リクルートのデザインマネジメントユニットでは、事業におけるデザイン活用の課題構造をモデル化し、課題の特定と解消に取り組んでいます。
今回は『じゃらん』などのサービスを担当する旅行領域において、デザイン組織の役割定義不足の課題をどのように解決したかを紹介したいと思います。
私は4年前に、『じゃらん』などを運営するリクルートの旅行領域に、1人目のデザインディレクターとして参画しました。当時の旅行領域は、リクルートの中でもデザインマネジメントユニットがまだ関与できていない事業領域でした。
そのため、業務委託のデザインパートナーが中心となり。事業やプロダクトにおいてどのようにデザインが貢献できるのかを提示できる組織も不在でした。一方で、現在では旅行領域全体にデザインマネジメントユニットが広く介在できている状態となっています。
今回は、旅行領域が現在の状態に至るまで、私が取り組んできた「旅行領域へのデザイン浸透」の変遷をまとめます。
2021年に原田が1人目のデザインディレクターとして参画するまで、『じゃらん』を運営する「旅行領域」では社員デザイナーが不在の状態で事業運営されていました。
PdMから業務委託のデザイナーに依頼をし、指示通りにそれを形にするのがデザイナーという分担となっており、横の連携や事業へのデザイン活用が難しい構造となっていました。
また、デザイン組織だけでなくプロダクト組織全体としても改善の余地がありました。旅行領域には宿やホテルを予約する『じゃらん』以外にも複数のプロダクトの開発が走っています。
当時は、決裁者や旧ガイドラインの活用方針がバラバラで、横断的な情報共有も難しく、デザインをプロダクトへ活用するためのプロセスや体制は一貫していませんでした。
そのため、「どこに、どのようにデザインを活用できるのか」「各プロダクトごとに、どのくらいデザインへの理解があるのか」などが一目で把握することが難しく、どこから着手すれば良いか決めづらい状況となっていました。
このような状況の中で、私は「ユーザーのニーズや目的に対してアクセシブルなサイト・アプリ」にするための改善に、まずは注力することとしました。
ここで扱うアクセシブルとは、例えば「『じゃらん』にアクセスし、宿を検索して、予約完了までを最後まで迷わずに完遂できる」というような、目的に対してのユーザー行動のスムーズさを指します。
この方針を選んだ理由としては、事業が重要視する部分への介在を初手とすることで、非デザイン職種の人とも共通の観点で会話することができ、関係性の構築や組織を超えた協働をスムーズに進められると考えたためです。
一方で、プロダクトの新たな価値探索、ブランドリニューアル、なども課題と認識していましたが、定量的な成果に直結するかが不確実なので、初期には注力しないことにしました。
「結果に繋がる場所からはじめること」「泥臭く信頼を取りに行くこと」「優先度をつけ全体バランスをとる」ということを意識して進めた3年間のデザイン浸透を、ここからは時系列でまとめます。
デザイン活用の課題を探り「結果を出すポイント」を見つける
案件に入り込んで「基準を高める」
品質底上げのためのレビューフロー構築
レビューフローを各プロダクトに反映
旅行領域には複数のプロダクトがあるため、参画直後はそもそも領域全体にどのようなデザイン活用の課題があるのかを探ることから始めました。
ステークホルダーやプロダクトの体制、デザインがどの程度活用されているのかを把握するために、とにかく様々なミーティングに参加したり、個別にヒアリングを実施したりして、観察していきます。
もちろん入るからには手も動かします。すぐ解決できそうで、事業優先度が高そうな案件に積極的に参画し、その中で各プロダクトの開発体制や、課題を把握していきました。
全体観が分かってきたら、「業務プロセス」と「デザイン/UXの品質」の2つの側面から、ポジティブな状態とネガティブな状態を言葉で整理します。
そしてここから、旅行領域の複数のプロダクトをまたぐ、旅行領域全体で共通する課題を抽出していきます。
この段階では、まだどの課題を解決するのかは決めていません。「旅行領域が一体どのような状態になっているのか」を好奇心で探っているような状態です。
そのような活動を通して「プロダクトや担当者によって、情報設計やUIデザインでのデザイン活用基準が一貫しておらず、品質に大きくばらつきがでてしまう」という課題があることがわかりました。
デザインガイドラインの形をしたものはあるが、定義や役割がはっきりと決められておらず、何年もアップデートされないまま、本来の役割を果たせていないということもヒアリングを通してわかってきました。
そのため、デザインガイドラインの役割の再定義とリニューアルができないかと考えましたが、現場の状況やガイドラインを統一することでの自由度の低下などの観点から、いきなり全体最適から始めず「現在の事業の関心ごとである、指標に紐づく部分から行うのが良いだろう」と整理しました。
当時、旅行領域として重要な指標である「予約率」に着目し、「ユーザーがスムーズに予約まで辿り着ける、アクセシブルな設計」を実現することに注力すると決めます。そしてこの方針のもと、限られたリソースの中で、より予約率の改善に直結する施策から優先度を上げてデザマネの関与を深めていきました。
