キュービックのUXデザイナーの朝倉です。2017年に入社して以降、デジタルメディア事業のマーケターとして3年を過ごし、2020年のUXデザインチーム発足のタイミングでUXデザイナーに転身しました。

今はメディアプロダクトのUXデザインを行うかたわら、「CUEM(キューム)」というビジネスフレームワークの社内浸透プロジェクトを担当しています。

CUEMは、キュービックがCIで定めるマインドに加え、全メンバーが持つべきスキルとして位置付けられた「ミッション・ビジョン・バリュー」をスキル化したもので、全社的に使われています。社内浸透プロジェクトとしては「CUEMを活用し、誰もが本質的な課題解決をできるようになること」を目指しています。

今回は、そんなCUEMの策定と浸透についてまとめていきます。「CIの社内浸透を任されたけど、何をやったらいいかわからない」という方に、ひとつのケースとして参考になれば幸いです。

CUEMは元々ビジネスサイドのマーケターが使っていた「マーケティングのフレームワーク」でした。私の入社時には既に存在していて、「CUEMを活用できている人はもれなく成果を出している」というイメージを持っていました。

2016年に、代表世一の持っていたマーケティングノウハウや技術を言語化するかたちで、CUEMの前身となるマーケティングフレームワークが誕生しました。その後同年に実施したCI刷新に伴い、このマーケティングフレームワークのあり方も見直されました。当時のミッションは「ヒト・オリエンテッドなデジタルマーケティングでみんなの明日が変わるキッカケを生み出し続ける」でしたが、まさにこの「キッカケ(CUE)」を生むためのフレームワークとしての位置付けとなり、フレームワークには「CUEM」という名前がつきました。こうして2017年からは「CUEMはキュービックの基幹技術」として、活用の対象範囲がマーケターから全メンバーへと拡大しました。

このように、元々マーケティングのフレームワークとして誕生したという経緯があるため、ビジネス部門以外の、コーポレート部門やテクニカル部門のメンバーにはそこまで活用されていなかったのです。

当時のCUEM

こうした課題を長年抱えるなか、2019年にCDOとして篠原がジョイン、2020年には篠原をプロジェクトオーナーとしてキュービックは2度目のCI刷新を迎えます。新たなミッションは「インサイトに挑み、ヒトにたしかな前進を。」ですが、「インサイトに挑み」を支えるキュービックの技術は「マーケティング×デザイン」であると私たちは考えていました。この技術力を高めてこそ、ミッションを達成できるはず。この技術力を高めるものとして、CUEMを再度見直すことはできないか。そんなことを思っていました。

これら2つの背景から、「マーケター・非マーケター問わずキュービックの全メンバーが日常的に活用できるもの」「CIを体現するためのもの」とするためにCUEMをリデザインをすることに。元々マーケターとしてCUEMを活用していた現UXデザイナーの私とCDOの篠原がアサインされ、プロジェクトが始動しました。

通常業務と並行して少人数でプロジェクトを進めるにはリソースが足りないこと、本質的な課題発見には第三者目線が有効であると判断し、社外のパートナーとしてグッドパッチ社の力を借りるという決断に至りました。

まず最初に行ったのは、現状分析です。どんな背景でCIを定めたのか、現状をどう思っているのか、などを経営陣にヒアリングし、CUEMの問題点を探りました。

その後は、現場におけるCUEMの活用状況を把握するために、CUEMをどう位置付けてるか、どう活用しているかをメンバーにヒアリングしていきました。

このプロセスを通して、「要素が多いため細部を忘れる」「フレームワークという割には定義が曖昧」「マーケティング担当者のためのものになっている」など、内容面の問題点が浮かび上がりました。

