三菱UFJ銀行のデザイン組織である「カスタマーエクスペリエンス・デザイン室」(以下、CXデザイン室)では、三菱UFJ銀行の個人向けサービス (リテール・デジタル領域) 全体の顧客体験の状態を可視化するため ATM, 店舗, HPなどの各お客さま接点のNPSをジャーニーベースで並べた「CXマクロマップ」 をつくっています。
CXマクロマップによって
CX指標を部室目標に据える検討ができる
ジャーニー全体で自チームが注力する領域がわかり、それに基づく意思決定を行うきっかけが生まれる
事業計画の良し悪しを顧客体験からジャッジできる期待がある
など、マネジメント層がより顧客体験を意識して戦略を推進する傾向が生まれつつあります。
このような仕組みをつくった背景や、具体的なマクロマップの項目・活用イメージについてまとめます。
2024年、三菱UFJ銀行の個人向けサービスを扱うリテール・デジタル領域にCXデザイン室が立ち上がりました。
CXデザイン室は経営戦略の中核の一つとして立ち上がり、三菱UFJ銀行の個人向けサービスと、デジタル上での接点を持つ企業向けサービスの顧客体験を高めていくことを組織ミッションとしています。
この組織が立ち上がった当時は、「個人向けサービス全体の顧客体験」を可視化する仕組みがまだ整えられていませんでした。
三菱UFJ銀行では店舗、ATM、アプリなどの各お客さま接点を担当するラインを2024年から一つの部署に集約する組織再編をしました。本来はお客さまの体験は接点ごとに分断されることはなく、一人のお客さまが店舗を利用することもあればATMを使うこともあり、日々はデジタルで接点を持つなど全てつながっているものです。なので、お客さまとの接点ごとに分けて考えるのではなく、お客さまの体験を軸に連携していくことを意図したのがこの組織再編でした。
ただ、組織を一つにしただけでは、お客さま接点を担当するラインごとに戦略が設計される状況が残っていました。
また、戦略の有効性は「各ラインが責任を持っている数値の向上につながるか?」という観点で判断される傾向にあります。そのため、リテール・デジタル領域として “顧客体験の向上” という方針を掲げても、責任を持っている数値との関係性を示してそれを測定する仕組みがなければ、顧客体験の向上という方針が具体化し施策となり実装に至ることは難しいと考えていました。
カスタマージャーニーに沿って、施策とCX指標全体を可視化するような仕組みの必要性を、銀行サービスの構造からも整理しておきます。
まず、銀行サービスにおいてはお客さま接点が多岐にわたっているため、ボトムアップでお客さまのジャーニー全体を考えるのは難しいと考えています。
三菱UFJ銀行のサービスは、ATM、店舗、HP、アプリ、など非常に多くのタッチポイントを持っており、サービスごとの繋がりも複雑です。店舗の体験を考えるためにはその手前で店舗に来た理由を考える必要があり、それはHPやアプリの体験とも繋がってきます。店舗だけでサービスが完結するわけでもなくその後にアプリで体験が提供されるなど、お客さま接点は複雑に絡みあっています。
なので、本来は各お客さま接点の戦略を考える上でも全体の体験を考えないといけないのですが、これをやろうとすると自分の担当していない領域の戦略も考える必要性が出てきます。もちろん無数のタッチポイント全ての戦略を考えることは、各担当の立場では現実的ではありません。
結果として、これまでは各ラインが横断した顧客体験の重要性に気づいていたとしても戦略への反映は部分的なものになっていました。
そこで構築した仕組みがCXマクロマップです。 これは三菱UFJ銀行のリテール・デジタル領域で注力している施策を一つのジャーニーの中で位置付けを整理し、さらにお客さま接点ごとのNPSをまとめたものです。
CXマクロマップを利用する主な対象は、お客さま接点における戦略全体を意思決定するマネジメント層であったり、他の接点と横連携をしていく各ラインの責任者です。
リテール・デジタル領域の「サービス全体の “顧客体験” を高める」という方針をそれぞれのマネジメントが実行しやすくするために
サービス全体の施策と各お客さま接点の関係性を表す
顧客体験が良い部分/悪い部分を、満足度などの指標で可視化する
戦略の有効性を、NPSや満足度などで判断できるようにする
という3つの要素を一枚の図にまとめています。マネジメントやお客さま接点ごとの担当者一人ひとりは、これまで以上に、お客さまの接点やサービスを全体の体験として考えられるようになります。
CXマクロマップは以下のような手順で作成しています。
全体のNPSとお客さま接点ごとの満足度や影響度を設定、回収
お客さま接点ごとの関係性をジャーニーで表す
カード形式で他行比較、注力 or Notをわかりやすく示す
マネジメント層中心に共有、ミーティングルームに掲示
まずこちらの事例でもまとめたように、リテール・デジタル領域全体のNPSを測定することから始まります。ここでは銀行全体のNPSを聞くだけではなく、最終的に各お客さま接点の戦略設計に活かしていけるようにお客さま接点ごとの満足度や影響度も個別に回収しています。
例えばATM領域では「利用しやすい場所にATMがある」などといったイメージで、合計57項目の個別項目を用意しています。
