2025年9月、三菱UFJ銀行として約20年ぶりとなる新店舗「エムットスクエア」がオープンしました。個人のお客さまに向けて、リアルな空間だからこそ提供できる価値や利便性を追求した、新しい店舗の形を体現した場です。

私は、三菱UFJ銀行のデザイン組織であるCXデザイン室の一員として、この新店舗開設に向けたコンセプトや店舗体験の設計を、企画推進チームのメンバーと一丸となって進めてきました。

今回は、このプロジェクトを振り返り、どのようなプロセスで進めていったかをまとめたいと思います。

私がこのプロジェクトに携わることになったのは、2024年10月頃、新店舗開設に向けて企画推進を担っていたチームからCXデザイン室へ寄せられた相談がきっかけでした。

店舗の方向性として、ナチュラルな雰囲気のA案とシックな雰囲気のB案のどちらが良いでしょうか?個人の好みではなく、なぜこれを選んだのか説明できるようにしたい。」というものです。

その相談を受け取った時点では「何を基準に“良い”と判断すべきなのか」という文脈がつかめず、十分に議論を深めることができませんでした。

しかし、詳しく話を伺ってみると、新店舗構想の詳細や想いが詰まった膨大な社内資料が存在しており、企画推進チームのメンバーが相当の熱量でプロジェクトに向き合っていることがひしひしと伝わってきました。

一方で、「一言でいうと、どんな店舗か」といったコンセプトが設定されておらず、結果的にA案とB案のどちらが適切なのかを判断しづらい状態となっていました。

加えて、三菱UFJ銀行にとって約20年ぶりとなる新店舗であり、当然、新店舗の出店経験があるメンバーはおらず、そもそもコンセプトが必要なのか、どのように店舗の内装やデザインを検討していけばよいのかといった手がかりがない状況だったのです。

こうした背景から、CXデザイン室としてもコンセプト設計の段階から関わり、一緒に体験の方向性を作っていく必要性を感じました。

CXデザイン室は2024年4月にできた新設部署であったため、店舗などのリアル領域の体験設計に関わるのは初めての機会でした。

そのため、企画推進チームから見ても「デザインを冠している組織だが、何をどこまで相談して良いのか」がまだ明確ではない段階でしたし、私たちとしても「どのような関わり方がベストなのか」を模索するところからのスタートでした。

その中でも、全員が同じイメージを共有しながら新店舗の体験設計を進めていけること、さらには、リアル領域の体験設計に関する1つの成功事例を生み出せることを目指し、以下のようなプロセスで進んでいきました。

  1. コンセプトの言語化

  2. 空間デザインの方向性を可視化

  3. より良い空間への解像度を上げる

ここからは、それぞれのステップで具体的に何を意識し、何を行っていたかをまとめていきます。

まずは膨大な資料を読み解きながら「どんな店舗をめざすと良いか」を整理し、企画推進チームとも議論を重ねていきました。

新店舗「エムットスクエア」の設立目的は、企画推進チームが作成した会議資料には、「デジタル社会におけるリアルチャネルの魅力を高め、『人ならではの価値』を提供すること」と掲げられていました。

その前提を踏まえ、デジタル化が加速する社会の中で、あえて“人”の価値に重きを置くのであれば、具体的に何を強みとしていくのかを明確にする必要があると考えました。

資料を読み解く中で、私たちなりに抽出したエムットスクエアならではの強みは、大きく8つに整理できました。

これらをさらに分解すると、「機能的価値」と「情緒的価値」という 2 軸に分類できました。

そこから改めて人ならではの価値を整理すると、「温かく寄り添う接客」と「お客さまに合わせた的確な提案」から生まれるストレスのない居心地の良さと安心感に行き着きました。

つまり、エムットスクエアが提供する空間とは、「接客力と提案力によって居心地の良さを感じてもらう場」であると整理しました。

次に取り組んだのは、エムットスクエアらしい雰囲気や人格といったパーソナリティの整理です。

抽出した8つの強みをもとにチャートを作成し、役員や関係メンバーといくつかの二項分類で、どちら寄りなのかの方向性を検討しました。そこからパーソナリティを言語化すると、いくつかの特徴に整理することができました。

さらに、「接客力と提案力で居心地の良さを感じてもらう場」という方針を踏まえ、次のような“らしさ”と“NOTらしさ”に整理しました。

銀行の店舗というと、どうしても従来のイメージから「格式高い」「重厚感」といった“NOTらしさ”の方向に引っ張られがちです。しかし、エムットスクエアではあえて“らしさ”の方向へ寄せ、親しみやすさや温かみを大切にするという方針を明確にしました。