また、本来は業務の設計時に使うことが有効なフレームワークにも関わらず、振り返り時にメインで使われており、使用方法やタイミングにも問題があることがわかりました。

分析の結論

これら情報をもとにした分析から、CUEMの改善点を以下のように定めました。

・これまで振り返りのシーンでばかり使われていたものを、計画や実行の段階で使えるようにする。

・全メンバーが職種に関係なく使える抽象的なものにしつつ、業務中での活用を促し専門性を深められる具体的なものを作成する。

・カバー範囲に「スタンス」が入っていたものを、表現とビジネスプロセスに限定する。

次に、キュービックらしく仕事を進めるフレームワークとして機能するよう、キュービックのCIとの理想の関係性を定義しました。ヒアリングの結果をもとに、メンバーを以下の通りタイプごとに分類しました。

タイプごとに、双方の位置関係をビジュアル化しながら、理想の形を探っていきました。

そして、CUEMの考え方を再度ビジュアル化し、フレームワークへと昇華させていきました。

CUEMには、「発散と収束の概念を追加する」「直線的なプロセスではなく行き来を前提にする」「プロセスの最初にゴールや目的を明確にするステップを加える」という変更を加えました。

完成した新しいCUEM

CUEMの内容を再定義した後は、全メンバーに活用してもらうためのコミュニケーション設計を行いました。

ここで意識したポイントは「業務における活用シーンまで想定すること」。CUEMを理解するだけでなく、しっかり現場で使いこなすところまでを、コミュニケーションの目的に置きました。

その際、基軸となったアウトプットは、CUEMについてまとめた職種ごとのハンドブック「BASiS(ベーシス)」でした。

CUEMがまとまったハンドブック「BASiS」

いつでも見返せるように手軽に持ち運べるサイズ、そして思わず開きたくなるようなデザインにこだわりました。

他にも、執務室に貼るポスターや会議室に置く五角柱ポップ、デスクトップの壁紙など、普段から目に入るような仕掛けを複数作りました。

これらのアウトプットを選んだ基準は「メンバーとの接点の多さ」。日常のなかで目に触れやすいものにしておくことで、「頭の中に常にCUEMがある」状態を作ろうとしました。

会議室でもCUEMのプロセスが目に入るように

また、毎月末に行われる「コアデー」という内省機会では「CUEMを実践できていたか」を振り返り、半期に一度の総会でCUEMの活用度合いが高い取り組みに「Best CUEMing 賞」を表彰する機会を設けています。

このように定期的にCUEMの振り返りと評価の機会を置くことで、メンバーがCUEMを活用することの重要性を強く感じられるようにしています。

「Best CUEMing 賞」表彰の様子

CUEM浸透を推進するプロジェクトとしてPDCAを回すためには、毎月全メンバー対象のアンケートを実施しています。自己評価で自分がどれくらいCUEMを活用できているかを4段階で評価してもらい、CUEMの浸透度合いを定量化します。

このアンケートで「3-1(CUEMをリードできる人の元で、一緒にCUEMを使っている)」以上を答える人を全メンバーの6割まで持っていくことを目下の目標としています。月を重ねるごとに数値がどんどんよくなってきていて、CUEMを使いこなす人が着実に増えてきていることを実感しています。

先にご紹介した通り、キュービックのミッションは「インサイトに挑み、ヒトにたしかな前進を。」で、前半の「インサイトに挑み」は手段・やり方の規定、これがまさにCUEMにあたるところです。ですから、日々CUEMを活用することで、業務とCIが一貫したものになっていきます。ただCIの文言をまとめたアウトプットだけではなく、CUEMという実務で使えるフレームワーク(スキル)をセットで整えたからこそ、組織へのCIの定着が進んだように感じています。

CUEMの浸透が行き着く先は「キュービックらしい文化」の醸成だと思っています。設計当初からこのような考えがあったので、私をはじめとするデザイナーでチームを組んでプロジェクトを進めてきました。

「マーケティング×デザイン」を体現できるものを作れたのは、デザイナーだからこそ成せたこと。デザイナーが持つ「ユーザーの体験を第一に考えて最適な表現へと落とし込む力」は、あらゆる対象・場面において活かせるものであると、私はこのプロジェクトを通じて改めて思います。

全メンバーがCIを体現し、その積み重ねによりユーザーに届ける価値を増やしていく。これからもCUEMを磨き続けながら、メンバーと一緒にキュービックの文化をつくっていきたいです。

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