みずほ銀行では2021年7月から、UXUIチームを立ち上げました。現在は9名(+外部アドバイザーが1名) が所属し、幅広いプロジェクトに参画しながら、みずほ全体の顧客体験のデザインを推進しています。

みずほ銀行 UXUIチームの組織立ち上げ

特に大きな組織では、デザイン組織を立ち上げる際、何から始めたら良いのか、どのように組織の理解を得ていけばよいか、迷いやすいと思います。

今回は、みずほ銀行という歴史も長く巨大な企業において約2年半にわたって取り組んできた、デザイン組織立ち上げの試行錯誤を公開します。

みずほ銀行でデザイン組織を立ち上げることになったのは、2021年のことでした。

それまではデザインを作る時、それぞれのサービスを担当する部署から外部のデザイナーに依頼するケースが多かったため、みずほ側もUXUIに対する知識が蓄積されていませんでした。このため、外部のデザイナーに対する指示が漠然としてしまったり、サービスや担当者ごとにUXを考えるため、みずほ全体として一貫した体験が実現されづらい問題がありました。

同じ時期に、みずほダイレクトアプリのリニューアルを実施。結果、2021年にグッドデザイン賞を受賞し、ますます社内からもデザインの重要性を実感する声が増えてきていました。

この波に乗って、みずほ全体の一貫した体験を考えられるデザイン組織として、UXUIチームの立ち上げを始めました。

当時の様子は、詳しくはこちらにもまとめられています。

みずほでのデザイン組織づくりにおいて、特に意識したことの1つが、理想から逆算して、できるだけ具体的な計画を立てることでした。

UXUIチーム立ち上げ当初の悩みの1つは、カバー範囲の曖昧さでした。

銀行のお客さまには個人、法人が存在し、お客さまとの接点チャネルとして店舗、ATM、リモートチャネル(PC、スマホブラウザ、アプリ)が存在。取り扱っているサービスも預金、決済、借入など多岐にわたり、全ての領域に一気に取り組むことは到底不可能でした。

その為、まだ立ち上げたばかりのチームにおける限られたリソースを、効率的に、かつ適切な領域に投下できるよう、UXUIチームとして、3年後にカバーしているべき事業範囲とその範囲内の各事業の優先度を最初に整理し、その次に、最初に取り組むべき事業範囲をマイルストーンとして設定しました。

3年後までに、UXUIチームがカバーしているべき事業範囲を最初に整理した
みずほ全体の体験を一貫させるために、注力事業に絞ってスコープを設定。その事業部の信頼を勝ち取るように動いていくことを決めた

このように事業範囲を定めることで、取り組むべき内容が明確になり、立ち上げ直後の限られたリソースの中でも、注力すべき事業に対して優先的な対応をしていくことができるようになりました。

事業範囲の明確化によってリソースのコントロールが出来るようになってきましたが、次は組織作りにおいて行うべき多くの取り組みについて、体系だった管理が出来ていないことが課題となりました。

試行錯誤で走っていたことから、優先順位の整理や進捗管理が出来ておらず、組織作りが順調に進捗しているのか、各取り組みの内容・順序に誤りがあって手戻りが発生するリスクはないのか、といったことが可視化できていませんでした。

そのため、UXUIチームが自律的に活動できるようになるために必要な取り組みを組織・推進・人材の3つの観点から「10の仕掛け」として整理しました。

みずほでUXUIチームが適正に運用できるようにするための基本的な土台「10の仕掛け」

3年後の実現事項から逆算して2年後、1年後で実現することを可視化することで、計画的な取り組みができ、かつ社内の各種関係部署からも理解されやすくなりました。

例えば「体制面」では、3年後に実現すべき陣容・役割分担をあらかじめまとめており、それに向けた採用計画・育成計画といった、3年間の詳細な活動内容を定めています。

組織における仕掛けの1つ「3年後の陣容・役割分担」を整理したもの
この長期的なゴール状態に向けて、採用や育成に取り組んでいくことで迷いなく動くことができる

前述した10の仕掛けをもとにあるべき形を定めた上で、UXUIチームを作り上げる中でぶつかった課題に対しての対応事例や特に重視していることの一例を紹介します。

UXUIチームとしてカバーできる範囲を広げていくためには、スキルやドメイン理解があるメンバーが増えていくことが必要です。

そのため、ロードマップで描いた3年後の体制に沿って採用に動いてみたものの、デザイナーは最初から思うように応募をいただくことができませんでした。

そこで、チーム内で対策を議論し、外部からのデザイナー採用だけではなく、育成を前提とした組織設計にも注力することにしました。例えば以下のような施策に取り組んでいます。

