2024年5月、千葉ジェッツの新ホームアリーナであるLaLa arena TOKYO-BAYが開業しました。2024-25シーズンから、本格的に新ホームアリーナでの興行が始まっています。
私たちは、この千葉ジェッツ新ホームアリーナにおける体験設計やクリエイティブディレクションに、MIXIのデザイン職として携わってきました。
コンセプトは「心躍る熱狂体験」を掲げ、興行全体の施策設計や、動画、音声、コンテンツなど、あらゆる側面から、より良い体験を届けられる会場演出を目指しました。
新アリーナでのシーズンを迎えた現在、私たちが取り組んできたことを記録として残したいと思います。
千葉ジェッツは千葉県船橋市を拠点とする男子プロバスケットボールチームです。2010年に創設、これまでに天皇杯は3連覇を含む5回、リーグ年間優勝1回などのタイトルを獲得し、2022-23シーズンにはリーグ戦最多勝・最多勝率の記録を更新しています。
先述の通り、10月に開幕した2024-25シーズンからは、新ホームアリーナであるLaLa arena TOKYO-BAYでの公式試合がスタートしました。
施設規模はこれまでの本拠地であった「船橋アリーナ」から2倍以上の約1万人。さらに、アリーナ空間にはセンタービジョンやリボンビジョン、音響設備を備え、多様な演出が可能となりました。
アリーナというハード面が進化する中で、演出やコンテンツなどのソフト面も一新していくことによって、バスケの観戦体験の品質を大きく高められる転換期と言えるタイミングです。
この転換期において、MIXIが持つ動画クリエイティブのケイパビリティを活かし、ブースターに最大限良い体験を届け、興行の規模もさらに拡大していける機会としたい。
このような考えから千葉ジェッツ、および MIXIデザイン本部メンバーが密に連携しながら体験設計を推進していきました。
まずは、体験設計全体の軸となる方向性を定めるため、コンセプトの設計を行いました。
会場演出は、扱う範囲が多岐にわたるうえ、多くのステークホルダーが関わります。その中で、場外・場外、試合中・試合外も含めて、一貫した体験を届けられるようにするための共通言語をつくることを目指しました。
掲げたコンセプトは「心躍る熱狂体験」です。
このコンセプトは、ブースターの皆様が千葉ジェッツに根源的に求めているものは何かを改めて整理していく中で生まれた言葉です。
千葉ジェッツでは、「PAINT IT JETS」 というスローガンを掲げており、「千葉ジェッツに関わるすべての人の、すべての時間をジェッツ色に染めていく」という思いが込められています。つまり、このスローガンが示すのは、日常も非日常も含めたあらゆる時間を対象としたものです。
では、新アリーナで開催される試合では、どのような体験を届けるべきなのか。この問いを深く掘り下げた結果、「心躍る熱狂体験」を提供することこそが、最も重要であると考えました。
次に、千葉ジェッツのホーム試合が行われる当日(興行)のタイムラインの見直しを行っていきました。
先述の通り、心躍る熱狂体験が対象とするのは試合中だけでなく、試合観戦をする一日におけるすべての体験です。
したがって、試合中の演出だけでなく、試合前後の演出やそのタイムライン、場外での掲示物など、あらゆるものが心躍る熱狂体験につながるかどうかを精査していく必要がありました。
船橋アリーナ時代の興行のタイムラインをそのまま引き継ぐことも考えられましたが、この機に改めて変えるべき点・変えないべき点を整理していきました。
そこから具体的な演出を考える前に、バスケの本場であるNBAの試合を体感しに行きました。NBAは興行規模や注目度が日本と比べて圧倒的に高く、アリーナの規模も2万人以上(LaLa arena TOKYO-BAYの約2倍)といったところもあります。
このような規模感も異なる本場のスポーツエンタメを体感することで、千葉ジェッツの会場演出に活かせるヒントを得られるのではないかと考えました。
実際に体感することで、会場演出の規模感の違いに加え、日本との文化の違いにも新たな発見がありました。
特に、試合の楽しみ方が多様化している点です。NBAでは、試合観戦が人々の日常の一部となり、来場者の楽しみ方も様々でした。
例えば、試合中にアリーナではなくコンコース(会場外の広場)で会話を楽しむ人もいれば、最前列で盛り上がる人もいます。しかし、試合が盛り上がると自然とアリーナに集まり、全員が立ち上がって声援を送り始める一体感が生まれる瞬間もありました。
「試合を観る」だけではない楽しみ方があることに気づくと同時に、文化が異なる中でそのまま演出を真似してもうまくいかない場面もあると感じました。つまり、日本や千葉ジェッツのブースターの文化にフィットする形で、本場のエンタメを取り入れていくことが大事なポイントだと考えました。
