コニカミノルタでは、医療機関向けのプロダクト「FINOシリーズ」を開発・運営しています。
私たちは、コニカミノルタのデザイン組織である「デザインセンター」に所属するデザイナーとして、FINOシリーズのUIUXデザインに携わってきました。
FINOシリーズは歴史も長く、医療の専門的かつ複雑なニーズに応える数百以上の機能があります。また、ステークホルダー(医師、診療放射線技師など)も多様です。
このようなプロダクトに携わるデザイナーとして、どのようにドメイン理解を深め、扱いやすいプロダクトにするために取り組んできたかまとめたいと思います。
私たちが携わっているFINOシリーズは、PACS (医用画像管理システム) と呼ばれるプロダクトです。
初めてお聞きになる方も多いかと思いますが、X線写真、CTスキャン、MRIなどの医療画像をデジタル化し、保存・管理しやすくすることで、簡単に共有できるようにするシステムです。このシステムは、医療機関における診断や治療をサポートするための重要な役割を担っています。
私たちも、FINOシリーズに携わるようになって初めて知ることも多く、専門的かつ複雑な医療現場でのユースケースを紐解き、使いやすいプロダクトにするための試行錯誤を重ねてきました。
例えば、医療現場特有の業務や、ステークホルダー、FINOシリーズを含めたシステムの関係性など、全体を俯瞰し可視化することで、チーム内の認識を合わせる取り組みをしています。
新しいメンバーが加わったり、新規機能を開発する場面で、改めてメンバーで知識を棚卸しして、話し合いながら作っていくようにしています。
はじめは、デザイナー間での認識合わせのために行っていたのですが、デザイナー以外の関係者にも参加してもらうことで、より具体的に理解を深められるようになっていきました。
部分的には既知の情報があっても、実は開発者や営業しか知らない情報もあったりするので、医療現場の複雑な業務フローをチーム全体でより良くするためにも、こういった可視化は重要だと感じています。
他にも、サービスブループリントを可視化し、社内の関係者も含めたサービス体制も把握することで、顧客にとっての課題や価値となるポイントを探る取り組みをしています。
サービスのユーザーとなるのは、医師や技師をはじめとした医療従事者や患者さんだけではなく、社内のサポート担当や営業、コールセンターの方々、システム開発者など多岐に渡ります。
サービスブループリントの内容としては、縦軸に医療従事者やサポート担当などのステークホルダー、システムや機器を記載し、横軸には時間軸に沿って各ステークホルダーの行動やシステムの処理などを記載しています。
全体像を可視化し、関係者と一緒に見ながら議論していくことで、それぞれの認識がすり合っていくとともに、医療現場での課題だけでなく、サービスを支えるサポートやシステムの課題も見えてきます。
こういった可視化や、周囲のメンバーを巻き込んだコミュニケーションの活性化によって、より良い課題解決に向けた取り組みを推進していくことも、デザイナーとして重要な役割だと考えています。
前述の通り、FINOシリーズには医療機関での画像管理にまつわる数百に及ぶ専門的な機能があります。
一方で、長い歴史を持つプロダクトゆえに、体験の整合性が取れていなかったり、使いやすさに課題が残っている部分もあります。とはいえ、医療系ソフトウェアには業界でのスタンダードな使い方があるため、UIをガラッと変えてしまうと、医療現場での業務に支障をきたす可能性もあります。
すでに医療現場で必要不可欠なプロダクトとなっており、今後も長く使われるものだからこそ、何を変えるべきか、何を維持すべきかを慎重に見極め、着実に改善を進めることを心がけてきました。
例えば、FINOシリーズで使われていた600個近くの「アイコン」の総見直しを行ったことがあります。
アイコンは、大量の機能を直感的に操作できるようにするために欠かせない要素です。
しかし、機能が増えるたびにアイコンを都度追加してきた結果、それぞれのアイコンが何を意味しているのか、非常に分かりづらくなってしまっていました。
また、各機能の専門性も高いため、アイコン化の難易度も高く、アイコン制作によってデザイナーの工数が圧迫されてしまうといった状況になってしまっていました。
直感的な操作を実現するためにアイコンに力を入れてきたものの、それが逆に、使いづらさや制作工数の増加を招いてしまっていたのです。
そこで、アイコンの役割や法則性を定義し直すことで、これらの問題を解決できないかと考え、改善に取り組み始めました。