UXUIチームで活躍するためには、金融・銀行というドメインへの理解と、顧客体験のデザインへの知識が必要となります。

これまでは後者のデザイン知識を最優先して採用の取り組みを進めていましたが、前者のドメインへの理解を持った社員を育成する方法もありうるのでは?と考えて、社内の人材発掘も始めています。

当時社内に対して公開した、公募の募集要件

その一環として、UXUIデザインに関する知識や経験がない社員にもUXUIチームの業務内容(新規/既存サービスのデジタル業務に関するサービス開発やデザインにおける社内やベンダーとの業務折衝等)がイメージできるよう、全社向けにUXUIチームの紹介や、具体的なデザインプロセスの事例動画も配信しています。

全社向けの育成施策として、UXUIチームの紹介や、具体的なデザインプロセスの事例を動画で配信

これらの取り組みを通じ、会社内の兼業の取り組みを活用して、他部署からUXUIチームへの応募・問い合わせがあり、現在も2人の行員が他部署と兼業でデザイン業務に携わっています。 

必ずしもデザイン業務に明るくない社内人材を含めた体制で、高いクオリティを維持するためには、確保した人材のデザインスキルを伸長させることが重要であり、その育成の仕組みづくりにも取り組んでいます。

一般的なOJTだったり、外部研修に参加することはベースとして実施していますが、それ以外にも外部企業に協力してもらい、新規事業立ち上げにデザイナーとして参画するなどの育成機会の拡充に取り組んでいます。

ユーザーリサーチからプロトタイピング、コンセプトの作成までの一連流れをデザイナーとして経験し、新規事業の全容を理解する研修を実施

このように、みずほの中だけではなかなか経験しづらい事業開発の経験も、外部企業を巻き込むことで作り上げるなど、育成の仕組みづくりにも工夫をしています。

また、銀行の中でUXUIチームの認知度をあげる、デザイン組織の必要性を浸透させる観点でも、高い品質を出すことが重要であり、その点についてもチームとしてこだわりを持つようにしています。

そのため、社内の各サービスの担当部署にデザイン案を共有する前に、その案件の担当ではないデザイナーや、社外のデザイナーも巻き込んだデザインレビューをUXUIチーム内で何度も行います。

デザインレビューの様子

チーム内で遠慮不要のディスカッションを繰り返し、意見をぶつけ合うことで、高いクオリティにブラッシュアップできています。

また副次的な効果として、デザイナー以外のデザイン知識に明るくない各商品サービスの担当者にも明確に伝えられるよう、デザインの言語化ができるようになっています。

それによって、社内コミュニケーションで円滑にコンセンサスがとれるようになり、毎回高い品質を出してくれるチームという認識を持ってもらえるように心がけています。

2年半を経て、ようやくみずほダイレクトアプリ以外の担当組織以外の事業部から相談や依頼が頻繁に起こるようになっています。

一方で、UXUIチームとして目指しているのは、みずほ全体の体験を統合していくことです。

今後は、お客さまにとって必要な体験であるならば、サービスをまたいだ体験設計を行ったりと、みずほ全体の体験をより良くしていくことに取り組んでいきたいと考えています。

みずほデザイン組織として、今後注力することのイメージ

デザインは、人と人を直接的・間接的につなぐもの。人が協働する時には必ずデザインが介在すると考えています。みずほ銀行として掲げている「ともに挑む。ともに実る。」というパーパスを実現するため、デザイナーのみならず、多くの関係者と協働しながらデザイン組織を作り上げていきたいと思います。

そしてそのためには、組織全体からより大きく信頼を勝ち取っていく必要があります。ここまでの活動で土台がようやくできてきました。今後は、より大きな範囲でみずほ全体にデザイン文化を浸透させていきます。