(デザインはこれができます、これもできます、と話すだけでは信頼は生まれないので、特にこの思考の流れをすべて共有することはせず、「アクセシブルな設計に注力して、指標を向上させる」という事業視点での共通言語に沿う部分を中心に全体共有しました)
デザインで注力するポイントを決めたら、現場に入り込んで、少しずつデザインの有効性を示していくことに取り組む必要があります。
このタイミングでは主に、自分自身も現場の案件に入って品質の改善をしながら、良いプロセスを展開して「領域全体のデザインへの基準を高める」ことに注力しました。
具体的には以下の2つの考え方で動いています。
守り: デザイン組織として、クオリティの担保を行う
攻め: デザインの介在価値や役割の拡張に取り組む
一つ目は、各プロダクトの業務委託パートナーであるデザイナーにレビュアーとして伴走し、デザインクオリティの担保をしていくことです。
これまで評価・判断の基準もまちまちで、感覚的な意見で決められていることもありました。明確な基準を元にデザイナーのアウトプットをレビューし、デザイン案をプランナーへ提案する際には、その基準をもって判断を促すことを始めます。
案件を通して、少しずつ、デザインを考える際のロジックを関係者全員にインプットしていきました。この考え方の部分を適当にしてしまうと「よく分からない」と現場から反発が生まれるので、デザインのロジックを極力丁寧に言語化して伝えることを意識しています。
要件がまだ曖昧な案件では、自分から直接上流の工程に入り込み、抽象度の高い検討やイメージを形にすることで、デザイン組織の介在価値や役割の拡張にも取り組んでいます。またここでも「領域全体のデザインへの基準を高める」ことを意識しています。
例えばその一つが、『じゃらん』のアプリリニューアルです。
プロダクト開発組織のマネージャーから「構想はあるんだけど、時間がなくてなかなか具体化できていない」という話をもらい、「それなら原田が具体化してきますよ」と伝えて、プロトタイプを持っていってみました。
これらのやり取りをきっかけにプロジェクト化の話が進みます。その後、より具体的な設計や、要件定義なども推進し、上流からデザイン組織が関わる形でアプリリニューアルをスタートすることができました。
このように、不確実性の高いプロジェクトに積極的に介在し、かつ毎回丁寧にプロセスをまとめていくことで、「プロセスの早い段階からデザインを巻き込むことで、様々なメリットがあります」ということを暗に伝えていきます。
ここまではあくまで「基準づくり」「信頼づくり」のために現場にガッツリ入り込むことを行ってきましたが、信頼が掴めてきた頃合いで、より全体に影響をおよぼすための動きを始めていきます。
そこで次に行ったのは「品質底上げのためのレビューフローの再整備」です。
前述のように、旅行領域には非常に多くのプロダクトがあるので、自分とプロダクト開発組織のリーダーがレビューゲートとなり、起案時とUI設計後に必ずレビューを通すような仕組みにしています。
また、これらのレビューを通して、統一した観点で横断的にデザインレビューをする役割の必要性を浸透させていく必要があります。ここまで案件に入り込んで行ってきたレビューの内容を体系化し、原田 (デザインディレクター) の役割を伝える資料を用意し、業務委託のデザイナーや起案者の方たちに共有しました。
レビューフローがうまく回ってくるようになったので、さらにレビューフローを浸透させていくために体制化を進めます。
デザイン人材の増員を進めるにあたり、各組織との信頼も生まれてきていたので、スムーズに増員を進めることができました。
そして増員の結果、旅行領域の中でも注力チームにデザインディレクターが入る形をとることで、私が入らなくても品質が担保されるような体制にできました。レビューを私以外のデザインディレクターに任せることで、そのチーム内で起こる課題解決により深く取り組めることができますし、育成にも繋がります。また私自身はそれらを横断でディレクションする立場を保ちつつ、余裕のできた工数で未開拓の領域やより不確実性の高い領域での課題解決に取り組むこともできるようになります。
この3年間で、旅行領域のデザイン活用を前進させることができ、デザインチームで課題に取り組むことができるようになりました。
結果として、例えば、「アプリのリニューアル」、「AIチャットでご提案」など、いくつものアウトプットが生まれ、プロダクト全体の品質が改善され始めています。
また「ユーザーのニーズや目的に対してアクセシブルなサイト・アプリの設計に改善する」ことに注力したことで、宿やホテルなどの予約完了数の向上も実現できています。
この3年間は、まずデザインが事業の関心ごとを解決できる有効なソリューションであることを示していく期間でした。
今後は、当初想定していた「旅行領域全体の品質統一 (ブランド構築)」や、「案件の質を高める探索 (プロダクト戦略づくり)」など、次の課題解決に取り組んでいく予定です。まだまだデザインが活用できる余地は多くあります。
このように私たちは、事業におけるデザインの課題を解決し活用を推進する人材を、「デザイン拡張人材」と定義し、こういった人材を増やす取り組みを進めています。旅行領域においてもこのサイクルを通して、事業や組織におけるデザイン活用を進めていきたいと思います。