はじめまして、SmartHR サービスコミュニケーションデザイン部 サービスディレクションユニットでディレクターをしているuchikoです。 私は制作会社で営業、ディレクター、プロジェクトマネージャー、事業会社でウェブ・アプリ開発のプロダクトマネージャーを経て、2024年3月にSmartHRのディレクターとして入社しました。
ディレクターとしては、主にSmartHRのサービスをお客さまに知っていただくためのマーケティング施策における制作物のディレクションやプロジェクトマネジメント、新機能リリース時のディレクションなどを担ってきました。
そんな中、昨年開催された大型ビジネスカンファレンス施策に、ディレクターとして関わることになります。2025年10月15日、SmartHR主催のビジネスカンファレンス『SmartHR COMPASS』です。
「組織と人材の未来を担う、リーダーの羅針盤」というコンセプトを新たに掲げ、社内でも企画から制作まで数多くのメンバーが携わり、実現に至ったこのカンファレンス。 私はディレクターとして、事業目的と社内外の制作を滑らかにつなぎながら、いかにカンファレンス自体の成功確率を高めていくかという視点で活動していました。
私自身、カンファレンス施策のディレクターを務めるのは今回が初めてで、手探りなことも多くありましたが、少しでも参考になる方がいればと思い、試行錯誤の過程を残しておきたいと思います。
SmartHR COMPASSとは、2025年10月15日、SmartHR主催で開催したビジネスカンファレンスです。
変化するビジネス環境の中でも持続的に成長できる組織づくりを目指し、組織と人材の未来を担う経営層、管理職、人事責任者の皆様が一堂に会し、また業界を牽引するリーダーの知見や成功事例から本質的な課題認識を深める場として開催しました。
カンファレンスは、顧客と直接つながり、サービスの価値を自らの言葉で伝えられる貴重な機会です。
SmartHRではこれまでも『SmartHR Next』『SmartHR Agenda』『SmartHR Connect』などのカンファレンスを開催してきました。一方で、事業視点から見ると、リード獲得や認知形成には一定の成果が出ていたものの、事業成長へのインパクトをより大きくするための変化が求められていました。
カンファレンスを単発のイベントとして終わらせるのではなく、中長期的に業界のスタンダードとなるようなフラッグシップカンファレンスとして進化させ、参加者への提供価値を高めていくこと。その結果として商談や受注といった事業成果にも直結していく体験設計へとアップデートしていくこと。
今回のSmartHR COMPASSは、このような方向性に向けた第一弾として構想が進んでいました。
バックオフィス業界の新たなスタンダードを目指すこのカンファレンスの立ち上げには、部署や職種の垣根を越えて、社内だけでも30〜40名が携わりました。
その中で私はディレクターという立場でプロジェクトに参加します。社内だけでも関係者が多いプロジェクトです。通常のディレクターの役割範囲以上に全体のプロジェクトマネジメントも求められる状況でした。
私に求められていたのは、不確実な点が多い中でも、事業目的の達成に直結するクリエイティブ制作を推進し、今回のカンファレンスを成功へと導くこと。
このような大型施策では、多様なプロフェッショナルがその力を十分に発揮できる環境が不可欠です。しかし、個々の専門性をただ積み上げる「足し算」では不十分だと感じていました。
重要なのは、メンバーの力を「掛け算」にしていくこと。そのために、専門性と専門性の間に落ちてしまいがちな「スキマ」をどう埋めてプロジェクトを前に進めるか? が、今回ディレクターとして向き合うべき大きなテーマでした。
大型カンファレンス施策に初めて携わる中で、成功につなげるために意識的に取り組んでいたことは、以下の4つです。
ゴールに対する「見立て力」の強化
最適なプロセス設計とアサイン
体験設計を軸とした制作進行
「定量」と「定性」両軸による効果検証
ディレクターとして最初に取り組んだのは、ゴールに対する見立てを強くしていくことでした。
企画目的や世界観は設定されていたものの、開催までの具体的なプロセスやタイムラインは、まだ議論を深めきれていない状態でした。というのも、今回目指した規模・フェーズでのカンファレンス開催の経験が豊富なメンバーばかりではなかったため、理想と現実的なラインを丁寧に見極める必要があったためです。
当初は2025年夏の開催が予定されていましたが、結果として後ろ倒すこととなります。なぜなら、今回は中長期的に進化していくフラッグシップカンファレンスの第一弾でもあるからです。その重要性を踏まえると、急いで開催するよりも、目的に対して最適かつ現実的なタイムラインを、チーム全体で共有することが重要だと考えました。