強みとパーソナリティの整理を踏まえ、「来たくなるような場所」をコンセプトにしました。

“必要だから仕方なく来る場所”ではなく、“行ってみたいと思える場所”にしていくという提案であり、エムットスクエアがめざす姿を端的に表したコンセプトです。

この整理を役員や企画推進チームに提案したところ、「ぜひこの方向性で進めていきましょう」と合意を得ることができ、プロジェクト全体の共通言語として機能するコンセプトが定まりました。

コンセプト定義に向けた整理の全体像

コンセプトは定まりましたが、言葉だけでは人それぞれに想像するものがズレてしまうため、次にコンセプトに合うイメージを可視化していきました。

改めて、エムットスクエアはMUFGが展開する店舗です。そのため「エムットスクエアらしさ」を考えるには、まず「MUFG らしさ」を整理し、どの要素を掛け合わせるのかを明確にする必要がありました。

具体的には、MUFGらしさを構成する要素の中でもロゴマークをイメージした「円弧モチーフの活用」や「アクセントとしてのさりげないMUFGレッドの使い方」を取り入れると、エムットスクエアらしさである「上質」「温かみがある」「飾らない」といった要素とも調和し、より良い方向性を見いだせるのではないかと考えました。

次に、空間デザインの方向性を示す3つのムードボード案を作成しました。

これらをもとに関係者とディスカッションしながら、エムットスクエアとしてめざす最終的な方向性として可視化していきました。

また、“NOTらしさ”のイメージもあえて可視化することで、「エムットスクエアはどの方向には寄せないのか」を全員が明確に認識できるようになりました。

空間の雰囲気だけでなく、使い勝手を左右する動線設計も重要なテーマでした。

出店スペースは決まっていたものの、詳細なレイアウトや什器をどうするかはこれから決めていく段階だったため、企画推進チームと図面を一緒に見ながら、お客さまや行員にとって理想的な動線を検討していきました。

例えば、以下のような大小さまざまな観点から設計を行いました。

  • お客さまが迷わず受付や目的のエリアに向かえる配置

  • デジタルサイネージ等を確認しやすいソファの位置・向き

  • タブレット操作や記入がしやすいテーブル

  • ご年配の方やお子さまでも座りやすいソファの高さ

  • 行員が自然に動けるレイアウトと待機場所の設計

特に行員の導線やお客さまの動きなど店舗運営の観点は、入行したばかりの私だけでは把握しきれない部分でした。銀行業務に長く携わってきたメンバーの知見があったからこそ、実際の運用に根ざした動線設計に落とし込めました。

コンセプトと空間の方向性が定まったあとは、実際の店舗をより理想的な形に近づけるため、レイアウトや什器の素材、壁や床の色など、細部の検証を積み重ねていきました。

その中でも特に効果的だった取り組みが、「VR を活用した空間検証」です。

空間デザインの要件がある程度見えてきた段階で、外部パートナーと連携し、店内の VR 空間を制作してもらいました。VR ゴーグルを装着すると、実際に店舗の中に立っているかのような没入感で空間を確認でき、静止画では気づくことができない視点から検証が可能になります。

これは私たちにとっても初の試みでした。しかし、20年ぶりとなる新店舗を設計する以上、早い段階で完成イメージを全員で共有し、議論を深められる状態にしたいと考えました。CXデザイン室として大切にしている理念の一つである「試作品をつくって、自分たちやお客さまが体験してみて、その声をもとに改善を行って開発に進む、そして、自分たちもいいなと思えるものをお客さまに提供する」を実行しようと思いました。

また、「ここまでこだわり抜いて設計できる」という姿勢を示す機会にもしたいという思いがありました。

実際のVR空間と、VRゴーグルでの体験風景

VR空間が完成したあとは、秘匿性をもって進めていたプロジェクトでもあったため、今回の案件はお客さまの代わりに、役員や関係者、他のプロジェクトメンバーに実際に体験してもらい、印象や改善点をフィードバックとして回収していきました。

体感してみたことで、空間への期待がより具体的に高まり、「オープンが楽しみですね!」といった声をいただけることもありました。

エムットスクエアのコンセプトを伝える要素として、「香り」・「従業員の制服」にも着目しました。

まず香りですが、エムットスクエアらしさ「上質」・「温かみがある」・「飾らない」に合わせた3種類の「エムットスクエアオリジナルアロマ」を開発しました。

「そこまでやるの?」と思われる方もいるかもしれません。

しかし、エムットスクエアならではの居心地の良さを感じていただくためには、香りがもたらす印象は決して小さくありません。また、その空間で毎日働く行員にとっても気持ちが上がるようにしたいという ES(Employee Satisfaction)の観点からも、香りの設計は重要だと考えました。

