リクルートのデザインマネジメントユニットには、デザインOPSグループという組織があります。
リクルートのデザイン組織が取り組む「デザインマネジメント」を、個々の事業だけでなく、全社に押し広げていくために、2022年からグループとして組成されました。
他企業でもDesignOpsや、デザインプログラムマネージャーのような役割が置かれ始めていますが、リクルートの各事業を担当するデザインディレクターの役割には、もともとDesignOps的な動きも含んでおり、日々の業務の中で各事業での課題解決を行っていました。
そのうえで、改めて組織として組成したデザインOPSグループの特徴は以下のようなところにあります。
個々の事業に閉じない横断ミッションを担う
9割以上のメンバーを、事業との兼務メンバーで構成する
手段先行にならず、企業におけるデザイン課題を解決することを第一としたOps組織の形として、一つの参考になればと思い、内容をまとめていきます。
デザインOPSグループでは、約30名のマネージャーとメンバーが各事業と兼任で活動しています。
取り組むテーマは半期ごとに決定されます。各事業ごとに課題が顕在化していて、事業横断で解決に取り組んだ方がより早く解決できるものを「横断ミッション」として定義しています。
リクルートで掲げるデザインマネジメントは、個々の事業でももちろん行われていますが、事業横断で行う方が良いことがあります。
例えば以下のような課題については、単体ではなくDesignOpsのテーマとして事業横断で扱う方がインパクトが大きいため、OPSグループの中で横断ミッションとして設定しています。
デザイナー採用や外部発信など、組織で統一した戦略が必要な課題
ツールやプロセスなど、事業に関係なく共通化が可能な課題
etc…
体制としては、9割以上が事業側との兼務メンバーで構成されています。横断ミッションごとに、各事業を担当するデザインマネージャーがリーダーを担当し、半期ごとにメンバーを兼任でアサインし、それぞれの課題解決に取り組みます。
元々このような横断的な課題解決は、デザイン組織を立ち上げた私や、各事業のデザインマネージャーが個人のミッションとして担っていました。
その後、組織の拡大・リクルート全社に対する介在範囲の拡大に合わせて、正式にグループ化しメンバーも巻き込む形でDesignOps活動を開始しました。
リクルートのDesignOpsの大きな特徴は、デザイン組織の課題に対しボトムアップ型で横断ミッションを定め解決に動いていることです。(一部トップダウン的に決めているものもあります)
リクルートのデザインマネジメントユニットに所属するデザインディレクターは、役割範囲が広いため、それぞれが担当する事業の中でも、すでにDeignOps的な動きを行っている場合が多いです。(ex. 採用 / ツール整備 / デザイン啓発 / ナレッジ蓄積...)
そのような事業側での動きを把握した上で、デザイン組織の成長にとって共通の課題となっているテーマに関しては、そのまま横断ミッション化し、デザインOPSグループから組織全体にスケールさせていく動き方をしています。
さらに、それぞれの横断ミッションに取り組むメンバーは、事業側で同様の課題に取り組んでいた人にOPSグループで兼務してもらうことが多くなっています。
事業側と繋がるミッションを持つことで、課題に対して高い解像度を持っている当事者が担当することになり、提案の内容や推進力が高まります。
逆に現場を一度も経験したことのないようなメンバーをOps専任として任用してしまうと、課題の理解に時間がかかり、かつ実行速度も落ちてしまいかねません。
他にも、Ops専任の組織としてしまうと事業に対する提供価値が見えづらく、コストのみがかかっていると思われる懸念がありますが、事業を担当しているメンバーがDesignOpsを兼任するハコとしてOPSグループを設置することで、事業視点で必要とされる打ち手を柔軟に考えられるようにする狙いもあります。
またデザインOPSグループには、メンバーの成長のための機会作りという目的もあります。OPSグループにマネージャーだけでなくメンバーも参加できるようにしているのは、全メンバーにとってこの活動を、視座を高められる機会にしていく意図が含まれています。
DesignOpsという事業横断的に責任を持って課題解決できる機会は、メンバーにとっても、個々の事業では得られない横断的な視野や、デザインディレクターとしての高い視座を持てるチャンスになります。
ここからは、デザインOPSグループでの実際の活動例をまとめます。
デザインOPSグループの活動の一つとして、過去の分社化等の影響でバラバラだったデザインツール/プロセスの全社統合を行いました。
デザインツールやプロセスの全社統合をしていく以前は、事業部 / プロダクトごとに個別最適が進んでおり、デザインツールやプロセスが整理されていない状況でした。
そのため
異動をする度にデザインツールやデザインプロセスが変わってしまい、負担が大きくかかる
