三菱UFJ銀行では2024年4月に「カスタマーエクスペリエンス・デザイン室」(以下、CXデザイン室)というデザイン組織を立ち上げています。
銀行内に置かれたデザイン組織であるCXデザイン室は、案件の推進などの目先の課題だけではなく三菱UFJ銀行全体に貢献できるような戦略的なデザインアプローチを求められています。
そのため私たちは戦略的に押し進めていくいくつかの注力領域を定義し、それぞれに推進者を位置付けてプロジェクトを進めています。
木原と安孫子はその中でも「CXマネジメント」という領域で、銀行全体に “顧客理解をもとにした施策推進の文化” が根付くようにしていく活動を担当しています。
CXマネジメントのためにリサーチは欠かせない重要なピースです。そのような中でなぜそもそも三菱UFJ銀行にリサーチ体制構築が必要なのか、非常に巨大なインフラを提供する大規模な企業だからこそどのような進め方でリサーチ体制構築を行っているのか。
このような観点で、現在までの「CXマネジメント」立ち上げの全体像をまとめてみます。
CXデザイン室の一つの注力領域が「CXマネジメント (顧客理解をもとにした施策推進の文化づくり)」の立ち上げです。
銀行内では日々たくさんの変化があり、そこから多くの企画や施策が生まれます。これらを考える際、顧客のインサイトをもとに検討できる環境や体制があれば三菱UFJ銀行全体のリテール・デジタル領域の体験は必ず改善されていくはずです。
さらにこれから取り組んでいくデザイン戦略によって生まれたものが正しく結果に結びついているのかを示す意味でも、顧客のインサイトやデータを活用できるようになることは必要不可欠だと捉えています。
この領域を進める1人である木原は新卒で三菱UFJ銀行に入社し、2022年に戦略子会社であるJapan Digital Design (以下、JDD) に出向。そこでプロジェクトマネジメントやプロジェクト内でのリサーチなどを担当したのちに、CXデザイン室立ち上げのタイミングでCXデザイン室とJDDを兼務するようになったという行内でも稀な ”銀行とデザインの知見” の両面を持ち合わせる社員です。
またもう1人の推進者である安孫子は、CXデザイン室立ち上げのタイミングで三菱UFJ銀行に入社した元々バックグラウンドがデザイナーの社員です。以前はメーカー企業でデジタルプロダクトを中心に扱うUXデザイナーとして働いていました。
そうしたバックグラウンドを活かしてこの2名でCXマネジメントを推進しています。
活動の最初に、CXマネジメントとはどのような課題や目的に向けて行うべきかを整理するところから始めました。
このスコープを決めるために3つの観点で整理をしました。
️いただく声に対応する ↔ こちらから︎声を取りにいく
案件単位のリサーチ ↔︎ サービス全体のリサーチ
定性情報 ↔ 定量情報
私たちはすべての観点で後者から取り組み始めることとしています。
まず取り組んだのは「こちらから声を取りに行く」「サービス全体のリサーチ」「定量情報」をマネジメントすること
一つ目の観点である「️いただく声に対応する↔こちらから︎声を取りにいく」という部分。ここはこちらから声を取りに行く活動が必要だと定義しています。
三菱UFJ銀行のリテール・デジタル領域ではお客様からお問合せいただいた声はVoCの仕組みで管理しています。一方で、お問い合わせいただける声は氷山の一角であり、それだけでは見えてこない課題も存在すると考えています。
他行と比較するとまだまだサービス全体として改善余地が多くあるはずですが、お問い合わせに対して一つひとつ改善をしていくだけではそれらは改善されません。(もちろんお問い合わせの声も非常に重要であり、後段で紹介する通り本活動の中でVoCも大いに活用しています。)
声をいただけていないお客様の声を取りに行く。声をもらえていたとしてもその裏側にある真意をインタビューやアンケートなどで取りに行く。このような能動的な顧客調査が必要だろうと考えました。
こちらから声を取りに行くと決めた上でも、そのリサーチ手法にも種類があります。
案件単位で入り込んで、リサーチを行う
サービス全体を対象に、顧客体験を調査する
私たちは後者の「サービス全体を対象に、顧客体験を調査する」ことから始めました。
全体を俯瞰したCXマネジメントのための顧客からの評価はデータの蓄積をしないと基準値や変化が見えづらいので、早期に手を付けることが大切と考えたためです。
また、前者の案件単位のリサーチについては他のCXデザイン室のメンバーが関わる個々のプロジェクトでも行うことができると考えていました。CXマネジメントを推し進める私たちとしてはより全体に影響できるようなサービス全体のリサーチから始めるべきだと考えています。
最後の観点は「定性↔定量」という軸です。私たちは、定量的な顧客情報を集めるところから始めるべきだと考えました。
CX/UXリサーチというと定性調査が真っ先に思い浮かぶところですが、銀行では日々定量データが取り扱われていることもあり、デザイン組織初期段階では関係各部との連携を強めるためにまずは定量的に顧客調査を行うことから始めるべきだと考えました。
つまり将来的に定量/定性調査の両輪でリサーチを進めていく中で、組織浸透を考えてまず定量を優先させたということです。(これはCXマネジメントを行う対象の優先度の話なので、その後に定性情報を集める活動ももちろん行っています。)
まずは定量的な顧客情報を活用できるようにしていくために最初に行ったのが「リテール・デジタル領域全体のNPS調査」でした。このNPS調査は非常に広い銀行サービスを全体俯瞰し、顧客体験的にも優先して改善すべき部分を見つけるために行っています。