香りを作っていく段階から現場で働く行員にもヒアリングを重ね、一緒に香りを開発していったことで、エンゲージメントの向上にも繋がりました。また、今後全国に展開していくエムットスクエアの各店らしさを表現する一つの要素として、3種類の香りの中から各店で香りを選べるように工夫しました。

ご来店されたお客さまに実施した店舗のCX調査において、「香り」が居心地の良さに大きく影響していることが分かりました。さらに、香りに満足しているお客さまのNPS(顧客推奨度)や再来店意向が、全体のNPSや再来店意向よりも高い傾向が見られ、この結果から「香り」がCXの向上に寄与していることが数値としても明らかになりました。

そして制服においても、エムットスクエアが大切にするコンセプトや3つの“らしさ”をお客さまにも感じていただけること、着用する行員がストレスなく心地よく働けることをめざしました。開発プロセスでは、行員へのアンケートやヒアリング、サンプルを用いた試着会などを実施し、見た目の印象だけでなく着用時の機能性や着心地についても徹底的に意見を収集し、現行制服の課題解決もできるよう、それらの意見をデザインに反映していきました。

ご来店されたお客さまに実施した店舗のCX調査において、従業員の制服の印象が居心地に影響することが分かりました。新たに開発を進めている制服に対して、70%以上のお客さまが「気軽に声を掛けられる」や「気軽に相談しやすい」と回答しており、制服による体験向上を一定確認しています。

こうした細部へのこだわりやお客さまの反応を確認することも、エムットスクエアらしい空間をつくり上げる重要な一部となりました。

このような体験設計のプロセスを経て、三菱UFJ銀行として約20年ぶりとなる新店舗「エムットスクエア」がオープンしました。

新店舗で働くメンバーからは「内装は細部へのこだわりを感じ、お客さまにも喜んでいただいている」「他店からの見学も多いが、ほぼ全員が『すごい、素敵。』との感想を述べられる」「色味が全体的に柔らかく、スペースもゆったりしていて、落ち着いてお客さま対応ができる」といったポジティブな声をいただいています。

また、ご来店されたお客さまに実施した店舗のCX調査においては、「居心地の良さを感じられた点」について、約70%のお客さまが「内装の雰囲気」と回答しており、今回細部にまでこだわって作り上げた空間が、お客さまの体験向上につながっている事が数値的な結果としても得られています。  「雰囲気も特別感があり、ゆっくり話ができそうで相談してみたくなった。」「気軽に何でも相談できる店舗ができてうれしい」「よい香りですね」といった嬉しい声もいただいています。

お客さまはもちろん、働く人にとってもイキイキと働ける場になっていることは、私たちにとっても嬉しいことです。

新店舗の体験設計を密に連携しながら進めてきた企画推進チームからは、今回の取り組みに対して、「店舗レイアウトや空間デザインの検討においては、お客さま・行員双方の使いやすさを重視した上で、従来の枠にとらわれない店舗空間を実現いただきました。 」「銀行としての実用性を残しながら、コンセプト通り『上質』『温かみがある』『飾らない』を具現化した店舗デザインに刷新していただきました。商業施設においてもほかの業態にひけをとらない、快適な店舗空間に仕上げていただき、行員、お客さまともに大変好評です。 」等のコメントをもらっています。

異業種からの転職で入行して間もなく携わることになった、今回のプロジェクト。約20年ぶりとなる新店舗かつ、これまでにない体験をめざす一方、企画推進チームとしてもCXデザイン室としても、手探りの状態からのスタートでした。

その中でも特に印象的だったのは、関係部署のメンバーから役員まで、「お客さまが本当に来たいと思える、心地良い店舗になっているか?」という視点で、各々が”自分ごと”として向き合っていたことです。

その後押しもあり、私自身もどのような体験が本当に良いのかを、様々な調査やヒアリング等も行いつつ、自分なりに解釈しながら提案し、同じ目標に向かって一丸となって意思決定を重ねていくことができたように感じています。

新店舗はオープンしたばかりですが、既存店舗のリニューアルも含めて、エムットスクエアは今後も全国各地で順次オープンが予定されています。

CXデザイン室としては、さまざまな関係部署の方々と密に連携しながら、ベースとなる体験を丁寧に形づくり、そこから一緒にブラッシュアップしていくことで、一層、お客さまに素敵な店舗体験を提供していきたいと考えています。

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