そこで、企画から制作、開催までの全体プロセスとスケジュール感をできる限り具体化し、当初の予定どおり夏に開催する場合と、時期を少しずらした開催の場合の双方について、メリット・デメリットを整理。これらをもとに企画チームと議論を重ねていきました。
その結果、最終的には10月開催に向けて進めることが意思決定されました。長期的な価値創出と成功確率を高めるための選択として、チーム全体で腹落ちした判断になったと感じています。
企画と制作の両面に知見を持つディレクターとして、早い段階から「どう実現していくか」への解像度を上げ、現実的な見立てをチーム全体で共有できる状態をつくることも、重要な役割のひとつでした。
実働フェーズに入ってからは、それぞれのプロセスにおいて「誰が担当すると最も効果的か」を見極め、「高い専門知見の投入により、アウトプットの精度向上とスピードを上げる」ことを狙いとし、適任者を適切に巻き込んでいくことを意識していました。
1つひとつの論点を解消していくために、どんなアウトプットが必要なのか、そのアウトプットを誰が最も力強く推進できるのか。これらを柔軟に把握し、アサインすることも、ディレクターとして重要な役割でした。
例えば、カンファレンスのコピーライティングを検討する場面では、コピーライティングやコンテンツマーケティングの専門性が高い社内メンバーに声をかけ、参加をしてもらいました。
当初の参画メンバーだけでは専門性が不足していたところを、追加メンバーに入ってもらうことで、「そもそもどんな行動変容を起こしたいか」「何をキーメッセージとするのか」などを、納得度高く決めていくことができました。
もう1つは、制作時のデザイナー間のレビューフローについてです。
カンファレンスはビジネス上の成果創出を目的とした施策であるため、サービスコミュニケーションデザイン部のアートディレクター・デザイナーを中心に進めていました。
そのうえで、これから中長期的に育てていくカンファレンスという性質上、SmartHRのブランディングとしてどうあるべきか? も検討しなければなりません。
そこで、サービスコミュニケーションデザイン部とは別のデザイン組織であるブランドコミュニケーションデザイン部のアートディレクターにもレビューに入ってもらい、短期的な成果創出と中長期的なSmartHRのブランディング、双方の視点を掛け合わせることで、より精度の高いクリエイティブにつなげていきました。
他にも、ノベルティの方向性を決める際など、ターゲットにとって本当に価値があるかを見極めたい場面では、社内でターゲットに近い属性のメンバーに気軽にレビューをお願いできる体制を整えました。
必要なときに、必要な専門性や視点を最適な人からすぐ取り入れられる状態をつくることも、重要な役割だったと思います。
各プロセスでは適切なアートディレクター・デザイナーに参画してもらい、「カンファレンスを通じて参加者にどんな行動変容を生みたいのか」という視点を軸にアウトプットをつくり込んでいきました。ここでは、その中からいくつか事例を紹介します。
■ キービジュアル
カンファレンス名である「COMPASS」には、決裁者が集い、漠然とした課題を明確化し、進むべき道を定めていく場にしたいという意図が込められています。
キービジュアルでは、この意図を視覚的に表現するために、矢印やベクトルといった“方向性”や“推進力”を感じられるモチーフを採用。未来に向かってともに進んでいくスタンスを、直感的に受け取れることを重視しています。
また、会場における体験テーマには「旅の出発点」を掲げました。さまざまな方向を向いていたベクトルが一点に集まり、未来へ向かって一歩踏み出す場であることを表現するため、キービジュアルだけでなく、会場装飾や空間演出にもこのモチーフを一貫して展開しました。
■ コーヒーカップ・カフェラウンジ
会場内に設置したカフェラウンジで提供するコーヒーのカップには、「人材データの活用」「カルチャー醸成」など、組織やバックオフィスに関する5つのテーマをデザインとしてあしらいました。
コーヒーを注文する際に自身の興味関心に近いテーマのカップを選んでもらうことで、参加者同士が自然と会話を交わすきっかけになるように設計しています。
さらに、SmartHRのセールス担当者にとっても、選ばれたカップを手がかりに参加者の課題感を改めて把握し、会話のきっかけをつくるツールとして活用できるようにしました。
■ 映像
映像演出においても、キービジュアルで提示した「方向性」や「推進力」を動きのある表現へと昇華させ、空間全体との統一感を図りました。
オープニングやセッションタイトルだけでなく、幕間においても矢印やベクトルのモチーフを絶えず動かすことで、会場の空気感を途切れさせることなく接続。静的な装飾と動的な映像がリンクし、参加者が常に「旅の途中」であることを肌で感じられるような、没入感のある映像体験を提供しました。
