リクルートのデザインマネジメントユニットは、多種多様な事業状況に対応できる横断デザイン組織を目指しています。
デザイナーは、事業のフェーズに応じて、あらゆる動き方が求められます。そのため、デザインマネジメントユニットでは「動かすデザイン」というフィロソフィーを掲げ、手段や役割を限定することなく、意図的に高い自由度を保つことで、デザイナーの可能性を最大限に引き出す環境を作り上げています。
具体的には、「不確実性」という基準をもとに、評価・異動・採用などの仕組みを整え、デザイナーの主体的な動きを支えています。
領域横断で役割を評価するための「不確実性」という基準
評価システム:様々な役割のデザイナーを一貫して評価する
異動の仕組み:多種多様な、異なる事業を跨いだ異動を可能にする
採用プロセス:候補者の意志・能力と事業ニーズから、最適なポジションにマッチングする
今回は、リクルートのデザインマネジメントユニットで、どのように「動かすデザイン」を実現しているのか、組織づくりの視点からまとめていきます。
デザインマネジメントユニットでは、各事業のフェーズにおいて最適な打ち手をデザインの力で実行することを促すため、2つの「不確実性」をもとに役割の難易度を定義しています。
不確実性については、こちらの事例に詳しくまとめられています。
これまでの事例でもまとめてきたように、リクルートでは多種多様なフェーズの事業に関わるため、同じデザインマネジメントユニットに所属するデザイナーでも、それぞれの役割がかなり異なります。
そんな中で「不確実性」の基準があることで、役割の難易度に共通言語が生まれ、今後どのような方向に強みを伸ばしていくかも自らの意志で決められるようになっています。
さらにデザインマネジメントユニットでは、フィロソフィーの「動かすデザイン」をより促すために、この「不確実性」を用いた組織づくりを進めています。
ここからは
評価システム
異動の仕組み
採用プロセス
の3つの仕組みについて、具体的にまとめていきます。
リクルートのデザインマネジメントユニットでは、「不確実性」を基準に、デザイナーの実績の評価も行えるような仕組みが用意されています。
不確実性を測定する「難易度テーブル」
全社のグレード制度と合わせた、職務要件定義
デザインマネジメントユニットでは、「業務不確実性」と「デザイン不確実性」の二軸から、担当している役割の難易度評価を行っています。
具体的には
業務不確実性
業務抽象度
事業優先度
調整難易度
など
デザイン不確実性
デザイン抽象度
要件の複雑性
規模/量
要求品質
など
と細分化し、それぞれの難易度を段階に分けて評価することで、事業領域やフェーズの異なるデザイナーが行ったことを、共通の判断軸で評価できるようにしています。
デザイナーは、普段からこのレベルを意識しているわけではありませんが、差分の大きい領域の役割を評価する際などに、どちらが難易度の高いミッションを遂行したのか判断できるよう、共通のものさしを用いて、ロジカルに評価が行えるようにしています。
さらに、難易度テーブルで測定した不確実性をもとに、全社の他職種を含むグレード制度に対応した、デザイナー用の職務要件定義を整備しています。
対応できる不確実性が低いグレードでは、まずは「戦術実行」の役割を職務要件の軸としています。
そして、より高い不確実性に対応するグレードでは、「戦略・戦術策定」「高度な実行」という2方向の役割を職務要件として整理し、複数の役割を持つデザイナーを、全社基準の観点からも定義可能なものとしています。
このように、単純なデザインスキルの有無や過去の実績だけではなく、不確実性への対応という組織が求める能力の度合いに焦点を当てることで、役割に対して動いた結果を正しく評価できるようになります。
また、職務要件定義を全社の基準に揃えることで、PdMなど他職種への説明やアサイン時の他職種とのバランス調整が行いやすくなっていることも特徴の1つです。
自身が担当する事業を変える時にも「不確実性」を活用しています。
まずリクルートでは、定期的な1on1や各メンバーへの育成計画の推進を通して、本人の志向性や成長につながる機会提供を積極的に行っています。
また、事業間の異動については、半期に1度開催される「人材開発委員会」というメンバー育成を検討する場において、他の組織長を交え、どのような業務やポストの任用が適切かが議論され、複眼での確認プロセスを経て決定されます。
その際、事業を跨いでも、異動するメンバーの能力に適したポストが存在しているか、異動後の業務難易度が適切なものか、などを測る1つの指標として、先の「不確実性」による難易度テーブルが使用されます。
難易度テーブルと職務要件定義にて整理されるデザイナーのキャリアパスを元に、本人の成長につながる適切な難易度のチャレンジになっているかなどが丁寧に議論され、異動する本人の能力と現場のニーズを極力擦り合わせたポジション異動を実施しています。
リクルートのデザイナー採用プロセスにおいては、「意志・能力」と「現場ニーズ 」の両輪から最適なマッチングを行えるようにしています。
基本的なプロセスとしては
書類審査
面接
内定
オファー面談
と設定されていますが、特にここではリクルート独自のプロセスについて紹介します。
リクルートのデザイナー選考における特徴の一つは、事業領域ごとのニーズに合わせて、応募者へ合格が出せることです。
書類審査で、事業領域ごとの募集ポジションに合いそうかどうかを各領域のデザイングループを管轄するマネージャーが判断し、ポジションにマッチしそうだと判断されれば、直接その合格を出したデザインマネージャーが面接を行います。
そのため、状況によっては複数のデザインマネージャーと面接を行うこともありますし、また合否も個々の事業領域のデザイングループごとに判断されるため、内定通知のタイミングで、複数領域からオファーが出るという状況も発生します。
このように、リクルートのデザインマネジメントユニットでは場合によって複数のデザイングループから内定が出されることがありますが、そのような場合にはオファー面談を通して、応募者の意志と現場ニーズをすり合わせ、配属先を決定する独特の仕組みがあります。
具体的には、内定後のオファー面談の場にて、内定を出した各領域のデザインマネージャー全員が応募者に対し、自領域の魅力や任せたい仕事、本人への期待値などを各々プレゼンテーションを行い、自領域への参画を打診します。
最終的には応募者の希望や現場のニーズなど様々な条件が加味されて配属先が決定されますが、このようにリクルートのデザインマネジメントユニットでは、採用ニーズを満たすためだけではなく、これから一緒に働く仲間となる応募者の意志を大切にした採用プロセスを敷いています。
採用面接からオファー面談を通して、双方の期待値やイメージを解像度高く擦り合わせることで、安心して着任できるように工夫し、またデザイナー本人の意志をできる限り活かした人材活用を実現できるように取り組んでいます。
このような環境づくりを通して、デザイナーが「動かすデザイン」に取り組みやすくなっています。
リクルートのデザインマネジメントユニットは3つの役割を持って活動しており、今回まとめたようなデザイナーの能力を最大限発揮するための組織や仕組み作りにも積極的に取り組んでいます。
事業活動を通してデザインマネジメントを推進するにあたり、どうしてもデザイナー個人の能力に注目がされがちですが、個人の能力だけでなく、それを最大限活かす組織や仕組み作りを進め、「動かすデザイン」の実行に取り組んでいきます。