東京海上日動から、スマートフォンからいつでも簡単にお申し込みできる1日自動車保険「ちょいのり保険」(以下、ちょいのり保険) のスマホアプリをリリースしました。
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/service/auto/ichinichi/
東京海上日動システムズでは、東京海上日動のプロダクトオーナーと一緒に、今回のスマホアプリ公開までを推し進めてきました。
当初は「ネイティブアプリとして公開する」という案もあったのですが、東京海上日動システムズ内のデザイナーやアーキテクチャーで 一緒に議論を進め、最終的にLINE LIFF (LINE上で稼働するアプリ) で公開することに至っています。
このような「やりたいことをユーザー目線で掘り下げ、最適なソリューションに変換する」ことまで伴走しながら推進する東京海上日動システムズのデザイン組織のプロジェクトの進め方についてまとめてみます。
東京海上日動では、以前から1日から自動車保険の申し込みが行える、ちょいのり保険をWeb版として提供してきました。
例えば、親や友人の車を1日だけ借りるようなシーンで、Webサイトかコンビニから手軽に申し込める利便性を評価されています。お客さまにもたくさん活用されていましたが、時代の変化とともにスマホ体験の見直しが必要となっていました。
見直しが必要となったきっかけとしては、他社が提供する、スマホ体験に特化した1日自動車保険サービスが増えてきていたことが影響しています。
他社の1日自動車保険サービスのコアな価値は東京海上日動と同じく「1日単位で自動車保険に加入できる」というものだったのですが、申込導線の手軽さにより少しずつリプレイスが起こっていることが分かっていました。
例えば、他社の保険では、すでに普及しているSNSや決済サービスからの申し込み導線が用意されており、特に若年層のお客さまが、この手軽さに大きく価値を感じているようでした。
一方、私たちが提供するちょいのり保険は、当時は「Webサイト」または「コンビニ」からしか申し込みができず、アプリネイティブな若年層の方でも使いやすい「より手軽な申し込み導線」が必要となっていると捉えて、申し込み体験の見直しに取り組むこととなりました。
プロジェクト開始時点で、若年層に受け入れられる「より手軽な申し込み導線」が必要となっていることが分かっていたので、プロダクトオーナーは 「ネイティブアプリをつくった方が良いのでは?」という案を持ってきてくれました。
ただ、本当にネイティブアプリ開発がベストなソリューションなのかは検討の余地があるだろうと思っていました。ネイティブアプリはお客さまのダウンロードコストもかかりますし、システム開発にかかるコストも大きいので、最小限な要件ではないかもしれません。
なので「時代に合わせたより手軽な申し込み導線をつくる」という要件に加えて、「システム開発的にも最小限な方法」という要件を意識して、慎重にソリューションを探る必要があることを伝えました。
ここからプロダクトオーナーと一緒に議論を重ねつつ、実際にメインの利用者になる若年層の方への調査を東京海上日動システムズで推進し、ベストなソリューションの形を探っていきます。
まず、プロダクトオーナーとプロジェクトの要件を整理していきます。今回は「自動車を持っていない若年層が、新規でちょいのり保険を申し込む体験」にフォーカスすることが決まりました。
ここからベストなソリューションを探っていくために、簡易にペルソナを設定します。
さらにペルソナが実態と合っているかどうかを確認するために、デプスインタビューを実施して課題をまとめました。この段階でスマホで触れるプロトタイプを簡易に用意して、触ってもらいながら課題の確認をしています。
ペルソナに対しての課題調査の結果、想定していたペルソナは間違っておらず、やはり手軽な申し込み導線が求められていることが分かりました。
この課題を踏まえてソリューションを決定します。結論として、ネイティブアプリで提供するのではなく、LINE LIFF (LINE上で稼働するアプリ) で提供することを決めました。
理由としては以下のようなものがあります。
ネイティブアプリ開発にはリソースが大きくかかる
自社でシステムから開発する場合、既存システムの改善も必要になるがそのコストも大きい
ネイティブアプリダウンロードの導線を自社サイトに置くのは、若年層のペルソナの行動に合わない
LINE LIFFであれば、システム開発コストが大きく削減できる上、ダウンロードコストもかからない
新規立ち上げにおいては、スピーディーに最適なソリューションを提供することも重要です。なので、今回はLINE LIFFでサービス提供することにしました。
ここから、現状のWeb版の情報構成、ユーザー属性、お問い合わせ状況を網羅的に調査しながら、体験を整理します。
まず、現状のWeb版のちょいのり保険に対してこれまでいただいているお問い合わせを情報遷移に合わせて貼り付けていき、どの辺りに体験の不便さがあるかを整理していきました。
これを改善できるユーザーストーリーマッピングに落とし込み、一連の体験の流れをプロトタイピングしていきます。
プロトタイプを活用して、開発前に再度ユーザーインタビューを実施し、体験をブラッシュアップしていきます。
つくるべき体験がまとめられたので、社内のレビューゲートに持ち込み、開発の意思決定が行われました。
新規事業において意識しないといけないのは、開発チャンスはそこまで何度も置けないことです。リリースしても結果が伴わなければ、クローズとなることもありえます。一回きりの開発でベストな結果を出す必要があります。
なので、実装されたアプリを使って、リリース前にもテストを行っていきました。ここで分かった改善項目は、差し込みでリリース前に修正をかけています。
このような立ち上げプロセスを経て、スマートフォンからいつでも簡単に1日から自動車保険の申し込みができる、ちょいのり保険のスマホアプリをリリースしました。
リリース後は、多数のアクセスをいただくことができました。想定していた新規ユーザーはもちろん、既存のリピート層も多く使ってくれています。
かつ、月間のコンバージョン率はWeb版より高く、より最適なユーザー体験を提供できたと思います。
ただ、「若年層の新規ユーザーの利用を増やしたい」というプロジェクトの狙いから考えると、さらに多くの新規ユーザーに使われるサービスにしていく必要があります。
そこで、定例mtgに何度もアジェンダを持ち込み、継続的な議論を行いながら改善を行っています。
今回はちょいのり保険のスマホアプリ立ち上げの事例を紹介しましたが、最後に、東京海上グループとして、なぜこのような新たなサービス開発に取り組むのかをまとめます。
私たちは、今、デジタルの力を活かして、新たな保険ビジネスを構築しようとしています。
これまで、多くの保険代理店と連携し、サービスを提供してきました。お客さまの中には、この代理店の方とずっと関わり続けてきて、リアルな人のサポートを受けられることを価値に感じてくれている方も多くおられます。
ただ、市場全体を見ると、お客さまだけで保険申し込みが完結するような代理店不在のデジタルネイティブなモデルの保険サービスも増えてきています。このような世の中の変化を捉え、これまでの基盤を活かしながら「東京海上グループらしい」新しい保険体験を構築していくことが求められています。
このようなお客さまの多様化や、ビジネスモデルの見直しに対して、エンドユーザーが本当に求めているものを発見し、そこに最適な体験を提案していけるのが、デザインの力であるはずです。
東京海上システムズの内製デザイン組織である「Knot+」は、単なる制作にとどまらず、時代にフィットする新たな保険体験をつくっていくことに寄与していきます。