他にも、開催前に送付するダイレクトメール、会場にて配布するパンフレットやノベルティ、会場造作など、さまざまなアイテムを、今回のカンファレンスで目指す体験に基づいて作り込んでいきました。
制作に関わるディレクターとして、「つくったものが、効果があったか」をいかに検証し、資産として蓄積していくかを意識していました。
「品質の高い制作物ができた」「反応も良かった」などのふわっとした評価だけでなく、「定量的なデータ」と「定性的な現場の事実」の両軸で分析し、次に活かすことが重要だと考えています。
そのため、何をどの指標で測るのか、どう測定するのかといった点も含め、マーケティングの関連職種の方々とコミュニケーションを取りながら設計していきました。
たとえば、開催後の振り返りアンケートもその1つです。
SmartHR COMPASSにおけるクリエイティブ部門への期待は、大きく「自社カンファレンスとしてのリブランディング」と「当日の会場におけるコミュニケーションデザイン」の2点でした。
これらがどの程度達成できていたのかを評価するため、観点を細かく分解したうえで5段階の評価アンケートを行い、定量的に取得するようにしました。
一方で、数字だけでは見えにくい「来場者のリアルな熱量」や「体験の質」については、定性的な検証を行いました。 具体的には、制作を担当したクリエイティブメンバー自身が実際に会場へ足を運び、「自分たちが設計した体験が、想定通りに機能しているか」を一次情報として捉えるプロセスを取り入れました。 例えば、先述したカフェラウンジやコーヒーカップの仕掛けであれば、「ラウンジで快適にお客さまは過ごせているか」「実際にカップをきっかけに会話が生まれているか」を確認したり、リーフレットであれば「掲載したディスカッションシートは実際に使われているか」「会場マップを見て迷っているお客さまがいないか」といった視点で、来場者の動きを観察します。
机上の空論ではなく、自分たちの仮説が正しかったのかを現場で「答え合わせ」することで、数字の裏側にある要因への解像度を高めることができました。
こうして得られた「定量データ」と「定性的な気づき」を踏まえて、プロジェクト全体の体制・実施した施策・施策ごとの評価・次回への申し送り事項などをクリエイティブ部門として、全体振り返りと分けてエグゼクティブサマリとして可視化。
これによって、クリエイティブ部門だけでなく組織全体で「どのような効果が生まれたのか」「次に活かすべき点はどこか」を客観的に判断できる状態を目指しました。
このようなプロセスを経て、2025年10月15日、SmartHR COMPASSを開催しました。
今回のSmartHR COMPASSでは、これまでのカンファレンスからリブランディングを行い、事業成長へのインパクトをより高めることを目的としていました。
その目的に沿って体験設計を行ったことで、過去に開催したオフラインカンファレンスと比較して、商談率は約5倍、受注促進率(商談中企業の確度向上)は約2倍に向上する成果につながりました。
もちろん、これらの成果はクリエイティブ部門だけでなく、さまざまな部門・メンバーが共通の目的に向かって密に連携し、尽力した結果だと捉えています。
今後は、SmartHRのあらゆるステークホルダーを巻き込みながら、未来の共創とビジネス成長を加速させる場として、SmartHR COMPASSをさらに進化させていきたいと考えています。
繰り返しとなりますが、SmartHR COMPASSには、部署や職能の垣根を越え、社内メンバーだけでも30〜40名が携わりました。
参加いただく方々にとって素晴らしい機会となること、そしてそれを通じて SmartHR をさらに発展させるという共通の目的に向かって、それぞれが専門性を活かしながら尽力していました。
このような大規模な施策では、各自がオーナーシップを発揮する一方で、「専門性のスキマ」が生まれることもあります。「企画視点では…」「集客視点では…」「制作視点では…」など複数の視点が存在する中で、目的に対してベストな道筋を歩める状態をつくることは、重要なことだと認識しています。
ディレクターという役割は一見つかみどころが少なく見えるかもしれませんが、さまざまな「専門性のスキマ」を埋めながら、事業と制作を滑らかにつなぎ、成功確率をともに高めていく――そんな面白さのあるポジションだと思っています。
SmartHR はスケールアップ企業として、国内でも類を見ないフェーズにあり、日々、さまざまな施策がすごいスピードで立ち上がっていきます。
私自身も、常に自分の役割をアップデートしながら、この環境をチームとともに楽しんでいきたいと思います。