域のプランナーの下にパートナーとして業務委託のデザイナーが在籍し、プランナーにデザインの良し悪しを判断してもらっている、いわば「社内委託」のような状態となっていました。
そのような組織体制が影響して、『SUUMO』のプロダクト全体に関わる問題が生じてしまっていました。
領域ごとの横の連携が起こらず、同じプロダクトの中に異なるUIが混在している
デザインの良し悪しの判断をプランナーが行なっており、品質が低い
デザイナーから事業全体の目的を意識した提案が起こらない
デザインチームとして、より住まい領域へ介在価値を高めていけるように、デザイナーやチームの動き方を見直し始めました。
このような問題に気づいてすぐに、これまでのデザイナーの役割におさまらず、さらに事業に対して介在価値を高めていけるような役割を模索し始めます。
まず私自身が、デザイナーとしての役割に加えて、プランナーの立場を兼任し始めました。
それまでは、デザイナーは事業の数字に対して責任を持っておらず、いくらデザイナーから提案をしても「事業数値に責任を持ってない人の現実味のない発言」と捉えられてしまっていました。
またその反面、デザイナーの視点からはプランナーの状況がわからず、プランナーの悩みや置かれている状況を理解する必要があるとも考えていました。
そこで、自分がプランナー業務も兼任して事業数値に責任を持ち、さらにその上でデザインからも成果を出していくことで、新たな役割を切り拓けるのではないかと考えました。幸いリクルートでは、自ら進んで動いている人を受け入れてくれる風土が強く、私がプランナーを兼任することを止める人はいませんでした。
プランナーとデザイナーの役割を兼任することで、これまで以上に効果とユーザビリティの両方を意識した改善策を提案・実施できるようになりました。
例えば、プロダクトにおけるデザイン活用の現状をまとめ、そこから改善すべき部分を見つけて、施策に落とし込むような動き方をしています。ビジネス的な要望だけでなく、そもそも『SUUMO』においてデザイン活用の余地がこれだけある、というところからまとめて施策を打ってきました。
プロダクトにおけるデザイン活用段階の調査、どこにデザインの介在余地があるのかを明示
結果として、デザインを通して指標が向上し、成果をあげることで事業部全体からもデザインに対する信頼が増していきます。
私自身の役割も広がり、戸建て領域に加え、賃貸・横断領域といった別領域のデザイナーとしても動くようになり、デザインの現場活用の場がますます広がって行くこととなりました。
私自身のデザイナーとしての動きに信頼が得られてきたタイミングで、住まい領域のデザイナー全員が役割を拡げていけるように、デザイナーやプランナーに向けた意識改革に取り組みはじめます。
はじめに、チームのデザイナー全員に向けて、デザイン案をプランナーに提案するときのコミュニケーションの改善を行いました。
その一つとして、デザイナーとしてより上流工程に介在していけるように、プランナーとの関わり方やより良い提案の方法を資料にまとめ、チームに共有しました。また、デザインレビューの観点を言語化し、見た目としてのデザインや、ブランドの観点だけでなく、ビジネス的な効果などの観点までレビューで確認できるようにしていきました。
その結果、これまで役割が限定され待ちのスタンスだったデザイナーの意識も大きく変わり、施策の背景や意図をプランナーからヒアリングし、自らデザインの介在範囲を積極的に広げる動き方に変わっていきました。
またプランナーに向けては、デザインの価値をプロダクトに効果的に取り込むための、デザイナーとの関わり方について共有し始めました。
例えば、業務委託のデザイナーや、デザインマネジメントユニットのメンバーとどのように関わっていけばいいのかをスライドにまとめ、勉強会を開催しています。
さらにプランナーに対して、デザイナーの価値を認識してもらうためにも、デザイン主導で『SUUMO』スマホサイトのプロダクトリニューアルを推進しました。
「デザインは綺麗な方がいいよね」というような定性(感覚)の話から、そもそもデザイントレンドとはなんなのか、デザインが古くなることでどんなデメリットがあるのか、各指標との関連性を定量的に示すなど、あらゆるアプローチでビジネスの中のデザインの必要性を説いていきました。
過去に『SUUMO』で行った調査をいろいろと探してみましたが、デザインが古くなるとどんな影響があるのかはっきりと示されているものはありませんでした。
これまで定性的に語ってきたデザインの影響を定量化し、エビデンスとして示したことで、デザインの価値を理解してもらい、プロダクトのリニューアルへ繋げることができました。
このような活動に繰り返し取り組むことで、事業とデザイン、プランナーとデザイナーがより一体となって動くことができるようになってきました。また、デザインチームに対する各プロダクトからのニーズが高まり、現在では社員5名・パートナー20名の体制にまで拡大しています。
そして組織の拡大と共に、デザイナーが介在できる領域もさらに広がり続けています。プランナーの検討会議にデザイナーも参加し、プロダクトの意思決定時にデザイン観点も含まれるようになりました。数年前までは社内委託のような状態だったところから、飛躍的に役割の変化を遂げています。
リクルートのデザインマネジメントユニット全体では、今回の事例のように、事業におけるデザイン活用の課題構造を以下のようにモデル化し、課題の特定と解消に取り組んでいます。
そして、誰かが事業の中で自分の動きを通してデザイナーの役割を広げ、その役割をチームに定着させ、役割を担える人材を増やし、またさらなる領域へと役割を拡張する...
そのような流れを推進できるメンバーを「デザイン拡張人材」と定義しています。
このようなサイクルを繰り返すことで、事業におけるデザイナーの介在価値が高まり、より大きな役割を果たせるようになっていきます。
また、このように構造化することで、デザイナーが事業に対して介在価値を高めるためには、直線的なアプローチではなく、実はスパイラル状に組織と個人をステップアップさせていく必要があることがわかります。
このプロセスに照らし合わせると、住まい領域において私は自分のことを切込隊長のような存在だと思っています。「自分がまず動いて、形にして、拡げる」という精神で、今後もより良い組織を作っていきたいと思います。