項目は「銀行全体」と「ATM・ダイレクトアプリなど各お客さま接点別」に設定し、課題が明確になるようにしていく
国内外の金融業界においてNPSの活用は活発であり、当行においても自行顧客についてはNPSを取得していた経緯があります。その経験を活かして行内でも理解が得られやすい「NPS調査」を広げていくことを選択しました。
NPSを測る項目は、銀行全体と各お客さま接点 (アプリやHPなどのデジタル領域、店舗、ATMなど) に分け、さらにその中で細分化させて設定しています。例えばATMならば設置場所、手数料関連など。
リサーチ会社に協力してもらい、三菱UFJ銀行や競合他社を利用している数多くのお客さまにNPSを評価してもらいました。
このNPSを起点として、顧客情報をフィードバックする先を2つ設定しています。それぞれの活用方法についてもまとめます。
注力施策決定へのNPS活用 (恒常的な改善に繋げる)
指標化へのNPS活用 (経営がCXの価値を把握できるように)
NPSの活用先の一つは注力する課題や施策の決定です。顧客体験をもとに恒常的な改善のループが回ることがCXマネジメントの一つの目的ですが、NPSはあくまで結果でありその裏側にあるお客様の真意を探らなければ課題要因は見えてきません。注力領域を決めてもさらなる深堀りが必要になります。
そのためNPSの調査結果を顧客行動や当行課題の深堀りをする領域の選定に活用しようとしています。
そこで着目したのがVoCです。VoCは氷山の一角と表現したものの、一方でお客さまの不満ポイントが表出したものであり他の調査との組み合わせで真価を発揮すると考えました。三菱UFJ銀行のコールセンターには日々たくさんのお問い合わせをいただいており、まずはそこに着目することでより具体の「お客さまのお困りごと」やその原因が見えてきます。
さらにロイヤルカスタマーなどへのインタビューも行い、満足していただけているお客さまはどのような行動やお考えをしているのかを調査していきます。
これらのNPS、VoC、インタビューの情報をもとにリテール・デジタル領域のチャネルの企画・運用を担っているカスタマーサービス推進部の方と一緒にどのような部分を改善していけば良いのかを考えました。
実際にいくつかの重点課題を抽出することができ、現在は顧客体験起点で考えた施策を作り上げようとしている途中です。
銀行のサービスにはなかなか改善しづらい部分もあります。例えばATMの仕様を変えるとなると長い時間や大きなコストがかかってきます。
まずは「顧客からの評価やご意見をもとに考えると企画が考えやすくなる」「数値が高まりやすくなる」という経験をスピーディーに積んでいくことが重要だと思っています。
今はカスタマーサービス推進部の方々と一緒にこの改善ループを回し始めることに注力しており、この積み重ねによって顧客からの評価やご意見、そしてそれを取得するCXリサーチ活動が行内全体に求められる状況がつくれると考えています。
もう一つの活用先が経営判断のための「指標としてのNPS活用」です。NPS調査は三菱UFJ銀行のリテール・デジタル領域におけるお客さまからの評価を定点観測する、いわば健康診断のような調査です。
企画を設計・推進する各チャネルのマネジメントがパッと見て認識しやすいようにNPSの結果をジャーニーベースで整理していきます。同時に調査していた他行のNPSの情報や注力すべき部分がわかるようにカード形式でまとめて一覧化しました。
これを見ればどこが他行と比べて体験が劣っているのか、どこが強みになっているのかを把握することができます。
これはCXマクロマップという名前で運用しており、三菱UFJ銀行のリテール・デジタル領域の各チャネルの戦略を考えるマネジメント層中心に活用されています。こちらの仕組みについてはまた別の事例で紹介します。
私たちは、実は銀行員とリサーチ活動は親和性が高いのではないかと思っています。デザインプロセスにおけるリサーチ活動は「お客さまを知る」ことが大きな目的の一つだと思いますが、これは銀行の営業活動プロセスに似ているところがあります。
入社後多くの銀行員が営業部署を経験しますが、銀行の取り扱う商品・サービスをお客さまに利用していただこうと思うと、まずはお客さまを知りお客さまの状況やニーズに合わせたご提案をしないとなかなかご利用いただけません。
ですので当行では、目の前のお客さまを理解し顧客起点で考える活動をこれまでも大事にしてきています。
一方で、普段は当たり前にお客さま目線で考えられていることがデジタル・リテール全体の体験設計となると難しくなってしまいます。それはデジタルやリテール全体の体験設計における顧客理解の手法が従来の伝統的な銀行営業における手法と異なるからです。
逆にいうと、手法さえ手に入れられれば自然とCXリサーチ活動に取り組む文化ができるのではないかと考えています。
私たちはこのような状況からも、銀行にデザインの力を普及させるためには、親和性の観点からリサーチという活動が有効ではないかと考えています。
デザインには馴染みがなくとも、リサーチには馴染みがあり必要性を感じている人がすでに多くいる、リサーチはデザインと銀行員を繋ぐいわば “結節点” になるのではないかと捉えています。
CXデザイン室の立ち上げ以降さまざまなアプローチを試みてきましたが、このCXマネジメントの領域は当初から検証を重ねてきて、徐々に影響範囲を広げられている取り組みになってきています。
一方でCXマネジメントが目指す「行内全体で、顧客起点での施策推進が行われている文化づくり」にはまだ距離があります。
CXマネジメントは始まったばかりですが、これを続けていくことでよりお客様に愛される銀行サービスになっていくはずです。行内全体を巻き込むためにも、顧客起点での施策推進の実績を増やしていこうと思います。