2023年に創業150年を迎えたコニカミノルタは、社会や人々の課題を解決するために法人向けの複合機、プラネタリウム、医療機器、ガス監視カメラ、などの幅広いソリューション・サービス・プロダクトを開発しています。
私は、そんなコニカミノルタでデジタルモデラーとして働いています。前職で15年、コニカミノルタで10年。気づけば25年にわたってデジタルモデリングを軸にものづくりに向き合ってきました。
デジタルモデラーと聞くと、どのような仕事を思い浮かべるでしょうか。 CADなどを用いて立体モデルをつくる人。そんなイメージがまず浮かぶかもしれません。
もちろん、それも大切な役割です。 しかし実際は、「3Dという技術を使って、顧客価値を生み出すものづくりを支え、ドライブする存在」。私は、デジタルモデラーとはそんな“創造の起点”になり得る仕事だと考えています。
今回は、私なりの視点から、デジタルモデラーが担う本当の役割、プロジェクトの裏側、そしてこの仕事がなぜこんなにも面白いのかについてお伝えしたいと思います。
デジタルモデリングとは、製品や空間を立体的なデータ(モデル)として可視化する技術です。
コニカミノルタにおけるプロダクトデザインの現場では、製品ビジョンの可視化、初期段階でのプロトタイピング、開発に向けた製品造形の精緻化など、さまざまな場面でデジタルモデリングが活用されます。
コニカミノルタでは、基本的にプロダクトデザイナー自身がモデリングまでを担います。デザイナーがモデリングまで一気通貫で行えることで、形状や使い勝手をその場で検証でき、意思決定のスピードと精度を高めることができるからです。
その中で、私は専任のデジタルモデラーとして活動を続けてきました。
デザイナーと二人三脚でプロジェクトに関わり、難易度の高い造形を専門性を活かして担ったり、デザイナーがより検証しやすいように3D技術を用いて環境を整えたりすることもあります。
これまでの活動を振り返ると、大きく分けて次の3つの役割を担うことが多くありました。ここからは、それぞれについて具体的なプロジェクト事例を交えながら紹介します。
プロジェクト単位でのモデリング支援
3Dを駆使した、UX・空間の検証
組織横断でモデリング技術の地力を上げる
デジタルモデラーの基本的な役割は、プロダクトデザイナーと二人三脚で製品を形にすることです。デザイナーの意図を汲み取り、機能性と美しさが両立した立体モデルに落とし込みます。
その一つとして、超音波プローブの開発事例を紹介します。リニューアルにあたり、製品デザインの難易度が高いことが想定されたため、初期からデザイナーと二人三脚でモデリングを進めていきました。
超音波プローブは医師が手に持ち、患者の身体に直接当てて使用する医療機器です。患者に当たる部分にジェルを塗布して使用した後、ジェルの拭き取りと殺菌のために必ず清掃をします。プローブが角ばった形状だと、ゴミが溜まりやすかったり、ジェルを拭き取りにくくなってしまいます。また、プローブを持つ医師や技師にとっての操作性も重要です。
そのため、デザイナーには「清掃性と操作性を両立したシームレスな形にしたい」という意図がありました。
しかし、このシームレスな造形はモデラー視点では難易度が高い領域です。通常であれば分割して面を張り替える箇所も、一体でつなぎ、流れるような形状を成立させる必要がありました。
それでも、医師・技師にとって使いやすく、患者にも優しい印象を与えられる形を目指して、試作を重ねていきました。
開発の過程では、1週間に一度のペースでモデリング → 3Dプリント → フィードバック → 再モデリング のサイクルを回し、10回以上の試作を重ねました。
医師や技師に実際に触ってもらう機会もあり、「シームレスゆえに滑りやすい」「女性の手には少し太い」など、リアルな使用感に基づいた意見が寄せられます。それらを踏まえて、太さや曲率をミリ単位で調整し、最適な形状を探りました。
現在、このプローブは実際に医療現場で使用されています。
美しいだけでなく、安全で扱いやすく、患者に優しい。そうした機能美が成立するまでには、デザイナーの意図、使用者の声、技術的制約をすべて踏まえた上で試作を繰り返すプロセスが不可欠でした。
デジタルモデラーの仕事は、製品単体の立体モデルをつくることだけではありません。
実際にどんな空間で、どう配置され、どう使われるのか——。そうした“利用環境そのもの”を3Dで再現し、プロジェクトの初期段階からデザイナーと一緒に体験を検証することもあります。
プラネタリウムのような大規模空間では、初期段階での検証が特に重要です。レイアウトや座席といった要素は簡単に試作できず、一度決めると大きく変更するのが難しいためです。
そこで、早期に空間全体をモデリングし、レイアウトや大きさ、動線などをVRで実寸大のまま体験できるようにします。