次にリテール・デジタル領域全体のジャーニーを整理し、お客さま接点との関係性を示していきます。
口座開設や具体的商品の購入に至るまで、など一連の顧客体験を整理した上でそれぞれのお客さま接点がどの範囲をカバーしているのかをまとめています。
ここで大事なのは、お客さま接点の本来の役割とジャーニーを考えて「CXとして注力すべきところ」を明確にすることです。
例えば、三菱UFJ銀行のコールセンターの役割は、銀行の商品・サービスに関するさまざまなお問い合わせやトラブルに対応することです。
なかには「口座開設はどのように行えばよいか?」といった、新規利用を開始する段階の一般的なお問い合わせも多くあります。これらのお問い合わせには、HPやアプリなどデジタル接点で解決できる内容も多々あるため、それぞれのお客さま接点の役割とジャーニーを整理することで各接点がCXとしてどこに注力すべきかを示すことができます。
このようにお客さま接点の本来の役割とジャーニーを考え、CXとして注力すべきポイントを明確にすることで、問題点や自分たちのチャネルで解決すべき課題が見えてきます。
さらに、このジャーニーとお客さま接点の位置付けに沿って、測定した満足度をパッと見でも理解しやすいようにカード形式で並べていきます。
何が問題であるのかが誰でも理解しやすいように、カードの中身には
グラフ形式で図解した満足度
前回の測定時との比較
他行の満足度との比較
を視覚的にまとめています。これらのまとめ方は「この体験の項目が課題だ」「ここを次の戦略で改善しよう」という認識がしやすくなることを意図しています。
CXデザイン室ではここまでの流れを繰り返し、サービス全体の顧客体験をまとめたCXマクロマップを定期的に更新してマネジメント層に対してレポーティングしています。
四半期・期末などの戦略の更新をかけるタイミングで
前回の戦略によってどの程度顧客体験が変化したのか (振り返り)
次にどの顧客体験を改善すべきか (注力の決定)
といったことをマネジメント層が考えるための健康診断レポートのような役割として機能し始めています。
CXマクロマップは2025年の中盤から作成を開始したのでまだまだ浸透が必要ですが、すでにこの仕組みからいくつかの活動が生まれています。
リテール・デジタル領域において、お客さま接点である店舗やHP・アプリなどのデジタルツール、さらにはコールセンターなどのリモートツールにおける安定稼働や顧客体験を向上させていくことをミッションに持ち企画を推進するカスタマーサービス推進部では現在、NPSなどのCX指標を注力指標の一つとして位置付けています。
より顧客に近いカスタマーサービス推進部の注力指標の一つにCX指標が据えられたことを受けて、リテール・デジタル領域全体のマクロマップだけではなく、カスタマーサービス推進部の戦略・施策に合わせたCXマクロマップも作っています。
「顧客体験を高める」という方針があったとしても、実際に戦略を策定するときに「目標はどういうものか?」「定量的にはどう変わるのか?」という指摘を受けてしまい結局戦略に組み込まれないというのはよくあるシチュエーションだと思います。
CXマクロマップによって定量的な指標が生まれ、顧客体験に向き合う部署がやりたいことに直球で取り組めるようになっているのは非常に良い効果ではないでしょうか。
CXマクロマップを使って、戦略の振り返りをするという動きも出始めています。
CXデザイン室の室長である長谷川が「3ヶ月に1度行う中期経営計画や足元の施策状況を確認する事業本部の関係役員や部室長が集まる場で、このCXマクロマップを活用して戦略の説明をしたい」ということを伝えてくれました。
売上や利用数などのこれまでの測定可能なビジネス指標だけでなく、本来は見えづらい顧客体験についても同じ場で議論されることにより、適切に顧客体験を高めるための戦略が各お客さま接点に組み込まれるようになっていくはずです。
今後、さらにこのような動きが広まれば、すべての戦略の振り返りや意思決定が顧客体験をもとに考えられていくような状態につながっていくだろうと考えています。
CXマクロマップによって “顧客体験を重視する” というリテール・デジタル領域の方針を、お客さま接点の戦略に落とし込みやすくなっています。
ただ、この仕組みだけではリテール・デジタル領域全体の顧客体験を改善することに対しては不十分だと考えています。次のチャレンジとして実験しているのが「特定のCX指標を向上させたい時に、どのような施策が有効か」というところまで可視化することです。
すでに三菱UFJ銀行には多くのVoCが集まっていますし、CXデザイン室が主導してインタビューを行うことで多くのユーザー情報 (ローデータ) が定量・定性の両面で蓄積しつつあります。
一方で、ローデータが並べられているだけでは有効な施策を考えることは難しいため、ローデータを整理し、CX指標を高めるための鍵となる情報をまとめておくなど、データに意味づけをすることに取り組んでいます。
このように「顧客体験の全体像」だけでなく「CX指標を高めるためのユーザー情報」まで可視化されていけば、各お客さまとの接点で打ち出す施策はすべて顧客体験を向上させるものになっていくはずです。
まだまだ道半ばではありますが、今後もこのような横断的に顧客体験を高めていくCXマネジメントの仕組みについての進捗をお伝えしていければと考えています。