アカウント管理がごちゃごちゃになってしまっていて、セキュリティ的にも懸念がある
ツール導入のためのコスト負担や導入基準、契約内容が各事業によってバラバラ
という問題が起こっていました。
実際に統一したデザインツールの導入を検討していた際、リクルートには200以上のプロダクトがあり、それぞれで移行によるリスクがどれだけあるのかも分かっていませんでした。もちろん使用しているデザインツールや契約内容も違います。
そのため、本当に統一したデザインツールの導入が問題ないか、一つ一つの事業ごとに確認していきながら、導入に向けて運用面の合意を取っていく必要があります。具体的には、一度に全てを切り替えようとせず、段階を踏んで統一基盤を利用する事業部を広げていくように移行を進めました。
最終的には、共通して使用するデザインツールについては契約を一元化し、参画する各事業からコスト負担を分担する体制を構築します。デザインOPSグループはその中間に立ち、契約やコスト調達の手間を軽減し、無駄なく管理ができる体制を構築しました。
さらに調達面だけでなく、利用のルールやツール移行のプロセスについても、必要なドキュメントやマニュアルをOPSグループにて整備・運用し、ライセンスの発行だけではなく、その後のデザイン環境の最適化まで伴走できる仕組みを用意しています。
その結果、例えば、コンポーネントやプラグインなどのデザインシステム開発の効率化、業務で使用する他ツールとの連携によるプロダクト開発の円滑化など、様々な効果が生まれています。
その他にもデザインOPSの活動として、過去のデザイン事例やナレッジを集約した「動かすデザインデータベース」というデザインナレッジのデータベースを構築しています。
「動かすデザインデータベース」では、それぞれの事業でデザインディレクターが経験したベストプラクティスが、横断的にデザイン組織内で共有されている状態を目指しています。
これまでリクルートでは、他の事業でも同じような案件に取り組んでいるものの、事業を越えて知見が共有されていないことで、類似提案をゼロから何度も検討してしまう事象が発生していました。
特に、事業影響の大きなデザイン提案を実施するには、デザイン施策によるROIを示したり、様々な関係者と適切な合意形成を取ったりするプロセスが重要になります。しかしこれまでは、同じような提案時の壁に繰り返し直面し、その検討に時間をかける非効率な状態となっていました。
デザインの仕事にも、自分で考えてデザインすべき時間と、知っていればすぐ解決できる時間があると考えています。知っていれば解決できるような問題を効率的に解決できるように、この活動を通して事業をまたいだ集合知的なデータベースをつくろうとしています。
データベースには、実際にリクルートの中で取り組まれたデザインの事例と、その中から導き出された汎用的なナレッジを両方蓄積しています。
例えば、事例のページでは、施策ごとにどのようなロジックでデザイン提案のROIを示しているか、合意形成の方法、実際に使用したドキュメントなどをまとめて、先人の知見を型化し、引用できるようにしています。
現在では、「動かすデザインデータベース」に、大型リニューアルやリブランディングなど過去のデザインプロジェクト事例が30以上蓄積されている状態がつくれています。このように現場で活きるナレッジとするために、専属のライターと一緒に横断ミッションを担当するリーダーが、一つ一つの事例ごとに繰り返し担当者に取材をしてつくっています。
今後は、さらに事例の数を増やしつつ、育成面への活用など、さらに利用を促していくことで、より活きたデザインナレッジとして効果を発揮していけるようにしようとしています。
デザインマネジメントユニットの介在範囲が広がるにつれて、横断ミッションも徐々に変化していきます。
例えば最近では
デザイン啓発:リクルート全社でのデザインの活用を促すための、社内外に向けたコミュニケーション
人材育成:人員拡大に伴って、ジュニアデザイナーやデザインの介在価値を広げる人材を育成する取り組み
など、事業単体での貢献だけではなく、さらに広い範囲でのデザイン活用に向けたミッションが増えています。
特徴的なのは、このようにリクルートにおけるDesignOpsは、一般的に語られる定義とは少し異なり、デザイン組織の拡大の裏側で、組織の成長やそれに起因する課題を解決するための役割として機能しているということです。
リクルートにおける各事業部でのデザイン活用度合いは高まりつつあり、これまでのようにデザイン組織としての課題を解決するだけでなく、DesignOpsの活動を全社を巻き込んだ動きへと広げていくことが次のテーマとなってきます。
私たちは単なるトレンドとしての「DesignOps」ではなく、介在価値を広げながら、事業で発生するデザイン課題を一つ一つボトムアップ的に解決していきます。デザインの価値を全社に広げていく動き方を続けることで、組織としての成熟度をさらに高めながら、事業に最大限貢献できるデザイン組織へと前進させていきます。