次に、より具体的な会場演出のプランニングを始めていきました。
キーワードは「“観る”から“体感する”へ」。一方向で試合を観るだけでなく、参加型のコミュニケーションを起こすことで、より一体感ある、熱狂的な体験を生み出したいと考えました。
これは会場演出に携わる者として「どこで価値を生み出していくか」を定める意思表明でもありました。
観ることの価値を高めようとすると、どうしてもディスプレイや照明、演出機材など、ハード面に頼る部分が多くなります。新アリーナになったことでハード面の進化は十分にあったものの、ハード面に頼りすぎると、もっとお金をかけて良い設備を増やそうとなり、いつか限界が来てしまいます。
そうではなく、ソフト面で勝負していく。つまり、ハード面の制約があったとしても、それを超えるクリエイティブ品質や参加型のコミュニケーションを追求することで、体験価値をどんどん大きくしていこうという考え方です。
このような考えに基づいて、実際に取り入れた演出例をまとめてみます。
試合開始前には、アリーナを盛り上げるために「オープニングフライト」や「スターティング5」などの演出を取り入れています。
前アリーナ時代から取り入れていた演出ですが、センタービジョンをはじめとするハード面が強化される中で、改めて構成を見直すことで心躍る熱狂体験を届けられるようにしていきました。
具体的には、アリーナ内の盛り上がりを「ヴォルテージカラー」の色味で視覚的に表現し、試合開始に向けて徐々に高まる興奮を演出しています。そのため、タイムライン、コンテンツ、音楽、照明、そして雰囲気全体を一体化させた設計を行っています。
アリーナで体感してみると、非常に迫力があって見応えのある演出になっていますし、会場内の一体感を味わえると思いますので、ぜひ足を運んでみてください。
以下の動画は、2024年10月5日に開催された試合のアフタームービーです。この動画も見ていただけると、実際の雰囲気をより感じていただけるかと思います。
2024年10月5日に開催された試合のアフタームービー
ドリームシュートチャレンジは、NBAを視察した際にインスピレーションを得た施策の1つです。
当日アリーナを訪れたブースターの中から有志で参加していただき、制限時間内にフリースロー、スリーポイントシュート、ハーフコートシュートを成功させると賞品を獲得できるというものです。
試合を観るだけでなく、自分ごとが参加できるコンテンツがあることで、より楽しく、盛り上がりを感じてもらえるのではないかと考え、この施策を導入しました。実際に導入する際には、海外と日本の文化の違いを考慮し、千葉ジェッツのブースターがより楽しめる内容となるよう試行錯誤を重ねました。
アリーナに訪れた際には、ぜひチャレンジしていただけると嬉しいです。
BOOSTER’S CAMは、試合開始前・ハーフタイムに実施されるコンテンツの1つで、ブースターが自身のスマホで撮った映像が、センタービジョンに映し出されるというものです。
運営側が観客席の様子を撮ってビジョンに映すものではなく、ブースターが自身の意思で参加するものであり、体験としても、技術的にもチャレンジングな施策でした。
しかし、ブースターが家族と一緒に居る様子や推しの選手をアピールしたりと、積極的に参加してくださっており、まさに参加型のコミュニケーションが体験価値を高めた例と言える施策となりました。(詳細な狙いやプロセスについてはこちらの事例にまとめられています)
この事例が公開された現在、B.LEAGUEでは2024-25シーズンの真っ只中です。私たちも、10月に開催された千葉ジェッツ 新ホームアリーナでの初めての公式試合をブースターとして観戦しに行きました。
約1万人のブースターが集い、一進一退の試合に熱狂したり、演出にわっと湧く様子を観客席で体感する中で、これは「心躍る熱狂体験」なんじゃないかと感じることができました。
千葉ジェッツの選手や関係者、ブースターの熱量はもちろんのこと、MIXIのクリエイターとして、私たちが持つケイパビリティを十分に発揮できた結果ではないかと思います。
しかし、まだまだ満足はしていません。
“千葉ジェッツだから”観に行きたい、楽しいと感じ、また来たくなる体験を作りたいと思っていますし、そのために私たちができることは、施設のハード面などの制約を超え、演出やクリエイティブで新たな体験価値を作り続けていくことだと考えています。
これからも、心躍る熱狂体験をブースターの皆さんに届けていきたいと思いますので、ご期待ください。