まず最初に、FINOシリーズのすべてのアイコンを洗い出しグルーピングしていきました。
膨大な量のアイコンを精査する中で、以下のような問題があることに気づきます。
機能を正確に伝えようとするあまり、説明的すぎて複雑な表現になっている
同じ機能だが、異なる表現が使われている(例: 削除を示す “✕” や “ゴミ箱” が混在している)
本来の機能と異なる表現が使われている(例: 非表示が削除と同じく“ゴミ箱”で示されている)
このような問題を洗い出しつつ、例えば以下の方針に基づいてアイコンの改善案を作成していきました。
ユーザーが違和感を持つようなモチーフ変更はできる限りしない
汎用アイコンと、専門的な医用アイコンを区別し、組み合わせによって様々な機能を表現できるようにする
既存のアイコン同士を組み合わせることで、新たなアイコンを定義できるようにする。これによってデザイン担当者が変わっても、一貫性のあるものを提供できるようにする
当初はアイコンの変更に対して消極的な意見もありましたが、営業やサポート担当を含む社内のメンバーに、変更することで機能をより覚えやすくすることができることを伝えたところ、共感を得ることができ、新しいアイコン制作プロジェクトへの協力をいただくことができました。
ある程度アイコンの変更案がまとまってきた段階で、改めて彼らの意見をもらいながらブラッシュアップしていきました。
デザイナーだけでは、ユーザーの状況を十分に把握しきれません。大幅な変更であっても問題が発生しないように、ユーザーがよく使用する機能や利用シーンを深く理解しているメンバーの意見を取り入れながら慎重にデザインを進めました。
最終的に数百に及ぶアイコンの刷新を行い、現在は、ほぼすべてのプロダクトに反映されています。また、今後の運用を見据えてアイコン制作のためのガイドラインも制作しました。
デザインルールを明確化したことで、デザイン検討にかかる時間が大幅に削減され、製品に関わる社内関係者とのアイコン表現についての議論も円滑に進むようになりました。また、新しく加わるメンバーも制作に苦労することがなくなり、本質的な操作性の向上や医療分野への理解を深めるためのリソースを確保できるようになった点も、大きな成果だと感じています。
私たちは、医療現場や業界への理解を深め、デザインに活かすことを大切だと考えています。
とはいえ、安易に医師へのヒアリングをしようとしても、話している用語やその背景が分からなければ、深く共感したり、大事な課題に気づくことができません。
そこで、各所で開催されている医学関連学会に参加し、それぞれが学んだことをシェアし合う勉強会を行うようにしました。
学会では、オープンに研究発表がされていたり、医療従事者同士でのトークセッションでリアルな困りごとが話されることも多くあります。医療従事者同士の場だからこそ、ヒアリングでは中々引き出すことができない、本音や悩みを聴くことができるため、プロダクトに活かせる気づきが多いと感じています。
今では、デザインセンター内で、様々な医学関連学会のための予算を確保し、メンバーで分担しながら計画的に参加しています。
このような取り組みを続けてきたことで、一定の理解が深まり、デザイナーも医療従事者にヒアリングできる機会が増えてきました。 時には、検討中のデザインを医療従事者と一緒に見て、「ここはこういう風に使えると嬉しい」「この情報はあまり重要じゃない」など、意見をもらいながら、その場でデザインをブラッシュアップしていくといった取り組みもしています。
現在はプロダクト全体の操作性をさらに高めるための改善に注力しています。
具体的には、FINOシリーズのすべてを操作し、操作性が低い部分をリストアップして開発チームに提案。改善のためのアイデアを開発チームと議論しながら開発ロードマップに落とし込んでプロダクトに反映していくという試みに挑戦しています。
医療現場で働く方々にとって必要不可欠なプロダクトだからこそ、使いやすさを妥協せず、高い品質を求めていきたいと思っています。
「医療系ソフトウェアは複雑で難しいもの」「慣れる必要があるのは仕方ない」と考えられがちですが、本来それは仕方ないものではありません。
たとえ機能が多くて複雑であっても、使いやすさを高められれば、医療従事者の方々が、より重要な業務に集中しやすくなると信じています。
これからも、医療現場を支える製品としての確かな品質を、デザインを通して届けられるように取り組んでいきたいと思います。