たとえば、
観客が通路を歩くときに座席にぶつからないか
足を伸ばしたときに窮屈に感じないか
見上げたときに投映機が視界を遮らないか
といった点を確認し、 事業部メンバーやデザイナーと一緒に 「ここは窮屈だから座席数を減らそうか」 「見上げづらいので、レイアウトを少しずらそう」 といった改善を重ねていきます。
また、プレミアムシートのように“一品もの”として家具メーカーに制作を依頼する場合も、まずはVRでそのデザインが空間にマッチしているかイメージを確認します。一度つくると手直しが難しいため、事前に大きさの体感や見え方を把握できることは大きなメリットです。
もちろん、現実との差異があるため、VRだけで判断するのは危うい面もあります。それでも、初期段階で体験をざっくりと検証できる機会は貴重であり、さまざまな場面で大きな助けになります。
テキスタイルプリンターなどの大型製品も、簡単に試作できません。また、製品が置かれる工場環境に持ち込んで確認することも難しいです。
そのため、まずは製品をモデリングしてVR上で確認できるようにします。しかし、背景が真っ白な空間でVR表示すると、正しいサイズ感覚を得られないことがあります。本来は非常に大きな製品でも小さく見えてしまい、判断を誤る可能性があるのです。
そこで、「工場っぽい空間」を簡易的にでも再現し、その中に製品モデルを配置することで、より現実に近いサイズ感で検証することができます。
これによってデザイナーや関係者と、サイズ感や導線、製品デザイン(ハンドルの位置は妥当か、操作パネルやコンソールは見やすいか)などを一緒に確認できるようになります。
デザイナーや関係者が正しく判断できる環境を3Dによって整えることも、デジタルモデラーの大切な役割だと考えています。
冒頭でも触れた通り、コニカミノルタでは基本的にデザイナーが自身でモデリングまでを行います。
専任のモデラーと連携してモデリングすることもありますが、たとえ専任のモデラーが入らなくても、素早く・一定以上のクオリティで製品の検証ができる状態が望ましいと考えています。デザイナー自身が直接モデリングすることで、意思が反映しやすく、また造形に対する解像度が深まり、顧客の求める製品を形にしやすくなるからです。
そこで、私なりにデジタルモデリング技術や考えを組織に還元し、全体の技術力を底上げする活動にも取り組んでいます。
コニカミノルタには、プロダクトデザイナー向けのスキル研鑽イベント「スケッチ会」があります。お題に沿ってスケッチを描き、お互いの思考やプロセスを共有しあう場で、私もモデラーとして参加することがあります。
モデラーとして参加する際には、デザイナーが描いたスケッチをモデリングし、そのモデリングを見て更にデザイナーが修正箇所をフィードバックする、といったやり取りを繰り返しながらデザインを作りこんでいきます。
二次元の線を三次元へ変換する際にどんな点を考慮するべきか、どこで破綻しやすいか、どうすれば意図をより正しく実現できるか──そうした“モデリングならではの視点”を直接共有できる貴重な機会です。
実際にスケッチ会で一緒にワークを行ったプロダクトデザイナーからは、以下のようにコメントをもらっています。
コニカミノルタのデザインセンター向けに、デジタルモデリングの知見を集約したポータルサイト「3D Process Hub」を作成・運用しています。
3D Process Hubでは、デジタルモデリングの基本的な考え方やつくりかた、各種ツールの使用方法などを整理してまとめています。
さらに、3D技術の底上げを目的に、一緒にデジタルモデリングを実践する勉強会を定期開催しており、そのアーカイブ動画もナレッジとして蓄積しています。
ここまでまとめたように、デジタルモデラーの仕事は、単に立体的な形をつくることではありません。3D技術を軸に、顧客起点のものづくりを支える──そうした幅広く、奥深い役割を担っています。
技術は日々進化しています。コニカミノルタでも、VRを用いた空間検証や、新たなツールや3Dプリンターの活用など、目的に応じて「つくるための環境」そのものをアップデートし続けています。
特に近年ではAIの発展も進んでいますが、そういった技術の進化も味方につけながら、コニカミノルタらしいものづくりをいかに進化させていくかを考え、実践していきたいと思います。
デジタルモデラーとして歩んできた25年間。
その中でさまざまな変化を経験してきましたが、それでもこの仕事の“意義”と“面白さ”は、今も変わらず私の原動力です。
これからも、自分なりのアプローチでより良いものづくりを支えていきたい。そして、その過程で得た知見や考え方を組織に還元しながら、個人としても、チームとしても進化を続けていきたいと思います。