TIS XD Studioは、B.LEAGUEのマーケティング戦略設計を支援しています。その一環として、ユーザーの生の声や行動を深く理解するために、「現地調査プロジェクト」を実施しました。

ユーザーの解像度をより高めるには、インタビューを行うだけでなく、実際に現場に赴き、調査することも非常に有効な手段となります。

今回は、B.LEAGUEでの実例を交えながら、現地調査を軸としたユーザーリサーチプロセスを紹介します。

2024年10月に、B.LEAGUEと私たちが共に取り組んでいるユーザーリサーチプロジェクトの事例を公開しました。本事例では、以下の内容についてお伝えしました。

  • B.LEAGUEでは、“B.LEAGUE 2050 VISION『感動立国』”というビジョンのもと、2028年までに総入場者数を700万人まで引き上げるという目標を掲げている。

  • このビジョンを実現するため、「机上の空論ではなく、顧客の声を深く理解し、効果的な施策を組み立てたい」というB.LEAGUEの意思に応えるべく、TIS XD Studio は「戦略の解像度を顧客視点から高める」支援を行っている。

マーケティング戦略の考え方とユーザーリサーチの関係性

これまで、インタビューを中心に調査・分析を行い、ユーザーシナリオを構築してきました。

しかし今回は、B.LEAGUEのユーザー理解をより深め、観戦体験の向上に向けた戦略を立案するため、試合会場となるアリーナへ実際に赴き、現地調査を実施しました。

では、なぜ改めて現地調査を行う必要があったのか。その理由は、現地調査を実施することで以下のメリットを得られるためです。

① 一つひとつの行動の解像度が高まる

  • インタビューに加えて現地調査を行うことで、ユーザーの置かれている状況をよりリアルに理解でき、最適な解決策を導きやすくなる。
  • 特にスポーツ観戦体験においては、アプリなどデジタル施策が適している場合もあれば、紙媒体や会場内のサインなど、アナログ施策が適する場合もある。そのため、ユーザーの行動を詳細に観察し、適切な手段を見極めることが不可欠である。

② 無意識的な行動を把握でき、アプローチするニーズ・課題の幅が広がる

  • 現地での行動観察を通じて、「ユーザー自身が認識していない」または「認識していたが慣れてしまい、特に意識しなくなった」ニーズや課題を把握できる。
  • インタビューでは、対話を通して潜在的なニーズを引き出せる一方、ユーザーの記憶を基とした回答が中心となる。そのため、特に印象に残っている出来事や、質問に沿った回答が多くなり、無意識的な行動を引き出しづらい場合がある。

このような背景から、現地調査を通じて実際の観客の立場に立ち、ユーザーをより深く理解することで、真のニーズや課題に基づいた施策の立案を目指しました。

今回の現地調査プロジェクトでは、以下のゴールを設定しました。

  1. 先進的なアリーナ会場における観戦体験の理解を深める

  2. これまで訪れた会場との違いや、来場者の様子を観察する

このゴールに基づいて事前リサーチを実施し、B.LEAGUEに所属するプロバスケットボールチーム 長崎ヴェルカの新ホームアリーナ「HAPPINESS ARENA」で現地調査を行うことを決定しました。

また、会場到着から試合終了後の退場までの一連の流れの中で、どのような観点を持って観察を行うかを事前に設計しました。

自身が観戦を楽しむことも大切ですが、今回の目的はあくまでユーザー理解を深めることにあります。そのため、事前に観察の視点を明確にし、それに基づいた調査を徹底しました。

事前の調査観点サマリー

現地調査当日は、単にその場の状況を眺めるのではなく、ターゲット属性に当てはまる人の印象的な行動や、その背景にある理由を捉えることを意識しました。そのため、さまざまな観察手法を柔軟に組み合わせながら調査を進めました。

以下に、具体的な観察手法の例をまとめます。

フライ・オン・ザ・ウォールは、観察調査における代表的な手法の一つです。その名の通り、壁にとまったハエのように現場の一箇所にとどまり、俯瞰しながらユーザーの行動を観察する方法です。

ユーザーの行動には干渉せず、あくまで観察に徹し、メモを取りながら「なぜそのような行動を取るのか」を考察していきます。

具体的には、試合中の観客席や会場内のフードショップ、帰路の路面電車を見渡せる場所に滞在し、観察を行いました。

結果として、以下のようなインタビューだけでは得られないユーザーの実際の行動を深く理解することができました。

  • 子連れの観客が観戦時に取る行動

  • 飲食店における時間帯ごとのユーザー行動の傾向

  • 帰宅時の混雑状況や、その際に見られる行動

一歩引いて観察することで、現場のリアルな空気感や状況、細かな行動を把握することができます。

シャドーイングは、フライ・オン・ザ・ウォールと同じく、観察調査における代表的な手法の一つです。

ターゲット属性に該当する方や、気になる行動をしている方が現れた際に、対象者には接触せず、リアルタイムで直接行動を観察します。また、自身も対象者の行動を追体験することで、行動の背景をより深く理解できます。

具体的には、会場内のグッズ販売エリアでの商品の選び方や、試合中の飲食時の行動を追体験しながら観察を行いました。

例えば、フードショップで軽食を購入した2人組がその場で食べている様子を観察すると、「その場で食べる」という行動だけでなく、その選択に至る背景や周辺状況まで理解することができました。

  • 観客席にはドリンクホルダーしかなく、軽食を置くスペースがない

  • 隣の座席にも人がいるため、食べづらい

  • 食べ終わった後もゴミを持ち続ける必要がある

  • 最終的にどこで食べるか悩み、相談した結果、その場で食べることを選択

シャドーイングでは、特定のシーンに着目して行動を追体験することで、行動の意図や背後にあるユーザーの心理や動機、感情の流れをより深く理解できます。

観察だけでなく、現地で観戦に訪れていた方へのインタビューも実施しました。

ターゲットユーザーの属性と近いと思われる方や、試合中にもかかわらず観戦していない方など、気になる行動をしている方に直接話を伺い、その背景や理由を深掘りしました。(インタビューは本人の了承を得た上で、5分〜10分ほどで実施)

例えば、会場内で待ち合わせをしていたと思われる2人組に話を伺ったところ、以下のような興味深い発見がありました。

  • X(旧Twitter)を通じて知り合い、この場で初めて対面した

  • お互いに集めているグッズがあり、それを交換するために待ち合わせをしていた

  • 1人はこれまでに何度かグッズ交換を経験していた

  • もう1人は今回が初めてで、「とても嬉しかった」と笑顔を見せていた

インタビューを通じて「初対面」「グッズを交換したい」「グッズを交換できて嬉しい」など、新たなユーザーニーズの発見につながりました。

このように、現地でのインタビューを組み合わせることで、単なる行動の観察にとどまらず、行動の背景やユーザーの心理的な側面まで深く理解できます。

既に一部例示していますが、現地で得られた発見は、すべてリアルタイムでチャットツールに記録するよう徹底していました。

後から思い出そうとしても、当時の状況や瞬間的に感じたことを忘れてしまったり、記憶が曖昧になることで、解像度が下がってしまうためです。

そのため、できるだけ写真とともに記録を残し、情報の鮮度を保つことを意識しました。最終的に、大小さまざまな発見や気づきが265件のメモとして蓄積され、その後の分析に活かされました。

得られた発見は、全員が逐一メモに残していく

現地調査の実施後、その結果を踏まえてユーザーシナリオのアップデートを行いました。

もともとユーザーシナリオは、過去に実施したユーザーインタビューを基に作成していましたが、現地調査を通じて、ターゲット固有のリアルなニーズをより深く捉えた内容へと更新することができました。

このユーザーシナリオを基に、B.LEAGUEの皆様とも共通認識を形成し、施策の意思決定にも活用しています。

現地調査を踏まえて更新したユーザーシナリオの資料例(一部)

私たちの向き合うユーザーとは、非常に複雑な存在であり、その多様なニーズや行動は一概に捉えられるものではありません。

ユーザー自身が、自分の求めているものを完璧に言語化できるとは限らず、時には自覚していないニーズや課題が存在することもあります。

そのため、事業者はユーザーの状況を多角的に捉え、最適な解決策を考え、実行していくことが求められます。

しかし、ユーザーを深く理解することは一朝一夕でできるものではなく、継続的なリサーチと検証が不可欠です。

今回、私たちが実践してきたリサーチプロセスは、ユーザーのリアルな声や行動を深く理解し、より精度の高い意思決定を行うための大きな助けとなります。もし、ユーザー理解をさらに深め、より良い事業づくりを目指したいとお考えの方がいれば、ぜひ気軽にご相談ください。

これからも、机上の空論ではなく、ユーザーの生の声に基づいた魅力的なサービスを生み出せるよう、全力でサポートしてまいります。

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